ゆきの彼方

んんん

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第2章

第25話 明日世界が終わる夜に 4

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家に入り、オレは自分の部屋に入った。

机から手紙を取り出した。
 
オレは、あまりにも溢れ出てくる言葉たちをどうやって、あいつに伝えるか考えた結果。
手紙という形で残すことにした。

………………

書き終えた。

「ふぅ…… とりあえずはこれで。おーけーか」

オレの生命力エネルギーはまだ僅かに、残っている。

「……最後はやっぱり、傍にいてやろう」

ゆきの部屋に入った。

ゆきは眠っている。

ゆき……

とオレは言おうとした。しかし、声は出なかった。
「…………」
もう、この身体は、声も出ないようになっていたのだ。

くそっ、ここまできて……。話すこともできないのかよ……。

………………………………

そうだ。声なんていらない。

今のオレには、魂(これ)があるじゃないか…。

オレはかんかくのない手でゆきの右手を優しく握った。
そしてオレは目を閉じ、ゆきの"魂"に呼びかけたのだ。


…………ゆき

……ゆき!


………………おにい、ちゃん…?


真っ暗な視界が白に変わる。

そして、そこには。

妹の、ゆきの、姿があったのだ。

「ゆき……良かった、会えて」

「え……お兄ちゃん…?なんで……本当に……本当に……お兄ちゃんなの」

「ああ、本物だ。説明すると長くなるが。とにかく、確実なのは。今オレはここに居る。それだけは、真実なんだ」

「……」

「済まなかったな、何も言えずに逝ってしまって、お前を苦しめてしまった。オレは兄失格だ」
「……う、そんな、こと。ない。ないよ…お兄ちゃんはちゃんと、私を守ってくれた。私が弱いから……いけないの」
「なに言ってんだ。…強いよ、ゆきは」
「え……」
「いつの間にか勝手にアイドルなんて初めていたりさ、ゆきのやることに、オレはいつも圧倒されていた。お前はオレが思ってる以上に凄いやつだったよ。……どこに出しても恥ずかしくない。自慢の妹さ」
「お兄ちゃん……」


「言いたいことは山ほどある……だが、それをするには、もうあまりにも時間がない。だから言いたいことは別にのこしてきた」

「え……」

「今は、ただ。傍にいてやりたかった。お前の……」

「お兄ちゃん……」

「悪いな……最後まで、こんな事しかしてやれなくて」
「ううん、そんなことない…… そんなことないよ…。
もう、二度と、会えないと思ってた。思ってたのに……お兄ちゃんは、最後に会いに来てくれた。
こんなこと出来るお兄ちゃん、他にいないよっ!!」

「ゆき……」

オレの身体はすけ始めていた。
もう、時間だった。

「ゆき……お前は、オレの妹でいて、幸せだったか」
「……そんなの。当たり前のこと、聞かないでよ……」

そして、ゆきは、笑顔で言った。

「私、お兄ちゃんの妹で良かった…。これ以上の幸せはないよ。ありがとう」

そのゆきの言葉と笑顔を見て、オレは満たされたような心地になった。

「うん。……オレも、ゆきの兄でいられて幸せだったよ……ありがとう……」

身体が空に登る。

「お兄ちゃん…」

それでもなおオレはゆきに語りかける。

いいか、ゆき……。
オレはいつでも、お前の事見ているからな……
絶対にだ…… それを、忘れるなよ……。

…………うん。


あぁ。

良かった……ゆき。最後に見た、お前の顔が。

笑顔で。

……そして、意識を失った。


…………

気付くとオレは、白い世界にいた

目の前にいる。白い魂がオレに話しかけてきた。

「やぁ、月城彼方くん」
「……だれ?あなたは。神様?」

「神様なんかじゃあないさ。これから死に行く物の1人も救えず。なにが神様だ」

「あぁ、やっぱ死ぬんですねオレ。というか。なら、あなたはなにもの?」

「私は、アイドルと。アイドルを愛する者全てを愛する。ただのしがない美人旅人さ」

「美人、ですか」

「キミ、今鼻で笑ったろう!」

「いや、だって。自分で美人とか……(というかもう鼻ないよ)」

「これでも私はかつて世界で、頂点の人気を誇ったのだ。この美貌は世界のお墨付きだ」

「…はぁ………でもこの魂(すがた)じゃなにも分からないすね」

「……魂で感じろ、そこは」

(えええ)

「……というか、その。アイドル大好きさんが、何の用ですか」

「ふっ……見せてもらったよ、君の魂(スピリット)。君のその誇り高き魂に敬意を表して。1つ君の心残りを叶えてやろう」
「心残り……?ですか。別にないような……」
「いいや、あるはずだ。どんな人間でも。後悔のひとつも無い人生なんてありえない」
「…………あっ。マネージャー……。彼女に、なにも言えなかったな……。損な役回りを押し付けてしまったのに……。オレは大丈夫だって、一言でも。行ってやるべきだった……」

「なんだ。やっぱりあるじゃないか。心残り」
「うっ……」
「わかった。マネージャーには、君のことは私から言っておく」
「わかるんですか、マネージャーのこと」
「安心しろ。知り合いだ」
「……なんとなく。分かってきました。貴方のこと」
「…何者でもいいんだよ私は。……もう、私の時代は終わったんだ」
「……そうですか。...マネージャーのこと。ありがとうございます」
「うむ。……じゃあな少年。良い旅を」
「はい。あなたも」

そして。白い魂は消えていった。

……

はっ
気づくとオレの身体は病室にいた。還るべき場所にちゃんと戻っていた。
オレの生命力はほぼ残っていなかった。きっとあと数時間ももたないだろう。
もう、なんの感覚もなかった。身体も動かせないほどに。
時計は4時30分を示していた。
「誰かが。運んでくれたのか」
運んだ人物には見当が付いた。さっきの魂だ。それはきっと……。
(あのまま眠っていたら、ゆきにホラーな光景をお届けするところだったな……)
「……ありがとう、ございます」
誰もいない空にオレは、感謝の気持ちを飛ばした。

…………

そして。今に至る。
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