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7章 番外編 コケシ少女の冒険
①私立山ノ中女学院
しおりを挟むこれは、夏休みの一日前の山間市で起こった小さな事件、とある旧家に連なる御令嬢が体験した、初恋と冒険の物語で有る。
◆ ◆ ◆
私立山間仏教女子高等学校、仏女の事をお嬢様学校だと思っている者は多い。
確かにそう云った者達は一定数存在する。
そう、特に寮生と呼ばれる娘達は親が宗派の寺の住職であったり、地方議員の娘や大店の娘、実業家、会社経営者、或いは企業の重役の娘が多い。
通いの者達の殆どは、周辺の天言宗の檀家に属する、農家やサラリーマン家庭の娘であり。
私立ではあるが学費は私立の割にはリーズナブルで、偏差値もそこそこ高く評判は良い。
学費の面に関しては富裕層の檀家筋の寄進と、お布施で成り立っている側面も有る。
県庁都市方面に本山が有り、この地方から関東方面に沢山の寺がある天言宗。
この地方の檀家家庭の娘は学費が割安な私立と言う事で、この学校に通う者が多い。
家が宗派と関係無い場合は、残念ながら他の私立とそれ程変わりない高額の学費ではあるのだが、宗教系の学校で有るのでそれは仕方無いだろう。
だが親が学校に多額の寄付をしている寮生を持ってして、お嬢様なのか?
……と言われると少し違う、確かに親は有力者なのだろう。
だが娘の素行の悪さに困り果てたが故に、仏女の寮に放り込んでいるのだ。
家や親の地位を宛にして、周囲の人間に対して好き放題やって来た金持ちの嫌味な娘で有るとか、逆に家名?世間体?何それ?…と暴れ回ってきた不良娘ばかりで、お世辞にもお嬢様などと言えた物では無い。
親にした所で家名こそ古いが、何百年続いた地主や商家の様な金持ちであろうと、所詮は農民や庶民の域を出ない、政治家にしてもここ十数年、若しくは戦後の成り上がりの家系、実業家は成金に過ぎない。
本当の意味でのお嬢様と言えるのは、私立山ノ中女学院の生徒達であろう。
学校と言うには生徒数はかなり少なく、全学年で三十人に満たない、どちらかと言えば私塾に近いのかも知れない。
とは言え相当に設備も教師陣も充実しており、職員の数は生徒よりも多い。
地元の名士や金持ちは娘をこの学校に入れたがるが…それは無理な話である。
…伝が無いのだ。
入学には中央のお偉方の、若しくは旧華族家の有力者の紹介状が必要でもある。
県内の有力者から知事も口利きを頼まれる事が有るが、全て断っている。
「いや、いつも支援頂いているのに本当に申し訳ない、あそこに対しての伝はワシも持っていないのだよ…」
十数年、何期も務めた昭和の怪物と呼ばれる県知事ですら手が出せず、下手に手を出せば政治生命を終わらせる事にすらなりかねない。
地元民はそこに学校が有る事くらいは知っているが、もっぱら正体不明の謎の女子校としか認知されていないのが現状である。
山間中央駅の北口、デパート側に出るとロータリーを挟んで中央の通りはデパートや大型店が並び、奥には警察署や市役所等の行政施設、住宅街と山間第一中学校や農地が広がり、両サイドに商店街が伸びている。
左側の商店街を進めば山間第二高校と呼ばれる県下でも有数の進学校があり。
国道と河川を挟んだ向こう側には西部地区、住宅地や農地と第二中学校が有る。
右側の商店街は短く、国道が山の中に続き篠山を避ける様に中央駅から線路が続く、この山を越えれば篠川町を始めとして山篠、篠田原だの矢鱈と篠の字が付く村が幾つか続く、その辺りはかつて、明治期の農地解放以前は豪農とされていた篠田家の所領であった所だろう。
その手前の篠山の中腹…
私立山ノ中女学院、略して山女は一応山間市に有るのだが全寮制かつ外部との接触はほぼ無いと言って良い。
夏休みで有るとか冬休みの前日、或いは終わりの日になると、山を越える国道に矢鱈と高級車が目立つ。
娘を送り迎えする家の者達の車であろう。
山女の生徒ともなれば、家庭による違いは有るだろうが、夏休みで有っても気の休まる様な環境で過ごせる者は少ないだろう。
滅多に有る事では無いが、息が詰まりそうになり逃げたいと思う娘は居るのではなかろうか?
逃げるとしたら、迎えの車が学院の門から出て実家に向かう途中しか有り得ない。
家に戻った後では拘束されるのは目に見えている。
過去には数件そんな事があったのだと言う。
そんな娘達を迎えに来た車の中に、巨大製薬会社を経営する花柳院家の車もあった。
年老いた運転手は市子の境遇に憐れみを感じていた。
山之中女学院、良妻賢母になるべく名家の女児が通う学校。
山之中女学院三年、花柳院市子、彼女には婚約者がいる、石田重雄、国会議員のドラ息子。
年老いた運転手の目から見ても碌な男では無い、横柄で手癖は悪く、親の権威を傘に着てやりたい放題。
外見的素体は本来はそれ程悪くない男の筈である。
彼の父親で有る石田議員も冷徹で人を恫喝するような眼差しの男では有るが、醜くは無い。
だが議員の息子として甘やかされ、特別扱いされて来た弊害なのだろう、その精神性が容姿に滲みでているのだ。
人を不快にさせるねっとりとした喋り口調も相まって、残念ながら人に好かれるタチの男では無い。
だが、そんな男でもいずれは親の地盤を継いで国会議員になるのだろう。
それ程高い地位に居た訳では無いが花柳院家は陰陽寮に所属し、医薬呪いを朝廷にて仰せつかっていた名家の末席に連なる家であった。
公家の中でも下位に位置していたのだが、明治期に復権して以降は、飛ぶ鳥を落とす勢いで家は大きくなり…
現在では旧華族に連なる家柄としても持て囃されている。
戦中戦後も器用に立ち位置を変えて対応しながら、今では大手製薬会社の一角を担うまでに成長した。
市子の親は本家が経営している製薬会社の重役ではあるが、能力故では無く、一族では有るので役員の地位を充てがわれているだけの存在であった。
成り上がりの国会議員、石田はどうしても息子の泊付けの為に華族の血が欲しいらしい。
経営者一族の長の命令には逆らえない。
一族の長も政略結婚で使える手駒を増やすために、数人の一族の者を役員に据えている。
この車も家に戻るわけでは無い。
そのドラ息子の家で花嫁修行…いや、ドラ息子の欲望のままに幼さの残る肢体を弄くり回される哀れな女子高生。
大学には進まない、高校を卒業したら直ぐに籍を入れる事になっている。
それ以上の学歴など必要無い、旧華族の娘と結婚して、家に高貴な血を入れる事こそが石田議員に取って最も重要な事なのだ。
市子に拒否権は無い、既に春休みにも行っている、処女を奪われる以外の事は全てされている。
口を吸われ、乳を吸われ、恥部を舐め回され…肛門を犯された。
婚約者には嫌悪感しか無いが、それでも家の為に我慢するのだと言う。
春休みの終わりに婚約者の家から戻る時に、ポロポロと涙を零しながら運転手の老人に訴え…
いや、訴える事など出来ない、ただ聞いて貰う為だけに吐き出した。
婚約者の為に着飾る様な気力は無い。
どうせ着いて早々すぐに裸に剥かれ、身体を弄り回される事になる、だからわざわざ着飾らない。
或いは、細やかな抵抗と言えるのか?
校章入りの学校指定の赤いジャージで向かうのは…恐らくはそうなのだろう。
厳しい校則の為に、生徒は皆おかっぱ頭だが、整った儚げな顔立ち、細い一重瞼の切れ長の瞳、長い睫毛、形の良い小さい鼻と品の良い控えめな唇。
華奢で色白、身長は百五十センチに満たない、虚ろな瞳で車の外を山道の樹木を眺める。
十八歳ではあるがこの容姿、ロリコンなら放って置かないだろう。
市子の様な辛い問題が無くとも、実家の行事や挨拶回りに息が詰まって家に帰りたがらず脱走を試みる娘も稀にいる。
中にはスタントマンばりに、移動中の車から飛び出し、山道を転げながら逃走を図る者も居たとか?
が、市子はその様な事をするタチの娘では無い、ただ静かに耐えるのみ。
年老いた運転手は幼い頃から市子を知っており、不憫にも感じている。
市子の父親、彼の雇い主にもこの事を訴えたが、市子の父親は悔しそうに顔を歪めはした。
だが…最後に、この件には今後触れない様に言われ引き下がる他無かった。
婚約者の家にはかなりの距離が有る、どちらにせよ途中で宿泊し到着は翌日になる。
彼に出来る事はせめて市子に、可哀想なお嬢様に、多少なりとも自由な時間を作ってやる事だけだった。
山間駅北口のデパートの前で止まり、彼が仕えるご令嬢に少しでも自由な時間を楽しんで貰うために用意した封筒、市子は金銭など持ち歩かないのは知っている。
車のドアを開けて封筒を渡し…
「それでは夕方に迎えに参ります…では…」
「はい?!?瀬蓮さん?!あの…ちょっと……あっ……」
市子が呆気に取られ、何か言う前に老人は微笑みながら車を出す、せめて市子が自由な時間を楽しめる様に祈って。
勿論、運転手の瀬蓮老人は山間市の事などほぼ知らない。
市子が山女に入学して二年半…
学校から山を降りると直ぐに高速の入り口に向かい、京都へ帰る。
…その繰り返しで有った…
山間市を流した事さえ無い、ただの田舎の小都市ぐらいにしか思って居ない。
勿論、普通の都市部で有れば彼もこんな事はしない。
彼は、田舎の牧歌的な地方都市くらいにしか思っていなかった。
そう、彼はこのヤクザ者や半グレ、不良学生が跋扈する、この暴力的な都市の事など何ひとつ知らなかったのだ。
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