Dear my family,

立風 颯

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プロローグ 記憶

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 数十年生きてきた中で僕は多くの経験をした。数多の出会いと別れを繰り返し、時には肩を組んで笑いあい、時には鬼気迫る面持ちで喧嘩しあい、日の光が天を回り、暗い帳が空を覆い、また日が昇った。抱きしめればほのかに温もりを感じられるものもあれば、重く冷たくそして触れれば傷ついてしまうようなものもある。
 そんな数多の思い出が積み重なった結果、下部の方で埋もれ、擦り切れて薄れてしまうものも今では数え切れなくなってしまった。
 しかしそんな中でも、僕の中で遠い遠い存在となってしまった今でもはっきりとその姿かたちを保ちながら僕の進むべき道を指し示す記憶灯りがあった。
 それはある酒場の光景だった。
 そこには並々とエールが注がれたジョッキ片手に、性別も、年齢も、故郷も、種族さへも、てんでばらばらの者たちが所狭しと騒いでいた。
 皆が酒をあおり、大樹の幹ほどの太さはあろうかという肉塊を頬張り、その日の自身の武勇伝を盛りに盛って語る一方で、聴衆の方も適宜相槌を打ちながらテーブルとテーブルの間を忙しなく行き来する店員に追加のエールを注文する。天井からつるされている灯に照らされた頬から、みな存分に酒が回っていることがわかった。
 その宴の中にははっきりの自分の姿も見て取れた。周りの人らは若いと言っても20代そこそこばかりで、未だ10代半ばぐらいの僕からすれば決して歳が近いとは言えない差があるにもかかわらず、それでもそこにある自身の顔はこの上なく笑みにあふれていた。
 誰かの視線や発言、一挙手一投足に機敏に怯えることなく、心の赴くままにその場を楽しんでいた。
 そんな幸せに満ち満ちた自身の顔はこんなことを思い描いていたのだろう。
 この瞬間がこれから先も永遠に続けばいいのにと――
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