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4話 超パワー×超パワー
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斑鳩が路地裏に足を踏み入れると、高校生くらいの少年数人が集まっているのを見つけた。
「こんなところ一人で歩いてちゃ危ないぜぇ」
「おうちまで送ってあげよっか。その代わり、お金もらえるかな」
今どきカツアゲとは古風な、と思いつつ、斑鳩は現場を駆け回っていたときの癖で動向を窺う。
犯罪は未然に防ぐのが一番だが、かと言って警察は証拠がなければ犯罪者扱いもできない。大きな被害が出る前に、相手が決定的な行動に出た瞬間を抑えるのだ。
少年たちの背中に隠れて、取り囲まれている対象は見えない。斑鳩が様子を窺っていると、少年の一人が不意に声を上げた。
「おい、この制服……魔法学校のじゃねえ?」
「ああ? ……そう言われりゃ確かに、なるほどお嬢様ってわけだ」
お嬢様。その言葉に、斑鳩の肩はぴくりと動いた。
春から魔法学校に進学する、トラブルに巻き込まれていそうなお嬢様。それが今まさに、少年たちに取り囲まれているらしい。
そこで、痺れを切らしたらしい少年の一人が、輪の中心に手を出した。
「黙って財布置いてけよ、なァ!」
「おい、待て」
斑鳩が少年たちの前に出ていこうとした時。少年の動きが止まった。
そして輪の中心から、鈴の音のように凛とした声が聞こえてきた。
「これが噂に聞いていた『カツアゲ』ですのね。話しかける方法、仲間と合流する手口、実力行使に至るまで、しっかりと見学させていただきましたわ」
「あぁ? おい、早くやっちまえよ」
「いや……だって、手が……」
少年が伸ばした手は、少女の肩に届くことはなかった。宙を掻いた手は少女の手ではっしと握られ、微動だにしない。
少女がその手をぐいとひねると、少年は一瞬宙に浮き、そして背中から地面に叩きつけられた。
「ぐえっ」
「んだテメェ!」
それを見た一人が拳を振りかぶると、少女は片手の通学鞄を顔の前にかざしてそれを受け止めた。
威勢も虚しく、相手は拳を抑えてその場に崩れ落ちる。
「痛ッ……てぇ~~~!?」
「通学のイメージはばっちりでしてよ。テキストの他に、トレーニング用の二十キロ鉄板を入れてきましたの」
「な……なんだコイツ~!?」
残った少年たちは飛び退いて、臨戦態勢を取った。これほど力の差を見せつけられても諦めがつかないらしい。
「い、今のは油断しただけだ! 全員でかかりゃこんなヤツ屁でもねぇ!」
「まあ、お口の悪いこと。顔面タコ殴りにして悪役ヅラ矯正して差し上げましょうか?」
「口が悪いのはどっちだァ!」
各々が武器を手に、三、四人が少女へ向けて一斉に飛びかかった。さすがにあれではいかなる腕力をもってしても対処できまい。
今度こそ斑鳩が飛び出そうとしたその瞬間、少女が宙に向かって大きく腕を回した。
「壁よ壁、大きな壁──下衆な力から私を守りなさい」
少女の言葉に、一瞬空気が歪んだように見えた。そして、
「──はぁッ!!」
少女が宙に両手を突き出すと、その場に突風が巻き起こった。転がる空き缶、木の枝、竿の折れたのぼりなどが吹き飛び、斑鳩は顔の前に腕をかざした。
飛びかかろうとした少年たちは、空中で大きな壁にぶつかったように手足をばたつかせ、数メートル吹き飛んでから地面の上へ仰向けに転がった。
「う……おい、さっさと逃げるぞ!」
「おォ!」
負け犬らしいセリフを残して、少年たちがその場を去っていく。それを見送ってから、ようやく斑鳩は物陰から顔を出した。
「あの……お嬢さん」
「あら、先程の方たちの親玉?」
「違う違う!」
とんでもない勘違いで構えを取る少女に、斑鳩は慌てて否定した。
「俺は、君を探してるって人を手伝ってて」
「『お菓子をあげる』『親の代わりに迎えに来た』は誘拐犯の常套句ですわ!」
ますます距離を取ろうとする少女に、ハジメは必死で頭を巡らせる。
そして隼人から言いつけられた言葉を思い出した。
「またこういうことがあったら、学校終わりの寄り道も禁止にするって!」
その言葉を聞いて、少女は顔色を変えた。
「それは困りますわ! せっかくお友達との交流を楽しみにしておりましたのに……カラオケやゲーセンに行くのだって楽しみにしておりますのに!」
少女はようやく構えを解いて、乱れた制服の皺を直した。
腰辺りまである長い黒髪には、後頭部に赤いリボンがついている。見た目はいいとこのお嬢様だが、それだけではない。
強い意志を瞳に宿し、彼女は優雅に一礼した。
「ご挨拶が遅くなりました。わたくし、岩清水雛子(いわしみず・ひなこ)と申します。以後お見知り置きを」
「こんなところ一人で歩いてちゃ危ないぜぇ」
「おうちまで送ってあげよっか。その代わり、お金もらえるかな」
今どきカツアゲとは古風な、と思いつつ、斑鳩は現場を駆け回っていたときの癖で動向を窺う。
犯罪は未然に防ぐのが一番だが、かと言って警察は証拠がなければ犯罪者扱いもできない。大きな被害が出る前に、相手が決定的な行動に出た瞬間を抑えるのだ。
少年たちの背中に隠れて、取り囲まれている対象は見えない。斑鳩が様子を窺っていると、少年の一人が不意に声を上げた。
「おい、この制服……魔法学校のじゃねえ?」
「ああ? ……そう言われりゃ確かに、なるほどお嬢様ってわけだ」
お嬢様。その言葉に、斑鳩の肩はぴくりと動いた。
春から魔法学校に進学する、トラブルに巻き込まれていそうなお嬢様。それが今まさに、少年たちに取り囲まれているらしい。
そこで、痺れを切らしたらしい少年の一人が、輪の中心に手を出した。
「黙って財布置いてけよ、なァ!」
「おい、待て」
斑鳩が少年たちの前に出ていこうとした時。少年の動きが止まった。
そして輪の中心から、鈴の音のように凛とした声が聞こえてきた。
「これが噂に聞いていた『カツアゲ』ですのね。話しかける方法、仲間と合流する手口、実力行使に至るまで、しっかりと見学させていただきましたわ」
「あぁ? おい、早くやっちまえよ」
「いや……だって、手が……」
少年が伸ばした手は、少女の肩に届くことはなかった。宙を掻いた手は少女の手ではっしと握られ、微動だにしない。
少女がその手をぐいとひねると、少年は一瞬宙に浮き、そして背中から地面に叩きつけられた。
「ぐえっ」
「んだテメェ!」
それを見た一人が拳を振りかぶると、少女は片手の通学鞄を顔の前にかざしてそれを受け止めた。
威勢も虚しく、相手は拳を抑えてその場に崩れ落ちる。
「痛ッ……てぇ~~~!?」
「通学のイメージはばっちりでしてよ。テキストの他に、トレーニング用の二十キロ鉄板を入れてきましたの」
「な……なんだコイツ~!?」
残った少年たちは飛び退いて、臨戦態勢を取った。これほど力の差を見せつけられても諦めがつかないらしい。
「い、今のは油断しただけだ! 全員でかかりゃこんなヤツ屁でもねぇ!」
「まあ、お口の悪いこと。顔面タコ殴りにして悪役ヅラ矯正して差し上げましょうか?」
「口が悪いのはどっちだァ!」
各々が武器を手に、三、四人が少女へ向けて一斉に飛びかかった。さすがにあれではいかなる腕力をもってしても対処できまい。
今度こそ斑鳩が飛び出そうとしたその瞬間、少女が宙に向かって大きく腕を回した。
「壁よ壁、大きな壁──下衆な力から私を守りなさい」
少女の言葉に、一瞬空気が歪んだように見えた。そして、
「──はぁッ!!」
少女が宙に両手を突き出すと、その場に突風が巻き起こった。転がる空き缶、木の枝、竿の折れたのぼりなどが吹き飛び、斑鳩は顔の前に腕をかざした。
飛びかかろうとした少年たちは、空中で大きな壁にぶつかったように手足をばたつかせ、数メートル吹き飛んでから地面の上へ仰向けに転がった。
「う……おい、さっさと逃げるぞ!」
「おォ!」
負け犬らしいセリフを残して、少年たちがその場を去っていく。それを見送ってから、ようやく斑鳩は物陰から顔を出した。
「あの……お嬢さん」
「あら、先程の方たちの親玉?」
「違う違う!」
とんでもない勘違いで構えを取る少女に、斑鳩は慌てて否定した。
「俺は、君を探してるって人を手伝ってて」
「『お菓子をあげる』『親の代わりに迎えに来た』は誘拐犯の常套句ですわ!」
ますます距離を取ろうとする少女に、ハジメは必死で頭を巡らせる。
そして隼人から言いつけられた言葉を思い出した。
「またこういうことがあったら、学校終わりの寄り道も禁止にするって!」
その言葉を聞いて、少女は顔色を変えた。
「それは困りますわ! せっかくお友達との交流を楽しみにしておりましたのに……カラオケやゲーセンに行くのだって楽しみにしておりますのに!」
少女はようやく構えを解いて、乱れた制服の皺を直した。
腰辺りまである長い黒髪には、後頭部に赤いリボンがついている。見た目はいいとこのお嬢様だが、それだけではない。
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