ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 食後、体力と士気を回復した俺たちは再び湿地帯へと戻った。

 陽は少し傾きはじめていたが、ぬかるみの中を歩く足取りは軽い。矢の補充も済み、全員が戦闘態勢を整えていた。

「見つけた。あそこ、草の間にいる」

 純子が指差す先――薄く揺れる草むらの陰に、ぬるりと動く緑の巨体。

「ジャイアントフロッグ、通常個体だね。行こう!」

 俺の合図で、有紗と沙耶が先に弓を構える。ピシュッ! 二本の矢が音を立てて飛び、片方が命中した瞬間、カエルが鳴き声を上げて飛び出してくる。

「こっちに来るよ!」

 明が剣を構え、正面から飛びかかるカエルに真っ向から斬り込む。

 バシュッ!

 舌を突き出してきたタイミングで、俺が側面から切り込み、続けて純子の矢が頭部に命中。巨体が地響きを立てて崩れ落ちる。

「一匹目、終了!」

「次の獲物、西だわ。もう一匹も普通のやつみたい」

 沙耶の言葉にうなずき、俺たちは連携よく二匹目の個体も狩った。

 泥を跳ね飛ばしながらの斬撃、矢の援護、明の突撃。連携はますます洗練されていた。

「……はい、これで5匹目っと!」

 俺は証明部位の舌を拾い上げる。ずっしりとした感触。これで依頼完了だ。

「全員、お疲れー!」

 そう言った矢先――

「……ん?」

 俺は眉をひそめた。

 さっきまで感じていた風が、ぴたりと止んでいた。空気が妙に重く、肌にまとわりつくような湿り気が強くなっている。

「なんか……変だね、空気」

 有紗も周囲を見回す。

 草のざわめきが止まり、水面がまるで凍ったように静かになっている。
 音が――ない。鳥の鳴き声も、カエルの鳴き声も、何もかもが。

「……こんなに静かだったっけ?」

「いや、さっきまでは虫とか鳥とか、結構鳴いてたろ」

 明が低い声で言い、剣の柄に自然と手が伸びる。

 俺も本能的に《何か来る》と感じていた。

 その時――

 バシュッ!

 水面が、まるで爆発したように破裂し、遠くの岸辺の草がぐわっと跳ね上がる。

 何かが、こちらを見ている。

「……まさか、まだいたのか?」

 全員が沈黙したまま、水辺の奥を見つめる。

 そこに――巨体がゆっくりと姿を現した。

 だがそれは、これまでのジャイアントフロッグとは明らかに違っていた。

 色が違う。目が違う。圧が――違う。

「おい……おいおい、あれ……」

 明が低く呟く。

 それは、ぬるりとぬかるみから這い出し、ゆっくりとこちらへ向かってきた。

 体の表面が異様に黒光りしており、目は赤く、舌が無数に分岐して蠢いている。

「……変異個体、か?」

 俺は手に汗をにじませながら、ショートソードを抜いた。

 湿地の空気が、確かに――変わった。

「来るよ……ッ!」

 沙耶の声が響いた瞬間、変異個体が地を蹴った。

 だが――視界から、消えた。

「……っ!? いないッ!?」

 全員が一斉に周囲を見回す。巨体だったはずのそれが、一瞬で視界から消えた。気配もない。音もない。

 まるで――存在ごと、溶けたかのように。

「気をつけて! ステルス系……完全に消えてる!」

 俺は剣を握りしめたまま、背後に神経を研ぎ澄ませる。通常のジャイアントフロッグにはない《異常》な能力。完全に透明化し、気配までも消すそれは、もはやモンスターというより暗殺者だ。

 ――ザシュッ!!

「うわっ!!」

 明が突然吹き飛ばされた。左腕に浅い切り傷。舌か? いや、あれは爪のようなもので斬ったか――

「明っ、大丈夫!? どこから来た!?」

「背後だ! 完全に見えなかった……!」

 その瞬間、俺の背後にも殺気が走った。

 即座に横へ跳ぶ。

 ブワッと空気が揺れ、巨大な何かが通り過ぎていった。見えないそれが確かに俺を狙っていた。

「やばい、姿が見えねぇってだけでここまで厄介かよ……!」

「でも! 攻撃したときは水に波紋が出る。動いた直後がチャンスかも!」

 純子が言い、有紗が頷いた。

「矢、撃ってみる!」

 バシュッ! 矢が無人の空間に飛ぶ――が、外れる。

「もうちょっと右! そこだ、矢痕がある!」

 俺は地面の泥の痕跡を見つけ、即座に距離を詰める。

「そこかぁあッ!!」

 全力で斬撃を放つと――ギンッ!!

 何か硬いものに当たった感触。だが、跳ね返された。

「クソッ……装甲も堅い!」

 直後、視界の端で水しぶきが上がる。逃げたか? 否、もう一撃くる――!

「来るよッ!!」

 沙耶が叫ぶ。

 刹那、ステルスが解けた。

 その姿は、より異形じみていた。頭部が裂けたように開き、無数の舌がうごめく。四肢は細く、鋭く、カエルの体というより――悪夢の産物だ。

「明! 真正面から誘ってくれ! 俺が後ろを取る!」

「了解だ、こっち来いやぁッ!!」

 明が叫びながら前へ出る。異形のフロッグが舌を伸ばし、彼を狙う。

 その瞬間、背後の泥が跳ねた。

「――そこだッ!!」

 俺は背後から跳びかかり、首筋めがけて渾身の一撃を振り下ろす!

 ザシュゥッ!!

 刃が深々と食い込む。断末魔のような悲鳴。

「今だッ! 一気に畳みかける!!」

 沙耶と有紗の矢が連射され、純子の矢が突き刺さる!

 その攻撃にステルスが完全に解除された異形に、俺は、畳みかけるように、狂ったように斬り続ける。異形のフロッグは泥の中でのたうち――

 やがて、動かなくなった。

 ――ドシャン。

 巨体が沈む音と共に、再び、湿地に静寂が戻る。

「……終わった、か?」

 明がそう呟いた。

 俺は、泥の中に沈みかけた証明部位――この個体の「舌」を引っ張り出す。

 普通の個体よりさらに太く、ぬめりが強い。だが、しっかりと報酬に値する感触。

「これで、依頼達成……だな」

「一匹分多いけどね」

「うえええ……もうカエルは当分見たくない……」

 明が泥だらけのまま倒れ込んだ。

 全員が疲労困憊だったが、どこか笑っていた。

 
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