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しおりを挟むギルドの扉をくぐると、夕陽の光が差し込むロビーには、いつものざわめきが戻っていた。
俺たちは泥と血で汚れた装備のままカウンターへ向かい、報告書を叩きつけるように提出する。
「……おかえり。相当、やばかったって顔してるけど」
受付の礼子さんが、やや心配そうに眉をひそめた。
「いつもの倍ぐらいやばかったです」
俺は苦笑しつつ、破壊した魔獣の詳細と、発見した魔導核の破片を提示する。
「これが……?」
礼子さんは、魔導核を慎重に受け取り、カウンターの奥へと引っ込む。
戻ってきた彼女の表情は、少しだけ緊張を含んでいた。
「確認したわ。あんたたち、正真正銘の大手柄よ。
討伐対象を倒しただけじゃなくて、異常個体の存在と、その証拠まで持ち帰ってきた……これはギルドとしても大きな意味があるわ」
そして――礼子さんは、ニヤリとした笑みを浮かべた。
「ってわけで、ギルド本部から許可が下りたわ。
――Dランク昇格試験を受ける権利があるって」
「昇格試験……!」
有紗が目を丸くする。
沙耶と純子も、思わず顔を見合わせた。
「依頼はもう準備されてる。内容は――とある遺跡に潜入して、魔導技術の痕跡を調査するってもの。たぶん、今回の件とも関係してるわね」
俺は拳を握った。
Dランクになれば、受けられる依頼の範囲が一気に広がる。
「やるしかねぇな」
明がにやりと笑って、俺の肩を叩いた。
「ってわけで、あんたたち――おめでとう。『明のパーティ』のDランク昇格試験、正式に受理されたわ。準備ができたら声をかけて」
「……ああ、よろしく頼む」
明は深く頷いた。……が、俺と純子たち4人は顔を見合わせる。
「明のパーティ?」
4人の声がそろう。
そういえば、名前が決められず『明のパーティ』で仮登録してからそのままだったのだ。
「アー⁉」
「ちょ、ま、今のは仮だろ!? っていうか、あれ仮登録じゃなかったっけ!?」
「まさか……そのまま正式登録されてた?」
有紗が頬を引きつらせる。
「ということは、私たち、ずっと『明のパーティ』だったってこと?」
純子が冷ややかに確認する。
「わ、わたし、ちょっと恥ずかしいかも……」
沙耶が目をそらしてもじもじする。
「いや、まあ……いい名前じゃないか?」
明が乾いた笑みでフォローを試みるが、俺たちの視線は冷たかった。
「明。言いたいことがあるなら今のうちに謝っとけ」
俺が肩を叩くと、明は素直に頭を下げた。
「……ごめんなさい」
「まあ、名前が決まってなかったのは事実だしな」
俺は腕を組み直して言った。
「いっそ、今ちゃんと決める?」
有紗が提案する。
「いいわね。これからDランクパーティになるんだし、名乗る時に恥ずかしくないのがいい」
純子が頷く。
「かっこいいやつがいい!」
沙耶が手を挙げた。
「よし、じゃあ候補を出してこうぜ!」
俺が言うと、それぞれが思い思いに案を出し始める。
「『疾風の矢』とかどう?」
有紗が真面目に考えた。
「いや、ちょっと厨二っぽくない?」
純子が眉をひそめる。
「『百点ブレイカーズ』とか!」
沙耶が元気に叫ぶが、俺と明が無言で目を合わせた。
「『百点』って……俺のスキルだよな」
「お前の自慢じゃんそれ」
「じゃあ、逆にシンプルに『チーム卓郎』とか」
明がさらっと言った瞬間、俺が顔をしかめた。
「それ『明のパーティ』と変わんねーから!」
「むむむ……」
再び沈黙が流れる――と、そのとき。
「じゃあ、『フォーカス』は?」
有紗がぽつりと口にした。
「えっ、カメラ用語の?」
純子が小首をかしげる。
「うん。敵を見切るって意味と、みんなで狙いを定めて、一点突破するって意味にもなるかなって」
「悪くない……むしろ、いいかも」
俺は頷いた。
「シンプルで、強そうだし。言いやすい!」
沙耶も笑顔になる。
「『フォーカス』か。うん、俺も賛成」
明が両手を上げた。
「じゃあ、これで決まりね」
純子が笑って、礼子さんに向き直る。
「改めて、パーティ名を『フォーカス』で登録してください」
「了解。では――」
礼子さんが笑みを浮かべながら、手元の書類を更新する。
「冒険者パーティ『フォーカス』、Dランク昇格試験、正式に受理されました。……がんばってね」
「――ああ。任せてくれ」
俺たちは顔を見合わせ、自然と笑みを浮かべる。
受付カウンターの奥から、一枚の羊皮紙が取り出される。礼子さんが、それを俺たちに見せながら言った。
「さて、フォーカスの皆さん。Dランク昇格試験として提示される依頼は、こちら」
羊皮紙には、複雑な地図とともに、依頼の詳細が記されていた。
「『セントリム遺跡の調査と、出現魔獣の討伐』ね。最近、この遺跡で妙な魔力反応が観測されてるの。通常の調査班じゃ対応しきれないってことで、腕の立つ新人枠に回されたってわけ」
「遺跡……って、あの東の森の奥にあるっていう、昔の帝国時代の遺跡?」
有紗が目を見開く。
「そう。現在は封鎖されてたんだけど、最近になって封印が緩み始めたらしくてね。なにが潜んでるか分からないぶん、昇格試験にはうってつけってわけ」
「魔獣の異常変異も、もしかして……」
俺は先日の戦いを思い出す。異様な“第二形態”、そして体内に埋め込まれていた魔導核。
「ああ、遺跡と無関係とは思えないな」
明も頷いた。
「ちなみに、今回は調査が主目的。だから全部倒す必要はないけど……ヤバそうなのが出てきたら、自己判断で撤退していいわ」
「自己判断、ね……」
純子が小さく呟き、俺と目を合わせる。
「情報とサンプルが手に入れば、それで充分合格。逆に、無理して全滅したら昇格どころか……二度と戻ってこられないかもね」
礼子さんの冗談ともつかぬ言葉に、場が一瞬静まる。
だが――
「ふふん、それなら私に任せて! 私の『遠見』で敵をいち早く見つけるから」
沙耶が明るく笑って胸を張った。
「またみんなで帰ってこよう。ちゃんと『フォーカス』全員で、ね!」
「……ああ」
俺はその言葉に、自然と笑みを浮かべて頷いた。
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この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
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