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しおりを挟む南の草原地帯。緩やかな丘が連なり、風が草をなびかせている。空は澄み、陽光が辺りを照らしていたが――そこに潜む獣の気配は、確かにあった。
「……いた」
沙耶の声に、全員が息を呑む。ここでも沙耶の『遠見』は大活躍だ。
丘の陰から姿を現したのは、赤く染まった体毛を持つ、異様に引き締まったラプトル。
全長は三メートル近く、目は爛々と輝き、喉からは低く唸るような音が漏れている。
ラプトルはCランクとはいえ、こいつはただのラプトルじゃない。
異常個体――『深紅の牙ラプトル』。
「初めは遠距離射的、向かってきたら卓郎と明は突っ込んでやつを止めて」
純子は声を落としつつ的確な作戦指示。明は剣に手をかける。
「おう。やっと暴れられるな」
「純子、有紗、沙耶。連携は任せた。特に沙耶、あいつの動きは速い。タイミングを間違えるなよ」
「まかせて!」
沙耶は弓を構えながら、小さく舌を出した。
そして――ラプトルが、突然、地面を蹴った。
シュバッ、と風を裂くような音。突風のような速度でこちらへ突進してくる!
「速っ!? まるで矢だよ、あれ!!」
沙耶が叫びながらも素早く狙いをつけ、矢を一射。
だが、ラプトルは弾丸のように横へステップ、矢を回避してさらに加速する!
「来るぞ!」
俺は剣を抜き、明と共に走り出す。
バギッ!!
ラプトルの鋭い爪が地面を削りながら、俺を狙って振り下ろされる。
ギリギリでステップ回避。すぐに反撃の一閃――しかし、ラプトルは既に明へと向かっていた。
「遅えよ! フレイムバスターッ!!」
炎を纏った明の剣が火柱を描き、ラプトルの肩をかすめる! だが、即座に飛び退くその動き――尋常じゃない。
「動きに無駄がない……まるで、訓練された兵士のようね」
純子が矢を二本続けて射る。一つは地面へ、もう一つはラプトルの横腹へ。
――ピタリと命中。
ラプトルが呻き、バランスを崩した瞬間、有紗の矢が追い打ちをかける。
「今だ、囲んで――!」
純子が叫んだ瞬間、ラプトルが一気に跳躍した。
「上!?」
上空から爪が振り下ろされる。沙耶の弓では狙えない――
「こいつ……考えて動いてる!?」
明が剣でガード、地面に叩きつけられながらも耐えた。
「明ッ! ヒール!」
即座に俺が回復魔法を発動。光が傷口を包み、再び立ち上がる。
「しぶてぇな、でもな――そろそろ落ちてもらうぜ!」
俺が剣を構え、「完全見切り」を唱える。ラプトルの斬撃をコマ送りで躱す。
「『浄化剣・セラフレイム』!」
炎と光が剣に宿る。ラプトルが振り返ったその瞬間――
「――今だッッ!」
俺と明の同時突撃。
明が横から斬り裂き、俺の一撃が真正面からラプトルの胸へ深々と突き刺さる。
「はああああ!」
ミスリルソードに魔力を注ぐ。
ラプトルは呻き声を上げ、後ずさる。だがそこまで。
その体が崩れ落ちた瞬間、俺たちはようやく、息を吐いた。
――深紅の牙ラプトル、討伐成功。
「ふぅ……あのスピード、マジで反則級だったわ……」
沙耶が腰に手を当てて苦笑する。
「でも、ちゃんと倒せた。みんなの連携、ばっちりだったよ」
有紗が優しく微笑んだ。
「さて……次は獣王バジルホーンか。ここからが本番だな」
明が剣を背負い直し、草原の風を見上げた。
「うん。強敵ほど、燃えるよね」
純子が静かに頷いた。
俺たちは、ラプトルの残骸を処理し、新たな戦いへと向かって歩き出した。
ラプトルの討伐を終えた俺たちは、さらに南の奥地――広大な草原の奥深くへと進んでいた。
風に揺れる草の海に、ぽっかりと空いた巨大な跡地。その周囲だけ、不自然なまでに草が踏み荒らされ、地面はむき出しの土が爪痕のように刻まれている。
そして、そこに――いた。
茶褐色の毛並みをまとい、肩まで届く巨大な双角を掲げる影。筋骨隆々とした巨体から放たれる重い足音が、大地を震わせる。鼻から漏れる咆哮は、まるで雷鳴。空気そのものが圧迫されるような威圧感だった。
「……いた。間違いないわ、あれが獣王バジルホーンよ」
有紗が息を呑んで囁く。
バジルホーン――伝説級に近いBランク魔獣。その名の通り、『王』と呼ぶにふさわしい堂々たる姿。その双角は、鋼鉄の城壁すら砕くという。
「くっそ……やっぱ硬そうだな」
明が剣を抜き、身構える。「矢じゃ皮膚すら通らないかも。ラプトルとは訳が違う」
「でも、その分、動きは単調。真正面からの突進だけなら……」
「それを甘く見ると潰されるわ。あの突進、岩盤ごと粉砕するって噂よ」
純子が冷静に口を挟む。声は穏やかだが、その目は鋭かった。
俺は深く息を吸い、仲間たちを見渡した。これまで以上に、全員の連携が試される戦いになる。
「作戦を立てる。突撃は明と俺。あいつの突進は止められない。避けながら少しずつ削っていく。矢は爆裂弾付きを使って。純子と有紗は後方から、目を狙って牽制。沙耶は側面へ回って、隙を突けそうなタイミングで攪乱だ」
「オッケー! ぐるぐる回るのは得意だしっ!」
沙耶が弓を手に、無邪気に笑う。
その時だった。
バジルホーンがこちらに気づき、ぐるる……と低く鼻を鳴らした。
そして――
突進。
「来るぞ――ッ!!」
俺の叫びと同時に、全員が散開。
ドガアアアアアアアッ!!
まるで雷鳴のような地響き。バジルホーンの巨体が、想像を超える速度で草原を突っ切る。
「うそでしょ!? 速っ!!」
沙耶が叫びながら地面を転がり、ギリギリで回避。巻き上げられた草が空中で渦を巻く。
「有紗、どう!?」
「目が動きすぎる……でも、狙える。いける!」
有紗が射撃体勢に入り、瞬間を見極める。
「任せろ――フレイムバスターッ!!」
明が斬撃と同時に炎を解き放つ。灼熱の火線がバジルホーンの脇腹を焼くが、傷は浅い。皮膚の奥まで届かない。
「今度は、俺だ!」
魔力を込めたミスリルソードが光を放ち、俺は足元に斬りかかる!
が――
カンッ!!
手応えはまるで岩。刃が弾かれる。
「くっ……! “完全見切り”!!」
次の瞬間、反転したバジルホーンの角が突き上げてきた。ギリギリで回避したが、風圧だけで数メートル吹き飛ばされた。
地面を転がり、血が滲む。
「ヒールッ!!」
立ち上がる。自分に回復魔法を施し、再び剣を握る。
「……王の風格ってレベルじゃねぇぞ……」
ぜぇぜぇと肩で息をしながら、睨みつける。
その時、有紗の矢が右目をかすめた。
「今よ、沙耶!!」
「わかったっ!」
疾風のように走りながら、沙耶が一矢放つ――それはバジルホーンの左目へ。
ドカン!!
低い咆哮が響き、バジルホーンが暴れる。だが、視界が乱れた。チャンスだ!
「今しかない! 明、突っ込むぞ!」
「うおおおおおおッ!!」
二人で真正面から突撃。明の剣が炎を纏い、俺のミスリルソードが輝く。
「こいつで――終わらせる!!」
二人の力が合わさり、顎下に炸裂した。
ドオオォォン!!
バジルホーンが大きくよろめき、姿勢を崩した。
そこへ――
「いっけえええぇっ!!」
純子の矢が、首筋の柔らかい急所へ突き刺さる。
ドカン!!
そして。
「トドメだ……ファイアバレット!! ファイアバレット!! ファイアバレット!! ファイアバレット!! ファイアバレット!! ファイアバレット!!」
俺が放つ連続魔弾。
炎の弾丸が連射され、焼けた獣の体を貫いた――!
――ズズンッ!!
空気が重く震え、大地が揺れる。
バジルホーンの巨体が、ゆっくりと、崩れ落ちた。
静寂。
風だけが草原を揺らす。
「……やった、の?」
沙耶の声が、風に溶けた。
俺は剣を収め、深く息を吐いた。
「――討伐、成功だ」
空を仰ぐ。青い空が、ほんの少しだけ誇らしげに見えた。
「マジ、Bランクってやばい……」
「でも、証明できたね。私たちでも、やれるって」
有紗と純子が、笑い合う。
「よし……報酬と焼肉を夢見て、帰るぞ」
明が力なく肩をすくめると、みんなの笑いが草原に響いた。
獣王の眠るその地に、誇らしき風が吹いていた。
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