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しおりを挟む俺たちはロメオを一度ジト目で睨んでから遺蹟の中へと向かった。こいつ中でも絶対何かやらかすな……と皆の顔に書いてある。
古代遺跡ベル=カラン、その内部は静寂に包まれていた。足を踏み入れると、かすかに魔力の粒子が空中を漂っており、空気は冷たく澄んでいる。
フォーカスの五人は、それぞれ武器を構え、慎重に歩を進めていた。
「……音、立てないでね。天井、崩れそうな場所もあるわ」
純子が前を照らしながら囁く。
「なるほどなるほど……この天井の構造、重圧分散型のアーチですね! いやあ、千年以上前とは思えない……」
ロメオは真剣な顔で、石積みの曲線をスケッチしていた。
「ロメオさん、動きながら描かないで。転ぶから」
俺が苦笑いで声をかけたその瞬間――
「うおっ!?」
ロメオの足元が、ほんのわずか沈んだ。
「待って! そこ、踏んじゃだめっ!!」
純子が叫ぶと同時に――
ゴガンッッ!!
天井から巨大な石槍が突き刺さるように落ちてきた!
だが、ロメオは思いのほかすばやい動きで横へ転がり、なんとか回避。カバンの中身はぶちまけたが、本人はケロッとした顔で言った。
「ふふ……この程度、調査者たるもの想定内です!」
「いや、今、完全に偶然でしょ!? むしろ本が盾になってたわよ!?」
純子が呆れて叫ぶ。
「うーん、あと数センチずれてたら伝説のハーブ図鑑が真っ二つだった……」
ロメオは残念そうに拾い集めながら、まるで自分がダメージを受けたかのように本に包帯を巻き始めた。
「気をつけて、この先にもたくさん罠はあるわ」
有紗が壁に手を当てて仕掛けを探る。
そのまま遺跡を奥へと進んでいくと、やがて天井の高い広間へと辿り着いた。古びた石の床の中央には、禍々しい光を放つ魔法陣が刻まれており、あたりにはボロボロの武具と骸骨が散乱している。
「……気をつけて。何か、来る」
純子が矢を番えたまま、緊張した面持ちで周囲を見渡す。
次の瞬間、魔法陣が青白く輝き始めた。
「ギギ……ギャアアア!!」
光の中から現れたのは、朽ちた鎧に身を包んだアンデッドの兵士たち。数は十体を超える。目は虚ろに輝き、咆哮と共に一斉にこちらへと向かってきた!
「10体以上!? でも、数は関係ないっ!」
明が叫びながらミスリルソードを構え、最前線へ突っ込む。彼の剣が振るわれた瞬間、乾いた骨の音と共に一体のアンデッドが真っ二つにされた。
「いっくよーっ!」
沙耶が素早く矢を三本取り出し、次々に弓に番えては放つ。空気を裂いて飛んだ矢は、前方のアンデッド三体の胸部を正確に貫き、そのまま後ろの壁に串刺しにした。
「回り込まれないように!」
俺は後方から全体の動きを見ながら、自身に向かって突進してきたアンデッドの攻撃を紙一重でかわし、その隙に足を払って転倒させると、後ろから迫ってきた別の一体には剣を突き立てる。
「今っ!」
有紗が矢を放ち、俺の剣に気を取られていた敵の頭を一撃で射抜く。
「ナイスフォロー!」
俺が叫ぶと、反対側から純子の矢が風を切って飛び、もう一体のアンデッドの眉間を撃ち抜いた。
「タイミング完璧ね!」
有紗がうなずき、隣に立つ純子と位置を変えながら互いの死角をカバーしていく。
「燃えろッ!」
明の剣が燃え上がり、火炎を纏った斬撃が複数の敵を巻き込んで大きく薙ぎ払う。その爆炎に包まれたアンデッドたちは、苦しげな声を上げながら崩れ落ちた。
――しかし、その時。
「グオオ……!」
魔法陣の中心から、ひときわ巨大な影が浮かび上がった。漆黒の鎧をまとい、狂気を湛えた双眸をギラつかせる、アンデッドの狂戦士。その体躯は他のアンデッドの二倍はあり、両腕には巨大な斧を二本携えていた。
「ちょ、ちょっと! あれ強すぎじゃない!?」
沙耶が目を見開いて後退。軽口も出ないほどの威圧感があった。
俺が前に出ようとした――その時だった。
「まって! あの動き……見覚えがあるぞ!」
ロメオが叫びながら、カバンからボロボロの古書を取り出した。
「いたっ、あった……『バル=グロス型』。こいつは魔力を吸収し、強化されるアンデッド! 魔法攻撃は絶対厳禁だ!」
「うわ、それ先に言ってよっ!」
ちょうど火剣を振り下ろそうとしていた明が慌ててブレーキをかけ、そのまま鍔で横殴りにぶっ叩く。
「よし、物理攻撃ね!」
純子が前進、有紗と沙耶が一斉に矢を射る。脚、肩、胴、狙いすました一撃が狂戦士の動きを確実に鈍らせていく。
「回り込む!」
俺は左右に走り、注意を引きつけるように斬り込むが、狂戦士の斧がそれを察知して横なぎに迫る!
「くっ……!」
紙一重で回避しつつ、「完全見切り」の効果をギリギリまで引き延ばして距離を詰める。
「いけ、卓郎くんっ!」
有紗の叫びと共に、最後の一矢が狂戦士の膝を射抜いた。その一瞬の隙を見逃さず、俺は全力で飛び上がる!
「力の一撃ッ!!」
1,2,3秒
渾身の斬撃が、狂戦士の頭蓋を真っ二つに裂いた!
「グ……グアアアアアッ!!」
断末魔の雄叫びと共に、狂戦士は崩れ落ち、魔法陣が静かに消滅していく。
「はあああ……やっと、終わった……」
沙耶がその場に座り込んでため息をついた。
「いやぁ……これは資料価値が高い! いやもう最高だ……!」
ロメオは地面に膝をつき、魔法陣の跡を夢中でスケッチしていた。
「もう! 馬鹿なの。ロメオさん、戦闘中くらい隠れててよ!」
純子が怒鳴るが、
「いやいや、あのタイミングで弱点を教えてくれたのは助かったよ!」
俺は笑いながら肩をすくめる。
「……ほんと、変人。でも、頼りになるわ」
有紗がポツリとつぶやく。
「いやぁ……見事でした! まさに歴史に残る戦いでしたよ!」
ロメオは一人、魔法陣のあった床に腹ばいになってスケッチ中。
「……マジでこの人、研究者としては超優秀なんだろうけど」
明が苦笑しながら言うと、
「間違いなく、命が何個あっても足りないタイプだね~」
沙耶が大きく頷いた。
「もう、ほんとに目離さないようにしてね……」
有紗の静かな圧に、ロメオは「心得ております!」と謎の敬礼をしていた。
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