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しおりを挟む『白火の峰』――火山帯に近く、いにしえの祈祷の地だという伝承が残る険しい山。白い噴煙が絶えず上がる誰も近づかない危険な場所。俺達はその地にあるだろう『光の書』を探して歩きまわる。そしてついに小さな社を発見した。
「あそこに社があるわ!」
遠見のスキルを持つ沙耶が指を刺して叫ぶ。全員の視線がそっちに集まる。
「行ってみよう。沙耶には見えてるんだから」
その時はまだ、俺には見えていなかったが、少し近づくことでその社を確認することはできた。
社は白い噴煙に見え隠れしている。それは間違いなく、あの時見た社だった。
俺たちは、慎重に足元を確かめながら、断崖に沿って社へと近づいていく。
火山性の地形特有の熱気と、硫黄の匂いが辺りを満たしていた。ごつごつとした岩場、熱を持った地面、時折吹き上がる白煙が視界を遮る。
「こんなところに社を建てるなんて……正気じゃないわ」
純子が眉をひそめる。
「それだけ、あの祈祷が重要だったってことなんでしょうね」
ロメオがうなずく。
ようやくたどり着いた社は、古びてはいたが不思議な荘厳さを残していた。
黒曜石の柱に、かすかに光る文様が刻まれている。
「開くかな……」
俺は扉に手をかけた。
ギィ、と重く軋む音とともに扉が開かれた瞬間、足元の地面がわずかに震えた。
「地震……?」
有紗が声を上げたそのとき、社の内部に設置されていた石碑が光を放ち始めた。
「こ、これ……記憶のやつだ!」
明が声をあげる。
白い光が空間を満たし、俺たちはまた、幻視の中へと引き込まれていく――
そこに映し出されたのは、祈りの儀式。白装束の者たちが輪になって座り、中央には、あの光の杖を持った女性がいた。彼女は深く祈り、そして静かに、光の書を石床の中へと沈めていく。
「預けるのね……未来に向けて」
沙耶が小さくつぶやく。
しかしその瞬間、岩壁が崩れ、巨大な影が洞窟の奥から現れた。それは、あの黒い霧の化身のような存在だった。
「またこいつか……!」
だが今度は、ただの幻視ではなかった。黒い影がこちらに向かってきた――そう思った瞬間、視界が強烈な光で弾かれた。
俺たちは再び現実へと引き戻された。
社の中央――かつて女性が「光の書」を沈めたと思われる石床が、ゆっくりと開き始める。
中から現れたのは、一冊の書物。
表紙は金属のように硬く、しかし光を帯びており、紛れもなく「光の書」だった。
「見つけた……!」
ロメオはそれをそっと手に取った。
瞬間、光の書が淡い白光を放ち、周囲の空気が静かに震えるように揺れた。
ロメオがページを開くと、中には浮かび上がるように金色の文字が記されていた。だがそれは、俺たちの知るどの言語とも違っていた。
「読めるの?」
有紗が心配そうに尋ねる。
「……不思議だが、意味が分かる」
ロメオは目を細め、ゆっくりと解読を始めた。
「光の言葉――“影を裂く灯”……。これは、闇を打ち払い、潜むものを暴き出す力……。まるで、光そのものを具現化するような呪文だな」
「つまり、隠れてる敵をあぶり出せるってことか?」
明が目を輝かせる。
「それだけじゃないわ」
純子が鋭く続ける。
「この書の文字……封印の呪式にも似てる。つまり――」
「闇そのものを封じ込める力だ」
ロメオがうなずいた。
「光の言葉は、闇と戦うための鍵そのものだよ」
その時だった。
突如、社の外から、不気味な風の音が響いた。
「……今の、風?」
沙耶が眉をひそめる。
いや、違う。ただの風じゃない。空気がざわついている。異様な気配。熱が、急速に奪われていくような寒気が、背筋を這い上がった。
「……何か来てるぞ」
俺は剣に手を伸ばす。
その瞬間、社の外で何かが爆ぜたような音とともに、黒いもやのような影が地面から這い上がってくるのが見えた。
「黒霧……!」
ロメオが叫ぶ。
ただの幻ではない。今度は現実に姿を現した。
黒霧の中心、ゆらゆらと形を変える黒影が、こちらをじっと見つめている。目も口もない、ただの闇の塊――だが、圧倒的な悪意だけは、はっきりと伝わってきた。
「くっそ、戦うしかねえのかよ!」
明が炎をまとわせた剣を構える。
「光の言葉はどうするの?」
純子が叫ぶ。
「ぼくがやる! ここで試す!」
ロメオが、光の書を両手に構え、震える声で詠唱を始めた。
「――光の名のもとに、影を裂け!」
社の床に浮かび上がった金色の紋章が、一瞬で広がりを見せる。天井を突き抜けるかのような閃光が空間を貫き、暗黒の霧を撃ち抜いた。
ギャアアアアッ!!
耳をつんざくような、どこから発されたのかも分からない悲鳴。黒い影が瞬間、弾け飛ぶように消し飛んだ。
――だが、それで終わりではなかった。
霧の奥から、新たな波が押し寄せてくる。今の一撃で傷は負わせた。けれど、深い闇の核心までは届いていない。
「全部は祓えなかったか……! 光の言葉だけじゃ、足りない……っ」
ロメオが額に汗をにじませ、苦しげに言った。
「でも、あれで確実に削れてた! 効いてるのは確かよ!」
有紗が前に出ながら叫ぶ。
「なら、俺たちが押し込む! ロメオ、もう一発頼む!」
俺は、足元の印を踏み鳴らし、詠唱する。
「――サンクチュアリ!」
ロメオと仲間たちを中心に、淡く輝く半球状の光の結界が広がる。それは空気を震わせるほどの神聖な力を持ち、影の侵入を拒んだ。
「お前らはロメオを守れ! こっちは任せろ!」
剣を構え、俺は闇の中へ踏み込んだ。振り払うように霧を斬るが、手応えはない。ただ形を変え、濃くなり、また迫ってくる。
(……剣じゃダメだ。霧に実体がないなら……)
俺は剣を収め、手をかざす。
「――ホーリーレイン!」
天井が砕けたかのように、まばゆい光の雨が降り注いだ。一滴一滴が、影に触れるたびに白い閃光を爆ぜさせ、霧を焼いていく。
ジュウウウウウ……
霧が焦げるように溶け、黒影の本体が、ようやく姿を現した。
それは――人の形をしていた。
いや、人だったものだ。
髪は乱れ、目は闇色に濁っている。全身を黒い煙のようなものがまとい、口元から黒血が滴っていた。
「……影に喰われた、者……?」
沙耶が震えた声で言った。
「まさか、生きてる人間が……こんなふうに……」
ロメオが呆然とつぶやく。
だが、その影はゆっくりとこちらに顔を向け、口を開いた。
「……たす、けて……」
一瞬、空気が止まる。
助けを求めている――そう聞こえた。だが、次の瞬間、その体が爆ぜ、巨大な黒の触手が四方に伸びた。
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