ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 夜が訪れるまでの間、俺たちは村の一角にある空き家に通され、ひとときの休息を得ることになった。壁は古びていたが、清潔に保たれていた。

「なーんか、緊張するなあ」
 沙耶が枕代わりの荷物に頬を押しつけながら言う。

「そりゃ、聖女に勇者に聖騎士団……フルメンバーだもんね」
 純子も座り込んで靴紐を直しながら答える。

 有紗は静かに湯を沸かしながら、ぽつりと口を開いた。

「でも、私は……由里様の言葉、ちょっと救われた気がした。力じゃなくて、在り方って」

 その言葉に、皆が少しだけ顔を上げた。

「運命を変える鍵が俺って……俺、どうすればいいのかな」卓郎が呟いた。

「よく分からないけど、お前ならできるよ」明が能天気な笑顔で背中を叩く。

 ロメオは何かをメモに書きこんでいる。

 窓の外に目をやると、夕陽が、村の上空を赤く染めていた。

「この前来た時の、この村の奥の祠、今はどうなっているのかな?」

 有紗がまたぽつりと言いながら、心配そうな表情。

 あの時俺達は、祠の中で、台座の上の封印の札が貼られた棺のようなものを見つけたのだった。そして、札の一枚が、黒い炎に焼かれて崩れ落ち、形を成さぬ黒い影が湧き出すと、蝕むような瘴気が村人たちの遺体をひとつ、またひとつと取り込んだのだ。
 手に負えないと判断した俺達は、急いでその場を離脱、夜通し歩いてギルドにこの事態を報告した。

 祠はすぐ近くにある。あの棺のことが心配になるのは当然だし有紗の不安もうなずける。

「俺たちの報告が伝わっていれば、はじめに棺の封印か何かするはずだよね」
 俺は有紗の心配を和らげようとするが、彼女の表情は曇ったままだ。

「もうすぐ、全員で会議をするんだろ。そん時、どんなことになってるのかわかるんじゃねーの」

「気になるなら、見に行ってみようか? お姉ちゃん」

「卓郎君は、見に行かない?」

「有紗が行くなら、行ってもいいよ」

「じゃあ、皆で一緒に見に行こうか。私も気になるし」
 純子も付いて来たそうだ。
 俺たちは、村の奥にひっそりと佇む祠へと向かった。


 祠の手前まで来た時、俺たちは足を止めた。

「……あれって、聖騎士団?」純子が声を潜めて言う。

 祠の周囲には、白銀の甲冑に身を包んだ騎士たちがずらりと配置されていた。片膝をついて詠唱する者、剣を抜いたまま周囲を見張る者、それぞれの動きに一分の隙もない。完全な警戒態勢だった。

「封印、され直してるみたいだな……」明が肩をすくめる。

「報告は届いてたんだ。よかった……」有紗の肩が少しだけ緩む。

 だが、次の瞬間――

「そこまでだ、これ以上は立ち入り禁止区域だ」
 鋭い声が飛んできた。剣を携えた一人の聖騎士がこちらに歩み寄ってくる。

 見るからに高位の者だ。マントの紋章は、教会直属の証。

「ギルド所属の冒険者、『フォーカス』と歴史研究家ロメオ一行と見受ける。封印地点には近づくな。会議までは情報の精査が優先される」
 男の声は冷静だったが、明らかに警戒を解いていない。 

 すると、ロメオが一歩進み出て、眼鏡を押し上げながら言った。

「おやおや、情報の精査は結構ですが、彼らはこの目で現場を見た第一発見者でもありまして。何か手伝えることがあれば、ぜひ――」

「手出しは無用だ」
 断られたが、ロメオはまるで気にした様子もなく、懐からメモ帳を取り出し、なにやら書き始める。

 その様子に、聖騎士の一人が眉をひそめた。

「……ま、しっかり見張られてるし、下手な真似はできないわね」
 純子が小声で呟く。

「……この封印、前より強くなってるけど、なんだろ……いやな感じがする」
 有紗が祠の前で目を細める。

「……気づいた? 私も」純子が隣で同じように言う。「結界は閉じてるけど、なんか変な感じ。まだ中にいるのが出てこようとしてるかも」

 俺は無意識に喉を鳴らした。

 祠から戻るころには、夜の帳が村をすっかり包んでいた。空には星が瞬き、遠くで虫の声がかすかに響く。
 空き家に戻った俺たちは、それぞれの荷物を整理しながら、無言のまま時間を過ごしていた。

「……あたし、ちょっと緊張してきた」
 沙耶が言うと、有紗も静かに頷いた。

「この会議で、今後のことが決まるんだよね」
「たぶん、あの封印のことも話に出ると思う。私たちが見たこと、ちゃんと伝えなきゃ」
 純子の声に力がこもる。

「それにしても……運命を変える鍵って何なんだろうな」
 明が壁にもたれて腕を組んだまま、ぽつりとつぶやく。

「俺、そんな大層なことできるのかな」
 俺は、握りしめた拳を見つめた。

「私としては、早く教会本部に報告に行きたいんですがね」
 ロメオが不意に口を開いた。
「聖騎士さんたちも、ここは自分たちでなんとかできると思っているようで、我々はあまり歓迎されていないよですし」

 確かに聖女様は別として、聖騎士団のリーダー、勇人やその他の聖騎士も我々に対して露骨にいやそうな顔を見せている。

「聖女が卓郎のこと、運命を変える鍵だなんて、たいそう重要視するから、やきもち焼いてるんじゃないの」
 純子が俺を茶化すように見つめる。

「卓郎さんにやきもち焼いてるのかー」
「ある。ある」

 有紗と沙耶が見つめ合い微笑みあう。

「なんかあいつら、失礼だよなー! 俺もサッサとここを離れたくなったぜ」

 そのとき、外から足音が聞こえた。扉がノックされる。

「会議の時間です」

 明が口を覆って、「聞かれたかな? やばい」……というような表情。大丈夫、聞かれてないぜ……と俺が目でつたえる。

 俺たちは、気にせずに立ち上がって、会議室に向かった。
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