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しおりを挟む「でも、どうせなら『加護取得』ってやつ、押してみれば? 何かもらえるかもよ?」純子は納得したように笑い、俺の頬を指でつつく。
「今やろうとしてたのに、言うんだもんなあー」
俺は口をへの字に曲げた。
そっと『加護取得』の表示に触れると、画面が切り替わり、取得できるポイントごとに加護名と簡単な解説が表示された。
「うわっ……けっこう種類あるんだ」
純子が隣で息をのむ。身を乗り出して、俺の画面を覗き込んでくる。
「絆の加護(パーティメンバーのステータスが5パーセント上昇)をとってみようか?」
俺が画面に指を伸ばすと、純子がそれを止める。
「ちょっと待って。それ、強くなるのって私たちじゃない? 得してるの、卓郎じゃなくない?」
「でも、俺にとっても、仲間が強くなるのは良いことだよ。戦いは、チームでするものなんだし、助けてもらえるでしょう」
自然と笑みがこぼれる。仲間が無事でいられるのなら、それが一番だ。
「……うん、それもそうか」
純子が少し喜びを隠すように目を伏せる。
「守護の加護( 物理防御力が常時5%上昇する)とかの方が卓郎のためになるんじゃない?」
「自分のためなら、どちらかというと、約束の灯火( 一度だけ死亡ダメージを受けてもHP1で耐える)のほうが欲しいかな」
「それ良いね。私もそれは欲しいと思う」
「絆の加護と約束の灯火をとってみるね」
俺は2つの加護を2千ポイントで取得した。
「……ん?」
その瞬間、純子が小さく声をあげた。
「な、なにこれ……体が、むずむずする」
純子が肩をすくめ、腕をさすりながら小さく首をかしげる。顔をしかめるでもなく、ただ、妙な感触に戸惑っている様子だ。
「卓郎、俺も強くなった気がするぜ。……ほら、肩の力が抜けて、でも芯がぶれない感じ?」
明も隣で拳を軽く握り直し、思案顔でうなる。
俺は少しだけ笑った。どうやら、加護の効果は確かに行き渡っているらしい。
「……すごいね、それ」
ぽつりと、有紗が言った。
「皆の力を引き出せるって、まるで……聖女様みたい」
「いやいや、聖女ってほどじゃ……」
俺が言いかけると、有紗はふっと笑って首を横に振った。
「冗談だよ。でも、いい選択だったと思う。ありがとう」
有紗のその一言が少し照れくさくて、俺は視線をそらした。
「……でも、約束の灯火っていうの? それって一度だけ死を避けられるって、ちょっと……なんていうか、怖いなって思っちゃった。そんな加護が必要な戦いが、これからあるのかなって」
「それだけ大事な戦いがあるってことだよ、たぶん」
彼女は窓の外、森の奥を見つめながら呟いた。
「だから、きっと意味のある加護だと思う」
小さな沈黙が落ちる。
「……もう少しポイントが貯まったら、他のも見てみよう。みんなに役立ちそうなやつがあったらまた取りたいな」
俺がそう言うと、純子が軽く頷いた。
「なあ、皆!」
明が、興奮を隠しきれない声で、身を乗り出してくる。
「俺、……加護の効果、実戦で感じてみてーんだけど」
その目はもう、戦場に立っていた。
「少しだけ狩りしようぜ。森に入れば、ちょうどいいのがいるだろ?」
「あんたバカ! そんなの今度の依頼の時でいいじゃない」
純子がやや呆れ気味に言いかけたが、明はにやりと笑って指を一本立てた。
「気になって仕方ねぇのさ。強くなったこの感覚、体がうずいてんだよ。……な? 卓郎」
「……わかった。俺は付き合ってもいいよ。俺が原因だし」
そう返すと、有紗と沙耶もうなずき、純子も本音は、腕試しがしたいようだ。明は「おう!」と満足そうに笑った。
馬車を道端に止め、沙耶が遠見で狼の群れを見つけた。
「あっちの森に入っていった、狼の群れがいるわね。おいかけてみる?」と沙耶が指さし歩き出す。
そして、俺たちは森の茂みに足を踏み入れると、ほどなくして、音がした。
枯れ枝を踏み割る重い音。
木陰の向こうに、体長二メートルほどの牙イノシシが現れた。赤みがかった毛皮に、目が血走っている。
「狼の群れじゃなくて、猪型、来た!」
明がすでに前に出ていた。ミスリルソードを構え、その足取りは軽い。
「加護、ちゃんと効いてるみたいだ」
言葉とともに、地を蹴った。
風を裂く音とともに斬撃が走る。猪型魔獣が吠え、突進してくるが――
「っは!」
明は真正面から受けるように見せかけ、半歩ずれて剣を振るった。
背中に切れ目が入り、動きが鈍る。
「速い……? 明、いつもより動きが滑らか」
有紗がぽつりと呟く。
「でも、調子に乗ると危ないから……援護!」
純子が弓を引き、イノシシの後脚に正確な一撃を放つ。動きが止まった隙に――
「よし、フィニッシュ!」
明の剣が、頭部へ深く突き刺さる。
牙イノシシが呻くように倒れ込み、やがて動かなくなった。
「っしゃあああ!」
剣を肩に担ぎ直して明がこちらを振り返る。
「すげえよ、これ! 体のバランスも、剣の重さも、全部が噛み合ってる感じだ。たぶん、ステータス上がった影響だな。……これはクセになるぜ」
「……ちゃんと効果あるんだね」
有紗も思わず見入りながらつぶやく。
「調子に乗らなければ、ってつけ加えとくよ」
純子がため息をつきながらも、どこか誇らしげに言った。
「うん。でも、確かに強くなったよ」
有紗も微笑んでうなずく。
「よし。じゃあ、戻ろっか。たっくん、買い取りお願いね」
沙耶が俺に視線を向けて軽く言う。
俺たちはまた道へと戻り、馬車に乗り込んだ。
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