ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 陽が昇りきる少し前、福佐山の西門を抜け、俺たちは出発した。

 目的地は南西の峡谷――通称〈ヘクスの裂け谷〉。切り立った岩場と密林が交互に入り組む地形で、昼でも薄暗く、魔物の巣窟として知られている。討伐対象は、“緋眼の魔獣”。赤い瞳を持つ変異個体で、夜間に異常な俊敏性を見せるという。

 馬車は使わず、徒歩と馬による機動行動。途中の山道が狭く、急斜面が続くため、軽装での移動が望ましかった。

「今日は雲が多いな。日差しがないぶん、歩きやすいけど……気温が下がってくるぞ」
 俺はマントの襟を立てながら呟いた。

「湿気もあるし、これ……完全に霧出るやつだよね。嫌だなあ、弓が滑る」
 沙耶が顔をしかめ、弓の弦を指で弾く。

「魔物にとっては最高の環境ね。視界が悪いってことは、奴らのホームみたいなもんよ」
 純子は冷静に言いながら、矢筒を腰にしっかりと固定し直す。

 昼過ぎ、峡谷の入り口にたどり着いたときには、予想通りの濃霧が谷底に立ち込めていた。空気が変わる――そんな瞬間が、誰にでもわかった。

「この感じ……」
 明が剣の柄に手をかけ、目を細めた。

「霧で視界は二十メートルが限界かも。気をつけて」
 有紗が前方の地形を確認しつつ、慎重に歩を進める。俺たちは自然と隊列を整えた。先頭は明と俺、後方支援に弓組。

「……瘴気の類ではなさそうだけど、この霧……魔力濃度が高い。間違いなく何かいるわね」
 純子が霧を手でかきながら呟いた。

 谷の中腹まで降りたとき――それは、突然だった。

 ――カチン。

 石を蹴ったような乾いた音が静寂を破った。次の瞬間、霧の向こうから鋭い気配が突き刺さる。

「左後方、五時方向から何か来る!」
 純子が叫ぶと同時に、霧を切り裂いて飛び出したのは――真紅の双眸を持つ、獣だった。

 全身を覆う灰褐色の毛並みに、ところどころ赤黒く光る模様。筋肉質な体躯は並の魔物を遥かに超え、唸り声ひとつで空気が震える。

 緋眼の魔獣が姿を現した。

「来たか……! お前が緋眼の魔獣ってわけだな!」

 俺は即座にミスリルソードを抜いた。魔獣が跳ぶ――速い。完全に視界外からの奇襲だった。

「完全見切り!」

 視界が開ける。時間が遅くなる感覚の中、俺は跳躍してくる魔獣の動きを読み取り、横へと身をかわした。そしてすれ違いざま、最小限の動きで斬撃を叩き込む。

 ザシュッ!

 魔獣の横腹が裂け、紫色の血飛沫が弧を描いた。

 ベチャリと落ちた血が地面を焼く。紫の煙がもうもうと立ち上り、草木が炭のように黒く崩れ落ちていく。

「やばいぞ! そいつの血毒だ、気をつけろ! 下手に切ったら返り血でやられるぞ!!」
 明が叫ぶ。

 だがその声の間にも、魔獣の傷がじわりとふさがっていく。肉が再構築され、皮膚が再生し――何事もなかったかのような姿へと戻っていく。

「再生能力持ってるわよ。血は毒だから触らないで! 遠距離攻撃で倒しましょう!」

 純子が冷静に分析し、仲間たちに指示を飛ばす。その瞳は魔獣の動きから目を逸らさない。

「わかった。任せて!」
「いっくよー!」

 有紗と沙耶が左右から一斉に矢を放つ。「信徒の矢筒」から放たれた矢は光の粒子を帯び、浄化の魔法が矢先に宿っていた。

 俺の斬撃と〈完全見切り〉による牽制で、魔獣は大きく動けない。そこへ、三本の矢が正確に突き刺さる。

 ジュワッ……!

 矢が貫いた瞬間、魔獣の傷口から吹き出す毒の血が、矢に込められた浄化の光で中和され、煙も立たずに霧散する。

 グァオオオオン!

 魔獣が咆哮する。その瞳――緋色の双眼が、まばゆい光を放った。

 ビキン!

 刺さった矢が、ひとりでに弾き出され、ポロリと地面に落ちた。魔獣の傷は再び煙を上げながら、見る見るうちに癒えていく。

「純子ちゃん、狙われてる!」
 有紗が叫ぶ。魔獣の瞳が鋭く純子を睨みつけていた。

 瞬間、魔獣が身を沈めた。跳ぶ――!

「スノウバインド!」

 俺は即座に詠唱する。間に合え! その足元から噴き上がった氷の蔓が、魔獣の足元に巻き付き、瞬く間に凍りつかせた。

 ゴギン! ガキンッ!

 跳躍の勢いが鈍り、魔獣の脚が地面に縫い止められる。怒りの咆哮をあげながらも、その動きは確実に封じられた。

 ――今だ。

「俺が魔法で倒す!」

 ミスリルソードを空へ掲げ、魔力を収束させる。光が剣先に集まり、天空へと放たれる。

「ジャッジメント!」

 空が割れた。雲間から降り注ぐ一筋の閃光が、剣の形をした神罰となって地上へと叩きつけられる。

 ズガアアアンッ!

 緋眼の魔獣は光の剣に貫かれ、その巨体を真っ二つに裂かれた。紫の血が噴き出すが、それさえも閃光が浄化し、煙も毒も残さない。

 断末魔の咆哮が峡谷に木霊し、やがて沈黙した。

「やったな卓郎!」
 明が笑って駆け寄ってくる。

「流石卓郎くん。一撃だったわね」
 有紗が微笑みながら弓を収める。

「たっくん、すごーい! 今のキラキラかっこよかった~!」

 沙耶がぴょんと跳ねながら手を振る。

「卓郎、はじめっからそうすればいいのに」

 純子が矢を収めながら、肩をすくめる。

「そうだね、ごめん」

 俺は頭をぽりぽりと掻き、照れ笑いを浮かべながら仲間たちの方を振り返った。さっきまで殺気立っていた峡谷に、静寂が戻っている。

 緋眼の魔獣の巨体は、光の浄化により腐敗も毒気も残さず、ほぼ原形のまま横たわっていた。俺は懐から専用のナイフを取り出し、牙の根元に刃を差し込む。

「――硬っ」

 力を込めて慎重に抜き取る。ゴリッという手応えと共に、緋色に染まった巨大な牙が一本、音を立てて外れた。続けてもう一本。

「よし、二本、照明部位確保。あとは……」

 残った部位は『買い取り』で処分した。200万ゴルドの値が付く。

「すっげー儲け! やっぱりレアな魔獣はたけーんだな」
 明は嬉しさを抑えきれず、小さく拳を突き上げて跳ねる。

「たっくん、今日の晩ごはんは焼肉がいい~!」

「ちょ、沙耶、もうそんな話?」

「私はチーズケーキもつけてほしいな」
 有紗がにこりと笑いながら便乗する。

「依頼完了。よし、帰ろうか」
 俺は、みんなに呼びかける。

 誰も異論はなかった。緋眼の魔獣の討伐という難度Bランクの依頼を、怪我一つなく成し遂げた達成感が、みんなの顔に浮かんでいた。

 夕日が谷間に差し込み、俺たちの影を長く伸ばしていく。

 こうして俺たちは、久々の大型討伐任務を無事完了し、福佐山の冒険者ギルドへと帰還したのだった。
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