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しおりを挟む東の平原は、見渡す限りの草原が風に揺れていた。静けさを破るように、遠くで赤い影がうごめく。
「来たわよ、赤牙狼の群れ……!」
純子が息を呑む。全員がすぐに構えを取った。だがその瞬間――卓郎が、一歩前に出た。
「みんな、下がって。ここは俺がやる」
「えっ?」
沙耶の戸惑いに、卓郎は静かにうなずいた。剣を地面に突き立てるように構え、スキルを発動する。
「《シャインウェイブ》!」
轟音とともに、大地からまばゆい光の奔流が前方へと駆け抜けた。光の波は草原の表土を押し上げ、地鳴りのような轟きを伴いながら赤牙狼の群れを直撃する。
「なにっ――!?」
明が目を見張る中、十数メートル先にいた赤牙狼たちが、次々と光に呑まれ、吹き飛んだ。皮膚が焼かれ、視界が白で埋め尽くされる。光はただ眩しいだけでなく、魔力による衝撃と熱を伴っていた。
一撃。
たった一撃で、突進してきた赤牙狼の半数以上が動かなくなった。
残る数体も、混乱し、後退の素振りを見せる。そこへ――
「《シャインウェイブ》!」
第二波、卓郎が声を重ねる。地面が震え、さらに鋭い光の波が一直線に駆ける。残っていた狼も、それに飲まれて力なく崩れ落ちた。
静寂。
遠くで風が草をなでる音が、再び戻ってくる。
「……卓郎くん、何それ……」
有紗がぽかんとしたまま言葉を失う。純子も弓を持ったまま固まっていた。明が一歩前に出て、卓郎に詰め寄る。
「お、お前、何だよその魔法。……いや、俺らの卓郎だよな? 誰かと入れ替わってないよな?」
卓郎は、剣をゆっくりと背に収めながら言った。
「もう、みんなに実力を隠すのはやめたんだ。皆の安全が第一だからね。これが全力、手加減なしの《シャインウェイブ》の威力……俺の実力の一部だよ」
仲間たちは俺に言葉を返せなかった。ただ、俺の背に宿る覚悟と力だけが、しっかりと脳裏に刻まれていた。
「……やっぱり、たっくんはすごい」
沙耶がぽつりと、呟くように言った。続いて、有紗も小さく笑った。
「頼もしすぎて、逆に心配になるわね」
「まあ……これなら、残り二つの依頼も余裕かしら?」
純子が小さく笑い、明が首を振る。
「俺も頑張らねえと置いていかれるな……!」
卓郎は皆を見回し、小さくうなずいた。
「じゃあ、次。『群青鳥の群れ』、行こうか」
*
赤牙狼を討伐したその日の午後、フォーカスの一行は東の丘陵地帯――通称「空見の尾根」に到着していた。
ここは強風と乱気流が頻発する地帯で、空を舞う魔鳥「群青鳥」が営巣することで知られている。
「いた……あれ全部、群青鳥?」
沙耶が空を見上げて目を細める。高空を優雅に滑空する青い影は十を超えていた。
「軽く二十以上はいるわね。飛びながら連携してくるって情報もあるし、なかなか厄介よ」
純子が眉をひそめて弓を握り直す。有紗と沙耶も矢筒を確認しながら準備を整えていた。
すると、卓郎が一歩前に出た。
「空の敵には、これで対処するよ」
「また何か魔法? 今度は風系?」
明が目を輝かせる。卓郎は静かに呟いた。
「《ウィンドカッター》――!」
次の瞬間、卓郎の周囲に風の渦が巻き起こり、透明な刃となって空へと撃ち上がる。
「キィイイッ!」と群青鳥の悲鳴が空を裂き、ひとつ、ふたつと空中で羽を切られた鳥たちがバランスを崩して墜落した。
「え、ちょっと、一撃で……?」
「今の、基本魔法……じゃないの?」
驚く仲間をよそに、卓郎はさらに連射する。
「《ウィンドカッター》《ウィンドカッター》《ウィンドカッター》《ウィンドカッター》《ウィンドカッター》《ウィンドカッター》!」
連続で放たれる透明な風の刃が、的確に翼や胴体を斬り裂き、群青鳥は次々と滑空不能になり、くるくると地へ堕ちていく。
卓郎の風刃は、ただの空気の切れ味ではなかった。圧縮された魔力の刃は、鋼鉄すら両断するほどの鋭さを持っていた。
「こっちに向かってきたわ! 七時方向!」
純子が叫ぶが、それに反応したのも卓郎だった。
「任せて! 《ウィンドカッター》《ウィンドカッター》《ウィンドカッター》!」
卓郎の指先から放たれた風の刃が、襲来してきた三羽を同時に切り裂いた。
血の雨が降り、空が次第に静かになっていく。
風が止み、最後の一羽が地に伏すと、空にはもう群青鳥の姿はなかった。
「……終わった」
卓郎が剣を鞘に戻し、何事もなかったような顔をする。まったく息づかいは乱れていない。
「……なにあれ……。あの《ウィンドカッター》、威力が普通じゃないわ! 何段階進化してんのよ……」
純子がぽかんと口を開ける。
「見てた? 風が一瞬で鳥の翼を断ってた……普通、あんな風に制御できないよね」
有紗が目を丸くして言い、沙耶がぽつりとつぶやく。
「ねえ、たっくんが本気出したら……私たちいらないんじゃ……」
「ばか、いるに決まってるじゃん」
明が笑いながら言う。
「俺たちは、卓郎の《かっこよさを見て叫ぶ役》だろ?」
その冗談に、みんながふっと笑った。
「さて、残るはあと一つだね」
卓郎が前を向き、樹海の方角を指さす。
「《バルゴレントリー》と《グレイムバイン》。でっかいのと、絡みつくの……燃やしても、切っても、叩いても倒すよ」
仲間たちが頷き、最後の戦場へと歩き出した。
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