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しおりを挟む大宴会の翌々日、フォーカスのメンバーはギルドの掲示板の前に集まっていた。
「ロメオさんの依頼まで、あと三日。今日はどんな依頼を受けましょうか?」
純子がくびれた腰に手を当てながら言い、ちらりと隣の明を睨む。どうせまた無茶な依頼を選ぼうとするんじゃないか、という牽制だ。
「そうだなあ。俺たちも、ついに『ドラゴンスレイヤー』様になったんだし、あんま気張らなくてもいいんじゃね?」
明が飄々とした口調で応じると、純子がすかさず切り返す。
「あら、まだSランクにはほど遠いんじゃない? Bランクちゃん」
彼女の口調は冷ややかだが、どこか楽しげでもあった。
「へっ、もうちょっとで届くって! むしろ今、俺の真の実力はS+くらいの気分だぜ? 何しろ『ドラゴンスレイヤー』様になったんだからな!」
「ちょっと、真の実力ってやつを、思い知った方が良いようね」
「そういうお前だってまだCランクじゃねーのかよ!」
「ふーん? 一昨日の宴で椅子にしがみついて『ドラゴンの肉食べてぇ……』って寝言こいてた人に言われたくないわね」
純子の鋭い指摘に、明は目を見開く。
「えっ、マジで!? 誰か聞いてたか!?」
「全員です」
沙耶と有紗が同時に答え、明は顔を両手で覆った。
「……俺、ドラゴンに焼かれてた方がマシだったかも……」
明が項垂れると、沙耶が肩を叩いて慰める。
「大丈夫だよ明くん。誰にもバラさないって約束するよ。ね、有紗?」
「ええ。……たった今、全員の耳に届いたけど」
有紗が静かにツッコミを入れ、明は更に沈んだ。
「っていうかさー」
沙耶が話題を切り替えるように、掲示板を覗き込む。
「今日の依頼をさっさと決めない?」
「そうね。馬鹿はほっといてさっさと決めなくちゃね。これなんかどう? Bランク依頼、『群青鳥の群れ討伐』だって」
「いつも、バカバカうるせーんだよ」
「はいはい。その辺にして、これなんかも良いかもよ」
そう言って沙耶が指さしたのは、赤い枠で目立つ依頼書――Aランク『赤牙狼の群れ討伐』。掲示板に張り出されたばかりのものだ。鋭い牙を持つ赤毛の狼型魔獣が、群れで近隣の村を脅かしているという。
「鳥型と狼型かー? 鳥型は空の上だから難しいわよねー」
有紗が首を傾げながら、掲示板の中段を見つめる。そこには『群青鳥の群れ討伐』――こちらはBランクの依頼として記載されていた。
「群青鳥の群れはBランクだから赤牙狼の群れより弱いってことか」
卓郎が静かに口を開く。だが、空を飛ぶ敵よりは、地上にいる敵の方が戦いやすい、という判断が心に浮かんでいた。
「鳥を射抜くのは弓使いの得意とするところよね!」
純子が、やや勝ち誇ったように明を睨みながら言い放つ。まだ先ほどの言い合いの熱が冷めていない様子だ。
そのときだった。ギルドの制服をまとった若い女性職員――礼子が、小走りで彼らのもとへ近づいてきた。息を切らしながらも、慣れた手つきで書類の束を小脇に抱えている。
「おっと、フォーカスの皆さん。いいタイミングでした」
「なにか新しい依頼でも?」
卓郎がそう訊ねると、礼子は一枚の依頼書を抜き出して手渡した。その紙には、まだ他の誰の手にも触れていない新鮮なインクの匂いが残っていた。
「ついさっき届いたばかりの追加依頼です。こちらは……Aランク依頼『樹海の徘徊魔物の討伐』ですね」
礼子が読み上げたその依頼には、二体の魔物の名前が記載されていた。
「バルゴレントリー――巨大な歩く森のような存在。数百年生きた樹木の精霊、そして……グレイムバイン。呪いの蔦を操る樹木型魔獣で、接触した者を腐らせるという報告があります」
「……名前からしてヤバそう」
沙耶が顔をしかめた。森をまるごと支配しそうな魔物たちの名前が、不気味な余韻を残す。
「火が有効って書いてあるわね。あたしの爆薬矢で焼き払うって手もあるけど……」
純子が顎に指を当て、思案顔で言う。
「なあ、だったら俺の《フレイムバスター》も出番じゃね?」
明がぐいと前に出て、炎の魔剣スキルに自信満々な笑みを浮かべる。
「なあ卓郎、やっぱこれにしようぜ。燃やす系、派手でいいじゃん!」
だが卓郎は簡単には頷かない。その顔を見て、沙耶がすぐに察した。
「森が全焼しちゃいそうだね」
「卓郎君、水魔法で雨降らせるとかできないの?」
有紗の問いに、沙耶も続けて言う。
「たっくんならできそう」
「ちょっと待って、覚えられるか調べてみるよ」
卓郎が百点ポイントを確認する。視界に浮かんだ一覧の中にあったレインコール(雨を呼び寄せる基本魔法)の習得コストはたったの300ポイント。今のポイント残は3785。まるで取ってくれと言わんばかりだ。
「大丈夫。今覚えた」
そう言った卓郎に、沙耶が目を輝かせる。
「流石、たっくん。頼りになる―!」
「だったらさ、みんな東の方だし、丁度三日で三つの依頼、やっちゃわない?」
純子が突然言い出す。どうやらやる気満々のようだ。
「純子ちゃん。流石にそれは忙しいよ」
有紗が呆れ気味に言うが、沙耶はにこやかに返した。
「大丈夫だよ。お姉ちゃん。だってたっくんついてるもん」
「そんな依頼の受け方、いいんですか?」
俺の質問に礼子が心配そうに眉を寄せる。
「大丈夫ですけど、依頼失敗は罰金が発生しますから、一度に三つも依頼を受けるのは危険ですよ。それに、二つはAランクチャレンジです。だいじょうぶなんですか?」
礼子の忠告に、五人は顔を見合わせた。だがその目に、迷いはなかった。
「3つの依頼、手続きお願いします」
俺は礼子さんにはっきりとお願いした。
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