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しおりを挟む「お薦めは、ありますか?」
俺の質問に、礼子はにっこりと笑顔を見せた。けれど、その目だけは少しだけ真剣さを帯びている。
「あるわよ。ただし――普通ではないけどね」
カウンター下から取り出した一枚の依頼票。それは厚手の紙に丁寧に魔法印刷されており、他の依頼とは明らかに雰囲気が違っていた。封印のような赤い紋章が浮かび上がっている。
「地下神殿の調査依頼。正式名称は――」
礼子が読み上げた。
「『古代兵器の目覚め』。ルメリア王国魔導院からの特別依頼よ」
全員の空気が、一瞬で張り詰める。
「古代兵器、って……それって、あの神話に出てくるやつ?」
有紗が小さく尋ねる。礼子はうなずいた。
「そう。正確には古代王朝が遺した魔導機構……この依頼では、南方の忘れられた地下神殿に埋もれた動力炉の調査と、安全確認が目的。でも、最近になって内部で強い魔力反応が観測されたらしくてね。下手をすれば、起動してる可能性もあるらしいの」
「つまり、調査の名を借りた討伐任務ってことか」
明が口元をゆがめて笑う。
「だとすれば、こっちの方が性に合ってるな」
「それが……もうちょっと静かな依頼って言ってなかったっけ?」
純子が小さくぼやいたが、手元の矢筒に目をやると、なぜか気を引き締めるように姿勢を正した。
沙耶はきょとんとしつつも目を輝かせた。
「地下神殿って、宝物とか罠とか、いっぱいあるんだよね? えへへ……ロマンあるな~!」
「詳細、見せてください」
俺が礼子から依頼票を受け取る。そこには、王国魔導院の刻印とともに、こう記されていた。
【依頼名】古代兵器の目覚め
依頼主:ルメリア王国魔導院・動力研究局
任務内容:
南方砂漠の〈忘却の地下神殿〉にて、長らく停止していたとされる魔導動力炉が、突如魔力活動を再開した形跡あり。
現地に赴き、発信源を確認・調査の上、必要に応じて沈静化あるいは破壊を行うこと。
内部には起動状態の防衛機構(=古代兵器)存在の可能性がある。
推奨ランク:A
補足:現場にて王国魔導院の研究員と合流予定。地形・罠・魔力障壁などに関する事前情報は不明。過去に多数の探索者が行方不明。
「……ずいぶんと普通じゃない任務ですね、これ」
俺が皮肉っぽく言うと、礼子は肩をすくめて答えた。
「だって、あなたたちって、普通じゃつまらなさそうにするじゃない」
「うっ……」
思わず言い返せなかった。確かに、瘴気の谷ですら乗り越えた今、果物探しじゃ物足りないのも事実だ。
「しかも、この依頼。ちょっと特別な意味があるのよ」
礼子が声を落とす。
「これを成功させたら――個別昇格審査の招待状が届くわ。つまり、ギルドとしても『Aランク相当』と認めるってこと」
「昇格審査……!」
有紗が小さく息をのむ。純子と沙耶も顔を見合わせる。
「じゃあ、昇格審査をクリアすれば……」
「……Aランク昇格です」
俺は静かにミスリルソードの柄に触れた。
「受けよう。この依頼――古代兵器の目覚め」
その言葉に、礼子は静かに微笑んだ。
「了解。じゃあ、出発は明後日。準備を整えて、命だけは――くれぐれも落とさないでね」
彼女の声の奥に、微かな不安が滲んでいたのを、俺は聞き逃さなかった。
翌朝――ギルド前
朝焼けに染まる空の下、俺たちはギルド前に集合していた。
有紗が地図を確認しながらつぶやく。
「目的地は〈忘却の地下神殿〉。自由商業都市『福佐山』(都市国家)の東の隣国ルメリア王国の王都グランティアから南に進んで、岩山のふもとを越えた先……砂嵐が常に吹いてる地域だって。遠いわね」
「砂嵐……めっちゃテンション上がる響きじゃない?」
沙耶が背伸びしながら笑う。
「それ、言っていいのは旅人か幻術師だけだよ……」
純子が呆れながら矢筒を背負い直す。
「なに、風が吹こうが砂が舞おうが、敵が出りゃ燃やすだけだ」
明が紅蓮のミスリルブレードを背に、悠然と構える。
――そして俺は、腰のミスリルソードに手を置きながら頷いた。
「よし。じゃあ、行こうか」
こうして俺たちは、3回目のAランクチャレンジとなる任務に向けて、ギルドの門を後にした。
二日後・〈忘却の地下神殿〉前
「――でか……!」
岩山の裂け目を抜け、俺たちは息を呑んだ。
そこには、まるで時間に取り残されたような、巨大な石造りの遺構が広がっていた。崩れかけた階段、砂に埋もれた壁画、そして半ば沈み込んだドーム状の屋根。神殿というより、要塞に近い迫力だ。
「魔力の揺らぎ、あるわね……結界、いびつに歪んでる」
有紗がそっと手を翳すと、空気の流れにざわりと音が走った。たしかに感じる――空間が歪んでる。中で、何かが動いている。
「古代兵器ってやつ、もう動き出してるのかもな」
明が剣を抜く。
そのときだった。
「おおっ! 君たちがギルドから来たという調査隊かね!?」
声とともに、建物の影から小柄な中年男性が現れた。白シャツに革のベスト、背中には本を詰め込んだ大きなカバン。銀縁の眼鏡がずり落ちかけている。
……見覚えのある姿だ。
「ロメオさん!? 〈記録結晶〉の翻訳の続きをするって言ってましたよね」
「やあやあ、卓郎くん! そうなんだが、指名依頼で呼ばれてね。また君たちと一緒に遺跡探査ができるとは光栄の極みだよ!」
軽く会釈してから、ロメオ・ヴァインは神殿を振り返る。その眼はいつも以上に興奮していた。
「ここはね、ただの古代神殿じゃない。魔力炉の動力源は神代回路と呼ばれる禁術級の魔導構造体……もし再起動しているなら、内部の自律兵器は制御を失っているはずだ」
「つまり……暴走状態?」
純子が眉をひそめると、ロメオは首を縦に振った。
「しかも、噂ではこの中に主機構が眠っている。神殿の心臓部、真のコアだよ。目覚めさせてはいけない存在だ」
「ってことは……俺たちの目的は、その主機構の沈静化」
俺が言うと、ロメオは指を一本立てた。
「厳密には、主機構に接続する中枢回路の切断だね。つまり、暴走する前の段階で止められれば理想的、ということさ」
「間に合えば、の話ね」
純子が短く言い、有紗が息をのむ。
「時間、あまりないかも……魔力の振動、少しずつ強まってる」
その言葉に、俺たちは剣を、弓を、気持ちを引き締めた。
「行こう。今度の相手は、機械と魔法の融合体……容赦はできない」
神殿の奥から、重く、鈍い機械音が響いた。それは、何かの目覚めを告げる音だった。
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