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しおりを挟むルメリア王国王都グランティア
俺は魔術師としての基礎指導を受けるため『魔術師ギルド』を訪れていた。
「すみませーん。数日前会員登録した卓郎というものです。魔術師としての基礎指導を受けにやってきましたー」
誰もいない受付カウンター越しに、中に声をかけると「はーい」という返事が聞こえる。
「あ、あなたは、あの時の規格外さん!」
そして奥から現れたのはこの前登録をしてくれた受付嬢。薄紫のローブを身にまとい、魔術師らしい細長い杖を携えた女性がカウンターの向こうに現れた。栗色の髪をお団子にまとめたその姿は、やや事務的ながらもどこか親しみを感じさせる。
「こ、こんにちは。えっと……規格外って、俺、そんなに変でした?」
「はい。とっても。私は魔術師ギルド受付のメルリナ。よろしくお願いしますね、規格外さん」
即答だった。
「魔力測定で結晶玉を割った人なんて、わたしの知る限り初めてですよ? むしろ研究対象に回されなかったのが奇跡です。そういう突き抜けた新人さんには、基礎指導だけでなく、特別メニューでの指導を受けていただきます」
彼女はにっこりと笑う。そこに怖さを感じたのは気のせいではない。
「特別メニュー……?」
研究対象に回されなかったのが奇跡? ほんとに研究対象じゃないのか?
「でも心配いりません」
「心配しかないんですけど!?」
心配そうに見つめる俺をよそに、彼女は手慣れた様子で案内を始める。
「では、魔術師ギルドの地下第一演習室へどうぞ。あ、念のため、貴方専用の耐爆ローブをご用意していますので、そちらに着替えてくださいね」
「耐爆って言った!? 今、さらっと耐爆って言いましたよね!?」
導かれるままに奥へと歩き出しながら、俺は心の中でそっと祈る。
――魔術って、こんなに命がけだったっけ?
扉の向こう。地下訓練場の空気はひんやりとしていて、それだけで何か不穏なものを感じさせた。
俺は規格外な魔術師としての第一歩は、どうやらとんでもない特別メニューから始まるらしい。
重たい鉄扉が軋む音を立てて閉められる。もう逃げられないって感じか逃げられないって感じか?
地下第一演習室――魔術師ギルドの中でも、特に実験的な訓練が行われる場所だという。厚い石壁と魔力遮断の結界が張られた室内は、淡い青の光が灯るだけで、外の喧騒など微塵も届かない。
卓郎は受付嬢――いや、今は指導役を兼ねる魔術師・メルリナから手渡された耐爆ローブに身を包んでいた。黒を基調にしたその布地は、動きやすいが、どこか重みがある。
「ここでは、あなたの魔力の質と流れ方を見ます。基礎訓練とはいえ……あなたの魔力出力は通常の測定器では測れないため、通常の手順は使いません」
……それって実験じゃね?
メルリナは、卓郎から数メートル離れた位置に立つと、長い杖を掲げ、詠唱を始めた。
「結界展開――〈第二結界式・重律〉。対象魔力の逸脱を想定、四重制御、起動します」
青白い光の線が四方に走り、卓郎の周囲に魔力の檻のような結界が立ち上がる。皮膚に直接触れるような圧迫感があった。
……対象魔力の逸脱を想定ってなんで?
「まずは、最も単純な魔術。光球の詠唱から始めてください。
「ライトは覚えてません」
「魔力を小さく制御し、手のひらで静止させるだけです。光の球をイメージしてやってみて」
卓郎は静かに目を閉じ、右手を前に差し出す。
魔力の流れを意識する。体内を巡る熱のようなものが、意志によって指先に集中していくのを感じる。そして――
「ライト!」
瞬間、右手の上に小さな光球がふわりと浮かぶ。
「あ、ライトできました。俺ライト覚えたんですか?」
「そうですね。ライトは光系の第一歩ですからあなたなら簡単でしょう。魔力コントロール
メルリナの言葉にうなずきながら、俺は再び手を前に差し出した。
「光球より、ちょっと冷たい感じを意識して……えーと、水の玉……水の玉……」
イメージを固め、魔力を集中。
「ウォーター!」
その瞬間、俺の掌の前に浮かび上がったのは、直径30センチはあろうかという水球だった。
しかも、ぷるんと不自然に弾むような動きで、天井の光を反射してやたらと美しく輝いている。
「えっ……これ、普通のウォーターですか……?」
ぽつりと呟いた俺の言葉に、メルリナが無言で近づいてくる。そして、手にした杖を軽く一振り。
水球が光の粒になって霧散すると同時に、彼女がぽつりとつぶやいた。
「……これは、高純度凝縮水球ですね。初歩のウォーターのはずが、数段上の精度と魔力量……」
「はい?」
俺にはその違いがさっぱりわからない。
「じゃあ、次は風系。ウィンドカッターで確認します。周囲の空気を刃の形にして放つ、軽めの攻撃魔術です」
「了解。ウィンドカッターは使えます」
風の流れを感じるように、手を振る――。
「ウィンドカッター!」
キィンッ!
瞬間、発生したのは細い風の刃……どころではなかった。俺の前方の結界壁に、鋭い弧を描いたスパイラル状の風圧が突き刺さり、結界がギィィ……と鈍く唸った。
「おおおい! 今、音おかしくなかった!? 結界大丈夫か!? 破れないよね!?」
叫ぶ俺をよそに、メルリナがなにやら記録用の紙にメモを取りながらうなずく。
「うん。風も問題なし、と……では火系にいきましょうか。ファイアボール、いけます?」
「火系で覚えてるのは、ファイアバレット、フレイムジャベリン、クリムゾンバインド、カタストロフブレイズ、メテオフレアです」
「めちゃくちゃ高難度高威力の魔法ですね。この際ファイアボールを覚えてください。ファイアバレットでもあなたの場合、魔力量が多すぎて危険かもしれませんから」
俺は手を前に出す。熱を、思い描く。炎の球体。できますようにと、心の中で何度も祈りながら。
「ファイアボール!」
ごうっ――!
小さな炎の球が、手のひらからふわりと浮かび上がる……はずだった。
が、現れたのは直径50センチ近い赤熱の火球。まるで太陽のミニチュア。
「はい、ストップです」
俺が急いでやめると炎はふっと霧散し、空間が元の涼しさを取り戻す。
「ふむ。火も完璧。じゃあ次、土系。何かできますか?」
「土系はストーンウォールしかできません」
そして、試すごとに明らかになる事実。
光、風、水、火、土――闇を除く5系統すべての魔術において、俺は初歩魔術であっても「高出力・高精度・高制御」を見せていた。
「………………」
訓練を終えたメルリナが、最後にぽつりとつぶやいた。
「これ、完全に研究対象レベルです。いや、研究所送りでも足りないくらい」
「ちょ、待ってくださいよ! 俺、ただの初心者ですよ!? まだ杖も持ってないんですよ!?(実は持ってる)」
「むしろ杖を持ってない状態でこれなら、持ったら何が起きるか逆に怖いです」
彼女の声には冗談の響きがなかった。
やがて、メルリナは深く頷いたあと、真面目な表情で言った。
「結論から言うと、あなたは闇を除く全属性魔法が超高水準」
「えっ、それって……魔術師としては、どうなんです?」
俺がおそるおそる尋ねると――
「国が放っておくわけがないレベル、ですね」
メルリナはやけにさらっと答えた。
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