ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 小一時間の訓練で、俺はようやく「細い魔力の糸」を自在に伸ばせるようになった。全然完璧じゃないけど、最初の頃のレーザー乱射に比べれば雲泥の差だ。

「では、次は応用練習に入りましょう」

 メルリナがそう言って、指を鳴らすと――石像の一つが、ゆっくりと左右にスライドしはじめた。赤い印がついたまま、まるで見えないレールの上を動いているかのように、スーッと。

「今度の課題は、動いている対象に魔力の糸を接続する練習です。魔力の糸は一度つないだあとも、対象が動けば引っ張られたり、切れたりします。これを自在に操れるようになると、実戦でも非常に有利になりますよ」

「なるほど……」

 俺は早速、指先に魔力を集中。細い糸を伸ばして、赤い印の石像を狙った。

 ……が、触れた瞬間、石像がスッと横に動いて、糸がぷつんと切れた。

「うっ……!」

「対象の動きを読むこと、魔力の糸をたるませず、でも張りすぎずに伸ばすこと。これが難しいんです」

 再挑戦。今度は石像の動きに合わせて、少し先を狙って糸を伸ばしてみる。
 ……が、やっぱり切れた。

 動く相手に合わせるって、こんなに難しいのかよ!

「焦らず、一定の流れを意識してください」

「ちょろちょろ……ですね」

 思わずつぶやくと、メルリナが笑った。

「そう、その調子です」

 ……そこへ、訓練室のドアが開いた。

「失礼しまーす。今日の特別指導、僕も一緒にお願いします」

 入ってきたのは、俺と同じ年頃くらいの少年だった。髪は白銀で、きっちり整えられた制服。その背中に見えるのは、魔術師ギルドの上位試験合格者にだけ与えられる〈青星の紋章〉。

 うわ……なんだか凄そうな人来たな

 思わず表情を硬くする俺に、訓練生の少年が笑みを浮かべる。

「君が卓郎くんか。この前検査水晶にひびを入れたって話題になってたよ。今日の特別訓練はご一緒させてもらうよ。よろしく」

「よ、よろしく……えっと」

「僕はキース・ベルフォード。貴族出身で、今年の魔術師ギルドの新人の中では第二位の実力者らしいよ」

 あっさり自分で言うかこの人。

「キースさんも魔力の糸の訓練を?」

「そうだよ。僕は魔法効果が大きすぎなので、繊細な魔力操作はまだ課題でね。たぶん、君も繊細な魔力操作は苦手なんだろう」

「そうなんだよね」

「じゃあ、お互い、動く標的に糸をつなげて、どちらが先に全て成功させられるか勝負しない?」

 さっきまで一人でやっていた訓練が、にわかに「競技」めいた雰囲気を帯びてきた。

「勝負、ですか?」

 キースが目を細めてにやりと笑う。

「訓練も、少しは刺激があったほうが楽しいだろ?」

「……いいでしょう、やりますよ」

 やる気スイッチが入った。キースの魔法効果がどれ程大きいかは知らないし、大きいほど難易度は高いこの課題、条件はどうあれ負けたくはない。

「じゃあ、始めようか」

 勝負がはじまる。
 石像は全部で五体。順番に左右へ移動しつつ、赤い印の場所もわずかに変わっていく。糸を通すには、観察・予測・集中力・制御のすべてが必要だ。

 キースは、一体目をすんなりと接続。糸の光が美しい。

 俺は……失敗した。くそっ、焦るな、焦るな。

 ふたたび意識を集中し、水の流れのように……今度はタイミングを見計らって……

 ――触れた! 二体目成功!

 「おお、なかなかやるじゃないか!」

 「そっちこそ……!」

 熱くなってきた。お互い、一進一退の勝負。途中、メルリナが「勝負じゃないですからねー」と言ってたけど、今はもう聞こえない。

 最終的にキースが五体成功させる間に、俺は四体しかできなかった。結果は、惜敗。

「いやあ、惜しかったよ卓郎くん。わずかに僕の方が早くできたみたいだね」

「まいりました……でも、楽しかった」

 心地よい疲労と、妙な爽快感。

「次は負けないよ」

「期待してる」

 キースと軽く拳をぶつけ合ったところで、メルリナが笑いながら言った。

「二人とも、合格です。これで特別指導は終了ですね」

 やった、と心の中でガッツポーズをする。だがこの訓練、もっと続けた方が良い。俺が磨かなくてはならない能力に間違いないと感じる。

「あの、この施設って、これからも使わせてもらうことはできますか?」

「もちろん手続きをすれば使えますよ。どんどん自主トレしてください。MPを増やしたり、魔法効果を大きくするのは難しいですが、この練習はそれを補う有効な手段ですからね」

「はい。ありがとうございます」

 特別指導を終た俺は、キースに向きなおって話しかける。

「……キースさん、貴族ってことは、普段は王都にいるんですよね?」

「ああ。いるよ。魔術師ギルドは魔術学校も兼ねているからね。国中から魔術の才能があるもの、身につけたいものが集まってくる。僕もその一人さ」

「へー、生徒はたくさんいるんですか?」

「それほど多くないね。同期は、たった17人さ」

「えっ、それだけ? もっといるかと思ってました」

「ふふ、魔術ってね、素質も必要だし、訓練も厳しい。途中でやめる者もいる。中には、暴走させて大怪我する子もいるし……まあ、いろいろだよ」

 キースは淡々と語っているが、その中にはやはり誇りと責任がにじんでいた。

「その17人って……みんなすごいんですか?」

「うん。方向性は違うけど、それぞれに特化してる。一人は魔力の精密制御に特化した天才、もう一人は、魔法陣の構築速度が異常な速さの子もいる」

「凄いんですね!」

「はは、そう言いたくなるよね。でもね、君みたいに感覚で魔力を操れる人間も、案外少ないんだよ。あの勝負、君は自分のやり方でここまで食らいついた。正直、驚いたよ」

「……それ、褒め言葉として受け取っていいんですよね?」

「もちろん。堂々と受け取ってくれていい。――でも」

 キースの声が、少しだけ引き締まった。

「王都には、もっと上がいる。今の君じゃ、到底かなわない相手もいると思う」

「そうでしょうね」

 俺は魔術師ギルドに入ったばかりだ。魔術の深淵を覗くのはまだまだ先。MPや魔力効果がいくら大きくても魔術に関する知識は少ない。ある意味駆け出し魔術師と言ってもいいのだ。

「お互い、頑張りましょう」

「ああ、よろしくな」

 俺たちはふたたび、拳を軽くぶつけ合った。
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