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しおりを挟む『遠距離スキル道場』ーー純子、有紗、沙耶の三人は、やや緊張した面持ちで立っていた。
天弓は木の枝を拾い、地面に図を描きながら言った。
「今日の課題は――風だ」
その言葉通り、丘を背にした訓練場には、北からの風が吹き付けていた。森の木々が揺れ、的が設置された場には、時折強風が巻く。
「この風の中で的を撃つ。狙い通りにいくと思うな。風は矢の敵であり、味方でもある。使いこなせれば、射撃に“重み”が出る」
天弓が指を鳴らすと、昨日と同じく魔導機が作動し、動く的が風の中を跳ね回り始めた。
「今日こそ、仕上げだ。それぞれの“技”を習得するための、最終訓練を始める」
天弓の号令と共に、三人は走り出す。
北方の丘に冷たい風が吹きつけ、道場裏の森に風の唸りが混じる。
「風の中で撃つ、って……こういうことか……」
純子が髪を押さえながら、森の中を見渡す。昨日よりもさらに視界が悪く、枝葉が騒がしく揺れていた。
「風で矢が流される……ってことだよね?」
有紗が落ち着いた声で問いかけると、天弓はにやりと笑った。
「そのとおりだ。風に流されず、撃ち抜けるようになって初めて一人前の狙撃手だ」
「昨日よりレベルアップしてるね……!」
沙耶が気合を入れ、背負った矢筒を握りしめる。
「今日の訓練は三段階だ」
天弓が地面に矢を突き立てながら説明を始めた。
「第一、〈貫通矢〉の習得。強く、速く、一直線に射抜く。風に負けねえ矢だ。二人並んだ標的を一発で貫け」
「第二、〈一矢両断〉。力を溜め、装甲ごと撃ち抜けるほどのチャージショット。これは、重装の敵を想定してる」
「第三、〈疾風の歩法〉。風の中、動きながら撃て。お前らが昨日やってたスタイルを、さらに正確に仕上げる補助技だ」
三人は同時にうなずく。
「さあ、まずは貫通矢からだ。腕の力、弓の引き、全てを一点に――」
訓練が始まった。
純子は強く弓を引き、息を止める。風が木々を揺らす中、二つ並んだ魔導標的の中心を見据える。
「――てえいっ!」
風を切る音と共に、一本の矢がまっすぐに放たれた。矢は一つ目の標的を貫き、そのまま背後の的にも突き刺さる。
「貫通……できた……!」
純子が矢筒に手を伸ばすと、天弓がうなった。
「弓の力を引き出すには、的確なフォームと筋力、そして集中力。お前、少しは成長したな」
「次、私やる!」
沙耶が勢いよく矢をつがえ、跳ねるように一歩踏み出して放つ。だが、矢は途中で少しずれ、背後の的をかすめるにとどまった。
「くぅ~、惜しい!」
「焦るな。沙耶、お前の長所は流れだ。動きの中でも力を溜められるようになれ」
「はい、師範!」
一方、有紗は冷静に呼吸を整えた後、細やかな腕の力で矢をつがえる。彼女の放った矢は風に逆らい、二つの標的を正確に貫いた。
「……成功、かな?」
「文句なしだ。無駄のない力の伝達……いい筋してきた」
貫通矢の習得後、次の訓練――〈一矢両断〉へと移った。
これは、矢に魔力を込め、時間をかけてチャージし放つ技。矢は重く、狙いも難しい。
純子は額に汗をにじませながら、矢に集中する。全身を弓に預け、魔力を矢に注ぎ込む。
「……今!」
放たれた矢は、風を割くほどの重さと速さで標的を撃ち抜き、厚い盾のような模造装甲を粉砕する。
「やった……! 私、できた……!」
「よくやった、純子。力の乗せ方が上達している」
有紗も時間をかけ、ゆっくりと魔力を矢に重ねた。彼女の矢は風の音すら消すような静寂の中を進み、鋭く装甲を打ち抜いた。
「……成功しました」
「丁寧すぎるくらいだ。だが、それが有紗の矢だな」
沙耶は、苦戦していた。チャージの時間が長すぎて、集中が途切れてしまう。
「むー……じっとしてるとムズムズして……!」
だが、彼女は風の合間に短く力を溜め、軽やかな足さばきからの瞬間チャージで矢を放つ。
――ズンッ!
音と共に、矢は一気に装甲を砕いた。
「できた! やったー!」
「……まさか、そんな方法で成功するとは。突飛な奴だが、理にかなってやがる」
最後は〈疾風の歩法〉の修得。
風の中、走りながら、跳ねながら、撃つ。動作中の照準補助スキルの習得には、動きと意識の両立が不可欠だった。
三人は、斜面を登り、跳ね、回避しながら矢を放つ。最初は外れも多かったが――
純子は足の使い方を徐々に掴み、風を読むようにして撃ち込むようになった。
有紗は風向きを見て角度を変え、走りながらも矢の軌道を調整する。
沙耶は疾風のごとく木々の間をすり抜け、軽やかに飛びながら的に矢を撃ち込む。
そして数時間後――
「これで、三人とも――」
「三つのスキル、全部……覚えたね……!」
疲れ切った体で肩を並べ、三人は弓を背に背負い直した。
「よくやった。お前ら三人……見違えたぞ」
天弓が腕を組み、満足そうにうなずく。
「遠距離戦士として、一歩前に進んだ証だ。だが、それを使いこなすのはこれからだ。戦場で生かせるかは、お前ら次第だ」
「もちろんです、師範」
純子がにやりと笑い、有紗と沙耶も小さく頷いた。
『遠距離スキル道場』の3週間、三つの新たな矢のスキルを得て、彼女たちは、一段上の実力と自信を身につけたのだった。
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この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
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