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しおりを挟む遺跡の闇に、戦いの火花が走る。
「卓郎! 正面、六体、来るよ!」
沙耶の声に即座に反応し、俺はミスリルソードを下げたまま前に出た。
「ウィンドカッター!」
空気が震え、前方に鋭利な真空の刃が放たれる。目にも留まらぬ一閃が、石像のような魔物の胴を横一文字に断ち切った。
ゴギャリ、と鈍い音。霧を噴きながら、魔物が崩れ落ちる。
「一発で六体……!?」
有紗が驚きの声を漏らす。
「まだいける」
俺は剣を収めたまま、次の魔物に向けて手をかざす。
「ウィンドカッター!」
三連の風の刃が矢のように放たれた。左へ一体、右へ一体、奥にもう一体――すべての敵が霧を散らして崩れ落ちる。
明がぽかんと口を開けた。
「おい……なにそれ、ずるくね?」
「ずるいって言うなよ。基本魔法だぞ、これ」
俺は肩をすくめる。けれど、内心ではわかっていた。この威力、もはや“基本”ではない。
――魔法効果:2万3815。強すぎる魔法効果も最低出力で風の魔法に完全適応させた。強すぎて、石の壁を切り崩さないように、ちゃんと強さは抑えられている。山籠もりの成果だ。
魔力消費も少ないまま、攻撃は鋭く、正確に、弱点を突くように飛ぶ。意識せずとも、俺の集中に合わせて風刃の軌道が微調整されているのだ。
「くぅ~、カッコつけやがってぇ……」
明が奥歯を噛みながらも、にやりと笑った。「でも、悪くねぇな。こういうの、テンション上がるわ!」
「卓郎、もう少し前に出て! 私たちは左右から援護する!」
純子の声に、有紗がすぐに呼応する。
「『炎の矢』、行けるよ!」
「よし、後方にも気を配ってくれ。こっちは俺が通す!」
俺は霧の立ちこめる前方へ、一歩、また一歩と踏み込む。風刃が道を拓き、魔物たちは抵抗らしい抵抗も見せられない。
――風が、俺の剣になる。
そのたび、霧が後退し、広間の奥へと続く道が現れていく。
「おー……マジで、敵が出てきても“あ、片付いたわ”ってなるなぁ」
明が呆ける。
沙耶が小声でつぶやく。
「たっくん、チートじゃん、チート」
純子が呆れたように言う。
「……でも、それにしてもすごいわ。昔の卓郎とは別人みたい」
「いや、前からすごかったんだよ。遠慮してただけで」
有紗がぽつりとつぶやく。
「さ、行こう。調査任務と言えども、まだ引き返すほどの危険は感じないからね」
まるで無人の荒野を突き進むように、どんどん先に進む俺たち。
魔物の群れをウィンドカッターで薙ぎ払っていく。
狭い石造りの通路の先、くすんだ青白い光が漏れていた。
「この先、ちょっと広くなってるみたいだよ!」
沙耶が遠見で確認しながら声を上げる。
「全員、散開準備。広間に何かいる可能性ありだ」
俺の指示に、みんなが一斉に頷いた。
明は刀の柄に手をかけ、純子、有紗、沙耶の三人も矢筒の位置を微調整する。
「……ウィンドカッター、一発撃って反応を見る」
俺は扉の前に立ち、そっと手をかざした。
「ウィンドカッター!」
風の刃が、一点に絞られて真っ直ぐに走る。扉の隙間から奥へ――
直後、ドオォォンという重々しい音が響いた。
扉が外れ、部屋の内部から黒い霧がぶわりと吹き出す。
「来るよ!」
沙耶が叫ぶ。
次の瞬間、闇を裂くように、異形の魔物が現れた。
――瘴縛兵団。腐敗した甲冑を纏ったアンデッドの戦士たち。
「こいつら……あの時の瘴気の谷のやつと同じだわ!」
純子が矢を引きながら叫ぶ。「でも、大丈夫……今の私たちなら!」
「炎の矢、三連装!」
有紗と沙耶が同時に放った矢が、腐臭とともに迫るアンデッドの列を焼き払う。
けれど、敵は怯まない。霧を纏ってずんずんと迫ってくる。
「だったらこっちも本気出す!」
明が叫び、剣を振り上げた。
「――フレイムバスター!」
炎に包まれたミスリルブレードが、獣のように咆哮するアンデッドを一刀両断する。
爆ぜる火花と煙。
「よし、こっちも行くぞ。ウィンドカッター!」
俺の魔法が再び輝き、連なる風の刃が、一直線に突き進んだ。
風が斬り裂くたびに、アンデッドたちの腕や武器が霧となって舞い、次々に崩れ落ちていく。
「ひとつ聞いていい?」
明が隣で笑いながら言った。「お前の“基本魔法”って、どこからどこまでが“基本”なんだ?」
「ウィンドカッターは全部だよ。俺の魔法は、いつでも最適出力だ」
「……言ってみてぇ、そういうの!」
俺たちは笑い合いながらも、次々と現れる魔物を迎撃していく。
背後からは純子の矢が正確に弱点を射抜き、有紗の薬で疲弊した者は即座に回復される。
まるで一つの歯車のように、全員の動きが噛み合っていた。
だが――
「……あれ、なんか変だよ」
沙耶がつぶやいた。
魔物がすべて倒れたはずの広間で、床の中央に、黒い模様が浮かび上がっていた。
――それは魔法陣。しかも、古代語で記されたもの。
「……また出たな、あの文様」
遺跡に隠された“封印”の痕跡――そして、呪詛の気配。
広間の中央に浮かぶ黒い魔法陣――瘴気が微かに揺れている。
ただの残滓ではない。これは“起動中”の印だ。
「純子、矢を。あの魔法陣、破壊できそうか?」
「……やってみる!」
純子が弓を引き、炎の矢を魔法陣の中心へと放つ。
矢は一直線に飛び、命中した――だが。
「……は?」
黒い魔法陣は、微動だにしなかった。
矢の火は吸い込まれるように消え、痕跡すら残さない。
「効いてない……?」
「ちっ、次はこっちだ!」
明が真っ赤な剣を振りかぶる。
「フレイムバスター!」
剣が火を纏い、斜めに魔法陣を裂くように叩きつけられた。
だが、魔法陣はやはりびくともしない。むしろ、黒い光が脈動するように輝き始めた。
「……まさか、力を与えてるだけなんじゃ……?」
「その通りだ」
俺はすぐに判断し、皆に声をかける。
「全員下がれ! 物理も魔法も、もう通じない。何かが――来るぞ!」
言い終わる前に、床が震えた。
魔法陣の中心がひび割れ、そこから黒い腕が、ずるり、と這い出してくる。
「……またアンデッド?」
だが、その気配は桁違いだった。瘴気の密度が、周囲の空気をねじ曲げる。
「違う、これは……“王”だ」
俺の背中に、冷たい汗が伝う。
瘴縛兵団の頂点。呪詛の谷に眠るべき存在――
「〈呪詛の王〉、ヴェルト=アナマス級の敵……かもしれねぇ」
「そんなの、聞いてないよっ!」
沙耶の声が震える。
「落ち着け!」
俺は叫び、ストレージから「聖印のロッド」を取り出す。
「サンクチュアリ!」
俺は、光の結界を最大出力で展開した。瘴気が消え去り、黒い腕がひび割れの中に押し戻され、魔法陣が沈静する。
「これで一旦、瘴気は止まった。敵の顕現には、まだ時間がかかる。今のうちに、広間の外へ出よう!」
「でも、逃げ道は一つ……!」
有紗が振り返る。狭い通路。退路を塞がれれば終わりだ。
「なら俺が道を作る! 俺に続いて!」
俺は魔力をコントロールして、通路の魔物たちを一掃するように風の刃を放つ。
数十の風刃が、まるで龍のごとくうねりながら前方を切り拓く。
――どけ。俺たちの帰還ルートだ。
「さすが、卓郎……!」
純子が呟くように言った。
全員が走り出す。明が殿を務め、『灼輪斬』で後方の魔物を焼き払い、弓組が左右を牽制する。
まるで訓練された部隊のように、息の合った退却だった。
「調査任務はこれで十分だな。これでしばらく大きな動きもできないだろうし、完全封印は聖女に任せればいいだろう」
俺は小さく呟きながら、仲間たちとともに撤退した。
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