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しおりを挟む遺跡の深部へと続く通路は、三方向に分かれていた。
「見て、ここに記されてる図……それぞれの通路の先に、〈獣人三将〉って書かれてる」
俺は壁の古代碑文を解読しながら言う。
「つまり……その三体、ただの雑兵じゃないってことか」
明がうなる。「ミノタロスが“総隊長”で、そいつらが“将軍格”……」
「分かれて倒しに行くのはリスクが高い。全員で一体ずつ確実に潰そう」
明が言うと、仲間たちも頷いた。
「じゃあ、まずは……〈豹人〉の方から行こう」
■ 第一の間:〈黒閃の豹人・ゼルファ〉
薄暗い回廊を抜けたその先は、別世界のような広間だった。
天井には古代魔術によって再現された“月”が輝き、青白い光が降り注ぐ。壁は漆黒の石で造られており、いくつもの傷跡が交錯している――過去に繰り返された激闘の痕だ。
広間の中央に立つ一体の獣影。
黒い絹のような毛並みを持ち、鍛え抜かれた肉体はまるで彫像のようにしなやか。両腕には鉤爪状の鋼爪を装着し、背中から伸びる尾には細やかな刃がいくつも仕込まれていた。
「……来たか。 我は、豹人〈ゼルファ〉」
低く、澄んだ声が広間に響く。
「お前たちの速度を試させてもらおう」
一瞬、空気が張り詰めた――と思った次の瞬間。
ゼルファの姿が、残像を残して消えた。
「うおっ、こいつ話しかけてきたぞ!」
明が驚愕の声を上げたと同時に、金の閃光が俺たちの間を駆け抜けた。
「はやっ……! これ、弓隊じゃ狙えないわ!」
沙耶が転がるように後退し、身を守る。
「全員、速度対応! バフをかける」
俺はすかさず両手をかざし、魔力を走らせた。
「〈俊足〉!」
青白い風が仲間たちの足元を包み、動きが一気に鋭くなる。
「そしてお前には……〈鈍足〉!」
対照的に、ゼルファの足元に影のような呪符が広がり、重力を増す。
「これで、速度で勝負できるわ! 〈疾風の歩法〉!」
彼女たちの体術スキルが全体に加速を与え、空気すら裂けるような機動力が生まれる。
「沙耶、純子、左右から行くよ!」
有紗の指示と同時に、二人の弓士が矢をつがえながら駆けた。
「〈一矢両断〉!」
二つの鋭い矢がゼルファの足を挟み込むように飛ぶ――だが。
「甘いッ!」
ゼルファは空中で体をねじり、地面を蹴るように方向を変えて両矢を回避。金の尾を振り下ろし、軌道を撹乱してきた。
「遅いな!」
俺は地を蹴り、ゼルファに急接近。
俺の速度値は5484。はっきり言って、俺は今この場で最速だ。それも圧倒的に。 魔法を使わずとも、彼の動きに余裕で追いつく。
「くっ……!」
ゼルファの目が一瞬見開かれた。次の瞬間、俺の蹴りが彼の胸に直撃。
床に叩きつけられ、甲高い金属音が響いた。
立ち上がろうとするゼルファの右腕へ、明が飛び込む。
「喰らえっ、〈斬鉄〉!!」
紅蓮のミスリルブレードが大気を裂き、焼き付くような一閃が爪を弾き飛ばした。
金属片が宙に舞い、ゼルファの肩口が大きく裂ける。
「今だ、射る!」
有紗と沙耶の声が重なり、弓を引く音が鳴った。
「〈貫通矢〉、発射!」
二筋の火線が空を裂き、ゼルファの脇腹に深く突き刺さる。衝撃に揺らぎながら、彼の膝がついに崩れ落ちた。
「……見事……」
ゼルファの声はもはやささやきに近かった。
その身体が静かに傾き、広間の冷たい石の床に沈む。
広間の月光が、勝者たちの影を静かに照らしていた。
■ 第二の間:〈轟槌の猪戦士・グラウ〉
次の扉が音を立てて開いた瞬間、熱気と金属の匂いが押し寄せてきた。
そこは広大な円形の闘技場。床は一面が鋼鉄のパネルで覆われており、幾何学的な紋様が光を鈍く反射する。天井には歯車群が軋みを上げながらゆっくりと回転し、その動力が闘技場全体に重厚な圧をもたらしていた。
中央にそびえ立つ巨体。
それは、全身に鉄鎖を巻いた猪のような獣人――〈轟槌の猪戦士・グラウ〉だった。
裸の上半身は筋肉の鎧と呼べるほど分厚く、血管が浮き上がり、長い牙が左右に突き出ている。
腰には戦鎚――常人では持ち上げることも困難な鉄塊をぶら下げ、鎖の一部は武具と接続されて魔力の導管のようにうねっていた。
「ほう……来たか」
野太く響く声が広間を満たす。
「ならば――この鎖の音が止むまで戦おうではないかァ! 猪獣人最強と言われるこの〈グラウ〉の力を見よォッ!!」
咆哮とともに戦鎚が振り上げられ、次の瞬間――
ズンッッ!!
鋼の床が大きくたわみ、衝撃が大地を揺らした。
「うわっ、地震みたい……!」
沙耶がよろけながら身を支える。
「やばい……こいつ、パワーだけならミノタロス以上かも!」
明が肩に力を入れ、剣を構えた。
グラウは巨体に似合わぬ速さで突進の体勢に入る。
「関節狙いましょう。猪は一直線しか動けない」
冷静な純子の声が響く。
戦闘開始。
グラウが突進を始めたその刹那、俺が魔法を発動する。
「〈アースバインド〉!」
足元に広がる土の魔法陣から鎖のように土腕が伸び、グラウの脚を束縛する。
鉄の蹄が軋み、勢いが鈍る――そこへ一斉射撃。
「〈断空輪〉!」
明の回転斬撃が空気を裂く。
「〈一矢両断〉!」
純子の矢が関節を狙い、真っすぐに飛ぶ。
「〈貫通矢〉ッ!」
有紗と沙耶の矢が、鎖の隙間をすり抜けて膝と肩に突き刺さった。
グラウの動きが鈍る。
だが、それでも止まらない。
「グオオオォオアアアアアッ!!」
雄叫びとともに、グラウは自らの体に巻かれた鎖を腕に巻き直し、中心に魔力を集中させていく。
「来る、魔力解放型の衝撃爆発だ!」
俺は瞬時に叫ぶと、地面を掌で叩きつける。
「〈ストーンウォール〉!!」
砂と岩が渦を巻き、グラウの周囲に厚い岩壁を築き上げる。
次の瞬間、爆音。
轟ッッ!!!
轟音とともに岩壁が爆散し、闘技場が土煙に包まれた。
爆風の中、鋼の鎖がちぎれ飛び、何本かが天井の歯車に巻き込まれて激しく軋む音を立てる。
視界が開けたとき――そこにいたのは、膝をつき、肩で息をするグラウの姿だった。
鎖の魔力が途切れ、戦鎚も力なく地に落ちていた。
「今だ、明! とどめを!」
俺が叫ぶ。
「おうよッ!」
紅蓮の剣を逆手に構えた明が、火のように飛び込む。
「〈フレイムバスター〉――喰らえぇッ!!」
炎を帯びた一撃が、グラウの胸を深々と貫いた。
巨大な獣の身体が揺れ、静かに――地響きを立てて崩れ落ちる。
金属の床に響く最後の鎖の音が、戦いの終わりを告げていた。
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