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しおりを挟む遺跡の扉の先には、これまでとは明らかに雰囲気の異なる空間が広がっていた。
古代の神殿を思わせる石造りの大広間。だがその柱には、奇妙な彫刻が刻まれていた。
「牛……いや、角を持った男? なんか、ミノタウロスみたい」
純子が不気味そうに呟いた。
「ここ、瘴気の量が少ないな。というより、代わりに“獣の匂い”がする」
明が鼻をひくつかせる。
「……感じる。何か強いのが、この先にいる」
有紗が静かに矢をつがえた。
そして、奥の扉が――音もなく開いた。
中から現れたのは、背丈が二メートルを優に超える巨躯。毛皮をまとい、雄牛のような頭部に筋骨隆々の身体を持つ、二足歩行の魔獣。
「ミノタロス……! 本当に出てきた!」
沙耶が叫び、慌てて弓を構える。
だが、そのミノタロスの後ろから、さらに三体の獣人型魔獣が姿を現す。
一体は鋭い爪と猫のような機動力を持つ〈豹人〉、もう一体は鎖を巻いた蛮族風の〈猪戦士〉、そして一体は長い槍を持った〈ヤギ角の守り人〉。
「ここは獣人型魔獣の根城……か。獣人型魔獣たちが、遺跡を乗っ取ってるんだな」
卓郎が息を呑んだ。
「おもしれぇ……!!」
明が笑った。「俺が突っ込む! 後ろは任せた!」
「ああ、行っちゃった。あのバカ!」
純子が毒づきながらも弓を構える。
戦闘が始まった。
ミノタロスが大斧を振り下ろし、地面を割る。その衝撃で、明がわずかによろけるが、〈紅蓮のミスリルブレード〉で迎え撃つ。
横から突進してきた〈猪戦士〉を、有紗と沙耶が連携して迎え撃つ。足元を狙った矢が膝を砕き、続いて純子の一撃が肩口を撃ち抜く。
「通る! 皮膚は硬いけど、関節は狙える!」
沙耶が叫ぶ。
豹人が跳躍して卓郎に襲いかかるが――
「完全見切り!」
卓郎はその攻撃を紙一重で見切り、逆に反撃の一閃で豹人の脚を切り裂いた。
「筋力強化だ、明! 〈剛力〉!」
俺は強化魔法で明のパワーを底上げする。
「力が湧いてくるぜ! 助かる!」
明が再び猛然とミノタロスに突っ込み、頭上から“フレイムバスター”で斬りかかる。
が――ミノタロスはそれを腕で受け、炎をものともせず突き飛ばしてくる。
「チッ……マジで硬ぇ!」
明が唇を噛む。
「アースバインド!」
俺は土魔法で地面から泥の手を伸ばし、ミノタロスの足を拘束する。
「今だ、明!」
「――喰らえ!!」
〈紅蓮のミスリルブレード〉がミノタロスの喉元に突き刺さり、灼熱の刃が内側からミノタロスを焼き切った。
獣たちが、一体、また一体と倒れていく。
やがて残ったのは、ヤギ角の守り人のみ。彼は一歩も引かず、無言のまま槍を構えていた。
「……戦士としての誇りを感じるぜ」
明が呟く。
だが――彼は降伏もせず、背後の石壁を叩いた。
「何かの信号……!?」
次の瞬間、壁の奥から重い機械音が響き、何かが“起動した”気配が走る。
だがその前に、矢が放たれた。
「おしまい!」
純子の矢がヤギ角の守り人の額を撃ち抜いた。
静寂が戻る。
「……何かを呼ぼうとしてたんじゃないかな?」
沙耶が壁の裏を見つめる。
「明日以降の探索で確かめるしかないわね」
有紗が小さく頷いた。
獣たちとの戦いは終わったが、その行動からは、遺跡の奥にさらに知性ある支配者がいることを示唆していた。
ミノタロスら4体の獣人型魔獣を撃破した一行は、大広間で睡眠をとり、翌朝遺跡の奥へと足を踏み入れた。
そこには複雑な歯車や鉄の柱が入り組んだ空間――かつて何かを動かす巨大な装置があったと思しき部屋が広がっていた。
「昨日の最後、ヤギ角のやつが叩いたの、この仕掛けのスイッチだったか」
卓郎が足元の鉄板を注意深く踏みながら呟く。
壁には古代語と見られる碑文。そして所々に異様な形の彫像。まるで獣と機械を混ぜたような奇妙な意匠。
「ねえ、この部屋……何か動いてない?」
沙耶が小声で言った瞬間――
〈ガガガ……ギギギ……〉
天井から鉄の板がせり下がり、中央に異形の獣が姿を現す。
「でっか……! あれ、獣か!? それとも……」
明が剣を構えた。
現れたのは、鋼鉄の仮面をかぶった雄牛のような上半身と、六脚の獣の下半身を持つ魔獣――
〈鉄装のミノタロス・ガレオン〉。ただの獣ではなく、古代遺跡の機構と融合した魔獣。
「これ、ただの魔獣じゃない。古代の兵器と合体してる……!」
沙耶が興奮気味に指さした。
そして、同時に周囲の壁から小型の獣機兵が起動する。
「囲まれてる……! 距離とるよ、有紗、沙耶!」
純子がすばやく後方に跳び下がった。
「〈疾風の歩法〉――展開!」
三人の足取りが一気に軽くなり、風のように機兵の間をすり抜ける。
「〈貫通矢〉!」
純子の矢が放たれ、一直線に並んだ二体の機兵を貫いて破壊した。
「私もやるよ――〈一矢両断〉!」
有紗の矢が弾丸のように鉄装のミノタロスの肩部を撃ち抜くと、機構の一部がスパークした。
「わたしも続くねっ!」
沙耶が軽やかに跳びながら矢を放つ。「〈一矢両断〉!」
機兵の首元に命中し、装甲をはがすように破壊。
一方、前衛では明がミノタロス・ガレオンの懐に飛び込み、剣を振るう。
「こっちもスキル行くぜ――〈斬鉄〉!!」
紅蓮の刃が鋼の装甲を一部削ぎ落とす。
「いいぞ! そこに重ねる!」
俺はタイミングを合わせて追撃。魔獣が呻き声のような電子音を発する。
「来る! 広域衝撃波!」
純子の叫びと同時に、俺は魔法で対応。
「ストーンウォール!」
ガレオンの身体が赤熱し、爆発的な衝撃波を放った。
分厚い土の壁が床から立ち上げり衝撃波から全員を守った。
「っく、これ……一度態勢を立て直さなきゃ……!」
弓隊は咄嗟に〈疾風の歩法〉を再展開し、素早く左右に散開。
「純子、援護するよ!」
「わかった、カバーして!」
三人は風のような連携で動きながら再び射線を作り直し、敵のコア部分――むき出しの胸部機構を狙って矢を放つ。
「ここで決める――〈一矢両断〉!」
「〈貫通矢〉、全力で!」
矢が連続で命中し、ついにガレオンの心臓部から爆発音が響いた。
数秒の沈黙の後、鉄装の巨体が崩れ落ちる。
再び、静寂。
「……倒した、か」
卓郎が剣を下ろし、ヒールを展開して全員を回復する。
「魔獣と機構が融合した存在……このダンジョン、単なる魔獣の巣じゃなさそうだな」
明が眉をひそめる。
「魔獣と機構がこのダンジョンを守ってる」
有紗が、奥の扉へと目を向ける。
その先には、まだ誰も足を踏み入れたことのない深部だ。
そして、中央の壁に彫られた文様は、俺たちにこう告げていた。
「獣たちの王、その真なる姿、眠りの封印により今は偽られし者なり」
「……獣の王? まだ奥にいるってこと?」
沙耶が不安げに呟いた。
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