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しおりを挟む簡易テントを張り、火を起こす。煙が冷えた空気の中にほんのりと温もりをもたらす。
「ふーっ……やっと落ち着いたね」
沙耶が焚き火の前で手をかざし、肩を回す。「奥、結構怖かったけど……なんかクセになりそうかも!」
「怖がってたくせに、終盤は一番はしゃいでたじゃない」
純子があきれ顔で言うと、沙耶は「そ、それは緊張をほぐすための演技だもん!」と誤魔化すように笑った。
「罠とか敵とか、思ってたより本格的だったね」
有紗は鍋の中身をかき混ぜながら言った。「はい、スープできたよ。みんな、食べて」
ストレージの魔法は、鍋ごとスープを収納できるし、ストレージ内では時間が止まっているので温かいスープは温かいままだが、焚き火にかけるとより美味しく感じるというものだ。
「おーっ、サンキュー有紗!」
明がさっそく丼を手に取り、がっつくようにスープを飲む。
「ちょっと、舌、火傷しないようにね」
純子が言いながら、同じく湯気の立つスープを受け取った。
卓郎も一口飲み、思わず「うまっ」と漏らす。
「体に染みるな……あったかいだけでこんなに美味いとは」
「今日の戦い、反省点も多かったけど……悪くなかったよ」
純子が静かに言う。「特に明、ちゃんと連携できてたじゃない」
「だろ? オレもやればできる男って証明されたな」
明は得意げに鼻を鳴らす。
「ちょっと調子乗りすぎ!」
沙耶がすかさず突っ込んで、周囲が笑いに包まれた。
「明日のルート、決めといたほうがいいんじゃねえか?」
明が地面に木の枝で地図を描くように線を引く。「この先、左右に分かれてる道があったろ。右が狭くて、左が広かった」
「左は獣の毛が落ちてた。敵がいるとしたら、たぶんあっち」
純子がうなずく。
「じゃあ……あえて右を進んでみるのはどう?」
有紗が言った。「敵は少ないかもしれないし、罠をかいくぐれば、宝物庫みたいな場所に出られるかも」
「うん、隠し通路とか、そういうの……夢あるよねっ」
沙耶が目を輝かせる。
「決まりだな。明日は右ルートを優先で探索」
卓郎が頷くと、仲間たちも次々に同意した。
「……でもさ」
ふいに明が声を落とす。「このダンジョン、妙だと思わないか?」
「妙?」
卓郎が目を向ける。
「いや、普通こういう盗賊の根城って、もっと散らかってるもんだろ。生活の跡とか、荒れた道具とか……でも、ここは変に整理されてた。さっきの通路、床がやたらときれいだったろ?」
「確かに……なんか、住んでた形跡が少なかった」
純子が静かに言った。「まるで、“住んでない”ように感じたくらい」
「誰かが管理してる……のかな」
有紗の声に、不安が混じる。
「まー、行って確かめるしかねえけどな!」
明が拳を握り、あっけらかんと笑う。
「明るいのはいいけど、突っ走らないようにね」
沙耶が小さく笑って親指を立てた。
イバラ窟・探索二日目、一行はテントをたたみ、出発の準備を整えた。洞窟の中は昨日と変わらず重苦しく、湿った風が肌を撫でる。
「よし、右のルートを進もう。狭い分、足元と頭上に注意な」
卓郎の指示に、全員が頷いた。
右の道は確かに狭かった。壁は苔に覆われ、ところどころ鋭く突き出た岩が道をふさいでいる。三人並んで進むのは難しく、自然と縦列になって慎重に歩を進める。
「この感じ……動きにくいし、戦闘になったらすぐ後退できないね」
有紗がつぶやく。
「この道って……妙に整備されてない?」
沙耶が天井を見上げながらつぶやく。「苔とかあるけど、段差も少ないし、ちゃんと通路になってる感じ」
「整備……か。じゃあ、ここは誰かが管理してるってこと?」
有紗が眉をひそめる。
と、そのとき――カチン。
何かが引っかかるような金属音が響いた。
「ストップ!」
卓郎が即座に叫ぶ。その瞬間、明の足元に小さな石板がわずかに沈み――壁の隙間から、何本もの矢が飛び出した!
ヒュンッ! ヒュンヒュンヒュン!
「くっ……!」
明はすかさず剣で一部を弾きながら身をかがめたが、肩をかすめた矢が血をにじませる。
「明っ! ヒール!」
卓郎の手が光り、癒しの魔法が即座に明の傷をふさぐ。
「ありがとよ。……油断した」
明が苦笑し、矢の刺さった壁を見つめる。
「この罠、昨日のより精度高いよ……。しかも、音が出るように仕掛けられてる」
純子が足元を見て顔をしかめた。「音で警戒されるかも」
「……やっぱり、誰かが“今でも”ここを使ってる可能性があるってことかな」
有紗が呟くように言った。
「このまま奥に進む? 引き返す?」
沙耶が、緊張を押し隠した声で尋ねる。
卓郎は少しの間、壁に手を当て、沈黙する。
「……進もう。この先に何があるか、確認する必要がある」
静かな声に、仲間たちは黙って頷いた。
その先に続く通路は、さらに複雑になっていった。小さな分岐、偽装された床板、さまざまな罠が潜んでいたが、仲間たちの連携で一つ一つを突破していく。
そして、午前が終わろうとした頃――
「……あれ、扉?」
純子が声を上げた。
狭い通路の先に、金属でできた古びた扉があった。瘴気の気配は薄いが、周囲には注意深く作られた魔法式の残滓が漂っている。
「開ける? それとも今日はここまでにする?」
有紗が問いかける。
卓郎は周囲を見回し、小さく頷いた。
「扉の向こうを確かめてから、帰ろう」
「じゃ、開けるぞ!」
明が扉の取っ手に手をかける。
ギィイ……
ゆっくりと扉が開かれたその先には、広い空間。崩れた柱と、台座。そしてその中央には、まるで儀式に使われたような円形の魔法陣が刻まれていた。
「……なんだ、ここ」
卓郎の声が、かすかに震えた。
遺跡のような異空間。だが、そこにはまだ“何者かの気配”が残っていた。
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