ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

文字の大きさ
176 / 232

175

しおりを挟む

 第五階層、ミリアの救出から一晩が過ぎた。
 俺たちは〈記録の主〉の残骸が消えたあの広間で、眠るように横たわるミリアを囲むようにして休んでいた。誰もが疲労していたが、眠りは浅かった。目に見えない“何か”が、今なおこの空間に漂っている。

「……気づいてると思うけどさ」
 明が口を開く。
「まだ、何かあるよな。この迷宮」

 誰も反論しない。

 ミリアが目を覚ますと同時に、床の中心にあった魔法陣が再び光を放った。今度は侵食でも暴走でもない。何かが、正しく作動しようとしていた。

「これ……扉?」
 有紗が囁いた。

 広間の奥。かつて光すら届かなかった黒い壁が、静かに捻れるように形を変える。そして現れたのは、巨大な螺旋の通路。五重螺旋の中枢――〈継承の中核層〉だ。

 螺旋構造の内部は、まるで異なる文明の断面を覗いているようだった。

 ひとつの階層は透明な金属と数式で構成され、別の階層は生体構造そのものが建材になっていた。文字ではなく、記憶そのものが壁に焼き付いている部屋すらある。

「これは……過去じゃない。未来すら取り込んだ、可能性の記録……?」
 純子が呆然と呟いた。

 歩くたびに記憶の断片が接触してくる。戦争、儀式、裏切り、そして継承の儀。何かが、この文明を維持しようとしながら、崩壊させていた。

 突如、空間が反転するように歪む。全員が気づいた――この階層には、何者かが潜んでいる。

「やっと来たんだね、『後続者(レイト・ヘリター)』たち」

 その声は、記憶の奥から這い出てきたようだった。

 現れたのは一人の少年。年は俺たちと同じくらい。だが、その眼には一切の人間らしさがなかった。

「僕の名はシオン。旧文明最後の継承者にして、再起動者(リブート)だよ」

 彼は語る。五重螺旋はただの迷宮ではない。この世界の文明サイクルを管理し、次の文明の『人類の形』を選別する装置なのだと。

「君たちは、記録の外側から来た異端。過去の記録と矛盾する。だから排除するよ」

 シオンが手をかざすと、空間に無数の『仮面の記録獣』が生まれる。それは倒しても倒しても、記憶の改ざんにより蘇る。

「倒せない……!」
 沙耶が息を切らす。敵はただの幻ではなく、記録構造に支配された存在。倒すには、記録そのものを上書きする必要がある。

「俺の覚えられるスキルで、干渉できる魔法はないのか……?」
 百点カードを起動し俺は記録そのものを上書きする手段をさがした。だが、みつからない。

 そのとき――ミリアが、静かに立ち上がった。

「私が、鍵……なの。私の記憶が……彼と繋がってる」

 ミリアは言う。彼女は〈記録の主〉によって、過去と未来の文明交差点に記録された存在。ゆえに、アクセス権限を持つ唯一の存在。

「継承とは、ただ受け取ることじゃない……選び取ること……!」

 ミリアの力によって、記録構造が一瞬光を放ち、一部が解放される。
 
 『仮面の記録獣』に名前と意味を与え直し、敵としての存在を無効化していく。だが――

「甘いな」

 シオンが本気を出す。今度は〈継承者の試練〉と呼ばれる、人格崩壊型の心理戦を仕掛けてくる。

 空間が割れる音がした。

 黒い床が崩れ、俺たちの意識が吸い込まれるように落下していく――。

 落下ではない。これは精神を〈切り離された空間〉に導く演出だ。目覚めると、俺は一人、何もない白の世界にいた。

「よう、卓郎」
 声がした。見覚えのない、だがなぜか俺自身だと理解できる存在が、目の前に立っていた。

 目の前の俺が剣を抜く。俺も、気づけば手に自分のミスリルソードを握っていた。

 ――自分自身との戦い。

 それは技の応酬ではなかった。一撃ごとに、自分の過去が露わになる。

 自信のなさ、他人への依存、知らず積み重ねた選択の回避。
 それでも俺は剣を振るう。

「それでも――守りたいものがある。支えられてきたから、今度は俺が支えたいんだ!」

 最後の一閃。剣が白い空間を裂いた瞬間、俺は微笑みながら霧散した。

 意識が戻ると、そこにはミリア、明、純子、有紗、沙耶の姿。

 彼女たちもそれぞれ、自身の試練に挑み、克服したようだった。全員がどこかで変わっていた。迷いが抜け、瞳の奥に決意が灯っている。

 だが――その空間の中心に、ただ一人、敗北しなかった存在がいた。

「へえ、全員帰ってきたんだ。じゃあ、次は最終フェーズだね」

 シオンが微笑む。
 彼の背後には、巨大な機構――〈継承端末:アーカイブ・コア〉が立ち上がる。

「君たちが文明を継ぐに足るかどうか、これが最後の審査だよ」

 アーカイブ・コアは、過去の文明から選ばれた英雄記録を召喚する。すべての文明における最強の模倣体との連続戦闘だ。

【第一記録体】〈重奏武神オルディア〉:斬撃に音を纏わせる剣術の巨人

【第二記録体】〈解析使徒フェノメナ〉:空間魔法を操る無機の魔女

【第三記録体】〈大火翼獣ラグノス〉:灼熱のドラゴンに似た異文明兵器

「一つでも敗北すれば、文明の選別権は君たちには与えられない。シンプルだろ?」

 巨大な機構が動き出す轟音とともに、空間が振動した。

 地面に音符のような刻印が浮かび上がる。その中央から――それは姿を現した。

 ――【第一記録体】〈重奏武神オルディア〉。

 金属の鎧に包まれた巨体。背には弦のようなものが張られ、腕には大剣と小太刀を携えた双剣武装。顔はない。ただ、胸部に音叉状の核が揺れていた。

「こいつ……剣士なのか?」
 明が剣を構えたが、オルディアはまるで聞いていないように、ゆっくりと構えを取る。

 カァン……。
 大剣の柄尻が地を打った瞬間、空間が震えた。

「振動音……!? この空間自体を、共鳴させてる……!」

 俺の言葉が終わるより早く、オルディアが音を纏った一撃を放つ。
 ――斬撃の軌道が音の遅延で分身のように残り、時間差で襲いかかってくる。

「クソッ、見切ったと思ったのに!」
 明が後退しながら叫ぶ。

 オルディアの剣撃は単なる斬撃じゃない。時間と振動を操作して、すべての反応を後手に回す。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。 異世界転生 × 最強 × ギャグ × 仲間。 チートすぎる俺が、神様より自由に世界をぶっ壊す!? “真面目な展開ゼロ”の爽快異世界バカ旅、始動!

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...