ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

文字の大きさ
179 / 265

178

しおりを挟む

 全身が悲鳴を上げていた。焼けつくような痛み。でも、それが怖くはなかった。

 痛み以上に――俺は、生きていた。それだけで、まだやれるって思えた。

 仲間の叫びが耳に届く。誰かが名を呼ぶ。生きてる。みんな、戦ってる。

 だから、俺も。

「……みんな……今、頼む!」

 声がかすれる。けれど、届いた。

 有紗と沙耶の気配が動く。次の瞬間――

「〈貫通矢〉!」「〈一矢両断〉!」

 赤い閃光が空を裂いた。交差する二本の矢が、ラグノスの左目へ突き刺さる。

 轟音。悲鳴。巨体がよろめいた。

 ――今しかない!

「行くぞッ――〈セラフレイム〉!!」

 地を蹴った。脚力の限界まで跳躍し、剣を振りかぶる。

 焼け焦げた空気を裂きながら、高く――ラグノスの頭部を目指す。

 でも。

「オオオオオアアアアアア!!」

 やつが、咆哮と共に最後の力を振るった。

 翼の刃と爪が交差し、俺を狙って迫る。

 ――間に合わない。そう思った、その瞬間。

「卓郎おおおおおおおおおお!!」

 明の絶叫が、空を震わせた。

 飛来する“紅蓮のミスリルブレード”。それが、ラグノスの翼に突き刺さる。

 内部から炎が爆ぜ、巨体が揺らぐ。

 これだ――これが、最後の一手!

「――純子……見てろよ!」

 全力で振り抜いた。

 俺のミスリルソードが、ラグノスの額へと、真っ直ぐ突き刺さる。

 爆音。

 炎と風と破片が吹き荒れる。

 そして――

 地響きと共に、ラグノスが崩れ落ちた。

 火の粉が舞い、焼けた空気が、静けさへと変わっていく。

「……倒した……?」

 誰か――沙耶の声だったか。震えていた。

 俺はその場に膝をついた。剣を支えに、なんとか倒れずに立っている。

 息が、苦しい。でも、終わったんだ。

 明がよろめきながら近づいてくる。

「……お前が投げてくれたから、助かった……」

 やっと言えた。それだけは、言いたかった。

 有紗も、涙を浮かべながら微笑んだ。

 俺は、うつむいたまま言った。

「……でも、純子は……」

 静寂が、風と共に降りてくる。

 誰も、何も言えなかった。

 その沈黙の中で、俺は、聞いた気がした。

 誰かの声。

「……生きて」

 ――純子の声だった。

 涙が、勝手にこぼれた。

 俺は、かすれた声で笑った。

「……ああ」

 夜が近づく。空は黒く染まり、火は徐々に鎮まっていった。

 ラグノスの骸から、まだかすかに熱が立ちのぼっていた。

 それでも、炎の音はもう聞こえない。

 戦いは、終わったのだ。

 俺たちは、生き残った。だけど……一人、欠けた。

 俺はふらつく足で、ゆっくりと歩く。焼け焦げた地面を踏みしめながら、静かに、あの場所へ。

 ――純子が倒れた場所へ。

 そこには、黒く焦げた布の切れ端。弓のかけら。炭のようになった矢筒の破片。

 原型なんて、もうほとんどなかった。

 だけど、俺には分かった。ここで、あいつは……。

 誰も言葉を発さないまま、そっと後ろに立っている。

 俺はしゃがみこんで、小さな灰の塊を拾った。

「……純子」

 何を言えばよかったんだろう。

 助けられなかった。あの瞬間、守れなかった。

 胸が焼けるように痛むのに、もう痛みには慣れてしまっていた。

 代わりに、心だけが、ぽっかりと穴を開けている。

「ごめんな……」

 その言葉しか出てこなかった。

 明も、有紗も、沙耶も、誰一人口を開かない。ただ、共にうなずいてくれていた。

 風が吹く。

 熱をはらんだ風じゃない。夜の冷たい風だ。

 それが、灰をさらい、空へと舞い上げた。

 まるで――空へ還っていくみたいに。

 俺は、その風に向かって、もう一度だけ言った。

「ありがとう。……ちゃんと生きるから」

 握っていた灰を、そっと地面に戻す。

 火の中に消えた命を、ここに置いていく。

 でも、忘れない。決して。

 *

 空間が――反転するように歪んだ。

 見覚えのある現象だ。いや、脳がその異常を拒絶しようとするほど、根源的な違和感を孕んでいる。

 次の瞬間、空間の中心に、一人の少年が浮かび上がった。旧文明最後の継承者にして、再起動者リブートーーシオン。この迷宮に記録として封じられていた継承体の少女ミリアが彼のもとに歩いていく。

 ミリアとシオンが話し合い、
「なるほど……君たちは選ばれる側ではない。選ぶ側に来たわけだ」
 シオンは力なく笑った。

「ならいい。この〈五重螺旋の門〉は――君たちに明け渡すよ。未来を、継いでみせて」

 彼らは崩れ、記録に還った。すべての階層が静かに沈黙する。だが、今も微かに光を放ち続けている。

 再び空間が反転するように歪んだ。

 森の匂いが、戻ってきた。

 湿った土の香り。風にゆれる草の音。
 五重螺旋の機械の咆哮も、熱気も、もうそこにはない。

 静かだった。

 《ウツロ森の裂け目》の前、俺たちは並んで立っていた。
 足元には、あの迷宮から持ち帰った――純子の遺灰が、そっと収められている。

 誰かが言ったわけじゃない。
 だけど自然と、ここが帰る場所だと全員が分かっていた。

 純子が、かつて笑って言ったことがある。

 『死ぬなら、森の中がいいな。風が気持ちいいし、空が見えるし』

 ……なんでそんなこと覚えてるんだよ。
 ふざけた口調だったのに、今じゃ頭から離れねぇ。

 俺は、荷物の中から取り出した布を広げて、彼女の形見を並べた。
 黒く焼け焦げた弓の破片。矢筒の金具。――そして、小さな薬草袋。
 中身はもう残ってない。でも、有紗がそっと指で撫でた。

「……私、知ってる。これ、純子がいつも沙耶に持たせてたやつだよ」

「え……うん。『お守りがわり』って……」

 沙耶が涙をこらえるように唇を噛みしめた。

 明は何も言わなかった。ただ、矢筒の残骸の前にしゃがみ込んで、片手を伸ばし――

「……悪ィな、純子。お前の最期、見届けるのが……これしかできなかった」

 不器用に、矢筒のかけらを握りしめた。
 その手が小さく震えていたのを、俺は見逃さなかった。

 有紗がそっと立ち上がる。

「……少しだけ、いいかな」

 彼女は静かに呼吸を整えて、懐から一本の矢を取り出した。
 焼けていない、新しい矢――自分たちの持ち物の中から選んだ一本。

「純子。あなたの代わりに、私たちが矢を放つ。だから、心配しないで」

 そう言って、矢を手で折り、火打石で先端に火をつけた。
 小さな炎が、ぽうっと揺れる。

「さよなら、純子。ありがとう……私たちの、弓の仲間」

 その矢を、空へと放った。

 放物線を描いた炎は、夜空の向こうで静かに弧を描き、やがて暗闇に吸い込まれた。
 まるで、星になったかのように。

 俺は最後に、純子の遺灰を埋めた場所に、小さな印をつけた。
 四人の矢筒から取り外した紐を結んで、簡単な十字の標を作る。

「……じゃあな、純子」

「また、いつか」

「うん……またね」

「次も戦うときは、一緒だぜ」

 それぞれが言葉を残し、ゆっくりと背を向けた。

 帰り道は、静かだった。

 でも、どこか少しだけ――風が、やさしくなった気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚

熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。 しかし職業は最強!? 自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!? ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...