ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 城門をくぐり、石畳の道を抜けると、調査団は整然とした列を組み、王都をあとにした。
 先導するのは勇者パーティ。馬車の左右に騎士たち、後方には物資を積んだ荷車が続く。
 俺と美里愛は、そのちょうど中ほどにいた。道の両脇に伸びる草原には、露がきらめいている。

「……懐かしい、匂いがする」
 ふと、美里愛がつぶやいた。

「この辺り、来たことあるの?」
 俺が聞くと、彼女は首を振り、少しだけ笑った。

「故郷の村から王都に来るとき、通った道です。……一度しか通ってないので、あんまり覚えてないんですけど。でも、空気が似てる気がします」

 そう言って、彼女は風に揺れる野花を見やった。
 どこか、記憶をたぐっているような瞳だった。

「そのときは……怖かった?」

「はい。すごく。でも、あのときは馬車に乗って、ダルフェリアの神殿の人が優しくしてくれて……」

 彼女は、ぽつりぽつりと話してくれる。俺は黙って頷くしかできなかった。

「卓郎さんは、王都に来たとき、どうだったんですか?」

「俺? うーん……最初は、大きな街すぎて、わけ分かんなかったよな」

「ふふっ……なんか想像つきます」

「おい。そこ笑うなよ」

 そんな他愛ない会話のなかで、背後から声が飛んできた。

「おーい、青春してんなー?」
 バルドの大声に、美里愛が慌てて前を向く。

「もう、からかわないでください!」

「いやいや、見てて和むからさ! なあ、キルシュ?」

「まーね。青春ってやつは短いし貴重だよ。オレみたいにモテない斥候にはな!」

「……あれでモテないんだ」
 リディアが本から目を離さずにぼそっと言った。

「聞こえてんだけど! なあセリアさん、慰めてよ~」

「ふふ、斥候としては有能なんですけどね」

「それ慰めじゃないよねえ! 事務評価でしょう!」

 そのやり取りに、周囲からも笑いがこぼれる。
 だが、仁だけは少し前を見たまま、無言だった。俺はそっと並びかける。

「……仁さん」

「ん。……いや、ごめん。つい考えごとをしてた」

「何を?」

「……妙に引っかかるんだ。聖印庁の記録では、ミオレスに古い神殿跡があったと記されているんだよね。でも、詳細はごっそり抜けてる。まるで誰かが意図的に消したようにね」

 その言葉に、俺も息をのむ。

「記録係に聞いても、昔の地図と照合できないらしくて。もしかすると、そこには本来『存在を隠された何か』があるのかもしれない」

「『存在を隠された何か』……って、まさか」

「可能性の話だけど――古代魔術。あるいは、神に近い存在に関わるもの。そうでなければ、聖印庁が黙ってる理由がない」

 風が吹く。
 俺たちは、ふと黙りこんだ。
 その先にある〈ミオレス〉という地名が、言葉にならない重みを持っていた。

 ――そのとき。

「ちょっとー! リディア、ページめくる音で馬がビビってんだけど!」

「それは馬の訓練不足ね。私のせいじゃない」

「うわ、合理主義こわ!」

 後方でキルシュの叫びが上がり、列が少しざわつく。
 ……でも、それが妙にありがたかった。緊張しすぎていた空気が、少しだけゆるむ。

 仁は、優しいが、どこか遠くを見ているようだった。

 *

 小高い丘を越えると、霧に包まれた小さな村が姿を現した。
 石垣と木造の家々が並び、畑には夏野菜が育ち始めている。どこか懐かしさを誘う風景だった。

「……ここが、ミオレス」

 馬車の揺れが止まり、隊列が静かに村の広場に集結する。
 美里愛は、じっと村の入り口を見つめていた。

「覚えてる?」と俺が尋ねると、彼女は少し首を傾げてから、微笑んだ。

「襲わ記憶がおぼろげおぼろげですが……はい、やっぱりなんだか懐かしい。だけど、すこし胸がざわつく感じです」

 村人たちは俺たちを訝しげに見つつも、武具を帯びた騎士や神殿の装束を見て、すぐに静かに頭を下げた。

「……村長に話を通しておく。休息と調査の許可を得よう」と仁が言い、数人の騎士を連れて前に出る。

 俺たちは村の広場近くの空き家や納屋を簡易の宿舎として使わせてもらうことになった。
 斥候班は周囲の地形確認へと出発し、勇者パーティはしばしの休息に入る。

「こっち、荷物置けるよー!」
 セリアが声をかけ、俺は荷車のひとつからテントと水筒を下ろす。
 リディアはいつの間にか納屋の奥で地図を広げていた。

 一方、美里愛は村の広場を静かに歩いていた。
 花壇に咲いた白い小花の前で立ち止まり、指先で花びらをそっとなぞる。

「……ここ、昔、遊んだ気がします」
 彼女は独り言のように言った。

「記憶、少しずつ戻ってきてる?」
 俺が聞くと、美里愛は頷いた。

「うん。家の場所も、たぶんわかる。……教会に拾われる前、最後に過ごした家です」
 そう言って彼女は、村の南端のほうを指差した。

 そこには、屋根の抜けた小さな廃屋がぽつんと建っていた。

「案内してくれる?」
 俺の言葉に、美里愛は少し迷ったあとで、小さく「はい」と答えた。

 二人で向かう途中、風が畑を揺らし、遠くで鳥が鳴いた。

 廃屋は、時間の重みをそのまま残したように朽ちていた。
 扉の取っ手には、まだ子どもの手の高さにある古い縄がかかっていた。

「ここ……です」
 美里愛は、扉に手を添えたが、すぐには開けなかった。

「……帰ってきた感じ、する?」
 俺がそう尋ねると、彼女は少しだけ笑って答えた。

「……わからない。でも、来てよかったって思います」

 そのときだった。
 村のほうから、キルシュの叫び声が聞こえた。

「おーい、みんな! 村の井戸の下に、なんかおかしな空洞があるってよ!」

 俺たちは顔を見合わせた。
 仁の言っていた、『存在を隠された何か』が、そこにあるのかもしれない――。

 ミオレス調査、開始のときだった。





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