ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 ダルフェリア西方。〈黒刺狼〉の王が現れたと報告のあった、あの瘴気地帯、黒樹の森の奥地。

 俺たちは馬車で近隣の村まで移動し、そこからは徒歩で瘴気地帯へ向かっていた。

 空は曇り、風もほとんどない。ただ、空気だけが重い。
 深く肺に吸い込めば、喉の奥がざらつくような不快な感触が残る。瘴気の兆候だ。

「……やっぱり、ここ。瘴気が濃い」
 リディアが眉をひそめて、結界石をかざす。だが、石は反応しない。
 結界の力が失われたか、あるいは――何かに飲み込まれたか。

「先遣隊の痕跡は?」
 仁が尋ねると、偵察に出ていたキルシュが森の影から姿を現す。

「……見つけたが、テントも器材も残ったまま。
 人の姿は、一人もなかった。争った痕も、血痕もなし。まるで……消えたみたいだったよ」

 その言葉に、全員の顔が引き締まった。

 進むごとに、木々の根が黒く染まり、森の色が死んでいく。
 やがて突然視界が開けた。

 そして――そこには何かがいた。

「……あれは、まさか」

 黒い霧の中、一本の巨大な角がゆっくりと持ち上がる。
 多数の黒刺狼を従えたその姿は、かつて倒した〈黒刺狼〉の王に酷似していたが、明らかに異質だった。

 甲冑の一部は砕け、代わりに瘴気そのものが肉体の形を模している。その巨体が森を圧し潰し、ただの咆哮ひとつで木々がなぎ倒された――まるで災厄の化身そのものだ。

 そして、その背後に立つ人影。
 黒衣を纏い、覆面をした、例の魔族――以前よりどす黒いオーラを放っている。

「来たな、人間ども」
 霧の中から響く声は、かつて聞いたものと違った。もっと深く、もっと冷たい。
 それは、誰の心にも届くような命令のような声だった。

「封印の一つは崩れた。目標は……七つの災厄の完全復活だ。忘れるな。抗うほどに、定めは濃くなる」

「お前……何者なんだ」
 俺が剣を構えながら問うと、魔族はただ一言だけ残した。

「……災厄を従える者。〈アルデバラン〉――それが、我の名だ」
 次の瞬間、濃霧が渦を巻き、〈黒刺狼〉の王が咆哮を上げた――!

 その言葉と同時に、霧が大きく渦を巻き、〈黒刺狼〉の王が咆哮を放つ。
 空気が裂けるようなその声に、森が震えた。

「七つの災厄の完全復活が目標だって? まだ、一つしか復活させてなさそうじゃねーか。しかも完全復活とは言い難そうだな!」

 前に出た重戦士バルドが、牙を剥くように言い放つ。

「今のうちに、倒そうぜ! ここは、逃がしちゃダメなとこだよ!」

 偵察から戻った斥候のキルシュが、拳を握って声を張る。

「アルデバラン! 逃げるんじゃないわよ!」

 魔導士リディアが杖を構え、いつでも詠唱できるよう魔力を高める。

 しかし、魔族は不敵な笑みを浮かべたまま、冷ややかに告げた。

「愚かな……」

 その時だった。神官セリアが一歩前に出て、祈るように両手を掲げる。

「いつまで余裕でいられるかしら? ――《浄化の祈り》!」

 その声と同時に、柔らかな光が爆ぜるように広がった。

 《浄化の祈り》。それは、瘴気・霧・呪詛といった「闇属性の災厄」を完全に中和する大技。その代償として、使用後は本人の体力・意識が大きく消耗する。

 空気の中の黒が弾け飛び、あたりに漂っていた瘴気と霧が、洗い流されるように一掃されていく。
 悲鳴のような声があちこちから響き、〈黒刺狼〉たちがぐらりと崩れかける。
 その王もまた、肩を震わせ、咆哮を漏らすが、瘴気の身体は明らかに不安定になっていた。

「――セリア!」

 魔力の反動に耐えきれず、セリアがその場に膝をつく。
 すぐにリディアが駆け寄り、肩を支える。

「大丈夫よ……しっかりして!」

 俺は剣を突き立て、叫んだ。
「――サンクチュアリ!!」

 光が地面から広がり、聖域が展開される。
 大地を這う光は、罪を照らす裁きのように純白で、見る者の心にすら痛みを与えるほどだった。
 その内側に取り込まれた〈黒刺狼〉たちは、光に焼かれるように痙攣し、次々と黒い霧に還っていった。
 王ですら、その巨体が崩れかけ、膝をつく。

 濃霧が晴れゆく中、あの魔族だけが、静かにその場に立ち続けていた。

 サンクチュアリの光が薄れていく中、〈黒刺狼〉の王はなおも立ち上がろうと足を踏ん張っていた。
 その肉体はもはや半ば霧のように崩れ、まともな形を保てていない。
 それでも、背後にいる魔族――〈アルデバラン〉が、それを無理やりこの場につなぎ止めているのだと直感した。

「――あれだけの浄化でも、消えねぇのかよ……!」
 バルドが汗をぬぐい、苦々しく呟いた。
 彼の筋肉質な肩が大きく上下し、全力で動いたことがわかる。

「いや、弱ってる! 今ならいける、連携を――!」
 斥候キルシュが声を張り上げる。
 その目が戦場全体を鋭く見渡し、動きの鈍った〈黒刺狼の王〉の左側に隙を見つけた。

「リディア、火力を集中! バルド、そっちに回って挟む!」

「了解!」
「任せて!」

 リディアが呪文詠唱を始め、杖の先に火の輪が幾重にも浮かび上がる。
 バルドは黒い泥を蹴立て、横合いから〈黒刺狼の王〉の懐へ突っ込む。

「――焔よ、裁きをもたらせ。《フレイム・ブリンガー》!!」

 リディアの呪文が完成し、空中から火の剣が次々と降り注ぐ。
 大剣を受けた〈黒刺狼の王〉は苦悶の咆哮を上げ、瘴気の身体がさらに崩れていく。

 そこへバルドの両腕が回る。
 全身の筋肉を引き絞り、打ち下ろすのは必殺の両断突き。

「うおおおおおッ!!」

 斬撃と同時に閃光が走り、〈黒刺狼の王〉の身体が中央から裂けた。
 黒い霧が爆ぜるように噴き出し、霧はようやくその場に留まることができず、風に乗って散っていく。

「やったか……?」

 キルシュが慎重に一歩前へ出る。
 リディアも杖を下ろし、セリアの側へと駆け戻る。

 だが――。

「……滑稽だな。全力で一匹潰して、何を成したつもりだ?」
 アルデバランが一歩を踏み出してきた。
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