ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 朝飯はまだ食べていないので、腹を満たしてから《大森林》に向かおうと、俺たちはセレト都市の中央通りに並ぶ屋台を物色していた。朝日が斜めに差し込む石畳の道には、湯気を立てるパン屋や香ばしい匂いを漂わせる肉串の店、焼く音が心地よく響いている薄焼きのクレープの店などが、立ち並ぶ。

 そんな中、リーナがふと立ち止まった。

「……あの子……」

 彼女の視線の先、石壁の陰に小さな影があった。ボロボロの服を着た少年がひとり、うずくまっている。まだ七、八歳くらいだろうか。痩せ細った腕と泥にまみれた顔。じっと食べ物の匂いがする方を見ていたが、自分から近づく勇気はないようだった。

「腹、減ってるんだ……」

 リーナの声は、どこか切なげだった。

 俺が何も言わないうちに、彼女は小さなパン屋の屋台に駆け寄り、焼きたての肉入りパンを二つと、甘く煮た果実のペーストが挟まれたパンを一つ、手早く買い求めた。慣れない手つきで袋を持ち直し、恐る恐る少年に近づく。

「……あの、よかったら……これ、食べて?」

 少年は一瞬、ぎょっとしたようにリーナを見上げた。だが次の瞬間、彼女の優しい笑みと、漂うパンの香りに、彼の瞳がわずかに潤んだ。

「……もらっていいの……?」

「うん。お腹、すいてたでしょ?」

 少年はこくりと小さく頷き、震える手でパンを受け取った。そして、一口、また一口と夢中でかじりついた。小さな体だが、よほど空腹だったのか、みるみるパンは小さくなる。目の前のパンを食べることに必死の様子だった。

 リーナはしゃがんでその姿をじっと見守っていたが、しばらくしてそっと立ち上がり、俺の方に戻ってきた。

「昔、私もああだったんですよ。その時冒険者のお姉さんにもらったパンの味、今でもはっきり覚えてます」

「じゃあ、リーナは、その冒険者の気持ちに応えてるんだね。少しでも飢えた子供を減らしたいって」

「……助けても、全部は救えないって、分かってるんですけど……目の前にいる子くらい、少しだけでも……ね?」

 リーナの表情は、笑っていた。でも、その瞳の奥には揺れるものがあった。

 俺は小さく頷く。

「そうだな。全部は無理でも――少しずつでいいんだ。そういう気持ちが、大事なんだよ」

 市場の喧騒が少し遠くに感じられた。

 やがて少年は顔を上げ、パンを握りしめながら小さな声で「ありがとう」と呟いた。リーナはにこりと笑って手を振った。

 ふたりで歩き出す。今日から始まる冒険の道のりは、決して甘くはない。だが、その前に見た小さな優しさが、俺たちの背中をそっと押してくれているような気がした。

「よし、次は俺たちの朝飯だな。リーナ、何食べたい?」

「えっと……さっきの肉串、ちょっと気になってたんです」

「なら決まりだ。十分エネルギーを補給して、しっかり動けるようにしておこう」

 笑顔を交わしながら、俺たちは再び屋台の並ぶ道へと足を向けた。

 朝食を軽く済ませた俺たちは、中央市場を抜け、西の門へと足を向けた。セレト都市の外縁に位置するその門は、冒険者や商人たちが頻繁に出入りする主要な出入口のひとつで、朝から多くの人々が行き交っていた。

 門兵が俺たちのギルドカードを確認し、軽く会釈する。「気をつけて行けよ」と声をかけられ、俺は「ありがとう」と短く返して門をくぐる。

 門を出た途端、街の喧騒から一転、周囲は静寂と草木の香りに包まれる。整備された石畳の道はやがて土の小道へと変わり、その先には緩やかな丘陵地帯が広がっていた。遠くには濃い緑の塊――《大森林》が、まるで大地に沈む雲のように、静かに横たわっている。

 リーナは小道の先を見つめ、緊張したように息を呑んだ。

「……あれが《大森林》……」

「そうだ。入り口までは歩いて半刻もかからないだろうな」

 道中には、野生の花々がちらほらと咲き、草の合間から小さな昆虫や野ウサギが顔を覗かせていた。穏やかな景色だが、その先に広がる森が持つ危険を考えると、気を抜くわけにはいかない。

「魔獣が出るのは、もっと奥のほうですか?」

「入口付近にも小型や中型の魔獣は出る。だが、手ごわい魔獣がいるのは、もっと深部だろうな」

 俺は歩きながら、リーナの装備と背負い袋を横目で確認する。彼女はまだ歩き慣れていない様子だが、足取りはしっかりしていた。きっと、あの子供にパンを渡したときと同じように、強くなろうと決意しているのだろう。

 しばらくして、大地に根を張る巨大な木々が目前に迫ってきた。幹の太さは大人が三人がかりで抱えられないほど。高くそびえる枝葉が陽光を遮り、森の入り口はすでに薄暗い。冷気が足元から立ちのぼり、まるで別世界への門を前にしているようだった。

「ここが《大森林》の入り口だ」

 俺は立ち止まり、リーナに振り返る。

「ここから先は、命のやり取りになる。何があっても、俺の声だけは聞き逃すな」

 リーナは唇を結び、小さく頷いた。その目に宿るのは、怯えと、覚悟。

「はい……必ず」

 俺は軽く杖を振り、探索用の簡易魔法《魔力感知》を周囲に展開した。魔力の膜が空気に波紋を作りながら広がっていく。

「異常反応なし。今のところ安全だ」

 俺は一歩、森の中へと足を踏み入れた。リーナもすぐに続く。足元には落ち葉が敷き詰められ、歩くたびにかさりと音が鳴る。その音すら、森の中では不自然に大きく感じられる。

 木漏れ日がわずかに射し込む薄暗い森の中、鳥の鳴き声すらほとんど聞こえない。

 静寂。だが、その静けさこそが、この森の危うさを物語っている。

 これより先、魔獣の棲む領域。《大森林》の探索が、いま始まる。
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