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しおりを挟む「ポータルシフト!」
再封印のために俺たちは瞬間移動で 《封印遺跡》の入り口に再び飛んだ。そのメンバーは、俺、リーナ、聖女・由里、勇者パーティ( 勇者・仁、魔術師・リディア、重戦士・バルド、神官・セリア、斥候兼情報屋・キルシュ)達の合計8人だ。
「ここが《封印遺跡》の入り口かい? 最深部に転移してくれたら面倒ないのに」
斥候兼情報屋のキルシュが軽口をたたく。
「遺跡の結界に阻まれて中には瞬間移動できないんだ。すまんな」
「キルシュ。卓郎くんの魔法がなければ何日も馬車移動だったんだぞ。贅沢言うなよ!」
「はいはい。仁の言う通りだ。すまなかったな。言い過ぎというか、無理を言ってすまなかったよ」
「本当にごめんなさいね。こいつは、ホントにわがままだから」
「うるせーな。セリア。ちょっと思ってたことが口に出ちまっただけだろ」
「それがわがままだっていうのよ」
「キルシュ。セリアに口げんかで勝てるわけねーから、そのへんにしとけ」
バルドの言葉にキルシュが黙った。
「俺も最深部に転移したかったからキルシュの気持ちはよくわかるよ」
「だろ。卓郎はほんとにいい奴だな。じゃ、俺は先行して様子見てくる」
キルシュが軽やかに身を沈め、遺跡の入口の闇に消える。
俺たちはキルシュに続いて慎重に内部に踏み入った。
「……ここ、やっぱり空気が違うね。瘴気の反応は微弱。でも……下層部から、時折、何かが這い上がってくるような……」
リディアがそっと呟く。彼女の杖の先に魔力の灯がともると、重たい石壁に光と影が揺れた。
「ここに近づくだけで喉がつまる……聖属性の障壁、徐々に削られてるわね」
セリアが額に汗をにじませながら、聖印を両手で握る。
「リーナ、大丈夫か?」
「はい。私は大丈夫。この前もきてますし」
リーナは俺の顔をのぞき込み、小さく微笑んだ。気丈な笑顔だが、緊張は隠しきれていない。
「前より瘴気は強いから、苦しくなったら早く言えよ」
そう応え、俺たちは階段を下りていく。
「なあ由里」
先頭を歩きながら、勇者・仁が振り返った。
「この封印、本当に維持できるんだよな? 万が一にも失敗したら、ヤバいんだろ?」
「……ええ、ヤバいどころじゃないわ。中に封じられている存在が完全に目覚めれば……この大陸の三分の一が死に絶える、って予知夢で出たの。だから、失敗は許されないの」
由里は穏やかな声で言ったが、その目は冷たく澄んでいた。
「……予知夢、か」
仁が眉をひそめる。
「やっぱそういう話になってくるんだな……ま、俺の剣が届く範囲なら、なんとかしてやるよ」
「その意気よ、勇者様」
リディアがからかうように微笑んだ。
「待て、音だ」
先行していたキルシュが戻ってきた。
「内部は静かだが……石棺の間の封印具が、さっきより明確に脈動してる。何かが目覚めかけてるって感じだ」
「時間がない……!」
由里が口元を引き結ぶ。
「最深部へ急ぎましょう。刻印と儀式の準備は現地で整えます」
「了解。バルド、俺と一緒に先行するぞ。リディアとセリアは後衛、中央は由里様と卓郎、キルシュは周囲監視。リーナは卓郎と一緒に由里様を守ってくれ」
勇者・仁の指示が飛ぶ。
「うん!」
「わかった」
「任された!」
俺たち八人は再封印の刻を迎えるべく、再び《巨大な石棺》の眠る最奥──あの禍々しく静かな広間へと急いだ。
最奥の扉をくぐった瞬間、重苦しい魔力が肌を刺した。リーナはその重圧に顔を歪める。
「サンクチュアリ!」
俺の作った光の結界があたりを覆い、瘴気を浄化し魔力の重圧をはね返す。
「……! これは……」
リディアが眉をひそめ、杖を強く握りしめる。
闇に包まれた石室の中央、禍々しき《巨大な石棺》が静かにたたずんでいた。だが、その周囲を取り巻く封印具――銀の錠前のいくつかが既に光を失い、淡く燻る瘴気が漏れ出している。
「脈動してる……封印の核が、完全に起きかけてる……!」
セリアが震える声で言い、聖印を構える。
「封印の再接続はまだ可能……っ、急ぎます!」
由里が聖印を掲げ、儀式魔法陣の刻印を床に描き始めた。魔力が空間を震わせ、床の石に淡く輝く文様が走っていく。
「俺とバルドが前面を警戒! 何が来ても由里様と儀式を守り切る!」
仁が剣を抜き、鋭い眼差しで空間を見渡す。
「後衛に瘴気の波がくる、魔力の壁を!」
リディアがすぐに応じ、風と光の混合障壁を背後に展開した。
「セリア、聖属性を重ねろ!」
「了解!」
セリアが聖なる祈りを紡ぎ、重ねるように清浄な光が辺りに広がる。
由里の魔力が刻印に流れ込み、石棺の封印具が一つ、二つと光を取り戻していく。しかし――
ズズズ……ッ!
石棺の下部から、黒い粘液のような影が漏れ出した。
「来るぞ……!」
キルシュの警告と同時に、石棺の裏側から《それ》が現れた。
――《封印獣》。
形は流動的な影、だがその中に巨大な獣の輪郭があった。触手のように蠢く影が四方に伸び、赤黒い瞳が複数、こちらを睨んでいる。
「くっ、やっぱり……中の本体が目覚めかけてる! これは封印の守護機構じゃない、直接的な意志の発露よ!」
由里が叫んだ。
「問答無用だな!」
仁が吼え、正面から斬りかかる。
「バルド! 俺の左側!」
「おう!」
バルドが盾を構え、影の触手を叩き払う。
「ウィンドランス!」
リディアが風の槍を放ち、影の一部を吹き飛ばすが、すぐに黒煙のように再生していく。
「効きが薄い……通常の魔法じゃ分が悪い!」
「でも止めなきゃ!」
リーナが剣を握りしめ、由里の前へ立ちはだかる。
「卓郎くん! やれるか!?」
仁が叫ぶ。
「やってみる!」
俺は剣に精錬銀の魔力を集中させ、光と火の魔法を重ねる。
「セラフレイム!」
ミスリルソードが青白く輝き、燃えるような刃が影を裂く。
キエエエエエ……ッ!
影が高く悲鳴を上げ、怯むように後退した。
「今のうちに、由里様!」
「ええ、最後の封印に魔力を流し込む……!」
由里が祈りの詠唱を強め、刻印の輝きが天井へと昇っていく。
その瞬間――
ズアアアアアアン!!
封印獣の中心にあった核が、怒りの咆哮を放った。
「リーナ、来るぞ!」
「はい、卓郎さん!」
二人で前へ飛び出し、迫る触手を斬り裂く。
「聖印、展開! 浄化の光よ――聖域《サンクタ・レグナ》!」
セリアの祈りとともに、聖なるドーム状の光が周囲を包み、瘴気の動きを弱める。
「刻印、接続完了! 魔力、注入……!」
由里の全身が金色に輝いた瞬間、石棺の封印具すべてが閃光を放った。
「――封印、再結界!!」
ドォォン――ッ!!
神聖な衝撃波が部屋全体を包み、封印獣の影が裂け、霧のように崩れ落ちていく。赤黒い瞳が一つ、また一つと消えてゆき、最後に低く呻くような音を残して、影は完全に霧散した。
再び、静寂が訪れた。
「……成功、したの?」
リーナが息を詰めて問いかける。
「ええ。これで、封印は安定したわ。少なくとも、あと百年は」
由里がほっと息をついた。
「……よかった」
俺は剣を収め、仲間たちの顔を見る。皆、疲労と達成感の入り混じった表情だった。
「なあ、卓郎くん」
仁がふっと笑いかけてくる。
「あのとき、『俺も最深部に転移したかった』って言ってたけど……いきなり最深部は危険だったかもしれないね」
「……本当だね、いきなりここに飛んでたらやばかったかも」
俺の苦笑に全員が笑った。
こうして、《封印遺跡》の危機は回避された。
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