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しおりを挟む翌朝、俺は農地に雨を降らせていた。目を覚ましたリーナが扉を開けて腕を伸ばし大きな伸びをする。朝日が彼女を照らし眩しそうな顔をする。
「おはよう。リーナ」
「おはよう。卓郎さん」
「Cランク昇格おめでとう」
「へへ、ありがとう。卓郎さん。朝から水撒きごくろうさまです」
「はは、レインコールという魔法で雨を降らせるだけだから、楽なものさ」
「雨の範囲や勢いも、きちんとコントロールするんですよね。むずかしそう」
「きちんとっていうほどじゃないよ。適当にコントロールしてるだけ。雨脚が強すぎたり、余分なとこまで降らさないようにするくらいはたいしたことじゃないさ。リーナだってやればできるよ」
「わたし、そもそもレインコールを使えないし」
「使える魔法を増やしたければ『魔術師ギルド』に通うといいよ。いろんな修行がうけられる」
「その前に授業料を稼がなくちゃなりませんね」
「そうだな。今日も冒険者ギルドにいくのかい?」
「それでいいなら、お願いします」
「じゃあ、水を撒き終わったらギルドに飛ぼう」
「朝食は何にしますか?」
「お任せで」
リーナは頷くと台所に向かった。今ではリーナが朝食を作ることが多い。
雨雲を消して卓郎が戻ってきたときにはサラダと目玉焼き、バターの塗られたトーストが用意されていた。
朝食をとった後、俺達二人は瞬間転移でギルドに飛んだ。
「いい依頼、なにかないかな……」
掲示板の中央に貼られた依頼書の数々。その内容には「山岳地帯での魔石鉱採掘の護衛」「外縁部に出現した変異種の討伐」「魔獣の巣近くでの珍品採取」など、いずれも命の保証がないような文言が並ぶ。
だが、ひとつの依頼に、リーナの視線が吸い寄せられた。
「……《星露草の採取》?」
それは、極めて稀少な薬草を指定時間内に採取するという依頼だった。報酬額は1株金貨20枚。採取とは思えない高額報酬。それもそのはず、草は《エイル断層帯》という高魔力地帯に生えるため、周辺には中型以上の魔獣が常駐する。
「依頼主は錬金術士。納品期限は明日夜……リルドラの精製期限に間に合わせるつもりか」
《リルドラ》は高等錬金術士が調合する高位魔法薬で、高級回復薬、魔力増幅剤、毒解除などの効力がある。その主成分の《星露草》は、月光と高魔力地帯の霧を同時に浴びたときだけ魔力を蓄えるが、その魔力は非常に不安定で、収穫から24時間以内に錬金処理をしなければ、消えてしまう。
そのため、依頼には「期限付きの素材採取+即時納品」が求められる高難度の任務になるのだ。
俺が内容を読み上げると、リーナは真剣な目でうなずいた。
「行きます。星露草、取りに」
「そう来ると思った。……ただし、相手は一筋縄じゃいかないぞ。エイル断層帯は地脈が荒れてて、風も魔力も読みにくいし、中型魔獣がうろついてる」
「大丈夫です。……怖くないわけじゃないけど、やってみたいんです。せっかくCランクになったんだから、私なりに挑戦してみたい」
その瞳は、もう昔の彼女ではなかった。
「わかった。俺は後方支援に徹する。リーナは前に出て、主に採取と索敵。それでどうだ?」
「了解です!」
受付に依頼書を持っていくと、職員のマルスが眼鏡の奥の目を細めた。
「この依頼を選ぶとは……昇格したばかりとは思えませんね。あそこは《クラック・トラッパー》っていう地中型魔獣が棲みついてますよ。しかも複数」
「それも承知です。準備は、怠りません」
「……頼もしいですね。なら、これを持って行ってください。この容器の中に《星露草》を入れておくと《星露草》の魔力が消えにくくなるそうです。時間にして12時間。限界時間が36時間に延びるということです。無事の帰還をお祈りします。もし採取が困難になったら、撤退も選択肢に」
「はいっ!」
ギルドを出ると、リーナは空を見上げ、深く息を吸い込んだ。
高難度、短納期、高報酬。そして敵は、潜伏と奇襲を得意とする地中魔獣。
これが、Cランクの世界。
リーナの初依頼は、もはや仕事ではなく、試練だった。
だが俺たちは、瞬間移動で移動時間が短縮される分、納品までの捜索時間は大きく増える。大丈夫だろう。
「さあ――行こうか、《エイル断層帯》へ」
「はい、卓郎さん!」
俺たちは《姫の宮都市》冒険者ギルド中央支部を出ると《エイル断層帯》に向かうため、辻馬車をひろった。ここから《エイル断層帯》近くまで馬車で4時間、そこから歩いて断層帯まで30分。断層帯銃を捜し歩いて《星露草》を捜す時間は十分ある。
「空でも飛べたら早いのに……」
リーナが外を眺めながらつぶやいた。
俺は《ホバームービング》で飛べないこともないが、速度には自信がないし、《ホバームービング》と《ブリンクステップ》の合わせ技では、面倒くさいし、そもそもリーナは飛べない。
高速で飛ぶ魔法を覚えて、俺だけが作為に現着し、ポータルシフトで迎えに来るとかなら、まあ……ありかな。
「帰りは瞬間転移で帰って来れるだけ、楽してるんだから贅沢言わないの」
俺は、リーナの頭を軽くこづく。
「はいはい。すみません。贅沢でした。でも魔法って凄いですよね。瞬間転移に慣れちゃった自分が怖いです」
「魔法は確かに凄い。だけど、俺の魔法なんて、決して万能ってわけじゃないな。ましてや、魔法の深淵を極めたわけでもない。高速で飛ぶ魔法をでも覚えようかあ」
「あ、それ、私も覚えたいけど、適性ないですよね?」
「風魔法にそういうのないか、調べてみよう。風魔法だったら適性あるだろう」
「はい。あったらいいな!」
「たぶん風魔法だと思うなぁ。魔術師ギルドに行ってみようぜ!」
俺自身は百点ポイントで探せば覚えられそうだが、リーナはギルドで習うしかない。二人で一緒に飛べたらいいなぁ。俺だけできて、お姫様抱っこして飛ぶのは疲れそうで遠慮したい。
そうこうしているうちに、俺達をのせた馬車は止まり、《エイル断層帯》に向かって歩き出した。
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