ダメスキル『百点カード』でチート生活・ポイカツ極めて無双する。

米糠

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 案内された集落は、森の中に溶け込むように作られていた。
 高く伸びた樹々の枝や幹を利用し、木の上にも住居が築かれている。
 そこかしこに灯る淡い光は、ランプではなく、植物自体が発光しているようだった。

「……綺麗ですね」
 リーナが小声で呟く。戦闘の緊張がほどけたせいか、声には少し柔らかさが戻っていた。

「外の霧とは別世界だな」
 俺は剣を収めて案内役のエルフに向き直る。
「礼を言う。助かった」

「礼には及ばぬ。我らも久しく外の者を迎えてはいないが……子供たちを危険に晒すわけにもいかぬ」
 先頭を歩く長耳の男は振り返り、俺たちをまっすぐに見据えた。
「だが、森は今、異常だ。おぬしらも気を抜くな」

 なるほど、森が殺伐としているのは、このエルフ族のせいではないらしい。  
 村を守るために魔獣を周りに配しているわけではなく、彼らにとっても望まぬ事態ということか。

 木製の門をくぐると、集落の中央に広場があり、その奥に大きなテントが張られていた。
 そこから現れたのは、淡い金髪を背まで垂らした女性エルフ――おそらく族長だろう。
 年齢不詳だが老人には見えない。美しいその瞳には森そのもののような深い緑が宿っていた。

「お前たちが人間の冒険者か。……《霧深き森》を越えてきたとは驚きだ」
 女性はゆっくりと視線を子供たちへ向ける。
「その子が、アリアか。……お前は《ルシアの里》の血を引いているのだな?」

「……はい」
 アリアが小さく頷くと、女性は静かに息を吐いた。

「事情は分からぬが、この森はお前たちを容易には通さぬだろう。《霧》の奥に、かつて眠っていたはずの魔獣たちが目を覚ましている」

 その言葉に、リーナが眉を寄せる。
「……昨夜、村の外で妙な影を見ました。あれも関係が?」

 女性は短く頷いた。
「それは《幽冥獣(ヴァルガ)》だ。霧を喰らい、闇と混じり合って姿を変える高位魔獣……姿を見せた時点で、すでにその周囲は奴の領域だ」

「領域……?」
 俺は眉をひそめる。

「そう。奴の霧に包まれた場所では、音も、匂いも、方角も、正しく感じ取れなくなる。獲物は自分から迷い込み、やがて気づかぬうちに食われる」
 女性の声にはわずかな怒りが混じっていた。
「今の《霧深き森》は、ほぼすべてが奴の巣だと言っていい」

 リーナは唇を引き結ぶ。
「じゃあ、私たちは……もう、目をつけられてるってことですか」

「おそらく、その通りだ。昨夜見たというなら、…………確実にだな」

 冷たい沈黙が広場を支配した。
 カイが俺の袖をそっと引く。
「……ほんとに、勝てるの?」

「勝つさ」
 俺は短く、しかしキッパリと答える。初見の、しかも強さの分からぬ魔獣を相手に、自信があるわけではないが、子供に心配させるわけにはいかない。
 そのために剣を握っているのだから。

「避けることはできないのか?」
 俺の問いに、族長と思われるエルフの女性は首を横に振った。
「避けられぬ。むしろ、討たねばならぬだろう。ヴァルガを倒さぬ限り、この森は行く者を拒み続ける。我らのためにも、《幽冥獣(ヴァルガ)》は討ってくれ」

 俺は、小さく頷いた。

 その夜、俺たちは《セレノの里》で休息を取った。
 だが、眠りにつく直前――魔力感知に、あの嫌な気配が引っかかった。

 霧の外、揺らめく白の中に、二つの蒼い光点が浮かんでいた。
 それは、まるで人ならぬ捕食者の目のように、静かに、確実にこちらを射抜いていた。

 翌朝。
 まだ陽も昇り切らぬうちに、俺とリーナは《セレノの里》の外に立っていた。
 空気は冷え、森からは低く唸るような風音が聞こえてくる。

「……来るな」
 魔力感知に、あの粘りつくような気配が引っかかる。
 昨日より近い――いや、確実に俺たちを狙っている。

「リーナ、準備は」
「いつでも。今日は全力で行きますよ」
 彼女は杖の先に淡い風の魔力を集める。

 霧が動いた。
 森の影が伸び、形を変え――やがて、背丈三メートルを超える黒い獣の輪郭が浮かび上がる。
 四肢は異様に長く、毛皮は煙のように揺らめき、顔は仮面めいた白骨で覆われていた。
 蒼白の双眸が俺たちを見下ろす。

「――《幽冥獣(ヴァルガ)》」
 リーナの声が震える。
 だが、俺は踏み込む。

「影走り!」
 視界が霧と影で揺れる中、地面を滑るように駆け抜け、ヴァルガの死角へ回り込む。

「《ウォーターショット》!」
 リーナの水弾が霧を切り裂き、獣の前肢を濡らす。
 次の瞬間、俺の斬撃が水膜を割りながら走った。
「鋼壁斬!」
 金属を叩き割る一撃がヴァルガの爪を弾き飛ばす。

 しかし、獣は形を崩し、霧となって俺の背後に回る。
 気配察知が警鐘を鳴らす――
「完全見切り!」
 反射的に振り返り、斬光断を叩き込む。
 閃光が霧を裂き、ヴァルガの右肩を切り飛ばした……はずだった。

 だが、欠けた肩は瞬く間に霧で再生する。

「ちっ、霧ごと断たないと意味がないか!」
「じゃあ――やります、《ウィンド》!」
 リーナの一陣の風が霧を吹き払い、一瞬だけヴァルガの黒い肉体が露わになる。

「今だ! 終天の一閃ッ!」
 光を纏った大剣の斬撃が、天地を裂くように獣の胴を薙ぐ。
 轟音と共に、ヴァルガの体が半ばまで断ち切られ、霧が四散する。

 だが、まだ完全には消えない。
 蒼い目だけが霧の中で揺らめき、なおもこちらを狙っていた。

「次で仕留めます!」
「任せた! ――セラフレイム!」
 俺の剣に光火が走り、霧そのものを焼き払う白炎が燃え広がる。
 同時に、リーナが詠唱を終える。

「――《ウィンドカッター》!!」
 炎に包まれた獣の核を、鋭い風刃が切り裂く。
 霧は悲鳴のような音を立て、蒼白の目が弾けるように消えた。

 残ったのは、焼け焦げた黒い毛の欠片と、冷たく湿った空気だけだった。

「……何処に消えたの?」
「いや、奴の核は完全に砕けた。リーナの魔法の威力、かなり上がってきたな。 ほら、これがヴァルガの魔石だ。これで、森は少しは静かになる」

 俺は剣を納め、リーナと視線を交わす。
 彼女の額には汗が滲んでいたが、その瞳はまだ戦いの熱を帯びていた。
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