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27 煤かぶり姫と異国の皇子
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***
エドワードと付き合い始めて1ヶ月という月日が流れた。
思ったよりも充実した日々は、並外れた幸福と共にいつか来る別れへの寂しさを早くもベルティアに抱かせていた。
「明日から1ヶ月、留学生が来るらしいよ」
だから、週末をいつも通り共に過ごす中で言われたエドワードからの言葉も、自分には関係ないと聞き飛ばしていた。
「西の国ラサール帝国から来た第2皇子シャルルだ」
そう、関係ないと思っていたのだ。
この時までは———、
漆黒の腰まで伸びた艶やかなストレートヘア、褐色の肌、そして、全てを見通すかのような透き通るアメジストの瞳。
他人の空似というには、あまりにもベルティアとシャルルはよく似ていた。
心臓がドクンと嫌な音を立てた。
シャルルから向けられる驚愕の表情、エドワードの見開かれた向日葵の瞳。
そして、集まる教室中の視線。
ベルティアの母は旅の踊り子。
遠い異国の地からやってきた旅の踊り子。
美しい顔立ちとたっぷりの色気を纏う、異国の踊り子。
気高い心と深い教養、そして優美な所作を容易くこなす、旅一座の誇る高嶺の花。
西の国では、この国ほど学問を大切にはしていない。
学問を学べるのは、本来、一定階級以上の身分かつ男のみ。
女が学問を学ぶことの例外はただひとつ。
異国に政略結婚の駒として利用される“王女”であること。
今まで、何度も疑問に思ったことはあった。
何故、母の遺した手記はいくつもの言語を行き来しているのか。
何故、戦に出る父を屋敷から女主人として振る舞うことができたのか。
答えはひとつしかない。
ベルティアの母は、———ラサール帝国の皇女だ。
昼休み、ベルティアは逃げるようにエドワードを引き連れ、人気のない教室に入った。
未だにベルティアの心は揺れ動き続けている。
予想が正解でも不正解でも、この先が予測できないのだ。
西の国サラール帝国は閉鎖的な国家であり、隣国でもない本国にはあまり情報が入ってこない。
故に、ベルティアの手元には現状を正しく理解することができるほどの手札が揃っていないのだ。
「………ティア」
いつからか呼ばれるようになった彼だけに許した愛称に、心配の色が宿っている。
「エドさま………、わたくしは、触らぬ神に祟り無しだと思っておりますの。危険地帯に足を突っ込むから、危ない目に遭うのだと」
「………虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うよ。危険ばかりに目を向ければ、何も成果は得られないし、何も情報を持っていなければ、それはそれで不利な状況に陥る可能性がグッと上がる」
深く思い沈黙。
ベルティアはゆっくり顔を上げた。
「………もう少し考えてから動こうと思います」
「母上に社交界の情報を集めてもらっておくよ。恋多き女が異国の皇子にハニトラを仕掛けるために情報を集める………、自然な流れだろ?」
エドワードの元気付けるような笑みに、ゆっくり優しく握ってくる美しい手に、頭を撫でる優しい手に、ベルティアは申し訳なさが募る。
けれど、お願いしないわけにはいかなかった。
ベルティアには社交界に味方なんていないから。
いつもなら社交界での評価なんて何とも思わないが、今この瞬間だけは、己の不甲斐なさが、歯痒く、悔しく、面目なく感じられたのだった。
エドワードと付き合い始めて1ヶ月という月日が流れた。
思ったよりも充実した日々は、並外れた幸福と共にいつか来る別れへの寂しさを早くもベルティアに抱かせていた。
「明日から1ヶ月、留学生が来るらしいよ」
だから、週末をいつも通り共に過ごす中で言われたエドワードからの言葉も、自分には関係ないと聞き飛ばしていた。
「西の国ラサール帝国から来た第2皇子シャルルだ」
そう、関係ないと思っていたのだ。
この時までは———、
漆黒の腰まで伸びた艶やかなストレートヘア、褐色の肌、そして、全てを見通すかのような透き通るアメジストの瞳。
他人の空似というには、あまりにもベルティアとシャルルはよく似ていた。
心臓がドクンと嫌な音を立てた。
シャルルから向けられる驚愕の表情、エドワードの見開かれた向日葵の瞳。
そして、集まる教室中の視線。
ベルティアの母は旅の踊り子。
遠い異国の地からやってきた旅の踊り子。
美しい顔立ちとたっぷりの色気を纏う、異国の踊り子。
気高い心と深い教養、そして優美な所作を容易くこなす、旅一座の誇る高嶺の花。
西の国では、この国ほど学問を大切にはしていない。
学問を学べるのは、本来、一定階級以上の身分かつ男のみ。
女が学問を学ぶことの例外はただひとつ。
異国に政略結婚の駒として利用される“王女”であること。
今まで、何度も疑問に思ったことはあった。
何故、母の遺した手記はいくつもの言語を行き来しているのか。
何故、戦に出る父を屋敷から女主人として振る舞うことができたのか。
答えはひとつしかない。
ベルティアの母は、———ラサール帝国の皇女だ。
昼休み、ベルティアは逃げるようにエドワードを引き連れ、人気のない教室に入った。
未だにベルティアの心は揺れ動き続けている。
予想が正解でも不正解でも、この先が予測できないのだ。
西の国サラール帝国は閉鎖的な国家であり、隣国でもない本国にはあまり情報が入ってこない。
故に、ベルティアの手元には現状を正しく理解することができるほどの手札が揃っていないのだ。
「………ティア」
いつからか呼ばれるようになった彼だけに許した愛称に、心配の色が宿っている。
「エドさま………、わたくしは、触らぬ神に祟り無しだと思っておりますの。危険地帯に足を突っ込むから、危ない目に遭うのだと」
「………虎穴に入らずんば虎子を得ずとも言うよ。危険ばかりに目を向ければ、何も成果は得られないし、何も情報を持っていなければ、それはそれで不利な状況に陥る可能性がグッと上がる」
深く思い沈黙。
ベルティアはゆっくり顔を上げた。
「………もう少し考えてから動こうと思います」
「母上に社交界の情報を集めてもらっておくよ。恋多き女が異国の皇子にハニトラを仕掛けるために情報を集める………、自然な流れだろ?」
エドワードの元気付けるような笑みに、ゆっくり優しく握ってくる美しい手に、頭を撫でる優しい手に、ベルティアは申し訳なさが募る。
けれど、お願いしないわけにはいかなかった。
ベルティアには社交界に味方なんていないから。
いつもなら社交界での評価なんて何とも思わないが、今この瞬間だけは、己の不甲斐なさが、歯痒く、悔しく、面目なく感じられたのだった。
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