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萬魔の王
1.
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ナークが意識を取り戻した時。
彼は自分の置かれている状況をすぐには理解できなかった。
口には、顎がそれ以上開かないほど太い筒のようなものを突っ込まれているらしく、舌どころか顔さえ動かせない。そのために前を見る事しかできない視界は、どれほど目を凝らしても暗闇しか映さない。幸いなのは、下を向いた状態で動きを固定されており、唾で窒息する心配をしなくてもいい事くらいだろうか。
物音もせず。真っ暗な闇が広がっているだけの状況に、すっと背筋が寒くなる。
(動けない…)
少しでも解る事がないか、膝を付いた前かがみの姿勢から体を動かそうとしてみる。だが、背に回された状態で両手首が、さらに二の腕を含む上半身もがっちりと固定されていた。肩幅に開かされている膝も閉じれず、足首を回すこともできない。念の入った事に腰周りさえ太い縄で縛られているようだ。
(なんでこんな事に)
溜息を吐こうとして、細く呼吸する事しかできない現状を思い出す。仕方なく心中で溜息を吐いた。
「んぅ…」
意識を取り戻したもののどうすることもできない状況に困惑していると、不思議なことに口の中の筒が甘い味へ変わった。味を感じると、じわりと唾液の分泌が増え、筒と口の端から漏れていく。
(何だろうこれ、本当に、どういう…)
どうしようもなく、筒の甘い味を感じていると、不意に眠りに落ちる瞬間のような落下感に似たものが襲った。開けていても何も見えてはいなかったが、それでも開いていた瞼が閉じる。
「…ぅ?」
彼にとってはほんの一瞬の出来事だった。
だが、次に気が付くと、彼は下を向いていたはずの自分の頭が上を向いていて、手ではないと思われるが硬いわけでもない何かに後頭部を支えられ、口の中どころか喉の奥へ何かが入り込んでいる事に気付く。
(あ…れ?)
気付きはしたが、どうするべきなのかが解らない。思考がまとまらず、ぼうっとしている。気を抜くと、いつの間にか服を着ていない事も、四肢を拘束している縄の存在すら、曖昧になった。
(なん、だろう………これ?)
何度も同じ事を考えている気がするが、気のせいかもしれない。そんな疑問に襲われながらもなんとか体の状況を確認しようと努力してみるが、体は全く動かせない。喉奥に何かが通っているのに、呼吸は問題なくできていた。それどころか、えずくこともなく。痛みすら感じられない。
「っ!」
これが現実なのか本当に目を覚ましているのか、ぼやけたはっきりしない感覚を破るように、不意に後孔に痛みに近い衝撃を感じた。頭を支えているのと同じ、硬いわけではないが人の手指とも思えない何かが中に潜り込んでくる。
上手く働かない頭でも、その事実に対する嫌悪感と忌避感は強烈で、彼は必死に身を捩ろうとした。だが、当然体を拘束する縄のせいでまともに動かせない。
(気持ち悪い…なんだこれ、なんで…)
ずるずると、その細い何かは彼の感情などお構いなしに数が増えていく。
(気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い…)
確かにひりりと焼け付く様な痛みを訴えたはずの粘膜は、次第に感覚を鈍らせ、その内にただ何かが中で動いているという感覚しか解らなくなっていった。
突然の痛みに一度ははっきりしたと思った意識も、またぼんやりしたものに変わっていく。
ぐちゅりぐちゅりと耳に粘液の音が届くが、もうその音が本当に聞こえているのかの確信も持てなくなった。
(あ…あぁ………)
時間を計る物もない中、おかしくなっている感覚では、はっきりとした時間は解らない。ただ、長い時間だ。彼がもう、頭の中でさえ言葉を紡げなくなるほどの。
(あぁ…)
当然ながら、彼は自分の状況を全く理解できていなかった。ただ、嫌だ帰りたい、とそれだけは、ぼんやりした中でもどこかで確かにあるのだ。生理現象ではなく流れる涙には確かにその思いが滲んでいる。
(うぁ………)
だが、もう彼には自分の状況を打開しようとするような思考は残っていない。
真っ暗な闇の中で、体のどこにも力を入れられずに、されるがままになっている。縄だ、あるいは何か、と考えている無数の触手に、体を拘束され、固定された姿勢を維持させられ続けている。今は四肢を折った状態で俯せに吊るされているような状態だ。
彼の口腔からずるりと触手が引き抜かれ、唾液とは思えない量の粘液が溢れる。その腹は苦しそうに膨れ上がっていた。後孔からも粘度の高い液が糸を引きながら触手が引き抜かれたが、もう、それも彼には理解できない。
ゆっくりと、力ない体を床に横たえられ、彼の体から触手が全て退いていく。伏せた状態で横たえられたせいで、腹部が圧迫され、こぷこぷっと腹を膨らませていた触手の分泌液が閉じられなくなった後孔から零れ出した。
(あぁ…)
足元から光が差している事に気付いて、彼は声をあげようとしたのだが、言葉はおろか声すら出ない。照らし出された範囲からはもう触手も見えなくなっている。ただ、黒い大理石のような床が見えるだけだ。
人が歩くような足音を聞いたと思ったのを最後に、再び彼の意識は途切れた。
彼は自分の置かれている状況をすぐには理解できなかった。
口には、顎がそれ以上開かないほど太い筒のようなものを突っ込まれているらしく、舌どころか顔さえ動かせない。そのために前を見る事しかできない視界は、どれほど目を凝らしても暗闇しか映さない。幸いなのは、下を向いた状態で動きを固定されており、唾で窒息する心配をしなくてもいい事くらいだろうか。
物音もせず。真っ暗な闇が広がっているだけの状況に、すっと背筋が寒くなる。
(動けない…)
少しでも解る事がないか、膝を付いた前かがみの姿勢から体を動かそうとしてみる。だが、背に回された状態で両手首が、さらに二の腕を含む上半身もがっちりと固定されていた。肩幅に開かされている膝も閉じれず、足首を回すこともできない。念の入った事に腰周りさえ太い縄で縛られているようだ。
(なんでこんな事に)
溜息を吐こうとして、細く呼吸する事しかできない現状を思い出す。仕方なく心中で溜息を吐いた。
「んぅ…」
意識を取り戻したもののどうすることもできない状況に困惑していると、不思議なことに口の中の筒が甘い味へ変わった。味を感じると、じわりと唾液の分泌が増え、筒と口の端から漏れていく。
(何だろうこれ、本当に、どういう…)
どうしようもなく、筒の甘い味を感じていると、不意に眠りに落ちる瞬間のような落下感に似たものが襲った。開けていても何も見えてはいなかったが、それでも開いていた瞼が閉じる。
「…ぅ?」
彼にとってはほんの一瞬の出来事だった。
だが、次に気が付くと、彼は下を向いていたはずの自分の頭が上を向いていて、手ではないと思われるが硬いわけでもない何かに後頭部を支えられ、口の中どころか喉の奥へ何かが入り込んでいる事に気付く。
(あ…れ?)
気付きはしたが、どうするべきなのかが解らない。思考がまとまらず、ぼうっとしている。気を抜くと、いつの間にか服を着ていない事も、四肢を拘束している縄の存在すら、曖昧になった。
(なん、だろう………これ?)
何度も同じ事を考えている気がするが、気のせいかもしれない。そんな疑問に襲われながらもなんとか体の状況を確認しようと努力してみるが、体は全く動かせない。喉奥に何かが通っているのに、呼吸は問題なくできていた。それどころか、えずくこともなく。痛みすら感じられない。
「っ!」
これが現実なのか本当に目を覚ましているのか、ぼやけたはっきりしない感覚を破るように、不意に後孔に痛みに近い衝撃を感じた。頭を支えているのと同じ、硬いわけではないが人の手指とも思えない何かが中に潜り込んでくる。
上手く働かない頭でも、その事実に対する嫌悪感と忌避感は強烈で、彼は必死に身を捩ろうとした。だが、当然体を拘束する縄のせいでまともに動かせない。
(気持ち悪い…なんだこれ、なんで…)
ずるずると、その細い何かは彼の感情などお構いなしに数が増えていく。
(気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い…)
確かにひりりと焼け付く様な痛みを訴えたはずの粘膜は、次第に感覚を鈍らせ、その内にただ何かが中で動いているという感覚しか解らなくなっていった。
突然の痛みに一度ははっきりしたと思った意識も、またぼんやりしたものに変わっていく。
ぐちゅりぐちゅりと耳に粘液の音が届くが、もうその音が本当に聞こえているのかの確信も持てなくなった。
(あ…あぁ………)
時間を計る物もない中、おかしくなっている感覚では、はっきりとした時間は解らない。ただ、長い時間だ。彼がもう、頭の中でさえ言葉を紡げなくなるほどの。
(あぁ…)
当然ながら、彼は自分の状況を全く理解できていなかった。ただ、嫌だ帰りたい、とそれだけは、ぼんやりした中でもどこかで確かにあるのだ。生理現象ではなく流れる涙には確かにその思いが滲んでいる。
(うぁ………)
だが、もう彼には自分の状況を打開しようとするような思考は残っていない。
真っ暗な闇の中で、体のどこにも力を入れられずに、されるがままになっている。縄だ、あるいは何か、と考えている無数の触手に、体を拘束され、固定された姿勢を維持させられ続けている。今は四肢を折った状態で俯せに吊るされているような状態だ。
彼の口腔からずるりと触手が引き抜かれ、唾液とは思えない量の粘液が溢れる。その腹は苦しそうに膨れ上がっていた。後孔からも粘度の高い液が糸を引きながら触手が引き抜かれたが、もう、それも彼には理解できない。
ゆっくりと、力ない体を床に横たえられ、彼の体から触手が全て退いていく。伏せた状態で横たえられたせいで、腹部が圧迫され、こぷこぷっと腹を膨らませていた触手の分泌液が閉じられなくなった後孔から零れ出した。
(あぁ…)
足元から光が差している事に気付いて、彼は声をあげようとしたのだが、言葉はおろか声すら出ない。照らし出された範囲からはもう触手も見えなくなっている。ただ、黒い大理石のような床が見えるだけだ。
人が歩くような足音を聞いたと思ったのを最後に、再び彼の意識は途切れた。
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