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萬魔の王
5.
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ナークは今までになくすっきりとした頭で目を覚ましていた。
ただ、比較するべき今までの記憶も、すっきりと彼の中からは消えているのだが。
「どこだ…ここ」
夕方の家路から、明るい光が照らす室内へ、突然記憶が飛んでいる。しかも見たこともないような寝台の上で、自分の服も見当たらない。寒さは、感じていなかったが、彼は寝台の上のシーツをそっと体に巻きつけた。そろそろと寝台を降りようとして、足をつけた絨毯の感触に驚く。
(金持ちの家だ、よな…俺は人拐いにでもあったのか?)
裸で寝台に寝ていた自分の体を、主に下肢を注意して調べてみるが、おかしなところは何もない。これから何かされるところだったのだろうか、と首を捻りつつ、扉に近付いていく。そっとノブに触れるが、鍵がかかっていた。
(閉じ込められてる)
やはり人拐いにあったのかもしれない。村には女も子供もいるが、人拐いをするような奴は変なのが多いから自分みたいなのまで拐われたのだろう。そんな事を考える。昔、隣村で老婆ばかりが拐われる事件が起きたと聞いたことがあったのだ。
(窓は…)
部屋には大きな窓が一つとと小さな窓が二つあった。全て鍵がかかっている。硝子の窓は割る事もできそうではあったが、どう見ても三階以上の高さがある外に降りられるとは思えなかった。しかも、見える範囲には森しかない。
(どこなんだ、ここ)
村の近くにだって森はいくらでもある。だが、こんなに背の高いお屋敷が建っている森があっただろうか。少なくとも彼は知らなかった。
部屋には、寝台以外、中に何も入っていない小棚と、その上に置かれたランプしかない。寝台の天蓋の布も触るが、向こうが透けて見えるそれは、縒り合わせてもロープとして役に立たないように思える。幾本も縒り合わせれば良いのかもしれないが、そうなると長さが地面まで足りなくなるだろう。
もう一度、壊してでも開ける事ができないか扉を確認したが、腕で押そうが、体当たりをしようが、分厚く固い扉はびくともしなかった。鍵を壊せないかとノブの辺りもさんざん確かめたが、ぐらつくことさえない。
(ダメだ………)
溜息を吐いて頭を抱え、彼は寝台に腰掛けた。精神的な疲労のせいか、眠気で瞼が重くなる。先ほど目を覚ましてから、それほど時間が経ったようには思えなかったが、窓の外は夕焼けと思われる茜色の空が広がっていた。
(影が左に伸びてる…)
ほんのわずかに差し込む西日から方角を確認するが、ここがどこなのか解らない以上あまり意味はない。だが、他にできる事もないのだ。寝台の上に倒れ込み、体に巻きつけたシーツに埋もれるように丸まって、彼は睡魔の誘惑に従った。
(あー………たぶん…朝だよな)
しっかりと眠った後で、常は規則正しい生活をしている体が目を覚ましたのだから、朝だろうとは思うのだが。昨日確認した西と反対から陽が昇ったばかりにしては、室内が明るいようにも思えた。寝台の上で半身を起こして座っていると、ふと空腹感がないことに気付く。
(そういえば昨日も何も食べてないはず…まぁ、いいか)
夕方の記憶を最後に、昨日で丸一日は経っているはずだ。なのに腹は減っていない。とはいえ、彼はそれほどその事を気にはしなかった。それよりもここを出ていくことの方が優先するべき事態だと思ったからだ。ここからどうにかして出て行くことはできないかと思案していると、不意に甘い匂いがする事に気付く。
「花?」
花が群生しているような場所で嗅ぐ匂いに似た、甘いそれを確認するように鼻で思いきり吸い込んだ。匂いがどこからしているのか確認しようとしたが、気が付けばあたりに充満していて、発生源は解らなかった。
(うん?)
匂いを嗅いでいるうちに酔ったようなぼうっとした感覚がして、彼は寝台に仰向けに倒れる。見上げた花の絵にひどく見覚えがある気がした。
(ああ、さっき目を覚ました時にも見た、んだっ…た…?)
それとは違う既視感だったような気もするが、はっきりとは解らないまま、彼は瞼を閉じる。
「ぅんっ…」
鼻にかかったような声が聞こえて、ナークは目を覚ます。視界には先程と同じ天井絵が有った。だが、向きが違うようだ。
「あぁっ」
もう一度声が聞こえて、その声が自分のものだと気付く。
背もたれのある椅子にかけて、そのまま後に傾いたような姿勢だった。ただ、そう気付いたところで彼にそれ以外の姿勢をとる自由はない。
「あっ、ひぃあっんぅ」
複数の細い触手がぐじゅぐじゅと彼の後孔を掻き回し、粘液が泡立って耳慣れない音を立てているのだが、天井の花の絵しか見えない彼にはそれが何の音なのかは解らない。ただ、自分の中に何かが入り込み、掻き回しているという事だけは解るのだ。知らないはずの感覚から確かに快感を拾っている自分を自覚するよりも先に、ぞわぞわと歯が震えるような嫌悪と恐怖が支配する。
「なっ、た、すけっ、誰かぁ…」
室内は相変わらず明るい。だが、どれほど明るさがあっても、視界が制限されていては意味がない。体を押さえつけているものがなんなのか、自分の中を蠢いているものがなんなのか、自分の身に何が起きているのか。何一つ解らない恐怖は彼の体を強ばらせていった。
「あんぅ、あぇかっ………たすけ、て」
唯一自由になる声で、必死に助けを求めるが、応えてくれる声はない。
ただ、比較するべき今までの記憶も、すっきりと彼の中からは消えているのだが。
「どこだ…ここ」
夕方の家路から、明るい光が照らす室内へ、突然記憶が飛んでいる。しかも見たこともないような寝台の上で、自分の服も見当たらない。寒さは、感じていなかったが、彼は寝台の上のシーツをそっと体に巻きつけた。そろそろと寝台を降りようとして、足をつけた絨毯の感触に驚く。
(金持ちの家だ、よな…俺は人拐いにでもあったのか?)
裸で寝台に寝ていた自分の体を、主に下肢を注意して調べてみるが、おかしなところは何もない。これから何かされるところだったのだろうか、と首を捻りつつ、扉に近付いていく。そっとノブに触れるが、鍵がかかっていた。
(閉じ込められてる)
やはり人拐いにあったのかもしれない。村には女も子供もいるが、人拐いをするような奴は変なのが多いから自分みたいなのまで拐われたのだろう。そんな事を考える。昔、隣村で老婆ばかりが拐われる事件が起きたと聞いたことがあったのだ。
(窓は…)
部屋には大きな窓が一つとと小さな窓が二つあった。全て鍵がかかっている。硝子の窓は割る事もできそうではあったが、どう見ても三階以上の高さがある外に降りられるとは思えなかった。しかも、見える範囲には森しかない。
(どこなんだ、ここ)
村の近くにだって森はいくらでもある。だが、こんなに背の高いお屋敷が建っている森があっただろうか。少なくとも彼は知らなかった。
部屋には、寝台以外、中に何も入っていない小棚と、その上に置かれたランプしかない。寝台の天蓋の布も触るが、向こうが透けて見えるそれは、縒り合わせてもロープとして役に立たないように思える。幾本も縒り合わせれば良いのかもしれないが、そうなると長さが地面まで足りなくなるだろう。
もう一度、壊してでも開ける事ができないか扉を確認したが、腕で押そうが、体当たりをしようが、分厚く固い扉はびくともしなかった。鍵を壊せないかとノブの辺りもさんざん確かめたが、ぐらつくことさえない。
(ダメだ………)
溜息を吐いて頭を抱え、彼は寝台に腰掛けた。精神的な疲労のせいか、眠気で瞼が重くなる。先ほど目を覚ましてから、それほど時間が経ったようには思えなかったが、窓の外は夕焼けと思われる茜色の空が広がっていた。
(影が左に伸びてる…)
ほんのわずかに差し込む西日から方角を確認するが、ここがどこなのか解らない以上あまり意味はない。だが、他にできる事もないのだ。寝台の上に倒れ込み、体に巻きつけたシーツに埋もれるように丸まって、彼は睡魔の誘惑に従った。
(あー………たぶん…朝だよな)
しっかりと眠った後で、常は規則正しい生活をしている体が目を覚ましたのだから、朝だろうとは思うのだが。昨日確認した西と反対から陽が昇ったばかりにしては、室内が明るいようにも思えた。寝台の上で半身を起こして座っていると、ふと空腹感がないことに気付く。
(そういえば昨日も何も食べてないはず…まぁ、いいか)
夕方の記憶を最後に、昨日で丸一日は経っているはずだ。なのに腹は減っていない。とはいえ、彼はそれほどその事を気にはしなかった。それよりもここを出ていくことの方が優先するべき事態だと思ったからだ。ここからどうにかして出て行くことはできないかと思案していると、不意に甘い匂いがする事に気付く。
「花?」
花が群生しているような場所で嗅ぐ匂いに似た、甘いそれを確認するように鼻で思いきり吸い込んだ。匂いがどこからしているのか確認しようとしたが、気が付けばあたりに充満していて、発生源は解らなかった。
(うん?)
匂いを嗅いでいるうちに酔ったようなぼうっとした感覚がして、彼は寝台に仰向けに倒れる。見上げた花の絵にひどく見覚えがある気がした。
(ああ、さっき目を覚ました時にも見た、んだっ…た…?)
それとは違う既視感だったような気もするが、はっきりとは解らないまま、彼は瞼を閉じる。
「ぅんっ…」
鼻にかかったような声が聞こえて、ナークは目を覚ます。視界には先程と同じ天井絵が有った。だが、向きが違うようだ。
「あぁっ」
もう一度声が聞こえて、その声が自分のものだと気付く。
背もたれのある椅子にかけて、そのまま後に傾いたような姿勢だった。ただ、そう気付いたところで彼にそれ以外の姿勢をとる自由はない。
「あっ、ひぃあっんぅ」
複数の細い触手がぐじゅぐじゅと彼の後孔を掻き回し、粘液が泡立って耳慣れない音を立てているのだが、天井の花の絵しか見えない彼にはそれが何の音なのかは解らない。ただ、自分の中に何かが入り込み、掻き回しているという事だけは解るのだ。知らないはずの感覚から確かに快感を拾っている自分を自覚するよりも先に、ぞわぞわと歯が震えるような嫌悪と恐怖が支配する。
「なっ、た、すけっ、誰かぁ…」
室内は相変わらず明るい。だが、どれほど明るさがあっても、視界が制限されていては意味がない。体を押さえつけているものがなんなのか、自分の中を蠢いているものがなんなのか、自分の身に何が起きているのか。何一つ解らない恐怖は彼の体を強ばらせていった。
「あんぅ、あぇかっ………たすけ、て」
唯一自由になる声で、必死に助けを求めるが、応えてくれる声はない。
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