十魔王

nionea

文字の大きさ
8 / 55
萬魔の王

6.

しおりを挟む
 どれだけ叫んでも彼に救いは訪れなかった。だが、体に与えられている行為への嫌悪も未知への恐怖も、頭の真ん中が鈍くなっていくような感覚と共に次第に遠ざかっていく。
「はぁっんぅ…」
 徐々にナークの思考が快楽に支配され、擦られずとも押し広げるように中を刺激されただけで艶を孕んだ声が漏れた。閉ざせない口からは声と共に唾液が垂れる。
「あぁ、あっ、んくっ、ふぁ」
 縒り合わさった触手がネジのような錐形になり回転しながら出入りしても、拒絶や救いを求める声はもう出ない。彼が悦楽に喘ぐ度、硬く勃ち上がった性器の先から透明な体液が飛び散って腹の上を濡らしていた。
「う、ん…?」
 靄がかった思考に過ぎた快楽で疲労した体は、後孔から触手が抜き去られた事に疑問と不満を感じる。にちゃっとした音を立てて、一度は窄まった後孔がまた口を開けた。だが、弛緩して力の入らない彼の体はそれ以上の動きを見せる事はない。
 触手はそんな彼の上半身を寝台の上に仰向けに横たえた。
 下半身だけが後孔を突き出し開くように持ち上げられており、彼の視界に自分の体を嬲っていたものがなんであったのか見えるようになった。だが、今の彼にはそれに恐怖や嫌悪を感じるだけの正常な感覚は残っていない。ただ、もう一度自分の中に入ってきて、掻き回して欲しいと願うだけだ。
(もっと、ほしい…)
 欲求と期待で震える彼が、自分の広げられた両足の間に見たのは、触手ではなかった。
「あ、んっ…」
 男が鋭い刃物のような爪が生えた手で、柔らかい皮膚の尻を掴んでも、彼の目に恐怖は浮かばない。ただ、見下ろす目線に焦燥を煽られたように、ひくりと下の口が動くだけだ。
 ナークは明るい室内で、確かにその男の姿を見ている。だというのに恐怖は抱かない。その異形の風体よりも、自身の後孔にあてがわれている屹立したものがもたらすだろう快感に、期待だけが高まっている。
「は、やく…入れてぇ、おっねが、い、はやああぁあっ!」
 男が彼の懇願を聞き入れたとは思えないが、彼の要求通り熱が内側を満たした。
「あんっ、あっ、んぁ、あんっ、んっ、あぁ、あっ、いぃ、あぁ」
 触手は再び彼を宙に浮かし、振り子のように揺らしている。
 規則正しい抽挿に、彼の性器は壊れたように透明な体液を溢れさせ、募るように快感は高まり、思考や感情とは関係なくきゅうきゅうと搾り取るように中のものを締め付けた。
(もうすぐ…もう…また)
 記憶は無いはずだった。だが、花の絵を見上げた時のように、強烈な既視感が彼を襲っている。規則的な律動と、募る快感の先には、必ず彼を満たす喜悦が待っていると確信していた。
「くぅるっあぁっ」
 その時が近付いている事が解り、彼の後孔はぎゅうっと窄まる。
「いぃいっん、ああぁあっ…!」
 ナークは腹部内を待ち望んで熱に満たされ、更にその熱が脳裏も焼くように駆け上っていき、白い光の中に熔けて消えるように意識を失った。
 痙攣に近い形で、硬度をやわらげた男のものを締め付けているナークの後孔から、それは引き抜かれる。
 触手からも解放されぐったりと寝台に横たわる彼を見下ろして、男は前と同じようにその腹が膨れている事と後孔から漏れ出るものもない事を視認していた。
 明るい室内ではっきりと姿を見せた白い手は、男の半分ほどの背しかないメイド姿の女のもので、相変わらずの丁寧な仕草で男のものを拭い清め、仕舞っていく。
「…陛下?」
 作業を終えてもナークを見下ろしていた男に、控えめに女が声をかけた。
 女の声には応えず、男はまだしばらくナークを見ていたが、何かを否定するように首を横に振って部屋を出て行く。
 男に付き従って部屋を出ながら、ちらりと女はナークに視線をやったが、男が何を気にしていたのかは解らず首を捻った。
 しばらくすると、室内にそれが普通なのだろうが顔色の悪い老婆が入ってくる。寝台脇の小棚に水の入った吸呑を置くと、とんとん、とつま先が床を叩いた。応えるように触手が寝台の下から伸びて、ナークの体を宙に持ち上げる。老婆はくしゃくしゃになったシーツを寝台から取り、持ってきた新しいシーツをかけた。
 再び寝台に寝かせられたナークは、ぼやっとした顔で、瞼を薄く開く。
 それをみとめた老婆は、吸呑を彼の口元に持っていった。
 吸呑からは、わずかにとろみのある水が注がれ、彼の喉がこくりこくりと動く。喉が動きながらも、彼の瞼は再び閉じていった。
 瞼が完全に閉じると、まだ喉が動いているようだったが、老婆は吸呑を彼の口から離す。しばらくは規則正しい寝息を立てる彼を観察するようにじっと見つめていた。
 こうして、また、ナークの夢現の日々が始まった。
 ずっと寝台の上で、ひたすら寝て起きてを繰り返すだけの日々。時折膨らんだ自分の腹部を撫で、老婆に渡される吸呑から水を飲む。ただ、それだけ日々が。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...