十魔王

nionea

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荒野の王

プロローグ

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 谷村 孝太(たにむら こうた)は高校三年の修学旅行最中に、風呂から上がった浴衣姿でホテルの階段から足を踏み外した。
(歩きスマホって、マジろくなもんじゃねぇな)
 最上段から上って来た階段を背後に向かって、ゆっくりと落ちていく。照明の光が眩しいと思って瞼を閉じると、頭が地面に当たる感覚がした。
「あれ?」
 痛い、あるいは、気絶。もしくは、死、という事態すら想定していた彼は、柔らかな何かにぶつかって瞼を開ける。視界いっぱいに、満天の星空が広がっていた。
(………天国? いや、星空じゃなくてお花畑になるんじゃ)
 何度も瞬きをするが、目の前の絶景は変わらない。むくりと体を起こすと、ふかふかした草の上に寝ていたと解った。あとは、広大な湖の畔だという事くらいだろうか。
「うん。ドコだ?」
 戸惑いつつも立ち上がって、あたりを見回そうと振り返ったところで、彼は息を呑んだ。
「え………」
 顔だけで彼の身長を超えるような、巨人がそこに座っていた。
(何だ、これ、あ、もしかして俺地獄にいんのか?)
 巨人が手を伸ばして来るが、彼はただ硬直して動けない。それどころか、目の前に迫った手の大きさに怯え、膝から崩れ落ちる。
 小学校の頃、いざという時に悲鳴を上げられない事があるから悲鳴を上げる練習をしましょう、と言われた防犯の授業を受けた事が思い起こされた。
 本当に、咄嗟に悲鳴は上げられないのだな、と思いながら巨人の手に、完全に体が包まれていく。
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