十魔王

nionea

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荒野の王

1.

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 リンゴのような食感だが、ナシに似た味の果実を頬張りながら、巨人の手の上で胡坐をかいた孝太はその美味しさに一人頷いていた。
(しっかし、全然何ともなかったな…これ、なんなんだろう? 異世界転移とかそういうやつ? もしそうなら俺巨人マスターにでもなんのかな?)
 落ちないようにだろう。胸に当てるようにして壁を作り、乗せているのと反対の手も添えて彼を運ぶ巨人を、シャリシャリと咀嚼しながら見上げる。規格外に大きくはあるが、どこかのんびりとした雰囲気の顔をしているように感じられた。まだ、巣に持って帰って食われる、という状況が回避された訳ではないのだが、そんな心配は無いように思える。
(んー…階段落ちで死んだんじゃないよな。神様はさんでないし。浴衣着た状態の俺のままだし。タイムスリップとかでもないよな、巨人だしな………いや、人類滅亡後の未来系タイムスリップはあり得るか? 遺伝子操作による超人類的な)
 彼は、漫画やアニメの記憶を掘り返しながら暢気に現状について考えていた。
 湖から離れ、しばらく森を歩いた巨人は、白い石造りの建物で彼を下す。
「ん?」
 下ろされたそこには、湯気を上げる水面にカラフルな花が浮いた大浴場があった。
(………巨人風呂? では、ないな。浅い………俺サイズの人間が居るとこなのかな? 連れて来てくれたって事か?)
 疑問を投げかけても言葉が通じないだろうから、とりあえずお礼だけでも言っておこう、と後ろを振り返った。
「えー…」
 巨人は、あれほどの巨体であるのに音も立てず、既に元来た道を引き返している。
「ありがとなぁー!」
 届くかは解らないが、精一杯の叫び声を上げた。振り返るでも歩みを止めるでもない巨人には、やっぱり届いてないかなぁ、と頭を掻く。
 が、いつまでも遠ざかる背中を見送っていても仕方がない。せっかく文明らしきものを持つ自分と同じサイズの生命体が居そうな所に来たのだ。探検あるのみだ。
「よっほぁっ!」
 よしやるぞ、とか言いたかったのだが。彼が振り返るとそこには頭二つ分くらい背の低い少女が立っていて、思わず変な悲鳴を上げてしまった。
 黒い髪は、ぱっつんな前髪に肩辺りで切り揃えられたいわゆるオカッパだった。だが、幼いながらもはっきりとした顔立ちをしていて、その小麦色の肌とも相まってとてもエジプト感がある。肌の色が透けるような薄さの白い布を金と宝石の装飾が美しいベルトで止めているだけの恰好も、彼がそう感じる手助けをしていた。
(まずい、俺はロリコンじゃないぞ! まじまじと見ては駄目だ駄目…え?)
 幼い体の控えめな胸を見ている自分に気付いて全力で視線を下に逸らした結果。彼は少女の股の間に有り得べからざるシルエットを見つけてしまう。
(え…あ、なんか服の模様とか、後の装飾とかが透けてるとか、そういう事、かな?)
 だが、その考えは、次の瞬間に少女がとった行動によって否定される。
「何か気になりますか?」
 少女は可愛らしい声を出し、思い切りよく裾を捲り上げた。露になった股には彼が良く知るものがぶら下がっているのがはっきりと見える。
(おっとぉまじかぁ…えーうわぁえーもしかしてマジで超人類系未来なんじゃ)
 いやらしい意味ではなく。あまりに物珍しいものを見た、という思いで、がっつり少女の股を見つめた彼は大事な部分に気付くのが遅れた。
「てか、あれ? 日本語解るの?」
「日本語は解りませんよ」
 日本語で日本語が解るのかと尋ねたら日本語で日本語は解らないと返され彼の日本語が崩壊しそうになるが、少女が更に言葉を続ける。
「此処は魔王様のお力が及んでいますから。意志ある者のやり取りはそのお力で成しえるんです」
 日本語は崩壊しなかったが常識は崩壊させにかかっているらしい。
「魔王様?」
 彼は一瞬沈黙して、腕を組んで首を捻るという疑問を体現する姿勢をとりつつ、気になった言葉を繰り返した。
「はい」
 少女が良い笑顔を浮かべている。嘘をついているとか、担ごうとしているとか、そういう雰囲気は全くしない。
(異世界転移系でフィックスかな)
 まだ自分を魔王と称するかつての遺伝子研究の権威みたいなのが造り上げた世界説は消えていないが、正直もう考えるのが面倒になっている。
 彼は少女に、魔王様とお会いする前にどうぞご入浴を、と勧められ、
(風呂上がりだったんだけど、まぁ、偉い人と会うなら身綺麗な方が良いか)
と、大人しく入浴する事にした。
 まさか、ただ入浴するだけの事を後悔するはめになる等とは、思ってもみなかったのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ」
 自分が電話口で荒い息を吐く変態みたいになっている事に気付きながらも、彼は荒くなる息を抑える事が出来ない。
 初めは少しとろみのあるお湯に、体がよく温まりそうだな、と考えていた。
(あーなんかちょっと逆上せてきた)
 そう思って湯船を出た時も、お湯が全然体に残らないのに気付いて体拭かなくても良いのか便利だな、とか考える余裕がまだあった。
 少女が用意してくれた籠に放り込んでいた浴衣を取ろうとして屈んだ時に少しくらっとして、しゃがみ込む。
(まずい、水、貰わないと)
 そこから、彼の体はおかしくなった。
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