十魔王

nionea

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萬魔の王

変化2

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 突如感じた痛みに、彼の意識が覚醒する。
「んぅっ………おう、さま?」
 肩に担ぐようにした彼の右足の内腿に噛み痕を付けた時。小さくだが、はっきりと声が聞こえ、王は彼の顔を見つめる。薄く開いた瞼の間から、戸惑うような瞳が見えた。
「ナーク」
 彼は自分の名を呼ぶ声で、ぼやけた視界の人影が本当に王だと知れた。
「王さま?」
 いつもと違うシルエットへ確かめるように伸ばした彼の右手を、王は同じように柔らかな左手で掴んだ。柔らかな手に手を掴まれ、戸惑いを深めるナークに、覆い被さるように王の体が重なる。
「王さま」
 息のかかるような間近に迫った見覚えのない顔に、だが見覚えのある金の目を見つけて、彼は細く安堵の息を吐いた。撫でる手に擦り寄るように頬を傾け、その柔らかさと温かさに思わず微笑む。
「ナーク」
 その安堵した顔に、ぞくりとした衝動が背を走り、王はその微笑みに唇を重ねた。
「んぅっふぁ」
 口付けが深まるとその動きに合わせるように、性器が擦れ合い、唇の隙間から絡み合う唾液の音と嬌声が漏れる。
「あ、ぅん…おぅさまぁ、あまぃんっ、はぁ、んぅ」
 口腔を満たす甘い舌に彼は必死にしゃぶりついた。
 王もまた、溢れ出る甘露を味わおうと丁寧に舌を絡め合う。
「ナーク」
 初めての口付けに夢中になりながらも、彼は性器が互いに擦れ合うように腰を寄せ、王もまた合わせるように腰を振った。
 そろそろと空いている左手を伸ばし、王と自分の性器を握り込めば、粘ついた音を立てながら、手の中で悦びが増していく。
「はぁっ、きもちぃ…」
 彼は、間近に見る王の金色の輝きに、いつもの冷静な射るような視線ではなくて、荒々しい炎のような熱を見つけて、じんと炙られたように陰茎の熱が増すのを感じた。
「ん…お、さま、あぁ、あぁ、あっ、あぁ」
 徐々に王の腰の動きが激しさを増し、彼の腰も揺れる。相変わらず口付けは続いており、時折歯が当たる硬質な音を立てながらも、互いに離れられずにいた。徐々に上がる息に口付けも絶え絶えになり、手中の昂ぶりはついに果てを迎える。
「ぁっんぅ」
「くっ」
 ぎゅっと王にしがみついた彼の透明な精子と、抱きしめ返す王の白濁した精子とが、彼の手中で混ざり合う。荒く息をする音を耳元に聞きながら、彼はしがみつく腕が力なく落ちるのと同時に、再び瞼を閉じ眠りへと落ちていった。
「はぁ…はぁ…」
 王はしばらく息を整えながら彼を見下ろしていたが、ゆっくりと身を起こすと触手に彼の体を拭わせる。
 今日ナークが産んだ卵で、全ての魔族に卵がわたる。無論今後も卵は必要になる事もあるだろうが、ひとまず可及的速やかにという状況は脱した。今後、王が彼に精を注ぐ最大の事情は無くなったのだ。
 触手によって自身の身支度も整えられながら、王は彼の安らかな寝顔に手を伸ばす。
「ナーク」
 名を呼び、柔な頬に触れ、唇を重ね、額に額を合わせた。
 いつもは立ち会わない産卵にやってきたのは、労りのつもりであった。しばらく休養することになる彼に対し、労うために生命力を注ぎにきた。
「ナーク…」
 だが、人の体へと変化すれば、触れても傷を付けず、交わっても生殖にもならずに愛せるのだ。
 そう気付いてしまった。
 離れ難い、触れていたい、愛しい、と渦を巻くように感情が混ざり合い湧き上がっている。
 初めて愛娘というモノを得た歓びとも、その娘に対する感情とも違う、あまりにも激しいその感情に王はどうすれば良いのか解らずにいた。
 人の身になった事で傷を付ける事なく彼に触れ、彼の白い肌に点々と散る痕に、満足感を覚える。それなのに、内腿に付けてしまった噛み痕のような傷を全身に付けて回りたいとも思った。安堵して微笑む顔に愛しさが込み上げているのに、産卵中の怯え縋るような顔を思い出してもより生々しい征服欲と執着心を纏った愛しさが込み上げる。役割を終えたばかりの体を大切に腕の中で労わりたいと願いながら、彼の何もかもを暴き並べ晒して独占してしまいたい望みもある。
「ナーク」
 王様、と魔族の幼子のような呼び方をする彼に、また何度も呼ばれたい。縋るような声で、甘えるような声で、懇願するような泣き出しそうな震えた声で、何度も何度も自分だけを呼ばれたい。
「ナークッ!」
 穏やかに眠る彼をきつく抱き締めないように、寝台に手をついた。見下ろす顔の閉じたまぶたに口付けて、この目に自分だけを映させたい、そうできないならいっそ抉りとってしまいたいとさえ思う。
 左右に頭を振って、その衝動を抑え込んだ。慈しみ労わるべき愛しい相手に、相反する感情を抱くという訳の解らない状態に、王は困惑していた。なまじ触れられる状態になっているのが悪いのだ、と元の萬魔の王としての体へと戻る。
「っ!」
 部屋に充満するような彼の甘い匂いに驚いて身を離した。
 王は今、寝台に横たわる彼の白い体を食い荒らしたい衝動に駆り立てられている。細い首を噛み折り、薄い腹を食い破り、甘い体液を余すことなく啜り上げたなら、そう考えて興奮に震える自分に気付いて、王はぞっとした。
 何よりも恐ろしいのは、そんな考えの根幹に確かな愛しさがある事だ。
 王は首を横に振り、怯えるように後退り、歯を震わせながら部屋を後にした。
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