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萬魔の王
変化3
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暖かな日差しの中で庭の長椅子に腰掛けて、ナークは暇そうにぼうっとして過ごしている。
産卵を終えた日。眠りに落ちて、目を覚ました時。彼は、人の姿をした王の夢を見たのだと思った。
そして、卵袋という役割をしばらく休むよう告げられたその日からというもの、王とはろくに話をしていない。
「金持ちの猫みたいだ」
卵を産む役割をしていた間。
自分を犬のようだと感じていた。彼が知る中で、最も哀れな、貧乏人の犬のようだと。
僅かな食事で酷使され、それでも犬は飼い主に向かって尾を振り、褒められたくて身を削る。見合うものを与えられているようには見えないのに、自身だけは満足そうにしていた。餌が与えられなくても頭を撫でられれば尾を振り甘えた声を上げる。そういう存在になった気がしていた。
そして、その役割をやらなくて良いと言われた今。
何もしていないのに衣食住に不自由は無く。ただ、のんびりと昼寝でもして過ごす毎日だった。
怠惰で、退屈な日々は、昔一度だけ見た、とても鼠を仕留められるとは思えない太った猫を彼に思い出させる。
飼い主の膝の上で喉を鳴らして寝こけ、与えられる餌に見向きをしなくても次々に気に入る餌が見つかるまで与えられ続けていた。鼠を捕る役割を果たすわけでもなく、愛想が良い訳でもない、それなのに十分過ぎる待遇で勝手気ままに過ごす存在。
あんな風になれたらと考えなかった訳ではない。だが、実際なってみると、あまり良いものではないと気付く。
「ふぅ…」
溜息を吐いて、やる事が無い状況を何とかしようと立ち上がった。
サーラは近頃勉強をしているそうで、陽のあるうちにはあまり会えない。王に会いに行くという考えは、彼の中にはない。ただ、いつかの魔族に襲われた件以降、外にいる間は彼の側に付く事になった護衛に声をかけ、森へ向かう。
彼にとっては、尾が二股の巨大な狐に見える魔族の男は、森の中では案外お喋りだった。彼が薬草を摘みたいのだと言えば、魔界の植生を全く知らない彼にどれが薬草なのかを教えてくれる。
「ああ、それは触らない方が良いですよかぶれます」
だとか。
「その実は黒い班が浮いてるものほど熟しているんです。甘いですよ。お食べになってはいかがです」
だの、楽しそうに教えてくれた。
「今日はどうも、ありがとう」
護衛に礼を告げて屋敷に入る。人のように食事をするサーラが居るはずの食堂へ向かった。森で美味しいと勧められた果実を差し入れようと思ったのだ。
だが、廊下を歩き出したと思った次の瞬間に、地面が揺れる。正確にはナークが目眩を覚えて倒れ込んだのだが、彼には地面が揺れたと感じられたのだ。地震の恐怖に慌てて今入ってきたばかりの扉へ手を伸ばす。だが、視界がぼやけ、気が付けば気絶して床に伸びる事になってしまった。
「重畳重畳」
扉を開け、倒れこむナークを見下ろしたのは、赤茶色の髪に黒い巻角を二本生やした魔族の青年だ。横たわるナークの体を抱き上げると、素早く屋敷を出ていく。
「これが卵袋かぁ」
ナークの体から立ち昇る甘い匂いに舌なめずりをしながら青年は森の中を走った。木造の小屋のような場所に入り込むと、彼の他に三人の魔族の男達が居る。
青年がナークを小屋の床に横たえると、大型の猿に似た、だがその頭の前面に猫の顔を張り付けたような男が、鼻をヒクつかせた。
「美味そうな匂いだな」
「食べたら孕ませられないだろ」
男を押しのけるようにナークの体に近付いたのは、猫のような体に鱗が生えた尾を持ち、猿のような顔をした魔族だ。
「それで? 誰からやるんだ? 質の良い卵袋っていったって、全員の卵を孕むとは限らないだろう」
「そこはまぁ、俺が連れて来たんだから、譲って欲しいなぁ」
「ちっ」
「仕方ないな、じゃあ、俺達で順を決めよう」
巻角の青年の言葉に男達は頷き合って何やら話し合いを始めた。
そんな男達を尻目に、青年はナークの服を引き裂くように剥ぎながら、その匂いを堪能する。完全に服を剥ぎ終わった頃には、男達の順も決まっていた。目を覚ましたナークが暴れないように、男達が手分けして手足を押さえつける。青年は、自身の分厚くざらついた手でナークの白い肌の上に赤い線が走るのを愉しむ様に撫で上げた。
「堪らないなぁ」
呟いて、青年は抑えきれない涎を垂らしながらナークの耳朶に噛み付いた。その鋭い牙のような歯がつぷりと耳を噛み裂く。
「っい」
びくりと体を震わせて、ナークが目を覚ました。咄嗟には状況が飲み込めずに言葉を失くすが、直ぐに危機だと理解して叫ぼうとする。だが、その右頬を青年に殴られ、声は出せなくなった。
「駄目だよぉ。騒ぐのはナシだ」
縦に長い瞳孔の赤い目で至近距離から睨まれ、ナークの体が竦み上がる。手足に走る痛みで、四肢を力任せに拘束されているのだと、青年以外にも何人かの存在があるのだと気付く。
「まぁ、そんなに心配しないでよぉ。君にとってはいつもと同じこと、俺らの卵を孕んで欲しいだけだからさぁ」
切り裂かれた耳から滴る血を舐め啜る音が耳に届き、ざらついた手に腹を押すように撫でられ、ガタガタとナークの体は震えだした。
産卵を終えた日。眠りに落ちて、目を覚ました時。彼は、人の姿をした王の夢を見たのだと思った。
そして、卵袋という役割をしばらく休むよう告げられたその日からというもの、王とはろくに話をしていない。
「金持ちの猫みたいだ」
卵を産む役割をしていた間。
自分を犬のようだと感じていた。彼が知る中で、最も哀れな、貧乏人の犬のようだと。
僅かな食事で酷使され、それでも犬は飼い主に向かって尾を振り、褒められたくて身を削る。見合うものを与えられているようには見えないのに、自身だけは満足そうにしていた。餌が与えられなくても頭を撫でられれば尾を振り甘えた声を上げる。そういう存在になった気がしていた。
そして、その役割をやらなくて良いと言われた今。
何もしていないのに衣食住に不自由は無く。ただ、のんびりと昼寝でもして過ごす毎日だった。
怠惰で、退屈な日々は、昔一度だけ見た、とても鼠を仕留められるとは思えない太った猫を彼に思い出させる。
飼い主の膝の上で喉を鳴らして寝こけ、与えられる餌に見向きをしなくても次々に気に入る餌が見つかるまで与えられ続けていた。鼠を捕る役割を果たすわけでもなく、愛想が良い訳でもない、それなのに十分過ぎる待遇で勝手気ままに過ごす存在。
あんな風になれたらと考えなかった訳ではない。だが、実際なってみると、あまり良いものではないと気付く。
「ふぅ…」
溜息を吐いて、やる事が無い状況を何とかしようと立ち上がった。
サーラは近頃勉強をしているそうで、陽のあるうちにはあまり会えない。王に会いに行くという考えは、彼の中にはない。ただ、いつかの魔族に襲われた件以降、外にいる間は彼の側に付く事になった護衛に声をかけ、森へ向かう。
彼にとっては、尾が二股の巨大な狐に見える魔族の男は、森の中では案外お喋りだった。彼が薬草を摘みたいのだと言えば、魔界の植生を全く知らない彼にどれが薬草なのかを教えてくれる。
「ああ、それは触らない方が良いですよかぶれます」
だとか。
「その実は黒い班が浮いてるものほど熟しているんです。甘いですよ。お食べになってはいかがです」
だの、楽しそうに教えてくれた。
「今日はどうも、ありがとう」
護衛に礼を告げて屋敷に入る。人のように食事をするサーラが居るはずの食堂へ向かった。森で美味しいと勧められた果実を差し入れようと思ったのだ。
だが、廊下を歩き出したと思った次の瞬間に、地面が揺れる。正確にはナークが目眩を覚えて倒れ込んだのだが、彼には地面が揺れたと感じられたのだ。地震の恐怖に慌てて今入ってきたばかりの扉へ手を伸ばす。だが、視界がぼやけ、気が付けば気絶して床に伸びる事になってしまった。
「重畳重畳」
扉を開け、倒れこむナークを見下ろしたのは、赤茶色の髪に黒い巻角を二本生やした魔族の青年だ。横たわるナークの体を抱き上げると、素早く屋敷を出ていく。
「これが卵袋かぁ」
ナークの体から立ち昇る甘い匂いに舌なめずりをしながら青年は森の中を走った。木造の小屋のような場所に入り込むと、彼の他に三人の魔族の男達が居る。
青年がナークを小屋の床に横たえると、大型の猿に似た、だがその頭の前面に猫の顔を張り付けたような男が、鼻をヒクつかせた。
「美味そうな匂いだな」
「食べたら孕ませられないだろ」
男を押しのけるようにナークの体に近付いたのは、猫のような体に鱗が生えた尾を持ち、猿のような顔をした魔族だ。
「それで? 誰からやるんだ? 質の良い卵袋っていったって、全員の卵を孕むとは限らないだろう」
「そこはまぁ、俺が連れて来たんだから、譲って欲しいなぁ」
「ちっ」
「仕方ないな、じゃあ、俺達で順を決めよう」
巻角の青年の言葉に男達は頷き合って何やら話し合いを始めた。
そんな男達を尻目に、青年はナークの服を引き裂くように剥ぎながら、その匂いを堪能する。完全に服を剥ぎ終わった頃には、男達の順も決まっていた。目を覚ましたナークが暴れないように、男達が手分けして手足を押さえつける。青年は、自身の分厚くざらついた手でナークの白い肌の上に赤い線が走るのを愉しむ様に撫で上げた。
「堪らないなぁ」
呟いて、青年は抑えきれない涎を垂らしながらナークの耳朶に噛み付いた。その鋭い牙のような歯がつぷりと耳を噛み裂く。
「っい」
びくりと体を震わせて、ナークが目を覚ました。咄嗟には状況が飲み込めずに言葉を失くすが、直ぐに危機だと理解して叫ぼうとする。だが、その右頬を青年に殴られ、声は出せなくなった。
「駄目だよぉ。騒ぐのはナシだ」
縦に長い瞳孔の赤い目で至近距離から睨まれ、ナークの体が竦み上がる。手足に走る痛みで、四肢を力任せに拘束されているのだと、青年以外にも何人かの存在があるのだと気付く。
「まぁ、そんなに心配しないでよぉ。君にとってはいつもと同じこと、俺らの卵を孕んで欲しいだけだからさぁ」
切り裂かれた耳から滴る血を舐め啜る音が耳に届き、ざらついた手に腹を押すように撫でられ、ガタガタとナークの体は震えだした。
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