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萬魔の王
変化4
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青年は舐めた血の甘さに酔ったような表情を浮かべるだけで、怯えるナークの姿を気にした様子は一切ない。執拗に血を舐め啜りながら、先ほどから匂いと味に反応して立ち上がっている自身の性器をナークの後孔にあてがった。
解されても濡らされてもいない自分のそこが、どんな目に合うのか察せたれたナークは、駆け上がる怖気に思わず小さな悲鳴を上げてしまう。
「だからぁ」
青年は無造作に手を振り上げ、再びナークの頬を叩こうとした。
「っ!」
ナークは反射的に瞼をぎゅっと閉じたが、衝撃は訪れない。それどころか、自分の手足を押さえ付けていた力さえ無くなった事に気付く。
そっと、瞼を開くと、視界は真っ暗な闇だった。だが、その温かさを持った闇が、何であるのかは直ぐに解る。
「王さまっ!」
間違い無く王の影だと確信して、ナークは何度もそう呼びかけた。影の中で上半身を起こして、王の姿を探すように手を伸ばす。手には何も触れなかったが、直ぐに体は横抱きにされた。
頭の周りの影が、開いて、僅かに見上げる位置に王の黒い狼のような顔をみとめる。ナークは咄嗟に腕を伸ばしてその逞しい首に抱き着いた。
「王さま、王さまぁ…」
涙が滲む目をぎゅっと閉じ、震えながら必死に縋り付いていたナークは、王が牙を剥くような表情をした事に気付かない。
再び黒い影に覆われ、抱き上げられしがみ付いた姿勢が変わった訳ではないが、安堵しつつも王のさらさらとした被毛の感触が無くなった事に不安と不満を覚える。
しばらく抱き上げられた状態で歩いているようだったが、そっと寝台に乗せられ、影は離れていく。
「…王さま?」
寝台の中ほどにしゃがみ込み、離れた所に立つ王に呼びかけた。先ほどまで直ぐ傍にあった熱が、遠い事が無性に虚しさを掻きたてる。腰が抜けたようになってしまっていて、立ち上がる事が出来ない。這うような姿勢で、必死ににじり寄って、王に向かって手を伸ばした。
だが、王にナークの手が届く前に、寝台の下から伸びてきた触手が彼の体に絡みつく。触手の拘束は、柔らかな皮膚を傷付けはしないし、害意有るものではないと解ってはいるが、先ほどの今であるため彼は身を強張らせた。しかも影が再びその視界を奪っていく。
「なんで…」
突然に不安を覚え、震える声で彼は王を呼ぶが、答えてくれる声は無い。だが、変わりの様に温かく肉厚な舌が彼の噛み裂かれた耳朶を舐めた。
「んぁ」
その感触と熱に対する既視感が、彼の体から強張りを解いていく。相変わらず視界は影に覆われていたが、体を舐める温かなものが、傷を塞いでいるのだとは理解できた。耳朶の後は、頬へ、両手首、両足首、そして腹の上へと移動していく。
「はぁ…あぁ、んぅっ」
怪我の治療だと理解しているが、傷を舐められる度、痛みが痒みへと舐められているという刺激へと変わっていった。王のもとに居るという安堵も手伝って、気が付けば彼は甘い喘ぎを上げて身悶えてしまう。
「あ…?」
腹の上を舐められる刺激を最後に、触手が離れ、視界を覆っていた影も晴れた。発情というほどではないが、刺激に昂った表情で、彼は王に懇願するような視線を向けるが、王は静かに部屋を出て行ってしまう。
「王さま」
彼は湧き上がる不安感に震える声で呼び止めようとしたが、王の歩みが止まる事は無かった。
(どうして…)
一瞬にして体の熱が冷めていく。
彼は、今、自分が王に迷惑をかけていると感じていた。虚しさや寂しさというよりも、寒気を覚える絶望感に、己の腕を抱く。
以前に魔族に襲われた時は、卵袋としての役割が有った。だから助けてもらえたのではないか。では、今は。彼には何の役割も無いのだ。魔族に襲われ怪我をして、王の手間を増やしただけだ。
(俺は、猫なんかじゃない…)
役に立たない犬の末路がどんなものか、彼はちゃんと解っている。粟立つ肌を摩って、彼は唇を噛み締めた。
(駄目だ。ちゃんと、役に立たないと)
決意して、彼は辺りを見回す。何時の間にか棚に置かれていた服に気付き、それを着た。とにかく王に話をしようと立ち上がって、部屋を出る。
「あ」
護衛の狐魔族が部屋の前に居た。尾も耳も垂れた、絵に描いたようなしょんぼりとした風情で、座っている。
「誠に、申し訳ありませんでした。護衛を拝命していながら、御身を危険に晒してしまいました」
「いえ、だって、あなたが俺を守るのは外に居る時ですから、仕方ないです。その、それより、あの、王さまは、今何処にいるんですか?」
ナークの言葉に耳と尾を立てかけたが、続く質問に再び耳が垂れ、ついでに首も傾いだ。
「陛下ですか? 今は執務室に居られるかと」
「しつむしつ?」
「ご案内いたしましょう」
「ありがとうございます」
ナークが王を探しているというのなら、特に阻む理由が無い。狐魔族は彼を王の執務室へと案内していった。ナークには違いがよく解らないいくつもある扉の一つの前で、王の執務室は此処です、と示される。王も中にいらっしゃるようですよ、と言われ、彼は良かったと思いながら扉を叩いた。
「入れ」
王の声が聞こえ、ナークは扉を上げて室内に入っていく。狐魔族は廊下に座って、それを見送った。
解されても濡らされてもいない自分のそこが、どんな目に合うのか察せたれたナークは、駆け上がる怖気に思わず小さな悲鳴を上げてしまう。
「だからぁ」
青年は無造作に手を振り上げ、再びナークの頬を叩こうとした。
「っ!」
ナークは反射的に瞼をぎゅっと閉じたが、衝撃は訪れない。それどころか、自分の手足を押さえ付けていた力さえ無くなった事に気付く。
そっと、瞼を開くと、視界は真っ暗な闇だった。だが、その温かさを持った闇が、何であるのかは直ぐに解る。
「王さまっ!」
間違い無く王の影だと確信して、ナークは何度もそう呼びかけた。影の中で上半身を起こして、王の姿を探すように手を伸ばす。手には何も触れなかったが、直ぐに体は横抱きにされた。
頭の周りの影が、開いて、僅かに見上げる位置に王の黒い狼のような顔をみとめる。ナークは咄嗟に腕を伸ばしてその逞しい首に抱き着いた。
「王さま、王さまぁ…」
涙が滲む目をぎゅっと閉じ、震えながら必死に縋り付いていたナークは、王が牙を剥くような表情をした事に気付かない。
再び黒い影に覆われ、抱き上げられしがみ付いた姿勢が変わった訳ではないが、安堵しつつも王のさらさらとした被毛の感触が無くなった事に不安と不満を覚える。
しばらく抱き上げられた状態で歩いているようだったが、そっと寝台に乗せられ、影は離れていく。
「…王さま?」
寝台の中ほどにしゃがみ込み、離れた所に立つ王に呼びかけた。先ほどまで直ぐ傍にあった熱が、遠い事が無性に虚しさを掻きたてる。腰が抜けたようになってしまっていて、立ち上がる事が出来ない。這うような姿勢で、必死ににじり寄って、王に向かって手を伸ばした。
だが、王にナークの手が届く前に、寝台の下から伸びてきた触手が彼の体に絡みつく。触手の拘束は、柔らかな皮膚を傷付けはしないし、害意有るものではないと解ってはいるが、先ほどの今であるため彼は身を強張らせた。しかも影が再びその視界を奪っていく。
「なんで…」
突然に不安を覚え、震える声で彼は王を呼ぶが、答えてくれる声は無い。だが、変わりの様に温かく肉厚な舌が彼の噛み裂かれた耳朶を舐めた。
「んぁ」
その感触と熱に対する既視感が、彼の体から強張りを解いていく。相変わらず視界は影に覆われていたが、体を舐める温かなものが、傷を塞いでいるのだとは理解できた。耳朶の後は、頬へ、両手首、両足首、そして腹の上へと移動していく。
「はぁ…あぁ、んぅっ」
怪我の治療だと理解しているが、傷を舐められる度、痛みが痒みへと舐められているという刺激へと変わっていった。王のもとに居るという安堵も手伝って、気が付けば彼は甘い喘ぎを上げて身悶えてしまう。
「あ…?」
腹の上を舐められる刺激を最後に、触手が離れ、視界を覆っていた影も晴れた。発情というほどではないが、刺激に昂った表情で、彼は王に懇願するような視線を向けるが、王は静かに部屋を出て行ってしまう。
「王さま」
彼は湧き上がる不安感に震える声で呼び止めようとしたが、王の歩みが止まる事は無かった。
(どうして…)
一瞬にして体の熱が冷めていく。
彼は、今、自分が王に迷惑をかけていると感じていた。虚しさや寂しさというよりも、寒気を覚える絶望感に、己の腕を抱く。
以前に魔族に襲われた時は、卵袋としての役割が有った。だから助けてもらえたのではないか。では、今は。彼には何の役割も無いのだ。魔族に襲われ怪我をして、王の手間を増やしただけだ。
(俺は、猫なんかじゃない…)
役に立たない犬の末路がどんなものか、彼はちゃんと解っている。粟立つ肌を摩って、彼は唇を噛み締めた。
(駄目だ。ちゃんと、役に立たないと)
決意して、彼は辺りを見回す。何時の間にか棚に置かれていた服に気付き、それを着た。とにかく王に話をしようと立ち上がって、部屋を出る。
「あ」
護衛の狐魔族が部屋の前に居た。尾も耳も垂れた、絵に描いたようなしょんぼりとした風情で、座っている。
「誠に、申し訳ありませんでした。護衛を拝命していながら、御身を危険に晒してしまいました」
「いえ、だって、あなたが俺を守るのは外に居る時ですから、仕方ないです。その、それより、あの、王さまは、今何処にいるんですか?」
ナークの言葉に耳と尾を立てかけたが、続く質問に再び耳が垂れ、ついでに首も傾いだ。
「陛下ですか? 今は執務室に居られるかと」
「しつむしつ?」
「ご案内いたしましょう」
「ありがとうございます」
ナークが王を探しているというのなら、特に阻む理由が無い。狐魔族は彼を王の執務室へと案内していった。ナークには違いがよく解らないいくつもある扉の一つの前で、王の執務室は此処です、と示される。王も中にいらっしゃるようですよ、と言われ、彼は良かったと思いながら扉を叩いた。
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