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ミツマの左隣からリーグクラット、カシオニア、シィレーナ、そして一つ空けてミツマに戻る。そんな席順で座って、王妃が物凄く見てくるのを感じながら、ミツマは小さく俯いて固まっていた。
(普通、隠密が居る事が緊急事態だろ…何で緊急事態で隠密呼ぶんだよ。別にキョートウ国の隠密じゃないってのに)
ずっと見てくるな、警戒されてるのかな、と考えていたシィレーナが、わずかに前のめりになりながら声を上げる。
「貴方…隠密さん? それ、前は見えているの?」
想定外過ぎる質問に見えていないのは解っていたが思わず愛想笑いを浮かべてしまう。
(怖い。もういっそ、怖い。キョートウの王族ってだいたい意味解んなくて怖い)
しかもシィレーナの隣でカシオニアが確かに、という顔をしているのも見えてしまった。
(え? それ、知りたい? 本当に知りたい? ていうか、緊急事態だって呼び出されて俺がされる質問それなの? もしそうならどうかしてるぞキョートウ国もジンナ王家も。普通に考えろよ見えない訳無いだろわざわざ自分から視界潰す隠密とか居ないからな)
覆面の目当てには、複数の穴が空いている。傍から顔が見えなくとも、内側から明るい外側は見えているのだ。だが、正直にそんな話をする気には到底なれない。
「母上、そんな話は後にしてくれ、今は兄上の話だろう」
興味のままにミツマの覆面に手を伸ばしそうなシィレーナをリーグクラットの言葉が制す。
(いや、その兄上様も明らかに興味を示してたけどな…)
ミツマの心中はともかく、場の流れは、ミツマが呼び出された目的に向かった。
「そうね、そうだったわ。隠密さん、貴方に人を探してもらいたいの!」
呼び方や人選やらもう全てが疑問の対象だったが、もうミツマはキョートウ国王家に常識は求めないことにする。
「可不可の問題もありますので、詳しくお話を伺ってから返事をさせていただけますか」
ミツマはそう言ったが、実は何となく事情は分かっている。なにせ天井裏から聞いていたので。
今朝、リーグクラットに奇襲を仕掛けたシィレーナは、その勢いのままにカシオニアの元にも突撃した。早く起き過ぎて暇だったらしい。ところが、寝室ではなく居間の扉の前に来たところで、既に息子が起きており、更には誰かと話をしていることに気付いた。相手によっては突撃などできないので、そっと聞き耳を立てた結果、なんと奥手な長男が恋しい男を口説いているらしいと知れた。もっとも、どうやら身分差や同性である点などで煮え切らずにいるらしい。彼女はここで、私が一肌脱がねば、と、何故か思ってしまった。おそらく睡眠時間が足りていなかったせいだろう。
「困るわね! カシオニアにはこの国を背負ってもらわなくてはならないのだから!」
そういって扉を押し開けた時、シィレーナは恋人達に愛の試練を与える気分であった。雨降って地固まる、そういう期待しか持っていなかった。
「王妃陛下の仰せの通りです。殿下の幸福とキョートウ国の末永い繁栄を、お祈りしております」
まさか、そう言って男がその場を去っていくなどとは思っていなかったのだ。本当に全く、これっぽっちも。
「………え?」
絶望に打ちひしがれたカシオニアの姿に、シィレーナは自分が取り返しのつかない事をしたと、ようやく気が付いた。唇を真っ青にするほど血の気をひかせて、慌ててカシオニアに言い訳をし、フォローをしようと男が誰なのかを聞き出そうと奮闘し、だが自分ではどうにもできないと解ってカシオニアを連れてリーグクラットの元に来たのだ。
そしてリーグクラットは人探しとかよく解らないが隠密の仕事っぽいかな、と考えてミツマを呼び出した。
(………逃げた男の人が正解だと俺は思ってるよ、言わないけどさ)
いちおう聞く姿勢を作って、カシオニアやシィレーナの方を向く。向くといってもわずかに首を動かし視線をぐっと向けただけなので覆面のせいで気付かれてないかもしれないが、もうそこは気にしない。
「ひとまず、その方の特徴などを伺いたいのですが」
「ああ、背は、私よりも拳ひとつほど低く小柄だ」
(それは小柄ではないな普通だ)
「髪は珍しい黒で」
(人類の大半が黒か茶なんだが)
「瞳は濃い緑色」
(黒髪で一番多い目の色だな)
「水面に写る翠緑の柳のような、艶のある方だ」
(惚れた欲目は排して特徴だけ教えて下さい)
ジンナ王家は男女共に世間一般とは身体的特徴が異なる。軒並み大柄で金髪あるいは銀髪碧眼の人間が多い、しかも彼等の血が濃いのか強いのか、一族や一族がかつて交わった家臣など、その特徴が現れ易い。おかげで、ことキョートウ王家の王都周辺に限って言えば、そうした特徴の人間が半数以上を占めている。
だが、キョートウ国に限らず周辺諸国を見回せば、人口の八割を占めているのは黒髪から茶髪なのだ。そして、黒髪の中で最も多いのは緑の瞳、もし金色や紫色の瞳だと言われればかなり絞れるが、黒髪に緑目で人物を絞ることはできない。なんならここの金髪碧眼が半分の城内ですら三十人以上見つかるはずだ。
今与えられた情報ではどう頑張っても探せない。
「ちなみに、その方のお名前は?」
「解らない」
「………」
(いや無理だわ、普通に無理だって)
(普通、隠密が居る事が緊急事態だろ…何で緊急事態で隠密呼ぶんだよ。別にキョートウ国の隠密じゃないってのに)
ずっと見てくるな、警戒されてるのかな、と考えていたシィレーナが、わずかに前のめりになりながら声を上げる。
「貴方…隠密さん? それ、前は見えているの?」
想定外過ぎる質問に見えていないのは解っていたが思わず愛想笑いを浮かべてしまう。
(怖い。もういっそ、怖い。キョートウの王族ってだいたい意味解んなくて怖い)
しかもシィレーナの隣でカシオニアが確かに、という顔をしているのも見えてしまった。
(え? それ、知りたい? 本当に知りたい? ていうか、緊急事態だって呼び出されて俺がされる質問それなの? もしそうならどうかしてるぞキョートウ国もジンナ王家も。普通に考えろよ見えない訳無いだろわざわざ自分から視界潰す隠密とか居ないからな)
覆面の目当てには、複数の穴が空いている。傍から顔が見えなくとも、内側から明るい外側は見えているのだ。だが、正直にそんな話をする気には到底なれない。
「母上、そんな話は後にしてくれ、今は兄上の話だろう」
興味のままにミツマの覆面に手を伸ばしそうなシィレーナをリーグクラットの言葉が制す。
(いや、その兄上様も明らかに興味を示してたけどな…)
ミツマの心中はともかく、場の流れは、ミツマが呼び出された目的に向かった。
「そうね、そうだったわ。隠密さん、貴方に人を探してもらいたいの!」
呼び方や人選やらもう全てが疑問の対象だったが、もうミツマはキョートウ国王家に常識は求めないことにする。
「可不可の問題もありますので、詳しくお話を伺ってから返事をさせていただけますか」
ミツマはそう言ったが、実は何となく事情は分かっている。なにせ天井裏から聞いていたので。
今朝、リーグクラットに奇襲を仕掛けたシィレーナは、その勢いのままにカシオニアの元にも突撃した。早く起き過ぎて暇だったらしい。ところが、寝室ではなく居間の扉の前に来たところで、既に息子が起きており、更には誰かと話をしていることに気付いた。相手によっては突撃などできないので、そっと聞き耳を立てた結果、なんと奥手な長男が恋しい男を口説いているらしいと知れた。もっとも、どうやら身分差や同性である点などで煮え切らずにいるらしい。彼女はここで、私が一肌脱がねば、と、何故か思ってしまった。おそらく睡眠時間が足りていなかったせいだろう。
「困るわね! カシオニアにはこの国を背負ってもらわなくてはならないのだから!」
そういって扉を押し開けた時、シィレーナは恋人達に愛の試練を与える気分であった。雨降って地固まる、そういう期待しか持っていなかった。
「王妃陛下の仰せの通りです。殿下の幸福とキョートウ国の末永い繁栄を、お祈りしております」
まさか、そう言って男がその場を去っていくなどとは思っていなかったのだ。本当に全く、これっぽっちも。
「………え?」
絶望に打ちひしがれたカシオニアの姿に、シィレーナは自分が取り返しのつかない事をしたと、ようやく気が付いた。唇を真っ青にするほど血の気をひかせて、慌ててカシオニアに言い訳をし、フォローをしようと男が誰なのかを聞き出そうと奮闘し、だが自分ではどうにもできないと解ってカシオニアを連れてリーグクラットの元に来たのだ。
そしてリーグクラットは人探しとかよく解らないが隠密の仕事っぽいかな、と考えてミツマを呼び出した。
(………逃げた男の人が正解だと俺は思ってるよ、言わないけどさ)
いちおう聞く姿勢を作って、カシオニアやシィレーナの方を向く。向くといってもわずかに首を動かし視線をぐっと向けただけなので覆面のせいで気付かれてないかもしれないが、もうそこは気にしない。
「ひとまず、その方の特徴などを伺いたいのですが」
「ああ、背は、私よりも拳ひとつほど低く小柄だ」
(それは小柄ではないな普通だ)
「髪は珍しい黒で」
(人類の大半が黒か茶なんだが)
「瞳は濃い緑色」
(黒髪で一番多い目の色だな)
「水面に写る翠緑の柳のような、艶のある方だ」
(惚れた欲目は排して特徴だけ教えて下さい)
ジンナ王家は男女共に世間一般とは身体的特徴が異なる。軒並み大柄で金髪あるいは銀髪碧眼の人間が多い、しかも彼等の血が濃いのか強いのか、一族や一族がかつて交わった家臣など、その特徴が現れ易い。おかげで、ことキョートウ王家の王都周辺に限って言えば、そうした特徴の人間が半数以上を占めている。
だが、キョートウ国に限らず周辺諸国を見回せば、人口の八割を占めているのは黒髪から茶髪なのだ。そして、黒髪の中で最も多いのは緑の瞳、もし金色や紫色の瞳だと言われればかなり絞れるが、黒髪に緑目で人物を絞ることはできない。なんならここの金髪碧眼が半分の城内ですら三十人以上見つかるはずだ。
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