そうだ、壁になりたい ~ ゲーム世界に転生した俺 ~

nionea

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おまけ ※基本3人称

・ルイとアクスの出会い話

 ルイは使用人見習いの子供の服を手に入れ、炭で適当に手や顔を汚して、意気揚々と街に繰り出した。
 まずは、軍資金を稼ぐ為に自分の服を古着屋に持ち込む。店の場所は地図を入手して、使用人達にバラバラに聞き込んで調べ済みだ。
「盗品じゃねぇだろうな?」
 厳つい髭面の店主にそう言われ、帽子の下でむっとした顔を作る。
「っげぇよ。俺の格好があんまりにも小汚いからウチのお坊ちゃんがくれたんだよ! こんなぴらっぴらのすぐ破けそうな服、どこにも着てけないってのにさ。大体小せぇし、なんか花の匂いがくせぇし、売るくらいしかできねぇから持ち込んだっつーのに、盗品とか疑われるし、あぁああ、ほんっと貴族の坊ちゃんと関わるとろくな事ねぇわ。もういい、買い取ってくんねぇなら別んとこもってくし、返せよ」
「あー悪かった。解った。一応確認しないとダメなんだよ」
 その後も、他の店のが提示額が良かった、等と嘘を交えて交渉し、想定通りの金額を入手する事に成功した。
 後は、調べた屋台やら菓子屋やらで、楽しく買い食いするだけだ。
(いやー結構上手くいくもんだなぁ)
 この為に仮病を使って昼を抜いたのだ。ルイは屋台を前に口の中を涎でいっぱいにしながら、梯子して回った。
 たこ焼きのような形状で中身は皮の無いソーセージという、フランクフルトが色々変形したような食べ物。クレープ生地に杏ジャムを伸ばして巻いた温かいお菓子。瓶入りの味不明なジュース。歌舞伎の隈取にちょっと似ている気がする謎の図案な、木工細工の首飾りは、迷ったが買わなかった。
 ひとしきり満足したので騒ぎになる前に帰ろうとしたところで、小路でしゃがみこんでいる小さな人影に気付く。
(あれ? んー…何か、身形が良い様な気がするな)
 近くの屋台で瓶入りのジュースを買いながら、やる気のなさそうな店主に質問してみる。
「おっちゃんさぁ、貴族のボンボン助けた事ある?」
「なんだその質問」
「迷子」
「ああ、ねぇな。でももし見つけたら助けるぜ。そういうのは礼金もらえるしな」
「それさぁ俺も聞いた事あるけど。貴族の家ってそんな簡単に解んなくね?」
「馬鹿だな、お前、交番に連れてくんだよ。そんで名乗っとけば後日礼金が運ばれて来るって訳だ」
「へぇ…便利ぃ」
「あ! おい、もしかしてどっかに…あれ?」
 店主が迷子が居ると察する前に、既にルイはその場を離れていた。小さく蹲っている肩を叩く。編まれた黒髪が長く背に流れているが、格好からして少年だろう。
「大丈夫か? これ、良かったら飲むか? あと交番案内してやるから、立てそうなら立ってみてくんない」
 顔を上げた少年は、顔色は悪いが肌ツヤは良く、やはり貴族子弟と思われた。歳は、ルイよりも一つか二つ、上だろうか。
(お、美少年。将来有望だな。でも、黒髪に緑目だと攻略対象にはいなかったよな。てことはゲーム的にはモブかぁ、こんな美少年がモブ…でも考えて見ればあのゲーム同級生が映り込むスチルでも結構美少年美少女が映ってんだよなぁ、特に同級生との昼ご飯の時の銀髪の美少女くっそ可愛かったのなんのって)
 顔は上がったのだが、具合が悪いせいかあまり反応が芳しくない。そのため、時間潰しにルイがくだらない事をつらつらと考えていると、ようやく少年の手が伸びてジュースの瓶を手にとった。
「冷たい…」
「つい今しがた買ってきたからね」
 ルイが見つめるなか、二、三口ジュースを飲んでから、ゆっくりと少年、アクスが立ち上がる。
 頭一つ、とまではいかないが、それなりに背が高い。もっとも、ルイの感覚からするとざっくり子供だ。
「大丈夫?」
「………たぶん」
「まぁ、交番すぐそこだから」
 朗らかに笑って手を差し出すルイに、アクスはおずおずと手を伸ばした。自分よりも年下らしいのに、何てしっかりとしているんだろう。
(小さな手…)
 自分の手よりも一回り小さな手に、手を引かれながら、アクスは帽子の隙間から覗くオレンジ色の髪を見つめた。自分の体調に合わせてだろう、ゆっくりとした足取りで歩いてくれているし、何か気を遣って話しかけてもくれているようだ。
「あそこのお菓子美味しかったんだよ。それにさ、店員さんがいい笑顔でさ。やっぱ愛想が良い方が嬉しいよなぁ。まぁ、でも男だし。隣のおっちゃんみたいな喧嘩強そうなのも憧れるけどさ。あ、猫。そういえばあっちの端に猫の形した飴売ってたよ。可愛いからさ、食い辛いよな、ああいうの」
 元々返事を期待しているようではないルイの言葉を聞きながら、アクスは俯いてしまう。年上であるのに小さな手に頼りきりな自分の姿が恥ずかしく感じられたのだ。父にも母にも、もっとしっかりしろと、いつも言われている。
(さて、交番の中まで入っちゃうとまずいからなぁ…迷子デースと叫んで彼を交番に押し込んで去るか)
 もっとも、ルイはこの時、少年が頼り切りな事など全く気にしていなかったし、その心情に考えなど及んでいなかった。もともと精神年齢だけは成人のつもりなので、実際には年上な少年に対して、子供なんだからちゃんと面倒見てあげないとな、とか考えていたくらいだ。
 交番の中にあるカウンターの向こうに制服姿の人物をみとめて、その出入口でルイはぴたりと立ち止まる。不思議そうにしてはいるが、もう大分顔色の良くなったアクスの背を押して、道を駆け出す。
「待って、名前」
 一方、押し込まれたアクスは慌てて振り返り、駆け出しているルイの背中に声をかけた。振り返った笑顔を見て、初めて顔を見たと気付く。薄汚れていたが、得意満面の笑顔が、晴れやかだった。
「ノーセだよ」
 謝礼はいらないというより、そんなことをされると抜け出した事実がバレるので、背後からの叫び声にルイは偽名を名乗った。いったん振り返って、少年が交番のお巡りさんらしき制服の人物と一緒なのを確認し、大きく手を振る。後は振り返らずに路地に入っていった。
(俺、中々良い事したなぁ)
 その後、更に二度ほど出歩いたものの、抜け出しがバレたのか、古着屋から情報が上がったのか、使用人が監視するように部屋に付くことになり、四度目は実行できなかった。
 ちなみに、監視のような使用人は付いたが、毎日入れ替わる彼らがルイと特別会話をするような事はない。
(ほっとかれんのが変わんねぇなら、いっそ、完無視してくれよ。あーあ、楽しかったのになぁ)
 こうして、黒髪おさげの少年に自分が何を植え付けたのかも認識する事無く、やがて来る学園生活での妄想を楽しみながら、ルイは暢気に読書三昧の日々を過ごすのだった。

□fin
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