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おまけ ※基本3人称
2.贈り物 ※
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翌日。
不安を抱え寝不足になりながらも、いつもの様にイースは図書館へやってきた。昨日の帰り際に、扉の上に挟んだ落ち葉が、そのままになっている。
(…少なくとも、この扉は誰も開けていない)
僅かばかり安堵して、扉を開けた。カウンターの上や、机の上には何も見当たらない。更に安心感が増し、我知らず吐息が漏れる。だが、その感情は直ぐに打ち砕かれた。カウンターの作業板に、全く覚えのない黒い箱が置かれているのだ。
ごとりと音がして、自分が掴んでいた鞄の取っ手から手を放した事に気付いた。だが、そちらを見る事はできない。視線は、黒い箱の、蓋の上に注がれている。銀色の箔で『心を込めて貴方に』と書かれていた。
装飾書体で書かれた言葉は、贈り物に添える一般的な文言だ。しかし、イースはその文字に膝が震える。本の中で、青年が脅迫者の男から贈られた箱。それも、黒に銀箔で『心を込めて貴方に』と書かれていた。であれば、開けずとも、箱の中身は想像がつく。貴方は、イースだ。では、心を込めたのは誰なのか。
震える手を伸ばして、箱に触れ、慌ててその箱を机の中へ隠し入れた。とにかく自分の視界から、いや、この世から隠してしまいたかったのだ。
(どうして…どうやって)
扉が開けられた形跡はないと思ったが、イースの仕掛けに気付いてそのまま戻したのだろうか。いや、葉には全く動かした所がなかった。では、館内の何処かに侵入口があるのだろうか。ぞくりと首裏に寒気が走る。
そもそも、秘密を知られたのは、何時、何処でだったのだろう。
(そんなはずが無い…防犯上から考えて図書館に侵入口なんて………そうだ、見取り図だって見た事がある。そんなもの、ここには無い。絶対に、無いはずなんだ)
その日、イースはカウンター内を頻繁に出て館内を隈なく見て回った。しかしながら、人が出入りできそうな場所は勿論見つからない。内側からは解らなくても、外から開く仕掛けがあるのかもしれないと図書館の外壁も見て回ったが、結局、何もなかった。
(やっぱり、何もない)
一抹の不安を抱えながらも、脅迫に従うという選択を取る事もできず、イースは黒い箱をそのまま図書館に残して鍵をかけた。
いつもより足早に自宅に戻ると、居間の電気を点け、家に置いておくのも不安で鞄に入れていた本を取り出す。躊躇いながらも、黒い箱が出てくる箇所を開いた。箱の描写は、図書館に置かれていた物と寸分変わらない。つまり、あの箱は間違いなく脅迫者からの贈り物で、イースに使えと言っているのだ。
(………無理だこんな)
粘つく視線に犯されながら青年が中を清め終えると、男は黒い箱を差し出した。贈り物だと囁く声に青年が箱を開くと、とろみのある液体が入った青色の小瓶と白い潤滑油が入った瓶の二つが入っている。困惑しながらも男の指示通り、潤滑油を指にとり、窄まった後孔の皺、その一つ一つに丁寧に塗りこんでいった。先程までのお湯を注ぎ込み、吐き出していた感覚が蘇り、気が付けば青年は男に言われるまでもなく指を中に押し入れてしまう。潤滑油の助けを借りてするりと中に入り込んだ指は、柔らかく敏感な粘膜に触れ、擦り上げる度に湧き上がる性感ではないはずの刺激に、柔らかく青年のモノが勃起し始めた。
イースは本を閉じて振り切るように頭を左右にする。
こんな本には、あんなカードには、従えない。そう心に決めて、本を寝室の本棚に置き、侵入者がいるかもしれないと報告する事に決める。本の事は言わずに、最初のカードを証拠として示そう。
(卑怯な振る舞いだと思うけど、それしか)
自己嫌悪と罪悪感に苛まれながらも、図書館の点検と警備を上申しようと決めたイースだったが、翌朝、カウンターの中に置かれた白い封筒の中身を見て顔を青くして椅子にへたり込んだ。
『従って頂けないようなので、
貴方の秘密を書いた手紙を人目に触れる場所に置きました』
カードの上の文字が頭で渦を巻く。
人目に触れる場所という漠然とした条件では、探そうにも探せない。そもそも、図書館の仕事を放り出して探しに行く訳にもいかない。イースは半分放心したような状態で、一日、カウンターに座っていた。
全てが終わる。何もかもが、他人に知られて素知らぬ振りなど出来はしない。ましてイースの仕事は高い倫理観と自制を望まれる仕事だ。そんな自分の他人に言えない秘密が露にされて、どうやって生きていけば良いというのか。死刑宣告を待つような、絶望的な気持ちだった。
朝の始業を告げる鐘が鳴る。
(あぁ…鍵を開けないと………)
昼が過ぎ、放課後になり、閉館の時間も近付いた頃。
館内に居た最後の生徒が、貸出希望の本を片手にカウンターへやってきた。
「あ、そうだ。あとコレ」
本を受け取り、貸出処理をしていたイースは、生徒が自身のノートの間から取り出した白い封筒を見て、思わず固まってしまう。好きで見慣れた訳ではないが、あまりにもその白い封筒には見覚えがあった。
イースの色を失った顔色には気付かずに、その生徒は白い封筒の中身を引き出す。止めろと叫びたい衝動がイースを襲ったが、硬直した体は声すら出せない。
「たぶん忘れ物だと思うんですよ」
白紙なんです、と笑って示され、血の気が引いていたイースの顔に熱が戻った。激しい動悸と血の動きに頭がふらっとしたが、堪えて微笑みを浮かべる。叫べなくて、良かった。封筒を預かっておく、と生徒の手から受け取って、彼を見送る。
何故白紙の封筒が。置かれた手紙はこれのことなのか。それとも、さっきの生徒が何か関わるのだろうか。そもそもこれ以外に手紙があって、既に誰かに自分の秘密は知られたのでは。処分方法が決定し次第、声をかけらるのではないだろうか。ぐちゃぐちゃと、だが、全てマイナス方向に思考は乱れていく。
イースの混乱する思考に答えがもたらされたのは、結局のところ、更に翌朝の事だった。
最早、心のどこかで予想していた通り、開錠した無人の図書館で、カウンター内に白い封筒を見つける。
『まずは、警告を
これで、どうすべきか、お解りいただけましたね』
警告。それは、このままイースが従わなければ次は白紙では済まないぞという事だろう。
まだ誰にも秘密が知られていなかった事に安堵し、そして、脅迫に従う他ない状況に絶望した。
諦念を抱いて一日の業務を終え、イースは、黒い箱を手に人目を避けるように急いで帰宅する。荷物を置き、まずは、風呂に入り、一度は経験した手順を繰り返した。回を重ねる程、慣れるというより新たな感覚が生み出されるようで、風呂場を出る頃には下肢に血が滾ってしまう。
(この後は)
寝室で、本と黒い箱を並べ、腰に巻いたタオルを寝台に広げる。
どうしてこんな事になるのか、そうは思いながらも、どうすれば良いのかは思い知ってしまった。
その夜から、イースは本の通り、贈り物を使い、青年と同様に体を快感に対して鋭敏になるよう開発し始める。
本の内容が詳細だからなのか、やはりどこかで監視されているのか、贈り物はイースの行動と絶妙にシンクロして届いた。潤滑油が足りなくなれば追加が、本の内容が進めば器具が。
知識だけだったイースの体は繰り返し自分の体に触れる度、徐々に感覚の鋭さを増した。そして、性的な快感が募るほどに、自慰に近いこの行為への羞恥は薄れていく。
「はぁ、んぁ…ぅん」
自分の反応が本の中の青年と重なると、男の存在から脅迫者の視線が透けて見えるようだった。その視線を感じる度に、誰もいない部屋の中で視線から隠れるように振舞っていたが、今はもう気にならない。むしろ、視線があるかもしれないと思うほどに快感はいや増した。
(何故だろう…)
秘密を知られているという事は、恐怖だったはずだ。それなのに、気が付けば図書館の扉を開ける度に白い封筒や黒い箱が置かれている事に安心すら感じている。我知らず湧き上がる期待が満たされる歓びは、体が快楽に馴染む程に強くなった。
寝室だけではない。誰もいない放課後の施錠した図書館。人が来るかもしれない早朝の開錠した図書館。人が出入りする昼真のカウンター内。行為に伴い場所もエスカレートして行くが、段階を経て徐々に進むせいか、抵抗感が湧き上がらない。本に従うという脅迫を受けている事が、自分の中で理由ではなく言い訳になっている事に、心の何処かでは気付いている。
だが、自分を止める術を、イースはもう失った。
「んぅ…」
寝台の上で仰向けになって、自分の体を弄る。青い小瓶の粘液で濡らした手で触れた胸では、赤く腫れたように乳首が硬くなっていた。青い小瓶の中身には軽度な催淫効果があるのだ。同じ手で、陰茎や亀頭、後孔から内壁へも丁寧に馴染ませたため、既に一度精を吐き出したはずのイース自身はまだ硬く勃ち上がっている。
「はぁ…はぁ…あっ、あぁ…」
誰にも言えなかった事を知られ、更なる秘め事を共有する日々は、何故かイースの中に姿の見えない脅迫者への慕わしさを生んでいた。青年を見つめる男の存在が、もし自分を脅迫する者と同じならば、その根底にあるものは何なのか。考え始めると何故か脅迫者に会いたいような気さえする。粘つく視線の、見透かすような、何もかもを知られているような、そんな存在。
竿を扱く手に自身の果てが近い事が伝わる。受け止めるために反対の手を亀頭へ伸ばした。
「あぁっ!」
手の中に射精してから、イースはゆっくりと呼吸を整える。
まるで、体が造り変わったようだ。ただ、慣れただけのはずなのに、慣れる度に新しい感覚が生まれていく。このまま、進んでいくと、その先には何が待っているのだろうか。本当は、最後まで読む事もできる。だが、今はその日の分だけを読んでいた。知らない事への恐怖が、知らない事で得られるものに負けたのだ。
頁を捲りかけた手を止めて、イースは本を閉じた。
シャワーを浴びてから、整え直した寝台に横たわる。
(また、明日………)
明日、自分の身に何が起こるのか、不安なのか期待なのか解らない震えを抱えて、眠りに就いた。
不安を抱え寝不足になりながらも、いつもの様にイースは図書館へやってきた。昨日の帰り際に、扉の上に挟んだ落ち葉が、そのままになっている。
(…少なくとも、この扉は誰も開けていない)
僅かばかり安堵して、扉を開けた。カウンターの上や、机の上には何も見当たらない。更に安心感が増し、我知らず吐息が漏れる。だが、その感情は直ぐに打ち砕かれた。カウンターの作業板に、全く覚えのない黒い箱が置かれているのだ。
ごとりと音がして、自分が掴んでいた鞄の取っ手から手を放した事に気付いた。だが、そちらを見る事はできない。視線は、黒い箱の、蓋の上に注がれている。銀色の箔で『心を込めて貴方に』と書かれていた。
装飾書体で書かれた言葉は、贈り物に添える一般的な文言だ。しかし、イースはその文字に膝が震える。本の中で、青年が脅迫者の男から贈られた箱。それも、黒に銀箔で『心を込めて貴方に』と書かれていた。であれば、開けずとも、箱の中身は想像がつく。貴方は、イースだ。では、心を込めたのは誰なのか。
震える手を伸ばして、箱に触れ、慌ててその箱を机の中へ隠し入れた。とにかく自分の視界から、いや、この世から隠してしまいたかったのだ。
(どうして…どうやって)
扉が開けられた形跡はないと思ったが、イースの仕掛けに気付いてそのまま戻したのだろうか。いや、葉には全く動かした所がなかった。では、館内の何処かに侵入口があるのだろうか。ぞくりと首裏に寒気が走る。
そもそも、秘密を知られたのは、何時、何処でだったのだろう。
(そんなはずが無い…防犯上から考えて図書館に侵入口なんて………そうだ、見取り図だって見た事がある。そんなもの、ここには無い。絶対に、無いはずなんだ)
その日、イースはカウンター内を頻繁に出て館内を隈なく見て回った。しかしながら、人が出入りできそうな場所は勿論見つからない。内側からは解らなくても、外から開く仕掛けがあるのかもしれないと図書館の外壁も見て回ったが、結局、何もなかった。
(やっぱり、何もない)
一抹の不安を抱えながらも、脅迫に従うという選択を取る事もできず、イースは黒い箱をそのまま図書館に残して鍵をかけた。
いつもより足早に自宅に戻ると、居間の電気を点け、家に置いておくのも不安で鞄に入れていた本を取り出す。躊躇いながらも、黒い箱が出てくる箇所を開いた。箱の描写は、図書館に置かれていた物と寸分変わらない。つまり、あの箱は間違いなく脅迫者からの贈り物で、イースに使えと言っているのだ。
(………無理だこんな)
粘つく視線に犯されながら青年が中を清め終えると、男は黒い箱を差し出した。贈り物だと囁く声に青年が箱を開くと、とろみのある液体が入った青色の小瓶と白い潤滑油が入った瓶の二つが入っている。困惑しながらも男の指示通り、潤滑油を指にとり、窄まった後孔の皺、その一つ一つに丁寧に塗りこんでいった。先程までのお湯を注ぎ込み、吐き出していた感覚が蘇り、気が付けば青年は男に言われるまでもなく指を中に押し入れてしまう。潤滑油の助けを借りてするりと中に入り込んだ指は、柔らかく敏感な粘膜に触れ、擦り上げる度に湧き上がる性感ではないはずの刺激に、柔らかく青年のモノが勃起し始めた。
イースは本を閉じて振り切るように頭を左右にする。
こんな本には、あんなカードには、従えない。そう心に決めて、本を寝室の本棚に置き、侵入者がいるかもしれないと報告する事に決める。本の事は言わずに、最初のカードを証拠として示そう。
(卑怯な振る舞いだと思うけど、それしか)
自己嫌悪と罪悪感に苛まれながらも、図書館の点検と警備を上申しようと決めたイースだったが、翌朝、カウンターの中に置かれた白い封筒の中身を見て顔を青くして椅子にへたり込んだ。
『従って頂けないようなので、
貴方の秘密を書いた手紙を人目に触れる場所に置きました』
カードの上の文字が頭で渦を巻く。
人目に触れる場所という漠然とした条件では、探そうにも探せない。そもそも、図書館の仕事を放り出して探しに行く訳にもいかない。イースは半分放心したような状態で、一日、カウンターに座っていた。
全てが終わる。何もかもが、他人に知られて素知らぬ振りなど出来はしない。ましてイースの仕事は高い倫理観と自制を望まれる仕事だ。そんな自分の他人に言えない秘密が露にされて、どうやって生きていけば良いというのか。死刑宣告を待つような、絶望的な気持ちだった。
朝の始業を告げる鐘が鳴る。
(あぁ…鍵を開けないと………)
昼が過ぎ、放課後になり、閉館の時間も近付いた頃。
館内に居た最後の生徒が、貸出希望の本を片手にカウンターへやってきた。
「あ、そうだ。あとコレ」
本を受け取り、貸出処理をしていたイースは、生徒が自身のノートの間から取り出した白い封筒を見て、思わず固まってしまう。好きで見慣れた訳ではないが、あまりにもその白い封筒には見覚えがあった。
イースの色を失った顔色には気付かずに、その生徒は白い封筒の中身を引き出す。止めろと叫びたい衝動がイースを襲ったが、硬直した体は声すら出せない。
「たぶん忘れ物だと思うんですよ」
白紙なんです、と笑って示され、血の気が引いていたイースの顔に熱が戻った。激しい動悸と血の動きに頭がふらっとしたが、堪えて微笑みを浮かべる。叫べなくて、良かった。封筒を預かっておく、と生徒の手から受け取って、彼を見送る。
何故白紙の封筒が。置かれた手紙はこれのことなのか。それとも、さっきの生徒が何か関わるのだろうか。そもそもこれ以外に手紙があって、既に誰かに自分の秘密は知られたのでは。処分方法が決定し次第、声をかけらるのではないだろうか。ぐちゃぐちゃと、だが、全てマイナス方向に思考は乱れていく。
イースの混乱する思考に答えがもたらされたのは、結局のところ、更に翌朝の事だった。
最早、心のどこかで予想していた通り、開錠した無人の図書館で、カウンター内に白い封筒を見つける。
『まずは、警告を
これで、どうすべきか、お解りいただけましたね』
警告。それは、このままイースが従わなければ次は白紙では済まないぞという事だろう。
まだ誰にも秘密が知られていなかった事に安堵し、そして、脅迫に従う他ない状況に絶望した。
諦念を抱いて一日の業務を終え、イースは、黒い箱を手に人目を避けるように急いで帰宅する。荷物を置き、まずは、風呂に入り、一度は経験した手順を繰り返した。回を重ねる程、慣れるというより新たな感覚が生み出されるようで、風呂場を出る頃には下肢に血が滾ってしまう。
(この後は)
寝室で、本と黒い箱を並べ、腰に巻いたタオルを寝台に広げる。
どうしてこんな事になるのか、そうは思いながらも、どうすれば良いのかは思い知ってしまった。
その夜から、イースは本の通り、贈り物を使い、青年と同様に体を快感に対して鋭敏になるよう開発し始める。
本の内容が詳細だからなのか、やはりどこかで監視されているのか、贈り物はイースの行動と絶妙にシンクロして届いた。潤滑油が足りなくなれば追加が、本の内容が進めば器具が。
知識だけだったイースの体は繰り返し自分の体に触れる度、徐々に感覚の鋭さを増した。そして、性的な快感が募るほどに、自慰に近いこの行為への羞恥は薄れていく。
「はぁ、んぁ…ぅん」
自分の反応が本の中の青年と重なると、男の存在から脅迫者の視線が透けて見えるようだった。その視線を感じる度に、誰もいない部屋の中で視線から隠れるように振舞っていたが、今はもう気にならない。むしろ、視線があるかもしれないと思うほどに快感はいや増した。
(何故だろう…)
秘密を知られているという事は、恐怖だったはずだ。それなのに、気が付けば図書館の扉を開ける度に白い封筒や黒い箱が置かれている事に安心すら感じている。我知らず湧き上がる期待が満たされる歓びは、体が快楽に馴染む程に強くなった。
寝室だけではない。誰もいない放課後の施錠した図書館。人が来るかもしれない早朝の開錠した図書館。人が出入りする昼真のカウンター内。行為に伴い場所もエスカレートして行くが、段階を経て徐々に進むせいか、抵抗感が湧き上がらない。本に従うという脅迫を受けている事が、自分の中で理由ではなく言い訳になっている事に、心の何処かでは気付いている。
だが、自分を止める術を、イースはもう失った。
「んぅ…」
寝台の上で仰向けになって、自分の体を弄る。青い小瓶の粘液で濡らした手で触れた胸では、赤く腫れたように乳首が硬くなっていた。青い小瓶の中身には軽度な催淫効果があるのだ。同じ手で、陰茎や亀頭、後孔から内壁へも丁寧に馴染ませたため、既に一度精を吐き出したはずのイース自身はまだ硬く勃ち上がっている。
「はぁ…はぁ…あっ、あぁ…」
誰にも言えなかった事を知られ、更なる秘め事を共有する日々は、何故かイースの中に姿の見えない脅迫者への慕わしさを生んでいた。青年を見つめる男の存在が、もし自分を脅迫する者と同じならば、その根底にあるものは何なのか。考え始めると何故か脅迫者に会いたいような気さえする。粘つく視線の、見透かすような、何もかもを知られているような、そんな存在。
竿を扱く手に自身の果てが近い事が伝わる。受け止めるために反対の手を亀頭へ伸ばした。
「あぁっ!」
手の中に射精してから、イースはゆっくりと呼吸を整える。
まるで、体が造り変わったようだ。ただ、慣れただけのはずなのに、慣れる度に新しい感覚が生まれていく。このまま、進んでいくと、その先には何が待っているのだろうか。本当は、最後まで読む事もできる。だが、今はその日の分だけを読んでいた。知らない事への恐怖が、知らない事で得られるものに負けたのだ。
頁を捲りかけた手を止めて、イースは本を閉じた。
シャワーを浴びてから、整え直した寝台に横たわる。
(また、明日………)
明日、自分の身に何が起こるのか、不安なのか期待なのか解らない震えを抱えて、眠りに就いた。
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