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アンネリザ達が相変わらずのやり取りを繰り広げている頃。
撫子の棟の一室で、シトロベルが扇子を机に打ち付けながら叫んでいた。
「早く用意をして! お父様に文を書くのよ!」
肩を怒らせる彼女の瞳にはありありとした焦燥が浮かんでいる。
(わたくしとした事が、なんてことなの…油断したなんて。アケチもアンスバッハも動いていないと文が届いていたから気を抜いてしまったわ。考えてみればあの小娘の姉はアンスバッハだけではないのに!)
シトロベルは自分を足止めしにかかったエリット男爵夫人、シレーナを思い出していた。アンネリザに似た髪と目の、だが、どこか優美な目元をした女性。国王陛下の御前で、数人の令嬢達に取り囲まれながら、優雅で嫋かな所作と微笑みを震わせることすらなかった。
あの姉と共に育ったのがアンネリザだというのなら、ただ利用されている小娘などではないに違いない。
(どんな手を使っているとしても、なんとしてでも陛下と連絡を取る手段を潰さなくては!)
同時刻。
シトロベルと同じような決意を胸に、メリーラッツァも金桃の棟に与えられた一室でペンを走らせていた。
「本当にアンスバッハは動いていなかったのよね!? あの小娘、どうやって陛下に擦り寄ったというの? お父様だけではなくて叔父様にも聞くべきだったのかしら。アケチ家なんて王都に勢力は無いはずなのにどうなってるのよ、もう、もう!」
正確にはメリーラッツァがグチグチと呟く言葉から意を汲み取った侍従の女性が、ペンを走らせているのだが。
「小娘だって油断したりしなかったのに…ちゃんと警戒していたでしょう。どうしてなの。あんなに段取り良く…絶対に手回し無しに出来る事ではないのよ。まして王都で手回しをするならアンスバッハを動かさないなんて」
令嬢としての振る舞いではないため必死に矯正したが、苛立ちのあまりつい爪を噛む癖を再発させかけながらメリーラッツァは頭を左右に振った。
「もう! なんなのよ! もう! とにかくあの小娘の伝手を全て潰して!」
ダンッと勢い良く地面を踏み付けると、美しく尖っていた靴の踵が折れ、メリーラッツァはバランスを崩してその場に転倒してしまう。
女中達に助け起こされながら、メリーラッツァは全てアンネリザのせいだと憎しみの炎を瞳に宿した。
「………」
そうした二つの部屋の喧騒とは打って変わって、桔梗の棟では静かに押し黙ったアヤメが白い紙を前に座っていた。
そんな主人を気遣わしそうに周囲は見つめていたが、結局アヤメは一文字も書かずに席を立つ。
「今日はもう寝ます。夕食はいりません」
「畏まりました」
頷く侍従が寝室に付いてくるのを止め、着替えの手は必要無いと告げて部屋に入った。
(どうして)
寝台に腰掛け、アヤメは傍らの小棚から布貼りの手箱を取り出し、中に収まっていた綴じ本を捲る。考えていた予定は全て潰れていた。アンネリザだけがその原因ではなかったが、あまりに大きな想定外の存在となっている。
アヤメがアンネリザへの疑念をふくらませる頃、同じ思いをリリアンヌも抱えていた。
(なんなのよあの小娘…!)
緑蓮の棟における中心人物の苛立つオーラは、室内で膨れ上がり、見えない力で侍従達を壁に押さえ付けるようだった。先程からばしばしと机の角に打ち付けられていた扇子の縁飾りが僅かに曲がった状態で床に落ちる。
「っ!」
お気に入りの扇子が壊れたのはリリアンヌが打ち付けたせいだが、今の彼女にはそれすらもアンネリザが悪いように思えて頭に血が上っていく。一際高く腕が振り上げられ、狙いすまして机の角に打ち付けられた扇子は壊れはしなかった。むしろ、机の角が欠ける。
「片付けておきなさいっ!」
手を離して床に扇子を落とすと、それだけ叫んで寝室へ駆け込んだ。どうあっても収まらぬ苛立ちを、持ち込んだ分厚い羽根枕へひたすらぶつける。肩で息をする程繰り返したが、スッキリする事はなかった。
このように、現状対立関係にある四つの棟の筆頭令嬢達が、憤懣やる方ない、という状況に陥っている中。
紅菊の棟では、それぞれ受け止め方に違いが出ていた。
「成人を迎えたばかりのお嬢ちゃん、ではなかったのね、アケチの姫様ったら」
部屋にやってきて当然のようにアイリスの侍従にお茶を頼んだヒナギクが、楽しそうに笑う。
「そうかしら? 全く策謀がなかったとは私だって思わないけれど。姉姫であるエリット男爵夫人が仰っていたように、陛下とエリット男爵との間でお話があったのが元ではないの? たまたま妹姫が入城されているから、渡りに船というか、手続きが簡単に済む機会を利用する事になったのだろうと思うわ」
「そうかもしれないわ。でも、あれだけのお歴々に気取られずに今回の事を運んだのは、誰の力かしら?」
王都という場所に都貴族が張り巡らせている蜘蛛の巣めいた情報網は、ヒナギクとて理解している。
「それは、まぁ、アンスバッハ家でしょう」
「ところがアンスバッハ家に付けている目からは何の報告も無いのよね。ま、勿論本格的な警戒をしている訳ではないから、アンスバッハ家が気取られないよう動いたと言うなら当然の結果だけれど?」
アンネリザと対立するつもりは無いし、最も望ましいのはアンネリザがレンフロと結ばれる事だとさえ考えているのが紅菊派だが。それはアンネリザの動向に注意を払わない事と同義ではない。当然彼女達も実家の力を使い、協力関係の中、アケチ家と名高いアンネリザの姉達について注意を払い続けていた。
「それは…」
アイリスとしてはあくまでアンネリザの周囲が主体になって動いていると考えていたのだが、ヒナギクは、アンネリザが騒動の中心で動かしていると考えていた。
「まぁ、どうでも構わないのよ。要は、利用されるだけの小娘でないのなら、益々見所があるじゃないって話なのだから」
ただ、二人ともアンネリザが王后に成る事に好意的な事だけは一致している。
一方、同じように幼馴染同士で話し合っていたレンシーナとクリエッタは懐疑的になっていた。
「代々領地の経営を堅実になさっている御一族って話だったけど…今回の件、姫様だけでどうにか出来る事とは思えないわ。どう考えてもアケチ伯が動いているはずよ」
落ち着かなげに三歩の距離を行き来するレンシーナを視界に収めながらも、注意する気にはなれずにクリエッタは頷く。
「そうよねぇ…」
「そもそも、今までが中央に興味を示していなかったからって、アケチ伯が中央に興味が無いと考えるのが早計だったんじゃない? 伯が生まれた時にはすでに社交界ではアケチ家の女性は高名だったのだし。そこに同じく素晴らしい娘達に恵まれて、続々と家の力に成るような縁を引き寄せて、中央にさえ手を伸ばそうという野心が芽生えたとしても決しておかしな事ではないと思うのよ」
「でも、ジンライの大旦那様はアケチ伯はそうした野心とは無縁の方だと仰ってたそうだし」
「それもどうかと思う一因よ。ジンライの大旦那様が伯とお会いしたのは十年も前の事でしょう? 人間変わる時にはたった一日でも十分だわ」
「仮に、仮によ、今回の騒動がアケチ伯の企みだとしても、私達にとって末姫様が最も理想的な相手である事に変わりはないわ」
「それは解ってるわよ。でも、無害だと認識して推すのは間違いだったと思うの。もし、アンスバッハがこの騒動で協力的な裏に中央政治において伯との協力関係を作るつもりがあったら? 一足飛びには無理でも、一つ二つ代を重ねれば要職も夢ではないわ。とにかく、文を書きましょう。アケチ伯の為人をもう一度確認しないと」
「そうね。文は私も賛成よ。それに、アケチと縁故のある家は、全て再確認しましょう」
「同意」
根幹の方向性はともかく、方針としては実家に文を出す事にした彼女達と、示し合わせた訳ではないがミコトも文を書いていた。
(おじいさまが人物評を間違えるという事はないと思うのよね…どちらかというと、末姫様が予想外…どういった方なのか、とにかく姫様の情報が欲しいかしら…ね)
実家にではなく、彼女自身が動かしている情報収集部隊への指示書であったが。
(末姫様には嘘を吐いているような後暗い気配が無かった…恐らく、お茶会の席での言葉は真っ赤な嘘ではない…のね。でも、真実は露になっていない…あの方は、陛下との間に、何か、繋がりがある…のかしら、ね?)
ミコトは舞踏会後からアンネリザについての情報を集めていた。
はっきり言って、特筆すべき点は何もなかったはずなのだ。地方領主の娘らしく、都貴族の令嬢よりも活動的だという事。それでいて、高名なアケチ家の女性らしく華やかな評判は無い。気安く領民と言葉を交わすらしいが、サッカイ州ではそうした令嬢は珍しくない。既に成人を迎えているが社交の場にはあまり顔を出さない、ただ、社交的でない訳ではない。
(アイリス様の文を喜ばれていたわね…情報にも、筆まめだとあったし…お友達も少なくなさそう…朗らかで明るく感情の豊かな方だった…そうね、そう…崖の王なんて平民の子供に呼ばれていたそうだけど、それほど常識外れた振る舞いをなさるようには見えなかった…幼い頃の話だとも書かれていたし…昔はお転婆さんだったのかしら…ね)
ミコトの情報収集力は素晴らしかったが、崖の王の称号が未だ現役だという事までは、本人の判定基準がために理解されていなかった。
(なかなか、掴みどころの無い方、ね)
花の館全体が慌ただしくしているただ中で、その中心とも言えるアンネリザと、普段と変わらぬ行動をしているウィーネだけがのんびりしたものだった。
「文はどうされますか?」
「皆様が書かれるでしょうから、私は止めておくわ」
ウィーネは元々、親の要請でこの騒動に参加しているが、王后の座にも、そこに誰が座る事になるのかも、他の令嬢達ほど興味はないのだ。
(勢力図式が変わるほどではないでしょうけど。アケチの姫様ったら、きっと明日から注目の的でしょうね)
大変でしょうね、とアンネリザに同情を寄せながら、今日の夕食は何かとすぐに思考を切り替える。ウィーネにとってはその程度の事なのだ。他の令嬢達に気取られ無いように気を付けてはいるが、花の館でアンネリザ以上にこの騒動に興味が無い唯一の人物だろう。
そして、騒動に興味はあるし、使命感も持っているが、どうにも集中できないのがアイーナだった。
先程から、何度も文を書こうとしているのだが、気が付くとヴァリシャの面影がちらついて集中できずに何枚もの紙を駄目にしてしまっているのだ。
(何故、何故なの)
ちょうど今、十二枚目の紙が駄目になった。
撫子の棟の一室で、シトロベルが扇子を机に打ち付けながら叫んでいた。
「早く用意をして! お父様に文を書くのよ!」
肩を怒らせる彼女の瞳にはありありとした焦燥が浮かんでいる。
(わたくしとした事が、なんてことなの…油断したなんて。アケチもアンスバッハも動いていないと文が届いていたから気を抜いてしまったわ。考えてみればあの小娘の姉はアンスバッハだけではないのに!)
シトロベルは自分を足止めしにかかったエリット男爵夫人、シレーナを思い出していた。アンネリザに似た髪と目の、だが、どこか優美な目元をした女性。国王陛下の御前で、数人の令嬢達に取り囲まれながら、優雅で嫋かな所作と微笑みを震わせることすらなかった。
あの姉と共に育ったのがアンネリザだというのなら、ただ利用されている小娘などではないに違いない。
(どんな手を使っているとしても、なんとしてでも陛下と連絡を取る手段を潰さなくては!)
同時刻。
シトロベルと同じような決意を胸に、メリーラッツァも金桃の棟に与えられた一室でペンを走らせていた。
「本当にアンスバッハは動いていなかったのよね!? あの小娘、どうやって陛下に擦り寄ったというの? お父様だけではなくて叔父様にも聞くべきだったのかしら。アケチ家なんて王都に勢力は無いはずなのにどうなってるのよ、もう、もう!」
正確にはメリーラッツァがグチグチと呟く言葉から意を汲み取った侍従の女性が、ペンを走らせているのだが。
「小娘だって油断したりしなかったのに…ちゃんと警戒していたでしょう。どうしてなの。あんなに段取り良く…絶対に手回し無しに出来る事ではないのよ。まして王都で手回しをするならアンスバッハを動かさないなんて」
令嬢としての振る舞いではないため必死に矯正したが、苛立ちのあまりつい爪を噛む癖を再発させかけながらメリーラッツァは頭を左右に振った。
「もう! なんなのよ! もう! とにかくあの小娘の伝手を全て潰して!」
ダンッと勢い良く地面を踏み付けると、美しく尖っていた靴の踵が折れ、メリーラッツァはバランスを崩してその場に転倒してしまう。
女中達に助け起こされながら、メリーラッツァは全てアンネリザのせいだと憎しみの炎を瞳に宿した。
「………」
そうした二つの部屋の喧騒とは打って変わって、桔梗の棟では静かに押し黙ったアヤメが白い紙を前に座っていた。
そんな主人を気遣わしそうに周囲は見つめていたが、結局アヤメは一文字も書かずに席を立つ。
「今日はもう寝ます。夕食はいりません」
「畏まりました」
頷く侍従が寝室に付いてくるのを止め、着替えの手は必要無いと告げて部屋に入った。
(どうして)
寝台に腰掛け、アヤメは傍らの小棚から布貼りの手箱を取り出し、中に収まっていた綴じ本を捲る。考えていた予定は全て潰れていた。アンネリザだけがその原因ではなかったが、あまりに大きな想定外の存在となっている。
アヤメがアンネリザへの疑念をふくらませる頃、同じ思いをリリアンヌも抱えていた。
(なんなのよあの小娘…!)
緑蓮の棟における中心人物の苛立つオーラは、室内で膨れ上がり、見えない力で侍従達を壁に押さえ付けるようだった。先程からばしばしと机の角に打ち付けられていた扇子の縁飾りが僅かに曲がった状態で床に落ちる。
「っ!」
お気に入りの扇子が壊れたのはリリアンヌが打ち付けたせいだが、今の彼女にはそれすらもアンネリザが悪いように思えて頭に血が上っていく。一際高く腕が振り上げられ、狙いすまして机の角に打ち付けられた扇子は壊れはしなかった。むしろ、机の角が欠ける。
「片付けておきなさいっ!」
手を離して床に扇子を落とすと、それだけ叫んで寝室へ駆け込んだ。どうあっても収まらぬ苛立ちを、持ち込んだ分厚い羽根枕へひたすらぶつける。肩で息をする程繰り返したが、スッキリする事はなかった。
このように、現状対立関係にある四つの棟の筆頭令嬢達が、憤懣やる方ない、という状況に陥っている中。
紅菊の棟では、それぞれ受け止め方に違いが出ていた。
「成人を迎えたばかりのお嬢ちゃん、ではなかったのね、アケチの姫様ったら」
部屋にやってきて当然のようにアイリスの侍従にお茶を頼んだヒナギクが、楽しそうに笑う。
「そうかしら? 全く策謀がなかったとは私だって思わないけれど。姉姫であるエリット男爵夫人が仰っていたように、陛下とエリット男爵との間でお話があったのが元ではないの? たまたま妹姫が入城されているから、渡りに船というか、手続きが簡単に済む機会を利用する事になったのだろうと思うわ」
「そうかもしれないわ。でも、あれだけのお歴々に気取られずに今回の事を運んだのは、誰の力かしら?」
王都という場所に都貴族が張り巡らせている蜘蛛の巣めいた情報網は、ヒナギクとて理解している。
「それは、まぁ、アンスバッハ家でしょう」
「ところがアンスバッハ家に付けている目からは何の報告も無いのよね。ま、勿論本格的な警戒をしている訳ではないから、アンスバッハ家が気取られないよう動いたと言うなら当然の結果だけれど?」
アンネリザと対立するつもりは無いし、最も望ましいのはアンネリザがレンフロと結ばれる事だとさえ考えているのが紅菊派だが。それはアンネリザの動向に注意を払わない事と同義ではない。当然彼女達も実家の力を使い、協力関係の中、アケチ家と名高いアンネリザの姉達について注意を払い続けていた。
「それは…」
アイリスとしてはあくまでアンネリザの周囲が主体になって動いていると考えていたのだが、ヒナギクは、アンネリザが騒動の中心で動かしていると考えていた。
「まぁ、どうでも構わないのよ。要は、利用されるだけの小娘でないのなら、益々見所があるじゃないって話なのだから」
ただ、二人ともアンネリザが王后に成る事に好意的な事だけは一致している。
一方、同じように幼馴染同士で話し合っていたレンシーナとクリエッタは懐疑的になっていた。
「代々領地の経営を堅実になさっている御一族って話だったけど…今回の件、姫様だけでどうにか出来る事とは思えないわ。どう考えてもアケチ伯が動いているはずよ」
落ち着かなげに三歩の距離を行き来するレンシーナを視界に収めながらも、注意する気にはなれずにクリエッタは頷く。
「そうよねぇ…」
「そもそも、今までが中央に興味を示していなかったからって、アケチ伯が中央に興味が無いと考えるのが早計だったんじゃない? 伯が生まれた時にはすでに社交界ではアケチ家の女性は高名だったのだし。そこに同じく素晴らしい娘達に恵まれて、続々と家の力に成るような縁を引き寄せて、中央にさえ手を伸ばそうという野心が芽生えたとしても決しておかしな事ではないと思うのよ」
「でも、ジンライの大旦那様はアケチ伯はそうした野心とは無縁の方だと仰ってたそうだし」
「それもどうかと思う一因よ。ジンライの大旦那様が伯とお会いしたのは十年も前の事でしょう? 人間変わる時にはたった一日でも十分だわ」
「仮に、仮によ、今回の騒動がアケチ伯の企みだとしても、私達にとって末姫様が最も理想的な相手である事に変わりはないわ」
「それは解ってるわよ。でも、無害だと認識して推すのは間違いだったと思うの。もし、アンスバッハがこの騒動で協力的な裏に中央政治において伯との協力関係を作るつもりがあったら? 一足飛びには無理でも、一つ二つ代を重ねれば要職も夢ではないわ。とにかく、文を書きましょう。アケチ伯の為人をもう一度確認しないと」
「そうね。文は私も賛成よ。それに、アケチと縁故のある家は、全て再確認しましょう」
「同意」
根幹の方向性はともかく、方針としては実家に文を出す事にした彼女達と、示し合わせた訳ではないがミコトも文を書いていた。
(おじいさまが人物評を間違えるという事はないと思うのよね…どちらかというと、末姫様が予想外…どういった方なのか、とにかく姫様の情報が欲しいかしら…ね)
実家にではなく、彼女自身が動かしている情報収集部隊への指示書であったが。
(末姫様には嘘を吐いているような後暗い気配が無かった…恐らく、お茶会の席での言葉は真っ赤な嘘ではない…のね。でも、真実は露になっていない…あの方は、陛下との間に、何か、繋がりがある…のかしら、ね?)
ミコトは舞踏会後からアンネリザについての情報を集めていた。
はっきり言って、特筆すべき点は何もなかったはずなのだ。地方領主の娘らしく、都貴族の令嬢よりも活動的だという事。それでいて、高名なアケチ家の女性らしく華やかな評判は無い。気安く領民と言葉を交わすらしいが、サッカイ州ではそうした令嬢は珍しくない。既に成人を迎えているが社交の場にはあまり顔を出さない、ただ、社交的でない訳ではない。
(アイリス様の文を喜ばれていたわね…情報にも、筆まめだとあったし…お友達も少なくなさそう…朗らかで明るく感情の豊かな方だった…そうね、そう…崖の王なんて平民の子供に呼ばれていたそうだけど、それほど常識外れた振る舞いをなさるようには見えなかった…幼い頃の話だとも書かれていたし…昔はお転婆さんだったのかしら…ね)
ミコトの情報収集力は素晴らしかったが、崖の王の称号が未だ現役だという事までは、本人の判定基準がために理解されていなかった。
(なかなか、掴みどころの無い方、ね)
花の館全体が慌ただしくしているただ中で、その中心とも言えるアンネリザと、普段と変わらぬ行動をしているウィーネだけがのんびりしたものだった。
「文はどうされますか?」
「皆様が書かれるでしょうから、私は止めておくわ」
ウィーネは元々、親の要請でこの騒動に参加しているが、王后の座にも、そこに誰が座る事になるのかも、他の令嬢達ほど興味はないのだ。
(勢力図式が変わるほどではないでしょうけど。アケチの姫様ったら、きっと明日から注目の的でしょうね)
大変でしょうね、とアンネリザに同情を寄せながら、今日の夕食は何かとすぐに思考を切り替える。ウィーネにとってはその程度の事なのだ。他の令嬢達に気取られ無いように気を付けてはいるが、花の館でアンネリザ以上にこの騒動に興味が無い唯一の人物だろう。
そして、騒動に興味はあるし、使命感も持っているが、どうにも集中できないのがアイーナだった。
先程から、何度も文を書こうとしているのだが、気が付くとヴァリシャの面影がちらついて集中できずに何枚もの紙を駄目にしてしまっているのだ。
(何故、何故なの)
ちょうど今、十二枚目の紙が駄目になった。
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