首無し王と生首王后 くびなしおうとなまくびおうごう

nionea

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37.

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 吉凶や他の予定と調整して、遭難によって延びた式が執り行われたのは、結局予定よりも七日遅くになった。
(楽しかったわ)
 それでも、参加予定者は全員参加したし、何より新郎新婦が嬉しそうな良い式となった。
(結局のところ、全ては相手とどう向き合うかなのね)
 突如出来た時間の余裕に、アンネリザは様々な人と会い、結婚について質問して回ってみた。
 そして得た結論は、
(結婚相手は選ぶものではないけれど…どういう関係を築くかは選べる。そういう事なのだわ)
と、いうものだ。
 今、それぞれの事情で屋敷にはアンネリザ以外不在という状況で、彼女も出かけようか考えながら、ちゃんとした格好で自室に居た。
「お嬢様」
「何?」
「お客様です。その、陛下の侍従長殿が」
「え? まさかとは思うけど…文使いとしていらしたの?」
「いえ、侍従長殿の個人的なご用件だそうです」
「よく解らないけれど。お会いするわ、すぐに準備を整えるから、お茶をお出しして、お待ちいただいて」
「畏まりました」
 実は、ミコトからカードをずっと預けられており、日中は大概居るが、居なくても好きに使ってくれて構わない、と言われているのだ。そのため、今日も出かけようかと朝からしっかりと装ってはいたのだが、一応姿見の前に立って細部までを確認する。
(大丈夫ね)
 問題無いと判断して、戻ってきたコレトーと共に客間へ向かう。
(それにしても、侍従長様自らいらっしゃるなんて、何事かしら。陛下のお側を離れる程の用事? うーん…そういう事自体は思いつくけど、私の所にいらっしゃるというのは…さっぱりだわ。あ、でも、律儀な方だし、文だけではなく直接謝罪にいらした、とか。もしかしたら陛下のお側を離れられる合間のようなものが有ったのかもしれないし)
 生真面目さが滲む文面で、先の花の館騒動に引っ張り出した事を謝る文が届いたのは、帰領してすぐの事だった。問題は何もないので構わない、という内容で返事をしたが。それには、もし機会があれば直接謝罪を、というような文と手頃な品が届いたのだ。
(もうそんな機会も無いだろうからと思っていたけど。私が王都に来た事が伝わったのね、たぶん。わざわざ直接の謝罪なんて、本当に律儀な方だわ。私、得しかしていないからお詫びの品を頂いた事に少しばかりの罪悪感すら持っていたのだけど)
 つらつらと思いを馳せながら客間に急ぐと、あまり晴れやかとは言い難い表情をしたカツラが椅子からすっと立ち上がる。
(やっぱり、謝罪にいらっしゃったのね)
 その面持ちにそう思った、アンネリザだったが、カツラの目的は、少し違う所に有った。
「お待たせしました」
 入ってきたアンネリザの姿に、一瞬目を見張ってから、礼をしたカツラは、沈痛な面持ちで話し出す。
「先の件では姫様のご厚情を賜り誠に有難うございました」
「いえ、その件は、私もまた貴重な経験が出来た事と有り難く思っておりますので」
 本当に気にしていませんよ、と気持ちを込めて微笑み、着席を促す。
 相変わらず表情の変わらぬカツラはアンネリザが着席するのに合わせて着席した。笑顔に促され、口を開くと、やはり重々しい声音が続く。
「顔を合わせてお詫びをと考えておりましたが、実は、本日は、姫様にご助力を賜りたく罷り越しました」
 その晴れやかさが無い意味が解ったので、アンネリザは微笑みを浮かべたまま納得してしまった。
(お詫びをと考えていたのに頼み事が出来てしまって申し訳なさそうにしていらっしゃるのね…こっちとしては受け過ぎたものに対してお返しできる良い機会だわ!)
 コレトーが自分の前にお茶を置き終えるのを待って、アンネリザは口を開く。
「私如き若輩者でお力になれるのでしたら、何でも致しますので、どうぞご遠慮無く仰ってください」
 意気揚々と、だが、令嬢の仕草がすっかり身についたので、傍目には温和に、そっと胸に手を添えて微笑んだアンネリザを、カツラは眩しいモノを見るようにしてから、ぐっと頭を下げた。
「誠に、有難うございます」
「いえ」
 雰囲気の区切りでもあるが、これから話をするためにもカツラがお茶を口にするのに合わせて、アンネリザもお茶に口をつける。
 改めて、カツラは訪問の理由を語り始める。
「実は――」
 カツラの話は時系列がきちんとしていて要点がまとまっており、解り易かった。
 要するに、今まで通りレンフロの結婚話をぶち壊してくれ、という事だったのだ。
「畏まりました。僭越ながら、陛下の友人となりました身の上です。微力ながら、精一杯助太刀させていただきます!」
 笑顔のアンネリザからその返答を受け、カツラは、急ぎ登城の手続きのため帰っていった。
「何故お引き受けなさったのですか?」
「陛下の危難と聞いてお助けしない理由があって?」
 すっかり思考の読み難くなったアンネリザの笑顔に、コレトーは内心で眉を寄せる。今何を考えているのか、それはどうも解り難くなったが、今までならどう考えたかは想像に難くない。きっと、もう一度陛下の首に会う機会を逃すものか、と考えているのだろう。
「今までと、同じような手は通じないと思いますが」
「まぁね…何せ異国の王女殿下だもの、何か、こう、ガクッと決意を挫くような事ができれば良いのでしょうけど。直接何かをしたら国際問題よね。私との関係なんて、国内なら有効でも、国外の王族相手ではちょっとね…まぁ、ともかく出かけましょう」
「どちらに?」
「なんでも良くご存知の姫様に隣国の事をご教授いただくのよ」
 つまりはミコトに会いに行こう、という事である。
 こうして、あまりにも軽い気持ちで、アンネリザはドリミァ王国との厄介事に参戦する事となった。
 冗談半分で口に出したのだが、ちょうど居合わせたミコトは、ドリミァ王国から来訪する王族方の情報を詳細かつ大量に保有していた。全く覚えきれる量ではなかったので、早々に紙に書き留める。もっとも、隣国とはいえ王族の情報なので覚えるか事が終われば破棄しなくては、との決意付きだ。
 今は戻った王都屋敷の自室で、ぶつぶつと呟きながら情報を覚えようとしている。
「ドリミァ王国の王族の方って名前が長いのね…まぁ、正式に名前をお呼びする場面はないでしょうけど」
 仮に呼びかける機会があっても、アイデル王国の儀礼に則れば、ドリミァ王国の王女殿下、とすれば良いのだ。つまり覚えるつもりがあったわけではない。ただ、名前につく冠詩なるものが興味深くて、ついつい何度も口に出していた。
「輝く星の美しさに見蕩れた兎は美しい白銀の毛を静かな湖面のように煌めかせる」
 今呟いたのは、リファーナの正式な名前の頭に付く。そこに更に、ドリミァ王国の三の姫、国王の娘、王妃の娘、父方の血につらなる者、母方の血に連なる者、と続き、最後がリファーナだ。
「ご本人様は美しい銀髪をお持ち…だから白銀の毛なのかしら? となると、この兎は王女殿下。お兄様である王子殿下は狼。詩の例えはある程度慣例があって、女性ならば兎、鳥、鹿など。男性ならば狼、鳥、熊など。今回の来訪目的は、我らが二の王女殿下と王子殿下のお顔合わせと婚約の調印。王女殿下は表向き、初対面の二の王女殿下が緊張されないように、と同性で歳も近いからという事でいらっしゃった………侍従長殿はどちらから事情を伝え聞いたのかしら?」
 カツラから聞いたのは、リファーナが国内のお見合いで相手が見つからなかったのなら自分にも機会をいただきたいわ、と主張しているらしいとの事だった。
(というか、別に、表向きお見合いを申し込んでも別に問題は無いご身分よね? わざわざ建前なんて…あ、違うわね。はっきりお見合いとしたら陛下はそもそも面会をお断りになるはずだわ。あら? でも、そうなると侍従長殿はドリミァ王国の方から聞いたという事かしら。つまり、その方はこちらの味方…登城したらまず聞いてみましょう)
 ひとまず名前が書かれた紙を、皿の上で燃やす。
(お好きなもの。お嫌いなもの。ドリミァ王国は王族が開かれているとは聞くけど…男性の好みまで他国に知られているのは、普通なのかしら)
 次にとった紙には、リファーナが好むものや嫌うものが、食べ物から色、服装や抽象的な雰囲気まで、書かれている。聞いていた時は書く事そのものに必死になっていたので聞き流してしまっていたが、あまりにも個人的な嗜好が満載だ。
(でも…陛下はきっと王女殿下の好みに合うのだろうという事は解っても、対策は難しいわね)
 嫌いな男性の部分には、男臭い、武張っている、という抽象的な表現。筋骨隆々、眉が太い、口煩い、など特定の誰かを示しているのではないかと思うほど具体的な表現。それらが並んでいる。
(内政が安定している以上好戦的な風貌よりも、品位を感じる穏やかさや優しさのある方が、陛下に望まれている事であるし。今から鍛えても筋骨隆々になるのは、産まれ持っての骨格も影響するでしょうから、無理よねぇ。口煩い、は…お小言とかって普段から言い慣れていないと出てこないのよ…たぶん無理だわ)
 あれこれと指折り考えて見たが、結局行き着いたのは、この情報ではどうしようも無いという事だった。
(凄いわ。好みにはほぼ当てはまるのに、嫌いには全く当てはまらない…普通に過ごしていらっしゃたら陛下ご自身が王女殿下から嫌われる事は無いわね………単純に女性に幻滅されるような振る舞いを陛下にして頂く訳にはいかないし………)
 国王としての品位や王族間の関係を貶める訳にはいかない。できることならば、リファーナ自身がレンフロとの結婚を諦めて、見合いもせずに帰ってくれる事が有難い。
(でも、お伺いした王女殿下のご性格は…なんというか、同類項なのよね、私と…。自分が好きなものに対して積極的で行動的、のびのびとお育ちであまり周囲の事情には頓着されない。私なら臣下の分というものがあるから、陛下ご自身が否といえば否なのだけど。ある意味ご同格とくれば…恐らく王女殿下は積極的に見合いあるいは結婚に対して行動してくるはず。それを、直接的には何もせずにやんわりと逸らせる………至難だわ)
 性格評価に部分に書かれた項目から、自身に通ずるものをひしひしと感じ取ったアンネリザは、諦めたように溜息を吐いて首を左右に振った。
(無理ね。私みたいな種類の人間は興味有る事から引き離すのは無理なのよ。絶対)
 自身であれば身分なり序列なり、いくらでも見上げる存在がいるので、社会的にどうにもならない事があるという諦めへの理解が身についている。
 だが、リファーナは王族だ、父母や兄姉はいるだろうが、それらの枷はアンネリザにとってほどは効力を発揮すまい。その生涯でどれほどの事を諦めてきたかも解らない。もし未だかつて挫折を知らぬとなれば、止めるものは何もないだろう。
(我ながら私の相手などしたくないと思うほどなのに…更に上級………もっと、味方を増やさなくてはいけないかもしれないわ)
 ドリミァ王国一行が到着するまであと三日。限られた時間と高難易度の条件に頭を悩ませつつも、僅かに胸躍らせながら、アンネリザの眠れぬ夜は過ぎていった。
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