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アンネリザは、自室で紙に何やら書き込みながら、ぎゅっと眉間に皺を寄せていた。
菓子店から帰って、カゼリーナと共に午後のお茶の時間を過ごした後だ。
今は、夕食までの間で、少し眠りたいから、という姉と別れ、一人自室にいるが、ついつい眉間が険しくなってしまう。
「正直、ミスノフ家に殴り込みに行かれるのではないかとハラハラしておりました」
「そうね。私も屋敷を出た瞬間は少しそんな考えも有ったわ。ただ…騒がしくして、一番傷付くのはキャス姉様でしょう。それくらいは、私だって考えられるわよ」
「然様でございますね」
「そういえば、お父様達って何時頃到着するのかしら」
「ご夕食はこちらでと仰っていましたから、そろそろではないでしょうか」
「じゃあ、一階へ行くわ。キャス姉様にあれこれ仰らないよう前もって話しておきたいし。チェイスにも声をかけてきて」
「畏まりました」
先んじて居間に入ったアンネリザは、椅子に座り、晴れない眉間を揉んだ。
(後継の事…キャス姉様は文に書かれた事などなかった…でも、ずっと悩んでいらっしゃったのかしら。チェイスの話ではずっと言われていたみたいだけど………離婚………結婚………後継………)
ぼうっと宙を見つめていたアンネリザは、視界にコレトーを捉える。
「ねぇ、コレトー」
「はい」
「どうして結婚しないの?」
「は…まぁ、それは、一人で出来る事ではありませんから」
「それもそうね。お相手が居ての話よね」
アンネリザが見知っている範囲でしかないが、タータミーナの結婚は家同士で決まった話だったが、夫婦仲はこの上なく良好だと感じる。アリエーナはどことなく義兄とは競争相手のようで、一概に良好には見えないが、それでも良い関係に見える。コルテンタは、夫婦というより恋人の延長のようで、貴族の夫婦としては珍しい形だろうが、幸せそうに思う。近頃結婚したばかりでもあるシレーナは、互いに惹かれ合っての結婚だからか、まだ子供が居ないせいかもしれないが、コルテンタの所に似ているようだ。
(キャス姉様は、アリ姉様の所と同じような関係なのかと思ってた…)
コレトーが持ってきたお茶の湯気を見つめて、溜息を吐いた次の瞬間、ノックの音が聞こえた。
アケチ伯が到着したのだ。
「あら? どうなさったのですか?」
とりあえず父にミスノフ家の事を尋ねないように言おうと考えていたアンネリザの前に、外区で別れた身内が全員現れた。
「いや、困った事にね…」
ちょっとぐだぐたと長いアケチ伯の話をまとめると、外区で泊まる予定だった宿泊施設並びに、神殿で難が有り、式が延期になったそうだ。
「まぁ、四日ほどの事だがね」
「然様でございますか…あ、でも良かったです、お母様にお話したい事がありましたので」
「キャスの事かしら」
「もうご存知でしたか」
「知らないけれど、そこにチェイスが居るからそうだろうと思っただけよ」
「さすがです」
カゼリーナがアケチ家の王都屋敷に来た事やアンネリザが妙に神妙な顔をしている事、チェイスの存在などから、すぐに何事かを察したオリエがチェイスに問いかける。
「キャスは部屋にいるの?」
「はい」
「では、私が行きましょう」
「お願いします」
オリエが去った室内で、困惑する父に軽く話をしようと考えたが。自分が話すよりも事情を聞いた母から話してもらう方が良いと判断したアンネリザは、とりあえず母から聞くようにだけ伝える。
同じく戸惑い気味なミノレッタにも、結婚前にする話ではないと思うので沈黙を貫いた。
タータミーナとオキノは、何かはあるのだろうと察しつつも、それをアンネリザに問いかける事はない。
しばらくして、オリエが戻り、アケチ伯とタータミーナとの話し合いが終わる。
カゼリーナを交えて、ミスノフ家には一切触れる事の無い夕食を取り、その日は終わった。
翌朝。
心持ちすっきりとした表情になったカゼリーナに安堵しつつ朝食を済ませ、アンネリザは前回の王都訪問時に知り合った人々から届いた文に目を通していた。
時間があればお会いしましょうという文が大半で、思いがけず延長することになった四日間に会いに行くのも悪くないかなと思いながら、思考はずっと結婚というものに向かっていく。
多くの貴族にとって、結婚が家と家の縁を結ぶものであるように、アンネリザにとっても結婚とは家があっての事だ。彼女はアケチ伯爵の娘で、それを知って結婚する相手だって、当然家を含めて自分を見るだろう。彼女が家を構成する一員である以上彼女と家は切り離せるものではない。
アケチ伯が大らかな質で、家の存続だけならば長女タータミーナが飲み込んでいた事もあって、妹達は比較的自由に結婚相手を選べる立場にあった。それでも、家の事を考えずに結婚相手を決めた娘は一人も居ない。
(家と家の縁を繋ぐのが結婚。そうでない結婚を望むなら、家を捨てる事になる)
アンネリザにとって、アケチ家は、物心着いた頃から十全である。結婚という存在を理解する頃には、既に多くの縁がアケチ家には有り、彼女が必要性を感じなかったのと同様に、父も不要だと言っていた。だから、彼女にとっては、必要ないもの、というのが結婚に対する認識だったのだ。
(恋ならば、結婚とは別でもできるのよ。じゃあ、結婚は何のためにするの? それは、家のため? でもその必要が無いなら? 恋人になりたい相手と更に結婚する事ができたら、それは幸せ? 結婚も離婚も、家であったり、個人であったり、それぞれなのだわ………あぁ、もう、駄目…全然まとまらない)
うんうんと唸るアンネリザにコレトーが声をかける。
「それほどお悩みになる文がございましたか?」
「うううん? 文は別に…皆さん示し合わせて誘ってくださったみたいで、全部日時は重なっていないし、事前通知無しに参加できる形式だから大丈夫なのだけど………ねぇ、コレトーはどうして結婚しないの?」
「昨夜も同じ事をお尋ねでしたが…」
「あら? あ、間違いよ。間違えたわ。結婚はしたいと思う?」
「どのような答えを望まれているのか、図りかねますが、平民にとって結婚は存外気楽なものですから」
「………どういうこと?」
「しようとしまいと個人の事なので、さほど気になりませんから、しようとも、しないとも、決めていません。まぁ、機会があればという事なので、したいと考えているうちに入るかと」
「あぁ、そうか…そうなのね」
「何かご参考になりましたか?」
「結局のところ色々なんだなって、思ったわ」
「然様でございますか」
(私達もするしないって言葉を使うけど…考えてみたら、要不要の方がしっくりくるのよね。私は不要だから結婚を考えた事がなかった………改めて考えてみても、ぴんと来ないし………まして王后なんて、もう、想像もつかないわ。とにかく私には務まらないだろうなって事くらいなら解るけど)
親しい人々からの文に混じって入っていた、お前が王后だなんて間違っている、という趣旨の脅迫文めいたものをちらりと見つめる。
「コレトー、こちらの文、お父様に見つからないように竈にくべておいて」
「畏まりました」
「あと、午後は出かけるわ。ジンライ家の姫様がご招待くださったから」
「何か、お持ちになりますか?」
「昨日は内向きのものしか買わなかったから、行きがけに菓子店に寄る事にするわ」
「畏まりました」
結婚についてあれこれと思い悩みながら、昼食を軽めに済ませたアンネリザは、ミコトの文に書かれていた飲食店へ足を運んだ。
飲食店、といっても、そこは元貴族の屋敷で、ぱっと見てもそれとは解らないようになっている。
門扉前に立つ門番めいた姿の店員に、同封されていたカードを示せば、案内役の店員がやってきてミコトが待つ一室へ連れて行ってくれるという仕組みだ。
(調度は元々なのかしら? 統一感があって品が良いわね。王都のお店で外食だなんてした事なかったけれど、こういうお店ってどれくらい有るのかしら)
辿り着いた一室で、ミコトは読書をして寛いでいたようだった。
「本日は、お招きいただき、有難うございます」
「こちらこそ。お越しいただき、嬉しく思います、わ」
ふわりと笑みを浮かべたミコトは、少し考えるようにアンネリザを見つめて、ほうとため息を吐くと感心したように口を開く。
「三日会わざれば、といったところですわね」
「刮目するほど、変わって見えまして? もしそうなら、嬉しい事です。祖母に顔向けできますわ」
「以前から素敵でしたけど。今は、秘密のヴェールが濃くなったようで、魅力的、だわ」
「まぁ、姫様の方が、神秘的な雰囲気で素敵ですわ。それに、こちらの部屋も、よくお似合いです」
アンネリザがキョロキョロと見回した室内は、いわゆる屋敷の客間に応接室を足したような風情で、玄関ホールから廊下にかけてとは趣を異にしていた。
「設えが気に入っていて、年単位で借りておりますの。ここにある本は全て私が持ち込んだものですから、どうぞ、姫様もゆったりとお寛ぎになって、楽しんでくださいませ」
「まぁ、全てですか?」
「ええ。それに、趣向も、凝らしましたの。ジンライ家秘蔵の手記の写しを、本のあちこちに隠しました、から、どうぞ、お楽しみになって?」
「有難うございます!」
淑女らしさがすっかり身に付いても、アンネリザという人間が変わった訳ではない。キラキラと目を輝かせて、仕草だけは優雅に、本を片端から確認し始めた。
ちなみに、楽しく寛ぎ始めた二人の侍従は、次の間で店員共々控えている。
(これは、あの事件の覚書ね。こちらは伝承の検証をなさっているのね…中々に興味深い見地だわ。そういう見方をするなら、あの伝承の裏にも………)
令嬢が二人、密室の中で、一切お喋りの花が咲かないというのも、不思議な光景だ。だが、当の二人は満足気に読書に耽るのだった。アンネリザの方は、読書、ではなく紙片の探索だが。
この珍しいお茶会は、夕方近くまで続いた。
「すっかり楽しませていただいて」
「良かった、ですわ。是非、また、お会いしましょう、ね」
「ええ、是非。あ…」
「なにか?」
「その、こんな事を尋ねるのは、礼儀知らずで、申し訳ないのですが。姫様は、ご結婚のご予定はお有りですか?」
「別に構いません、わ。でも、私は兄弟が多いものです、から、予定は、特に無い、の、です」
「では、私と同じですのね…有難うございます。教えてくださって」
「いいえ。では、また」
「はい。是非、また」
菓子店から帰って、カゼリーナと共に午後のお茶の時間を過ごした後だ。
今は、夕食までの間で、少し眠りたいから、という姉と別れ、一人自室にいるが、ついつい眉間が険しくなってしまう。
「正直、ミスノフ家に殴り込みに行かれるのではないかとハラハラしておりました」
「そうね。私も屋敷を出た瞬間は少しそんな考えも有ったわ。ただ…騒がしくして、一番傷付くのはキャス姉様でしょう。それくらいは、私だって考えられるわよ」
「然様でございますね」
「そういえば、お父様達って何時頃到着するのかしら」
「ご夕食はこちらでと仰っていましたから、そろそろではないでしょうか」
「じゃあ、一階へ行くわ。キャス姉様にあれこれ仰らないよう前もって話しておきたいし。チェイスにも声をかけてきて」
「畏まりました」
先んじて居間に入ったアンネリザは、椅子に座り、晴れない眉間を揉んだ。
(後継の事…キャス姉様は文に書かれた事などなかった…でも、ずっと悩んでいらっしゃったのかしら。チェイスの話ではずっと言われていたみたいだけど………離婚………結婚………後継………)
ぼうっと宙を見つめていたアンネリザは、視界にコレトーを捉える。
「ねぇ、コレトー」
「はい」
「どうして結婚しないの?」
「は…まぁ、それは、一人で出来る事ではありませんから」
「それもそうね。お相手が居ての話よね」
アンネリザが見知っている範囲でしかないが、タータミーナの結婚は家同士で決まった話だったが、夫婦仲はこの上なく良好だと感じる。アリエーナはどことなく義兄とは競争相手のようで、一概に良好には見えないが、それでも良い関係に見える。コルテンタは、夫婦というより恋人の延長のようで、貴族の夫婦としては珍しい形だろうが、幸せそうに思う。近頃結婚したばかりでもあるシレーナは、互いに惹かれ合っての結婚だからか、まだ子供が居ないせいかもしれないが、コルテンタの所に似ているようだ。
(キャス姉様は、アリ姉様の所と同じような関係なのかと思ってた…)
コレトーが持ってきたお茶の湯気を見つめて、溜息を吐いた次の瞬間、ノックの音が聞こえた。
アケチ伯が到着したのだ。
「あら? どうなさったのですか?」
とりあえず父にミスノフ家の事を尋ねないように言おうと考えていたアンネリザの前に、外区で別れた身内が全員現れた。
「いや、困った事にね…」
ちょっとぐだぐたと長いアケチ伯の話をまとめると、外区で泊まる予定だった宿泊施設並びに、神殿で難が有り、式が延期になったそうだ。
「まぁ、四日ほどの事だがね」
「然様でございますか…あ、でも良かったです、お母様にお話したい事がありましたので」
「キャスの事かしら」
「もうご存知でしたか」
「知らないけれど、そこにチェイスが居るからそうだろうと思っただけよ」
「さすがです」
カゼリーナがアケチ家の王都屋敷に来た事やアンネリザが妙に神妙な顔をしている事、チェイスの存在などから、すぐに何事かを察したオリエがチェイスに問いかける。
「キャスは部屋にいるの?」
「はい」
「では、私が行きましょう」
「お願いします」
オリエが去った室内で、困惑する父に軽く話をしようと考えたが。自分が話すよりも事情を聞いた母から話してもらう方が良いと判断したアンネリザは、とりあえず母から聞くようにだけ伝える。
同じく戸惑い気味なミノレッタにも、結婚前にする話ではないと思うので沈黙を貫いた。
タータミーナとオキノは、何かはあるのだろうと察しつつも、それをアンネリザに問いかける事はない。
しばらくして、オリエが戻り、アケチ伯とタータミーナとの話し合いが終わる。
カゼリーナを交えて、ミスノフ家には一切触れる事の無い夕食を取り、その日は終わった。
翌朝。
心持ちすっきりとした表情になったカゼリーナに安堵しつつ朝食を済ませ、アンネリザは前回の王都訪問時に知り合った人々から届いた文に目を通していた。
時間があればお会いしましょうという文が大半で、思いがけず延長することになった四日間に会いに行くのも悪くないかなと思いながら、思考はずっと結婚というものに向かっていく。
多くの貴族にとって、結婚が家と家の縁を結ぶものであるように、アンネリザにとっても結婚とは家があっての事だ。彼女はアケチ伯爵の娘で、それを知って結婚する相手だって、当然家を含めて自分を見るだろう。彼女が家を構成する一員である以上彼女と家は切り離せるものではない。
アケチ伯が大らかな質で、家の存続だけならば長女タータミーナが飲み込んでいた事もあって、妹達は比較的自由に結婚相手を選べる立場にあった。それでも、家の事を考えずに結婚相手を決めた娘は一人も居ない。
(家と家の縁を繋ぐのが結婚。そうでない結婚を望むなら、家を捨てる事になる)
アンネリザにとって、アケチ家は、物心着いた頃から十全である。結婚という存在を理解する頃には、既に多くの縁がアケチ家には有り、彼女が必要性を感じなかったのと同様に、父も不要だと言っていた。だから、彼女にとっては、必要ないもの、というのが結婚に対する認識だったのだ。
(恋ならば、結婚とは別でもできるのよ。じゃあ、結婚は何のためにするの? それは、家のため? でもその必要が無いなら? 恋人になりたい相手と更に結婚する事ができたら、それは幸せ? 結婚も離婚も、家であったり、個人であったり、それぞれなのだわ………あぁ、もう、駄目…全然まとまらない)
うんうんと唸るアンネリザにコレトーが声をかける。
「それほどお悩みになる文がございましたか?」
「うううん? 文は別に…皆さん示し合わせて誘ってくださったみたいで、全部日時は重なっていないし、事前通知無しに参加できる形式だから大丈夫なのだけど………ねぇ、コレトーはどうして結婚しないの?」
「昨夜も同じ事をお尋ねでしたが…」
「あら? あ、間違いよ。間違えたわ。結婚はしたいと思う?」
「どのような答えを望まれているのか、図りかねますが、平民にとって結婚は存外気楽なものですから」
「………どういうこと?」
「しようとしまいと個人の事なので、さほど気になりませんから、しようとも、しないとも、決めていません。まぁ、機会があればという事なので、したいと考えているうちに入るかと」
「あぁ、そうか…そうなのね」
「何かご参考になりましたか?」
「結局のところ色々なんだなって、思ったわ」
「然様でございますか」
(私達もするしないって言葉を使うけど…考えてみたら、要不要の方がしっくりくるのよね。私は不要だから結婚を考えた事がなかった………改めて考えてみても、ぴんと来ないし………まして王后なんて、もう、想像もつかないわ。とにかく私には務まらないだろうなって事くらいなら解るけど)
親しい人々からの文に混じって入っていた、お前が王后だなんて間違っている、という趣旨の脅迫文めいたものをちらりと見つめる。
「コレトー、こちらの文、お父様に見つからないように竈にくべておいて」
「畏まりました」
「あと、午後は出かけるわ。ジンライ家の姫様がご招待くださったから」
「何か、お持ちになりますか?」
「昨日は内向きのものしか買わなかったから、行きがけに菓子店に寄る事にするわ」
「畏まりました」
結婚についてあれこれと思い悩みながら、昼食を軽めに済ませたアンネリザは、ミコトの文に書かれていた飲食店へ足を運んだ。
飲食店、といっても、そこは元貴族の屋敷で、ぱっと見てもそれとは解らないようになっている。
門扉前に立つ門番めいた姿の店員に、同封されていたカードを示せば、案内役の店員がやってきてミコトが待つ一室へ連れて行ってくれるという仕組みだ。
(調度は元々なのかしら? 統一感があって品が良いわね。王都のお店で外食だなんてした事なかったけれど、こういうお店ってどれくらい有るのかしら)
辿り着いた一室で、ミコトは読書をして寛いでいたようだった。
「本日は、お招きいただき、有難うございます」
「こちらこそ。お越しいただき、嬉しく思います、わ」
ふわりと笑みを浮かべたミコトは、少し考えるようにアンネリザを見つめて、ほうとため息を吐くと感心したように口を開く。
「三日会わざれば、といったところですわね」
「刮目するほど、変わって見えまして? もしそうなら、嬉しい事です。祖母に顔向けできますわ」
「以前から素敵でしたけど。今は、秘密のヴェールが濃くなったようで、魅力的、だわ」
「まぁ、姫様の方が、神秘的な雰囲気で素敵ですわ。それに、こちらの部屋も、よくお似合いです」
アンネリザがキョロキョロと見回した室内は、いわゆる屋敷の客間に応接室を足したような風情で、玄関ホールから廊下にかけてとは趣を異にしていた。
「設えが気に入っていて、年単位で借りておりますの。ここにある本は全て私が持ち込んだものですから、どうぞ、姫様もゆったりとお寛ぎになって、楽しんでくださいませ」
「まぁ、全てですか?」
「ええ。それに、趣向も、凝らしましたの。ジンライ家秘蔵の手記の写しを、本のあちこちに隠しました、から、どうぞ、お楽しみになって?」
「有難うございます!」
淑女らしさがすっかり身に付いても、アンネリザという人間が変わった訳ではない。キラキラと目を輝かせて、仕草だけは優雅に、本を片端から確認し始めた。
ちなみに、楽しく寛ぎ始めた二人の侍従は、次の間で店員共々控えている。
(これは、あの事件の覚書ね。こちらは伝承の検証をなさっているのね…中々に興味深い見地だわ。そういう見方をするなら、あの伝承の裏にも………)
令嬢が二人、密室の中で、一切お喋りの花が咲かないというのも、不思議な光景だ。だが、当の二人は満足気に読書に耽るのだった。アンネリザの方は、読書、ではなく紙片の探索だが。
この珍しいお茶会は、夕方近くまで続いた。
「すっかり楽しませていただいて」
「良かった、ですわ。是非、また、お会いしましょう、ね」
「ええ、是非。あ…」
「なにか?」
「その、こんな事を尋ねるのは、礼儀知らずで、申し訳ないのですが。姫様は、ご結婚のご予定はお有りですか?」
「別に構いません、わ。でも、私は兄弟が多いものです、から、予定は、特に無い、の、です」
「では、私と同じですのね…有難うございます。教えてくださって」
「いいえ。では、また」
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