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40.最終話
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ドリミァ王国一行の到着から十四日。
今までのところ、アイデル王国全体とドリミァ王国の一部を除くほぼ全体が望んでいる通り、順調に日々は過ぎている。
リルカティアとローディオは順調に仲を深めており、日々政務に追われるレンフロとリファーナは全く会う事無く過ごしていた。
そして明日。遂にドリミァ王国一行が帰国する。
「順調に事が進んで何よりなのですが、私、特にお役に立ちませんでしたね」
「いや、姫がいてくれて本当に助かった。それから、妹への助言も。本当に喜んでいたから」
「そちらはほとんど姉達のおかげですね。私は今となってはアケチ家唯一の独身ですから、本当には夫婦の事は解っていないのですが。お役に立てたのなら何よりです」
二人は夕食後の時間を再び共に過ごしている。もっとも相変わらず酒は置かれているだけで、二人ともお茶ばかり飲んでいるのだが。
「後は歓送のために謁見の間で会う際だな」
「歓迎の際と形式は同じですよね?」
「ああ、此度は王女殿下もいらっしゃるが。言葉を交わす相手はあくまで主賓である王子殿下だけだからな…きっと大丈夫だろう」
「然様でございますか」
頷きつつも、おそらく何事かある、とアンネリザは考えている。上手く逃げはできたが、リルカティアのお茶の席にリファーナは現れた。あの行動力は脅威である。
(まぁ大丈夫、よね? 歓迎の際を見る限り王子殿下以外はそこそこ下がっているし。気に留めたところで何かできるという事も無いのだけれど…まぁ、注意だけは払っておきましょう)
とりあえずはこれまでの順調さを喜び、明日もなんとか乗り越えようと話はまとまった。
「何だかあまり役に立ってない気がするのだけど、どう思う?」
「抑止力にはなっているのではありませんか。少なくとも、ドリミァ王国の王子殿下はお二人の仲を誤解なさっているからこそ妹君を遠ざける手助けをして下さっているのでしょうし」
「まぁ、そうよね」
実際にはただ妹に思い通りの行動をとらせないようにしているだけなのだが、二人の事を誤解しているのも事実なので、判断の難しい所である。
「何はともあれ遂にここまで来たわ! 陛下は念話を身に付けられたし。精霊王の七聖宝のうち二つもお使いになる事が出来るのですって。素晴らしいわよね!」
「然様でございますね」
明日に備えて早く寝ようと言い出したアンネリザにお茶を出し、ようやくアケチ領へ戻れるのだ、とコレトーも久しぶりにぐっすりと眠った。
そして迎えた決戦当日。
この日、誰よりも気合に満ちていたのは、誰あろうリファーナだった。
(結局お兄様が邪魔でレンフロ様とお話しする機会がなかったけれど、今日こそは!)
仕立係を相手取って試行錯誤を繰り返し、自分を引き立てる最高の出来映えのドレスになったのだ。重ねたレースがふわりと広がる裾は、動きの中でレース一枚越しに足首が見える瞬間が出るよう気を配った。更には細い腰を強調するため見苦しくならない程度にぐっと引き絞って皺を寄せる。細かく花を模した絹飾りで飾った髪を強調するため、上半身はすっきりとした仕上げだ。
(この場でもっとも輝いているのはわたくしよ!)
兄の二歩ほど後に控えたリファーナは、今か今かとレンフロの登場を待っている。レンフロは、玉座の有る壇上後の扉から入り、階段を下りてローディオと相対する事になるので、降りて来くるのに合わせてすっと前に出て行こうと考えているのだ。
しかし、リファーナは念願叶って会う事になったレンフロの姿に、思わず足が前に出てしまった。
「「っ!」」
ローディオは自身に並ぶ気配に慌てて横を向いた。
(陛下!)
壇上を下りようとしていたレンフロも、驚いて足を止めたのだが、その時頭にアンネリザの声が響いた気がした。
「きゃあぁああああぁあぁぁー!!」
元々国王の声を伝えるためにある謁見の間は、音がよく反響するようになっている。だから、その耳を劈くような叫び声は、広間中に反響し、発声源がどこにあるのかも解らない程だった。
すぐにその声の主が解ったのは、普段から聴き慣れていた者達だけだろう。
(リファーナ!)
ローディオは崩れ落ちる傍らの妹を抱き支え、その見開かれた視線の先を見た。
歩みを止めたレンフロが、そこには居る。先程までとは違い、首無し王、としての姿で。
「あ、あぁ…あっ…」
小刻みに震えるリファーナに内心で溜息を吐く。背後を振り返り視線でリファーナを連れ出すよう促した。引き渡してから、妹の無礼を詫びるため立ち上がったローディオの視界には、下りてきたレンフロと傍に立つアンネリザの姿がある。もっとも、アンネリザの事をローディオは知らないので、貴族令嬢が居る、と思っただけだが。
先ほど、アンネリザの声が聞こえたと思った瞬間。レンフロの首は宙を舞った。
そして、すぐに気付いたアンネリザの腕の中へ向かって、落ちたのだ。
国王の首を腕の中に抱いて、彼の傍らに立つ令嬢。
(もしや…)
リルカティアから聞いていた話がローディオの脳内に蘇る。
『アンネリザ様と仰るのです、ゆくゆくは、お義姉様になって下さる方ですわ』
とても嬉しそうに、笑みながらそう言っていた。
階段を歩み下りたレンフロが、アンネリザから首を受け取る。
「すまない、姫」
「いえ」
謁見の間に響かぬように、囁き合われた声だが、近くにたローディオには届いた。
首を据え、ローディオにも謝罪をしようと向き直るレンフロに、彼は笑みを浮かべて言う。
「貴方も、素敵な方を迎えられたのですね」
「え」
一瞬の間だった。アンネリザがその場を急いで下がろうとするよりも、レンフロが誤魔化すために何か言うよりも、遥かに素早く謁見の間に声が響いた。
「生首王后陛下万歳!」
そこからはあっという間に万歳三唱である。
しかも、ローディオまで笑顔で拍手を送って来た。
レンフロが困惑したのは、この場の完全祝福ムードを翻す事で、アンネリザに不名誉が降りかかる事を心配していたからだ。
(姫)
そのため、慌てて念話と視線を送った。
アンネリザはいつもの輝く目で見つめ返してくる。
(陛下?)
レンフロは、伝えるべき言葉があったような気がしたが、どこかへ消えた。
(ずっとどこかでは思っていた…もし、許されるのなら)
傍らで、黙った自分を小首を傾げて見上げるアンネリザに、伝えるべき言葉は消えた、今有るのは伝えたい言葉だけだ。
(姫。私と共に、人生を歩んで貰えるだろうか?)
そう告げた、いや、思った後で、レンフロは顔を赤らめて口元を覆った。
(こんなにも、喜ばしい事が、あるのだろうか)
アンネリザの胸は張り裂けそうに高鳴った。
何時からそう思い始めたのか、判然としない。どちらにせよ、自分からは望む事などできない。そう考えていたのに、選び取る機会は今目の前に示された。
今は見えぬ道の先には、数多の困難も、試練も、きっとあるのだろう。
それでも、返事ならば唯一つだ。
「はい。喜んで」
小さく呟いて、アンネリザは、笑みを浮かべ、首を縦に振る。
何の返事なのか解らない、誰も気付かぬはずの婚姻の承諾は、何故かその場の全員から祝福を受けた。
いや、壁際で一人、顔色を失くした侍従は、
「何故…?」
と、呟いていたのだが。その場を占める大勢を覆す力は無かったのだ。
「首無し王陛下万歳!」
「生首王后陛下万歳!」
やがて、謎の興奮に包まれ、気付けばローディオとリルカティアも互いに手を取り合っている中、うやむやのままに歓送の式は終わりを迎えた。
数日の後。
諸々の事情を考慮して、一年後に正式な婚姻とする事を約束し、アンネリザは帰領する。
「お祖母様! お母様! 私に花嫁修業をつけてくださいませ!」
自らそう志願した孫娘の姿に、祖母は思わず微笑み、母は絶句した。父は遠い目をして長女への爵位継承を宣言し、唐突な事態の展開に長女夫婦は動転する。次女は結婚してから初めて実家へ帰って来て、三ヶ月ほど妹を扱いていった。三女ははしゃぐ姪達を連れて泣きそうな顔で駆けつけ、あれこれ心配してから、諦めたような顔で戻っていく。四女は楽しそうな笑顔を浮かべてやって来て、自分が言われたあれやこれやをきっと言われるだろうから、と教えてくれ、最後には笑い飛ばして去っていった。そして、五女は、心配顔でたった一人の妹の顔を見つめ、安心したように微笑むと、祝福の言葉を贈る。
「おめでとう、アン」
「ありがとうございます」
大わらわなアケチ家には、あちらこちらから、ひっきりなしに文が送られて来ては、返って行き。人がやって来ては去って行き。隠居した先代さえ休む暇など無い程に忙しくなった。
結局、予定よりもさらに一年後に、レンフロとアンネリザは結婚する運びとなった。
濃紺の婚礼衣装を纏ったレンフロに手を引かれ、アンネリザは歩んでいる。そして、ふとその歩みが止まる。
「本当に、今更な事だが」
薄青色の婚礼衣装に身を包んだアンネリザを見つめて、レンフロは口を開いた。
「はい」
「姫は、何故、私と共に歩んでくれる気になったのだろうか?」
既に互いに誓を交わし、祝福の鐘が鳴り響く中、衆人へ向けて顔見せをしようという今、それは本当に今更な問いかけだった。
だが、アンネリザは楽しそうに笑う。
「陛下とご一緒できるのならば、どのような苦難の道も楽しんで歩いていけると信じられるからですわ」
降り注ぐような光と歓声の中、それでもはっきりとその声は王の耳に届いた。
「首無し王陛下万歳!」
「青百合王后陛下万歳!」
(あら?)
観衆へ微笑みながら手を振りつつ、アンネリザは首を傾げた。
(私は、生首王后ではなかったかしら…?)
本人だけが喜び受け入れた呼称は、二年の準備期間中に、各所各員の努力によって改められていた。
首無し王の心を射止めた、生首王后。
美しい紅百合の香りを纏った、淡い青の瞳を持つ王后。
どちらにせよ。
魔法の消えた時代に、あまりに不思議な逸話を残したこの国王夫妻は、後年。精霊王と並ぶほどに創作の元にされるのだが、それは彼らが蒼き火の扉の向こうへ去ってからの話である。
□fin
今までのところ、アイデル王国全体とドリミァ王国の一部を除くほぼ全体が望んでいる通り、順調に日々は過ぎている。
リルカティアとローディオは順調に仲を深めており、日々政務に追われるレンフロとリファーナは全く会う事無く過ごしていた。
そして明日。遂にドリミァ王国一行が帰国する。
「順調に事が進んで何よりなのですが、私、特にお役に立ちませんでしたね」
「いや、姫がいてくれて本当に助かった。それから、妹への助言も。本当に喜んでいたから」
「そちらはほとんど姉達のおかげですね。私は今となってはアケチ家唯一の独身ですから、本当には夫婦の事は解っていないのですが。お役に立てたのなら何よりです」
二人は夕食後の時間を再び共に過ごしている。もっとも相変わらず酒は置かれているだけで、二人ともお茶ばかり飲んでいるのだが。
「後は歓送のために謁見の間で会う際だな」
「歓迎の際と形式は同じですよね?」
「ああ、此度は王女殿下もいらっしゃるが。言葉を交わす相手はあくまで主賓である王子殿下だけだからな…きっと大丈夫だろう」
「然様でございますか」
頷きつつも、おそらく何事かある、とアンネリザは考えている。上手く逃げはできたが、リルカティアのお茶の席にリファーナは現れた。あの行動力は脅威である。
(まぁ大丈夫、よね? 歓迎の際を見る限り王子殿下以外はそこそこ下がっているし。気に留めたところで何かできるという事も無いのだけれど…まぁ、注意だけは払っておきましょう)
とりあえずはこれまでの順調さを喜び、明日もなんとか乗り越えようと話はまとまった。
「何だかあまり役に立ってない気がするのだけど、どう思う?」
「抑止力にはなっているのではありませんか。少なくとも、ドリミァ王国の王子殿下はお二人の仲を誤解なさっているからこそ妹君を遠ざける手助けをして下さっているのでしょうし」
「まぁ、そうよね」
実際にはただ妹に思い通りの行動をとらせないようにしているだけなのだが、二人の事を誤解しているのも事実なので、判断の難しい所である。
「何はともあれ遂にここまで来たわ! 陛下は念話を身に付けられたし。精霊王の七聖宝のうち二つもお使いになる事が出来るのですって。素晴らしいわよね!」
「然様でございますね」
明日に備えて早く寝ようと言い出したアンネリザにお茶を出し、ようやくアケチ領へ戻れるのだ、とコレトーも久しぶりにぐっすりと眠った。
そして迎えた決戦当日。
この日、誰よりも気合に満ちていたのは、誰あろうリファーナだった。
(結局お兄様が邪魔でレンフロ様とお話しする機会がなかったけれど、今日こそは!)
仕立係を相手取って試行錯誤を繰り返し、自分を引き立てる最高の出来映えのドレスになったのだ。重ねたレースがふわりと広がる裾は、動きの中でレース一枚越しに足首が見える瞬間が出るよう気を配った。更には細い腰を強調するため見苦しくならない程度にぐっと引き絞って皺を寄せる。細かく花を模した絹飾りで飾った髪を強調するため、上半身はすっきりとした仕上げだ。
(この場でもっとも輝いているのはわたくしよ!)
兄の二歩ほど後に控えたリファーナは、今か今かとレンフロの登場を待っている。レンフロは、玉座の有る壇上後の扉から入り、階段を下りてローディオと相対する事になるので、降りて来くるのに合わせてすっと前に出て行こうと考えているのだ。
しかし、リファーナは念願叶って会う事になったレンフロの姿に、思わず足が前に出てしまった。
「「っ!」」
ローディオは自身に並ぶ気配に慌てて横を向いた。
(陛下!)
壇上を下りようとしていたレンフロも、驚いて足を止めたのだが、その時頭にアンネリザの声が響いた気がした。
「きゃあぁああああぁあぁぁー!!」
元々国王の声を伝えるためにある謁見の間は、音がよく反響するようになっている。だから、その耳を劈くような叫び声は、広間中に反響し、発声源がどこにあるのかも解らない程だった。
すぐにその声の主が解ったのは、普段から聴き慣れていた者達だけだろう。
(リファーナ!)
ローディオは崩れ落ちる傍らの妹を抱き支え、その見開かれた視線の先を見た。
歩みを止めたレンフロが、そこには居る。先程までとは違い、首無し王、としての姿で。
「あ、あぁ…あっ…」
小刻みに震えるリファーナに内心で溜息を吐く。背後を振り返り視線でリファーナを連れ出すよう促した。引き渡してから、妹の無礼を詫びるため立ち上がったローディオの視界には、下りてきたレンフロと傍に立つアンネリザの姿がある。もっとも、アンネリザの事をローディオは知らないので、貴族令嬢が居る、と思っただけだが。
先ほど、アンネリザの声が聞こえたと思った瞬間。レンフロの首は宙を舞った。
そして、すぐに気付いたアンネリザの腕の中へ向かって、落ちたのだ。
国王の首を腕の中に抱いて、彼の傍らに立つ令嬢。
(もしや…)
リルカティアから聞いていた話がローディオの脳内に蘇る。
『アンネリザ様と仰るのです、ゆくゆくは、お義姉様になって下さる方ですわ』
とても嬉しそうに、笑みながらそう言っていた。
階段を歩み下りたレンフロが、アンネリザから首を受け取る。
「すまない、姫」
「いえ」
謁見の間に響かぬように、囁き合われた声だが、近くにたローディオには届いた。
首を据え、ローディオにも謝罪をしようと向き直るレンフロに、彼は笑みを浮かべて言う。
「貴方も、素敵な方を迎えられたのですね」
「え」
一瞬の間だった。アンネリザがその場を急いで下がろうとするよりも、レンフロが誤魔化すために何か言うよりも、遥かに素早く謁見の間に声が響いた。
「生首王后陛下万歳!」
そこからはあっという間に万歳三唱である。
しかも、ローディオまで笑顔で拍手を送って来た。
レンフロが困惑したのは、この場の完全祝福ムードを翻す事で、アンネリザに不名誉が降りかかる事を心配していたからだ。
(姫)
そのため、慌てて念話と視線を送った。
アンネリザはいつもの輝く目で見つめ返してくる。
(陛下?)
レンフロは、伝えるべき言葉があったような気がしたが、どこかへ消えた。
(ずっとどこかでは思っていた…もし、許されるのなら)
傍らで、黙った自分を小首を傾げて見上げるアンネリザに、伝えるべき言葉は消えた、今有るのは伝えたい言葉だけだ。
(姫。私と共に、人生を歩んで貰えるだろうか?)
そう告げた、いや、思った後で、レンフロは顔を赤らめて口元を覆った。
(こんなにも、喜ばしい事が、あるのだろうか)
アンネリザの胸は張り裂けそうに高鳴った。
何時からそう思い始めたのか、判然としない。どちらにせよ、自分からは望む事などできない。そう考えていたのに、選び取る機会は今目の前に示された。
今は見えぬ道の先には、数多の困難も、試練も、きっとあるのだろう。
それでも、返事ならば唯一つだ。
「はい。喜んで」
小さく呟いて、アンネリザは、笑みを浮かべ、首を縦に振る。
何の返事なのか解らない、誰も気付かぬはずの婚姻の承諾は、何故かその場の全員から祝福を受けた。
いや、壁際で一人、顔色を失くした侍従は、
「何故…?」
と、呟いていたのだが。その場を占める大勢を覆す力は無かったのだ。
「首無し王陛下万歳!」
「生首王后陛下万歳!」
やがて、謎の興奮に包まれ、気付けばローディオとリルカティアも互いに手を取り合っている中、うやむやのままに歓送の式は終わりを迎えた。
数日の後。
諸々の事情を考慮して、一年後に正式な婚姻とする事を約束し、アンネリザは帰領する。
「お祖母様! お母様! 私に花嫁修業をつけてくださいませ!」
自らそう志願した孫娘の姿に、祖母は思わず微笑み、母は絶句した。父は遠い目をして長女への爵位継承を宣言し、唐突な事態の展開に長女夫婦は動転する。次女は結婚してから初めて実家へ帰って来て、三ヶ月ほど妹を扱いていった。三女ははしゃぐ姪達を連れて泣きそうな顔で駆けつけ、あれこれ心配してから、諦めたような顔で戻っていく。四女は楽しそうな笑顔を浮かべてやって来て、自分が言われたあれやこれやをきっと言われるだろうから、と教えてくれ、最後には笑い飛ばして去っていった。そして、五女は、心配顔でたった一人の妹の顔を見つめ、安心したように微笑むと、祝福の言葉を贈る。
「おめでとう、アン」
「ありがとうございます」
大わらわなアケチ家には、あちらこちらから、ひっきりなしに文が送られて来ては、返って行き。人がやって来ては去って行き。隠居した先代さえ休む暇など無い程に忙しくなった。
結局、予定よりもさらに一年後に、レンフロとアンネリザは結婚する運びとなった。
濃紺の婚礼衣装を纏ったレンフロに手を引かれ、アンネリザは歩んでいる。そして、ふとその歩みが止まる。
「本当に、今更な事だが」
薄青色の婚礼衣装に身を包んだアンネリザを見つめて、レンフロは口を開いた。
「はい」
「姫は、何故、私と共に歩んでくれる気になったのだろうか?」
既に互いに誓を交わし、祝福の鐘が鳴り響く中、衆人へ向けて顔見せをしようという今、それは本当に今更な問いかけだった。
だが、アンネリザは楽しそうに笑う。
「陛下とご一緒できるのならば、どのような苦難の道も楽しんで歩いていけると信じられるからですわ」
降り注ぐような光と歓声の中、それでもはっきりとその声は王の耳に届いた。
「首無し王陛下万歳!」
「青百合王后陛下万歳!」
(あら?)
観衆へ微笑みながら手を振りつつ、アンネリザは首を傾げた。
(私は、生首王后ではなかったかしら…?)
本人だけが喜び受け入れた呼称は、二年の準備期間中に、各所各員の努力によって改められていた。
首無し王の心を射止めた、生首王后。
美しい紅百合の香りを纏った、淡い青の瞳を持つ王后。
どちらにせよ。
魔法の消えた時代に、あまりに不思議な逸話を残したこの国王夫妻は、後年。精霊王と並ぶほどに創作の元にされるのだが、それは彼らが蒼き火の扉の向こうへ去ってからの話である。
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