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第27話 GFの正体
しおりを挟む仕事をほとんど無理やり定時で終わらせ、制限速度も無視して、俺は颯也の待つキャンパスへと車を走らせた。
颯也の顔が見たかった。一刻も早く彼を抱きしめたかった。
運転中、頭の中をめくるめく妄想が席巻していた。
颯也の服を荒々しく剥ぎ取り、ダイブするように圧し掛かる。とたんに俺は凶暴な狼と化す。虎でも良いかな? 否、龍の方が強いかもしれない。もしくは嫉妬に狂った暴れん坊ジェネラルか。白馬は何処だ!?
『理仁亜、もう許して下さい』
と颯也が泣いても俺は容赦しない。
『今夜は寝かせない。何度でも極楽を見せてやる』
などとクサイ台詞を言いまくり、相手がドン引いている隙に、怒涛のがぶり寄りでガンガン攻めて一気に土俵の外へ押し出すのだ! ……って、いつの間にか相撲になっている!?
* * *
「理仁亜!」
大学の駐車場に着くと、颯也が手を振りながら駆け寄って来た。
俺は車から降りて彼を待った。すぐにでも抱きしめたかった。
「颯也! ……はっ」
俺は愕然とし、伸ばしかけた腕を下ろした。
颯也の後ろに件の女子学生がいた。
朝からずっと一緒だったということなのか? だとしたら、相当仲が良いとしか思えない。
「理仁亜、紹介します」
颯也がその女子を俺の前に連れて来た。
「彼が片山歩くんだよ」
「えっ、彼? でも……」
俺は耳を疑った。
颯也は女子学生を『彼』と言った。『彼女』の間違いではないのか? しかも、くん付けだ。
「経済学部の片山歩です」
そう名乗った彼だか彼女だかは、にこやかな表情で俺に会釈した。
声は女性のアルトに近い。身体つきは華奢で、顔立ちはとても魅力的で可愛らしい。まじまじと目を凝らしてよく見ても、片山歩の性別は判然としなかった。
確かに胸は平らだが、そういう女子は巷に五万といるので性別を見極める決定的要素にはならない。
男だと言われれば、まず疑ってしまう。彼には颯也とは違うタイプの可愛らしさがあった。所謂、中性的な魅力だ。この容貌なら同性にも異性にも人気がありそうだ。
「はじめまして。真田理仁亜です」
女性だと思っていた人物が実は男性だったとわかり、とたんに力が抜けて放心した。
「どうよ? 片山くん、僕の理仁亜、カッコイイだろう」
と、片山歩にドヤ顔の颯也。
聞けば、颯也は片山歩に俺を見せたくてこの時間まで待たせていたというのだ。しかも既に俺たちの関係も明かしているとのことだった。
「うん。待っていた甲斐があったよ」
片山歩は颯也にそう答え、キラキラした眼差しを俺に向けて言った。
「桐島くんがいつも真田さんの話をするので、なんだか真田さんとは初めて逢ったという感じがしません。写真も見せてもらいましたが、実物の方が何百倍もカッコイイですね!」
「あ、ありがとう」
初対面の男子に『カッコイイですね!』と言われても、そんな自覚もない俺はどう応えて良いかわからなかった。とりあえず礼を述べたが、いろいろな意味で恥ずかしい。こう見えて神経は繊細なのだ。
「理仁亜、照れてるね」
「大人をからかうんじゃない」
「あははっ、ほんと仲いいんですね」
片山歩は自分の同級生が同性と恋愛関係にあると聞いても、何の偏見も違和感もないかのように恬然と快活に笑っていた。
「ところで片山くん」
片山歩が女子ではなかったとしても、懸念が全て払拭されたわけではなかった。俺はいくつか彼に尋ねたいことがあった。
「昼食の時、颯也に食べさせてくれてるんだろう? 迷惑をかけてすまないね」
「大丈夫ですよ。俺ん家、小さい弟と妹がいるんで、人の世話を焼くのは慣れてますから」
そう答える片山歩からは颯也に対して特別な思いがあるようには感じられなかった。全くただの親切心のようだった。
「そうなんだね。それから……高校の修学旅行の時は添い寝してくれたとか? そこまで面倒看てくれるなんて、片山くんは優しいんだね」
修学旅行での添い寝、それこそが一番の問題だ。何故、颯也が彼を選んだのか? そして、何故、彼は了承したのか? そこに何かしらの感情はあったのか?
「あれは桐島くんが俺を助けてくれたようなものなんです」
「えっ、それはどういう……?」
「俺、外見がこんなだから、ちょっと下心のあるやつらが俺と寝たがって……と言っても、変な意味じゃないと思うんですが。
でも、ギラギラして何となく気持ち悪くて、断るのに苦労してたら、桐島くんがお菓子をどっさり差し出して『これで僕と寝てくれ』って言って。結局、誰もそのお菓子の量に敵わなくて引き下がったんです。俺はお菓子に釣られた形で添い寝を引き受けて、おかげで修学旅行中は安泰でした」
「そうだったのか」
片山歩にとって颯也の申し出は渡りに船だったわけで、颯也にしてみれば一石二鳥だったのだろう。困っているクラスメイトを助けると同時に、添い寝をしてくれる人材を確保できたとあれば。
片山歩が同性にも人気があるというのは頷ける。女子と見紛うキュートな容姿もさることながら、明るくこだわりのない性格は誰からも好かれるだろう。
駐車場でしばらく立ち話をして、俺たちは片山歩と別れた。彼はこれからレンタルDVDショップでアルバイトだという。
別れ際に、片山歩と電話番号を交換した。彼が言うには、慣れない土地で大人の男性の知り合いがいると心強いからとのことだった。
『大人の男性』
良い響きだ。二十歳前の若者から見ると、俺はそれほど大人に見えるのだろうか。
実に誇らしい気分だった。心強い存在と思われるのは悪い気はしないものだ。
つづく
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