悪役令嬢はモブ落ちしたくない!

ともき

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幕間(アデイル)

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「信じられない…」
終ってからずっとハンカチでごしごし頬をこすっている私をメイドたちが遠巻きにしている。
ドレスに鳥の糞でも落とされたのかと心配されたが、鳥の糞の百倍やばいものだった。
「……自分以外の男を見てたからって、き、キス…とか…する……?」
あれが王子クオリティか。
というかそれだけの積極性があってなぜ第三王子の地位に甘んじているんだ。
段々ひりひりしてきたほっぺたにうう、と唸って私はベッドに転がった。
メイドたちも困ってしまったらしくど彼女たちの部屋に帰っていく足音が聞こえる。
足をバタバタさせると少し気がまぎれた。
はーっと一番長いため息をついて、枕に身を預けた。
とりあえずは脳内に違う話題を呼び出すことで正気を保とう。
「あっちについて考えようあっち」
謎の銀髪にアイスブルーの瞳。
父とイアン以外に初めて見た顔のある人間。
枕の下から羊皮紙を取り出して、思い出せる情報を一生懸命に探してみるけれど、あの銀髪碧眼の姿は見当たらない。
「無表情クール系とか…いてもおかしくはないんだけど…」
後略できるのは全部で四人。王に似ていないことがコンプレックスな超俺様第一王子と、穏やかにささやかに暮らしていきたい第二王子、そして王に似ているが実権からは程遠い第三王子、それにシークレットキャラとして本編で登場する誰がしかが追加で攻略できる設定だったはずだ。
まあ俗にクソみたいな映画ほど予告は面白そうに見えるだの、逆に予告が面白そうすぎて本編がつまらなそうに見えてしまうのだなどと言われるが、予告段階では確かにこの物語は大変に面白そうだったのだ。
第一王子と第二王子は双子だが性格が正反対で、見た目が二人と違い鬱屈した思いを抱えた第三王子が国への裏切りを考えたり考えなかったり、サスペンスもロマンスもミステリーも学園ものもこれだけで、というのが売りの作品だった。
「それだけ設定詰め込んだら破綻するわけだけど」
で、設定だけは詰め込みに詰め込んだ末に、完成していたのは第三王子ルートだけと。
世知辛い。
「うーん、イケメンだったし、ストーリーに関わるから顔面があったわけよね…」
いつもきらっきらしているイアンに比べると、愛想などは全くない表情で、ただただダンスだけをして終わったわけだけど。
もしかすると彼の行動が普通にシナリオに影響することも考えられる。
私の顔が謎のイケメンのせいで消えてしまうのは少々勘弁してほしいわけだし。

「キスとかもうどうでもいいか…」
ごろりと寝返りを打つ。
口に出すとさらにそんな気がしてきた。
乙女ゲームである。ヒーローが初対面で口にキスをぶちかましてきたり、あまつさえそれ以上のことをしてくることもないわけではない。
それを考えると、ぎりぎり頬に抑えた王子は紳士的とさえいえるかもしれなかった。
少なくともイアンはあの男が誰なのかを知っている。
それを踏まえると、やはりイアンから情報を仕入れるのが一番だろうと私は結論付けた。
「手紙書こうかな…」
よいしょ、とメイドには聞かれたくない声を出しながら私は机に向かう。
いつもならほとんど使われることの無い便せんに、すらりと宛先を書いて、あの時に出会った男が何者だったかが気になって仕方がない旨を書き込む。
「ん、よしっと」
あとはメッセンジャーにでも頼んでこれを渡してもらおう、と私はドアを開けてメイドを探しに行った。


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