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記録映像「######」
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忘れるということがない。
訂正:正しくは忘れるという機能がない。
故に、消去されない限り私の記憶(データベース)には過去の映像が残り続ける。
訂正:余剰のデータを消去するために時折清掃(クリーニング)がかかる。
けれど、一つだけ消えない記憶がある。
それはこの白銀の終わった世界でも、幾度となく私の視界を赤く染めるのだ。
「―――――」
喚ぶ声。
声の揺らぎは男のもので、切実さが滲んでいる。
カメラは縫い留められたように動かないが、男の声が響くとともに何度か揺れた。
おそらくは、腕を引っ張られていたのだろう。
「――!―――!」
同じ音の繰り返しと共に、同じように画面が揺れる。
私にはその音を理解することはできなかったが、どこかおそらくは清掃(クリーニング)されてしまった記憶のどこかにその意味があるのだろう。
そして、最後には男は声を発することをやめるが、その代わりに私のカメラに何かがかぶさる。
恐らくは抱きかかえられ、引きずるように移動させようとされている。
しかし、自律的に動くプログラミングをされていない時の私の重さは金属の塊と同じだ。
僅かに空の景色が変わるが、すぐにカメラの揺れは止まってしまった。
少し離れて、息を切らしてうずくまる姿があった。
男は眼を光から遮蔽するグラスをつけていて、腕も足も擦り傷だらけだった。
当時の私は戦闘支援の能力も持ち合わせていたために、男にすぐにこの場を離れるための指示を出したようだった。
男の目線が揺らぐ。信じられないようなことを言われたような視線で、また声が上がる。
必死さは変わらないが、より何を言っているのかがわからない子供のわめきごえのような叫びがカメラを揺らす。
けれど、もう時間は残されていなかった。
自動的にカメラが上を向く。
無人戦闘機の訪れを感知したのだ。違う色のはずだった空は銀色の翼と地上の炎の照り返しで赤く染まっている。
やがて、鈍色の棒が天から降り注ぎ、また地面が揺れ、カメラが揺れた。
今度こそ揺れに耐えきれなかったのか、カメラは地面だけを映している。
突き刺さった棒状の爆弾が地面に舐めるような炎を放つ中で、男の掛けていたはずのグラスがしゅうしゅうと溶けていく。
そこに男の姿はなく、何故か、私はこの映像の最後までを見ると【安(不適切な表現)堵】する。
この映像は一度再生が始まると終わりまで止まらない。
やることももはやなくなったこの世界ではそんなに気にすることではないのだけど。
「1909133333333時間経過―――」
そして、私はこの世界に立ち止まってからの時間を時たま口にする。
これがちょうどきりよく、2000000000000時間になったときに私は停止する。そのように決められている。
ただ、静けさだけが私をここに取り残している。
あの時、上を向いてしまっているから私はあの男の生死を知らない。
記憶(データ)は定期的に消され続けているから、あの男の叫んだ内容を私は理解しえない。
けれど。
もしも(IF)
あの男が生きていて、
もしも(IF)
私の手をもう一度引くなら、
それは、もう、この白い世界でも、あの赤い空でもない
青い空のような笑顔で、私の名前を呼ぶに違いない。
そうに、違いないのだ。
(199999999999999999……時間の果てに)
訂正:正しくは忘れるという機能がない。
故に、消去されない限り私の記憶(データベース)には過去の映像が残り続ける。
訂正:余剰のデータを消去するために時折清掃(クリーニング)がかかる。
けれど、一つだけ消えない記憶がある。
それはこの白銀の終わった世界でも、幾度となく私の視界を赤く染めるのだ。
「―――――」
喚ぶ声。
声の揺らぎは男のもので、切実さが滲んでいる。
カメラは縫い留められたように動かないが、男の声が響くとともに何度か揺れた。
おそらくは、腕を引っ張られていたのだろう。
「――!―――!」
同じ音の繰り返しと共に、同じように画面が揺れる。
私にはその音を理解することはできなかったが、どこかおそらくは清掃(クリーニング)されてしまった記憶のどこかにその意味があるのだろう。
そして、最後には男は声を発することをやめるが、その代わりに私のカメラに何かがかぶさる。
恐らくは抱きかかえられ、引きずるように移動させようとされている。
しかし、自律的に動くプログラミングをされていない時の私の重さは金属の塊と同じだ。
僅かに空の景色が変わるが、すぐにカメラの揺れは止まってしまった。
少し離れて、息を切らしてうずくまる姿があった。
男は眼を光から遮蔽するグラスをつけていて、腕も足も擦り傷だらけだった。
当時の私は戦闘支援の能力も持ち合わせていたために、男にすぐにこの場を離れるための指示を出したようだった。
男の目線が揺らぐ。信じられないようなことを言われたような視線で、また声が上がる。
必死さは変わらないが、より何を言っているのかがわからない子供のわめきごえのような叫びがカメラを揺らす。
けれど、もう時間は残されていなかった。
自動的にカメラが上を向く。
無人戦闘機の訪れを感知したのだ。違う色のはずだった空は銀色の翼と地上の炎の照り返しで赤く染まっている。
やがて、鈍色の棒が天から降り注ぎ、また地面が揺れ、カメラが揺れた。
今度こそ揺れに耐えきれなかったのか、カメラは地面だけを映している。
突き刺さった棒状の爆弾が地面に舐めるような炎を放つ中で、男の掛けていたはずのグラスがしゅうしゅうと溶けていく。
そこに男の姿はなく、何故か、私はこの映像の最後までを見ると【安(不適切な表現)堵】する。
この映像は一度再生が始まると終わりまで止まらない。
やることももはやなくなったこの世界ではそんなに気にすることではないのだけど。
「1909133333333時間経過―――」
そして、私はこの世界に立ち止まってからの時間を時たま口にする。
これがちょうどきりよく、2000000000000時間になったときに私は停止する。そのように決められている。
ただ、静けさだけが私をここに取り残している。
あの時、上を向いてしまっているから私はあの男の生死を知らない。
記憶(データ)は定期的に消され続けているから、あの男の叫んだ内容を私は理解しえない。
けれど。
もしも(IF)
あの男が生きていて、
もしも(IF)
私の手をもう一度引くなら、
それは、もう、この白い世界でも、あの赤い空でもない
青い空のような笑顔で、私の名前を呼ぶに違いない。
そうに、違いないのだ。
(199999999999999999……時間の果てに)
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