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一章
二回目
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——金曜日、放課後——
あれから次の週の金曜日。
俺はまた虹葉もどきに呼び出された。
前回と変わらず校舎裏。
これから何の話をされるかは、想像に難くない。
あいつはもう、俺を待っていた。
俺は特に急ぐ事もなく、あいつに向かって歩いてゆく。
「今野くん、来てくれてありがとう」
「いいよ、別に」
この後の流れは予想がついている。
もちろん、俺の言葉も。
「今野くん、ちょっと聞きたいことがあってね」
「ん、何?」
「えっと、今野くんって、もしかして……」
あいつはそこで息を呑んだ。
不思議な事に、迷っているようだ。
俺は何も言わずにあいつの言葉を待つ。
「今野くんって、私の事、好きじゃない?」
予想通りの質問だった。
……はずなのに。
俺は呼吸をするのも忘れて、あいつの顔を凝視していた。
あいつの顔が。
申し訳なさそうに少しだけ上目遣いでこちらを見つめる顔が。
苦しそうな本心を無理矢理笑顔で上塗りしたような。見ているこっちが痛ましくなる様な笑顔が。
虹葉と、同じだったから。
「やめて……」
声が震えているのが自分でも分かった。
「⁈ 今野くん⁈」
あいつは何が起こっているのか理解できずに、ただただ狼狽えている。
「やめて……虹葉を……盗らないで……」
涙が止まらない。
頭がついていかない。
そんな中でも、身体中が、"やめて"と叫んでいた。
声の無い声で、叫び続けていた。
「どうしたの? どういうこと? 私、分からない」
「分からなくていいっ‼︎」
気付けば叫んでいた。
あいつはビクッと体を振るわせ、ゆっくりと俺から後ずさる。
涙が、止まらない。
目の前のあいつは虹葉じゃないのに。
虹葉のフリをして、なんとも思ってない筈なのに。
俺は、今でも虹葉のことを、思っているのに。
——だから。
——俺が、壊さなければ。
——虹葉の為に、壊さなければ。
「俺は、お前が、嫌いだ」
俺の言葉に、あいつは目を見開く。
「そっか、そうだよね……」
最後に「ごめんね」と言い残し、あいつは地面にペタリとへたり込んだまま動かなくなった。
「虹葉、会いたいな……」
俺は校舎の壁へと倒れるように寄りかかった。
涙は今も、止まらない。
* * *
「で、またあの子を壊したと」
神崎はコーヒーを啜りながらそう質問した。呆れたと言わんばかりに目を細めている。
俺は前回と同じように、神崎の研究室のソファに座っていた。
涙も止まり、ようやく会話ができる頃にはコーヒーは緩くなっていた。
「……すみません」
「いやいや、思ってないでしょ、少年」
「……」
神崎は俺をじっと見つめると、「はぁ……」と小さくため息を吐いた。
「で、今回はなんでこうなったのさ」
「はい……」
あの虹葉もどきが、虹葉と同じ表情をした事。それによって俺は気が動転し、攻撃的な行動に走ってしまった事。
俺はそのような事を説明した気がする。
神崎は俺の話を聞き終えた。
が、何も言わない。
重い苦しい空気が二人の間に流れた。
「少年、やっぱりアタシの事。許せない?」
神崎はそうポツリと、呟くように俺に尋ねてきた。
「確かに最初は嫌だったけど。今は、それだけじゃないんです」
「ふーん?」
「あいつを見ていて、神崎さんが目指している物が少しだけ分かったような気はしているんです。でも」
「でも?」
「なんでそれが、虹葉なんだろうって」
「もし橘虹葉じゃなかったら、こんな思いをする事はなかったかも……って?」
「そんな、感じです……」
神崎は押し黙って俺を見つめる。
「俺は、虹葉を知っている。小学校の時から。だから。初めはあいつは虹葉のフリをしているだけだって、そう割り切って。なるべく関わらないようにしようって。そう思っていたのに」
「橘虹葉の面影が重なってしまった」
「そんなもんじゃないです。あれは、あの笑い方は。虹葉そのものだった」
思い出してまた胸がズキリと痛む。
「なるほどねぇ……」
神崎は何かに得心を得た様な顔だった。
「神崎さん。なんであいつは段々虹葉に近づいていくんですか? 虹葉の記憶は無いんですよね? 何で? よりにもよって虹葉に……」
涙が俺の頬を伝って手の甲に零れ落ちた。
「少年、あの子がどうやって愛されるような行動を選べるか、考えた事はあるかい?」
「はい。相手の表情や声音を見ながら、喜びそうな物を試して、学習していくのではないかと、俺は思います」
「へぇ、すごいね。その通りだよ、少年」
そう言うと、神崎は頬杖をつく。そして、俺にこう言い放った。
「じゃあ、そこまで分かっているなら。どうして橘虹葉に似始めたのかは、もう分かってるんじゃない?」
俺はきっと、最初から気付いていたのだろう。それを、気付かないように目を背けて。心を押し込めて。
そうしていたにも関わらず、あの虹葉もどきには悟られてしまった。
「俺は。虹葉の事が好きだ。今だって」
あぁ。言ってしまった。
一度自分が分からなくなった時。この気持ちはそうじゃないと判断したのに。
結局、この結果になってしまった。
「だろうね」
神崎はコーヒーを一口啜った後、ソファに背を預けた。
「でも、少年は受け入れられないんだろう?」
「……はい」
「おっ。そこは返事するんだ」
「じゃあ、少年には少しだけ話をしておこう」そう告げると、神崎は一人語り出した。
* * *
アタシはね、今までろくに愛された事がないんだ。世間は”親は無償の愛を子供に注ぐ“みたいな綺麗事を宣うけど、実際はそんな事もない。
現にアタシの親は酷くてね。アタシの事なんて喋るお荷物位にしか思ってなかったんじゃないかな
親は恋の多い人達でね。お互い愛人をしょっちゅう取っ替え引っ替えしてたし、顔を合わせれば喧嘩が始まる。それでも二人は別れなかった。
きっと、アタシが居たからだ。体裁を守るためと、押し付けられると面倒だからだろう。
だから、アタシはもう人間を信用できなくなってしまった。恋愛ドラマなんか見てもときめかないし、実感も湧かない。それどころか、男女のあれこれを見ていると気持ち悪くなってくる位の重症だ。
そんなアタシでも、大丈夫なものがあった。同性同士の恋愛と、無機物だ。
恋愛感情というものは、同性同士のそれで学んだよ。割と最近でね。沢山見るうちに、興味が湧いたんだ。何かを愛するって、実は素晴らしい事なんじゃないかって。
でも、人間はダメだ。恐怖が何より先に襲ってくる。最近はマシになったけど、その当時は本当にダメだった。じゃあどうするか。
人を模した無機物。アンドロイドなら愛する事が出来るんじゃないかって
分かったかな? あの子はアタシの数少ない愛せる物なんだ。
さて、それを踏まえた上で質問だ。
少年。君はそれでもあの子を壊すのかい?
* * *
「少年。君はそれでもあの子を壊すのかい?」
神崎は長い独白を終えると、最後に俺にそう問いた。
「どうしても、虹葉じゃないといけないんですか?」
俺はもう一度確認をした。
「もう実験が始まってしまった以上、今更途中で投げ出すわけにはいかないんだ。これはアタシだけでどうにかできる案件じゃなくてね。そこは正直すまないとは思っているよ」
神崎はそう申し訳なさそうに弁明すると、俺を見つめる。こちらの出方を窺っているようだ。
俺は思考する。
……正直意外だった。
神崎は自分以外のものには興味が無いと思っていたから。
(なんだ。あいつ、ちゃんと愛されていたんだな)
——俺を除いて。
「神崎さん。あいつが神崎さんが大切にしている存在だというのは分かりました」
「分かってくれたならよかった」
「だとしても」
俺は手のひらを握りしめた。
「それでも俺は、あいつを虹葉だとは思えない」
「次もあの子を壊すって?」
「——ああ」
それだけは、譲る事が出来なかった。
——もう、こうする事でしか、虹葉を守れないから。
神崎と見つめ合う。
お互い身動き一つしない。
長い長い静寂。
この部屋だけ、時間から切り離されてしまったのではないかという錯覚に陥る。
数秒後。
「はぁぁぁ——」
大きなため息の後、神崎が先に目を逸らした。
神崎のあんな話を聞いてまで否定したのだ。
てっきり怒られるかと思ったら。
「いいなぁぁぁあ‼︎ アタシもそれくらい愛せるようになりたかったぁぁああ‼︎」
神崎は、両手と両足をジタバタとしながら叫び出した。
——何だか、思ってたのと違うな。
「何だよぅ、どんなに世界から嫌われても、俺だけは君を愛し続けるってかぁ? 羨ましいぃぃい! 羨ましすぎて発狂しそうだ!」
神崎は悶え続けている。
その様子が、子供みたいで。
「ふっ……」
俺は気付けば笑みが溢れていた。
「なんだぁ? アタシを笑ってんのかよぅ」
今度は不貞腐れ始める神崎。
「いや、なんか、子供みたいだなって。ふはっ」
俺はもう心の底から笑っていた。
「あ゛ぁん?」
「いや、もっと『人間なんて興味ありません。研究さえ出来れば他はどうでもいいです』みたいな人だと思ってたんで」
「少年、アタシを何だと思ってんだ。まぁ、間違ってはいないけど」
「だからその。すまなかった。俺、あなたの事結構苦手だったんだけど」
俺は握っていた手を緩めた。
「今は結構、好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間、神崎はピタリと動かなくなった。
「? どうした?」
「少年。君って、結構モテるだろ」
「いや? 俺、虹葉しか興味無いし」
「……今ので橘虹葉がもっと羨ましくなったぞ、アタシ」
神崎はまた頬杖をついた後。
「本当、何で死んじゃったんだろうね、彼女」
少しの間の後、そう独り言のようにこぼした。淋しそうな目をしていた。
「神崎さんは、何か聞いてないですか?」
「なーんにも」
「……そうか」
俺は少しだけ期待したが、神崎は本当に何も知らないようであった。
「結局、知ってるのは本人だけ、か」
俺は空を仰いだ。
真っ白な部屋の天井が見えた。
あれから次の週の金曜日。
俺はまた虹葉もどきに呼び出された。
前回と変わらず校舎裏。
これから何の話をされるかは、想像に難くない。
あいつはもう、俺を待っていた。
俺は特に急ぐ事もなく、あいつに向かって歩いてゆく。
「今野くん、来てくれてありがとう」
「いいよ、別に」
この後の流れは予想がついている。
もちろん、俺の言葉も。
「今野くん、ちょっと聞きたいことがあってね」
「ん、何?」
「えっと、今野くんって、もしかして……」
あいつはそこで息を呑んだ。
不思議な事に、迷っているようだ。
俺は何も言わずにあいつの言葉を待つ。
「今野くんって、私の事、好きじゃない?」
予想通りの質問だった。
……はずなのに。
俺は呼吸をするのも忘れて、あいつの顔を凝視していた。
あいつの顔が。
申し訳なさそうに少しだけ上目遣いでこちらを見つめる顔が。
苦しそうな本心を無理矢理笑顔で上塗りしたような。見ているこっちが痛ましくなる様な笑顔が。
虹葉と、同じだったから。
「やめて……」
声が震えているのが自分でも分かった。
「⁈ 今野くん⁈」
あいつは何が起こっているのか理解できずに、ただただ狼狽えている。
「やめて……虹葉を……盗らないで……」
涙が止まらない。
頭がついていかない。
そんな中でも、身体中が、"やめて"と叫んでいた。
声の無い声で、叫び続けていた。
「どうしたの? どういうこと? 私、分からない」
「分からなくていいっ‼︎」
気付けば叫んでいた。
あいつはビクッと体を振るわせ、ゆっくりと俺から後ずさる。
涙が、止まらない。
目の前のあいつは虹葉じゃないのに。
虹葉のフリをして、なんとも思ってない筈なのに。
俺は、今でも虹葉のことを、思っているのに。
——だから。
——俺が、壊さなければ。
——虹葉の為に、壊さなければ。
「俺は、お前が、嫌いだ」
俺の言葉に、あいつは目を見開く。
「そっか、そうだよね……」
最後に「ごめんね」と言い残し、あいつは地面にペタリとへたり込んだまま動かなくなった。
「虹葉、会いたいな……」
俺は校舎の壁へと倒れるように寄りかかった。
涙は今も、止まらない。
* * *
「で、またあの子を壊したと」
神崎はコーヒーを啜りながらそう質問した。呆れたと言わんばかりに目を細めている。
俺は前回と同じように、神崎の研究室のソファに座っていた。
涙も止まり、ようやく会話ができる頃にはコーヒーは緩くなっていた。
「……すみません」
「いやいや、思ってないでしょ、少年」
「……」
神崎は俺をじっと見つめると、「はぁ……」と小さくため息を吐いた。
「で、今回はなんでこうなったのさ」
「はい……」
あの虹葉もどきが、虹葉と同じ表情をした事。それによって俺は気が動転し、攻撃的な行動に走ってしまった事。
俺はそのような事を説明した気がする。
神崎は俺の話を聞き終えた。
が、何も言わない。
重い苦しい空気が二人の間に流れた。
「少年、やっぱりアタシの事。許せない?」
神崎はそうポツリと、呟くように俺に尋ねてきた。
「確かに最初は嫌だったけど。今は、それだけじゃないんです」
「ふーん?」
「あいつを見ていて、神崎さんが目指している物が少しだけ分かったような気はしているんです。でも」
「でも?」
「なんでそれが、虹葉なんだろうって」
「もし橘虹葉じゃなかったら、こんな思いをする事はなかったかも……って?」
「そんな、感じです……」
神崎は押し黙って俺を見つめる。
「俺は、虹葉を知っている。小学校の時から。だから。初めはあいつは虹葉のフリをしているだけだって、そう割り切って。なるべく関わらないようにしようって。そう思っていたのに」
「橘虹葉の面影が重なってしまった」
「そんなもんじゃないです。あれは、あの笑い方は。虹葉そのものだった」
思い出してまた胸がズキリと痛む。
「なるほどねぇ……」
神崎は何かに得心を得た様な顔だった。
「神崎さん。なんであいつは段々虹葉に近づいていくんですか? 虹葉の記憶は無いんですよね? 何で? よりにもよって虹葉に……」
涙が俺の頬を伝って手の甲に零れ落ちた。
「少年、あの子がどうやって愛されるような行動を選べるか、考えた事はあるかい?」
「はい。相手の表情や声音を見ながら、喜びそうな物を試して、学習していくのではないかと、俺は思います」
「へぇ、すごいね。その通りだよ、少年」
そう言うと、神崎は頬杖をつく。そして、俺にこう言い放った。
「じゃあ、そこまで分かっているなら。どうして橘虹葉に似始めたのかは、もう分かってるんじゃない?」
俺はきっと、最初から気付いていたのだろう。それを、気付かないように目を背けて。心を押し込めて。
そうしていたにも関わらず、あの虹葉もどきには悟られてしまった。
「俺は。虹葉の事が好きだ。今だって」
あぁ。言ってしまった。
一度自分が分からなくなった時。この気持ちはそうじゃないと判断したのに。
結局、この結果になってしまった。
「だろうね」
神崎はコーヒーを一口啜った後、ソファに背を預けた。
「でも、少年は受け入れられないんだろう?」
「……はい」
「おっ。そこは返事するんだ」
「じゃあ、少年には少しだけ話をしておこう」そう告げると、神崎は一人語り出した。
* * *
アタシはね、今までろくに愛された事がないんだ。世間は”親は無償の愛を子供に注ぐ“みたいな綺麗事を宣うけど、実際はそんな事もない。
現にアタシの親は酷くてね。アタシの事なんて喋るお荷物位にしか思ってなかったんじゃないかな
親は恋の多い人達でね。お互い愛人をしょっちゅう取っ替え引っ替えしてたし、顔を合わせれば喧嘩が始まる。それでも二人は別れなかった。
きっと、アタシが居たからだ。体裁を守るためと、押し付けられると面倒だからだろう。
だから、アタシはもう人間を信用できなくなってしまった。恋愛ドラマなんか見てもときめかないし、実感も湧かない。それどころか、男女のあれこれを見ていると気持ち悪くなってくる位の重症だ。
そんなアタシでも、大丈夫なものがあった。同性同士の恋愛と、無機物だ。
恋愛感情というものは、同性同士のそれで学んだよ。割と最近でね。沢山見るうちに、興味が湧いたんだ。何かを愛するって、実は素晴らしい事なんじゃないかって。
でも、人間はダメだ。恐怖が何より先に襲ってくる。最近はマシになったけど、その当時は本当にダメだった。じゃあどうするか。
人を模した無機物。アンドロイドなら愛する事が出来るんじゃないかって
分かったかな? あの子はアタシの数少ない愛せる物なんだ。
さて、それを踏まえた上で質問だ。
少年。君はそれでもあの子を壊すのかい?
* * *
「少年。君はそれでもあの子を壊すのかい?」
神崎は長い独白を終えると、最後に俺にそう問いた。
「どうしても、虹葉じゃないといけないんですか?」
俺はもう一度確認をした。
「もう実験が始まってしまった以上、今更途中で投げ出すわけにはいかないんだ。これはアタシだけでどうにかできる案件じゃなくてね。そこは正直すまないとは思っているよ」
神崎はそう申し訳なさそうに弁明すると、俺を見つめる。こちらの出方を窺っているようだ。
俺は思考する。
……正直意外だった。
神崎は自分以外のものには興味が無いと思っていたから。
(なんだ。あいつ、ちゃんと愛されていたんだな)
——俺を除いて。
「神崎さん。あいつが神崎さんが大切にしている存在だというのは分かりました」
「分かってくれたならよかった」
「だとしても」
俺は手のひらを握りしめた。
「それでも俺は、あいつを虹葉だとは思えない」
「次もあの子を壊すって?」
「——ああ」
それだけは、譲る事が出来なかった。
——もう、こうする事でしか、虹葉を守れないから。
神崎と見つめ合う。
お互い身動き一つしない。
長い長い静寂。
この部屋だけ、時間から切り離されてしまったのではないかという錯覚に陥る。
数秒後。
「はぁぁぁ——」
大きなため息の後、神崎が先に目を逸らした。
神崎のあんな話を聞いてまで否定したのだ。
てっきり怒られるかと思ったら。
「いいなぁぁぁあ‼︎ アタシもそれくらい愛せるようになりたかったぁぁああ‼︎」
神崎は、両手と両足をジタバタとしながら叫び出した。
——何だか、思ってたのと違うな。
「何だよぅ、どんなに世界から嫌われても、俺だけは君を愛し続けるってかぁ? 羨ましいぃぃい! 羨ましすぎて発狂しそうだ!」
神崎は悶え続けている。
その様子が、子供みたいで。
「ふっ……」
俺は気付けば笑みが溢れていた。
「なんだぁ? アタシを笑ってんのかよぅ」
今度は不貞腐れ始める神崎。
「いや、なんか、子供みたいだなって。ふはっ」
俺はもう心の底から笑っていた。
「あ゛ぁん?」
「いや、もっと『人間なんて興味ありません。研究さえ出来れば他はどうでもいいです』みたいな人だと思ってたんで」
「少年、アタシを何だと思ってんだ。まぁ、間違ってはいないけど」
「だからその。すまなかった。俺、あなたの事結構苦手だったんだけど」
俺は握っていた手を緩めた。
「今は結構、好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間、神崎はピタリと動かなくなった。
「? どうした?」
「少年。君って、結構モテるだろ」
「いや? 俺、虹葉しか興味無いし」
「……今ので橘虹葉がもっと羨ましくなったぞ、アタシ」
神崎はまた頬杖をついた後。
「本当、何で死んじゃったんだろうね、彼女」
少しの間の後、そう独り言のようにこぼした。淋しそうな目をしていた。
「神崎さんは、何か聞いてないですか?」
「なーんにも」
「……そうか」
俺は少しだけ期待したが、神崎は本当に何も知らないようであった。
「結局、知ってるのは本人だけ、か」
俺は空を仰いだ。
真っ白な部屋の天井が見えた。
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